(2)(一)鹿谷 11171年俊寛ら鹿ケ谷で平家討伐の陰謀

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語釈

 

(1)

その頃の叙位@叙目と申すは、A院・内の御計らひにもあら1、摂政関白のB御成敗にも及ばず、ただ、

 

C一向平家のままにてあり2しかば、D徳大寺・E花山院もなりたまはず、F入道相国の嫡男G小松殿、

 

大納言の右大将にておはしけるが、左に移りて、次男宗盛、中納言にておはせしが、数輩のI上臈を超越

 

して、1に加はられ3けりこそ、J申すばかりもなかりしか。

 

(注)@叙目 官に任ずること。A院・内 法皇と天皇。B御成敗 御裁定。C一向 まったく。D徳大寺 藤原実貞。E花山院 藤原兼雅。F入道相国 平清盛。1118〜1281年。「相国」は大臣の唐名。

G小松殿 平重盛。I上臈を 上の階級の者。J申すばかりもなかりしか。 何とも申しようのないあきれたことだった。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 叙位 2 叙目 3 嫡男 4 上臈

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 おはす

 

三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1の問いに答えよ。

 

 1 何か。

 

四 二重傍線部1〜3の品詞名、基本形、意味、活用形を記せ。

 

 1

 

 2

 

 3

 

(2)

中にも徳大寺殿は一の大納言にて、@花族栄耀、才学雄長、家嫡にて、ましましけるが超えられたまひ

 

けるこそ、1遺恨なれ。「さだめてA御出家なんどやあらむずらむ。」と人々内々は申し合へりしかども、

 

しばらく世のならむやうをも1むとて、大納言を辞し申して、籠居とぞ聞こえし。新大納言B成親の

 

卿のたまひけるは、「徳大二。花山に超えられたらむはいかがせむ。2平家の次男に超えらるるこそC安

 

からね。これもよろづ思ふさまなるがいたすところなり。いかにもして平家を滅ぼし、本望を遂げ2む。

 

とのたまひけるこそ恐ろしけれ。D父の卿は中納言までこそ至られしか、その末子にて位従二位、官大

 

納言に上がり、大国あまた賜って子息所従朝恩に誇れり。何の不足に3かかる心つかれけむ。これひと

 

へに天魔の所為とぞ見えし。E平治にはF越後の中将とて、G信頼の卿にH同心の間、すでにH誅せら

 

るべかりを、I小松殿やうやうに申して首をつなぎたまへり。しかるに4その恩を忘れて、J外人も3

 

なき所に兵具をっ整え、軍兵をかたらひ置き、その営みのほかは他事なし。

 

 

(注)@花族栄耀 才学雄長。高貴な家柄で学問に優れ。A御出家なんどやあらむずらむ。 御出家などがあろうか。B成親の卿 藤原成親。後白河法皇の側近の一人。卿は大・中納言、参議の一人。C安からね心穏やかでない。D父の卿 藤原家成。E平治 平治の乱を指す。F越後の中将 越後の守兼近衛の中将。G信頼の卿 藤原信頼。平治の乱で源義朝と結び、平清盛と戦い戦死した。H同心の間 心を合わせたので。I誅せらるべかしを 殺されるはずであったのを。J小松殿やうやうに申して 重盛がさまざあまにお願いして。K外人 外部の人間。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 花族栄耀  2 才学雄長 3 家嫡 4 遺恨 5 籠居 6 本望 7 末子 8 所為

 

 9 誅す 10 兵具 11 軍兵

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 家嫡 

 

 2 籠居

 

 3 兵具 

 

 4 軍兵

 

三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜4の問いに答えよ。

 

 1 具体的に説明せよ。

 

 2 誰のことか。

 

 3 指示内容を記せ。

 

 4 具体的に説明せよ。

 

四 二重傍線部1〜3の品詞名、基本形、意味、活用形を記せ。

 

 1

 

 2

 

 3

(3)

東山の麓、@鹿の谷と云所は、うしろはA三井寺に1つゞいて、ゆゝしき 城郭にてぞありける。B俊寛僧

 

都の山庄2あり。かれに常はよりあひあひ、平家ほろぼさむずるはかりことをぞ廻らしける。或時、法

 

皇もC御幸なる。故少納言入道D信西が子息浄憲法印御共仕る。其夜の酒宴に、2此由を浄憲法印に3

 

せあはせられければ、4「あなあさまし。人あなた承候ぬ。唯今もれ聞えて、天下の大事に及候なんず」

 

と、大いさはぎ申ければ、新大納言けしきかはりて、ざつと立たれけるが、御前に候けるE瓶子を、F狩

 

衣の袖にかけて、引倒されたりけるを、法皇、「あれはいかに」と仰ければ、大納言立帰て「平氏倒れ候ぬ」

 

とぞ申されける。法皇5えつぼにいらせおはしまして、「者ども参てG猿楽つかまつれ」と仰ければ、H平

 

判官康頼参りて、「あら、あまりに平氏のおほう候に、もて酔て候」と申。俊寛僧都、「さてそれはいかゞ

 

仕らむずる」と申されければ、I西光法師、「頸をとるにしかじ」とて、瓶子のくびを3とってぞJ入にけ

 

る。浄憲法印あまりのあさましさに、つやつや物も申されず。返々もおそろしかりし事どもなり

 

(注)@鹿の谷 今の京都市左京区鹿ケ谷まちのあたり。A三井寺 園城寺。大津市にある寺。B俊寛僧都 事が露見して、1177年鬼界が島に流され、その地で死んだ。C御幸なる お出ましになった。D信 西 藤原通憲。平治の乱で清盛側にあったが、信頼に殺された。E瓶子 口の狭い細長いとっくり。F狩衣 狩りなどの際に着用した服であるが、常用略服としても用いられた。G猿楽 滑稽なものまね・言葉芸。H平判官康頼 生没年未詳。検非違使の判官であった。俊寛とともに鬼界が島にながされたが翌年許され帰郷した。I西光法師 平家にとらわれ殺された。J入にける 退場した。即興劇の所作である。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 城郭 2 俊寛僧都 3 信西 4 浄憲法印 5 仕る 6 瓶子 7 狩衣

 

8 猿楽 9 頸

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 はかりこと

 

 2 あさまし

 

 3 うけたまわる

 

三 登場人物を抜き出せ。また、1〜5の傍線部の問いと「  」が誰の言葉か答えよ。

 

 1 指示内容を記せ。

 

 2 指示内容を記せ。

 

 3 誰が。

 

 4 「   」

 

 5 理由を説明せよ。

 

四 二重傍線部1〜3の文法問題に答えよ。

 

1、3 音便の種類、元の形を記せ。

 

2 品詞名、基本形、活用の種類を記せ。

 

 

五 口語訳

(!)その頃の叙位叙目と申すことは、法皇と天皇の御考えによるものではなく、摂政関白の御裁定によることもできず、ただひたすら平家の思うままであったので、藤原実定藤原兼正もなりなさらず平清盛の嫡男平清盛が、大納言の右大将でいらっしゃいましたが、左大将に移って、次男宗盛が中納言でいらっしゃいましたが数人の上臈を超えて、右大将に加えられたのこそ、なんとも申しようのないあきれたことだった。

 

 

(2)

中でも藤原実定は、主席の大納言で、高貴な家柄で、学問にすぐれ、家の嫡子でいらっしゃったが、越えられなさったのこそ、恨みである。「きっとご出家などがあるだろう。」と、人々は、こっそりともうしあっていたが、しばらく世の中の動きなど見ようとして、大納言を辞し申して自宅の中に閉じこもっていた。新大納言がおっしゃることには、「藤原実定藤原兼雅に超えられたらどうだろうか(どうしようもない)。平家の次男に超えられたのは心穏やかでない。これも万事平家が思うようにふるまっているところの結果だ。なんとしても平家を滅ぼし本望を遂げよう。」とおっしゃったのは恐ろしかった。父ふじわら家成は中納言まで至られたが、その末子で正二位官大納言に上がり、大国をたくさんいただいて、家来は朝廷の恩義を誇っていた。なにの不足があってこういう心がつかれたのだろう。これはひとえに天魔の所存と見えた。平治の乱では越後の中将として信頼に同心し、すでに殺されるはずであったのを、重盛がようやく申して、首をついだのだった。それなのに、その恩を忘れて外部の人間もいないところに武器などをそろえ兵士を仲間にし、そのすることの他に他の事はしない。

 

(3)東山のふもと、鹿の谷と言うところは後ろは三井寺に続いて立派な城郭である。そこに常によりあいよりあい平家を滅ぼそうという謀略を巡らしていた。あるとき、法皇もお出ましになった。故少納言入道信西の子息浄憲法印がおともなさった。その夜の酒宴でその由を浄憲法印に御相談なさったところ「ああひどい。人が大勢お聞き申しています。すぐ漏れ申して天下の大事になり申そう。」と大騒ぎ申したので、成親の様子が変わってさっと立たれたところ、お前にありました瓶子を狩衣のすそにひっかけて引き倒されたのを、法皇「あれはどうしたのだ。」とおっしゃったので成親引き返して、「平氏がたおれました。」と申された。法王は笑い興じて「者ども集まって猿楽をしろ。」とおっしゃったので、平判官康参散じて、「さて、それをどのようにし申そうぞ。」と申されたので、西光法師が「首を取るのにおよばない。」 といって瓶子の首をとって退場した。浄憲法印があまりにあきれるほどだったので、少しも物を言うことさえできない。

 

 

 

 

 

構成

 

主題 平氏打倒の陰謀

(1)

 

 

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

 

(3)

 

 

 

1170年頃

叙位 叙目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鹿の谷=城郭

俊寛の山荘 

時 場所

 

 

←思いのまま

重盛(長男)

右大将 左大将に

宗盛(次男)

中納言 右大将に

平家一門

 

藤原実定 なし

藤原兼雅

 

 

 

 

藤原実定

大納言 辞職 閑居

藤原成親

「次男に超えられたのは許せない。

打倒平氏。」

朝恩を誇る。平治の乱で、重盛に助けられた恩を忘れる。

 

平家打倒の計画

 浄憲法印「漏れたら?」

  藤原成親 瓶子を倒す。「平氏が倒れる。」

法皇 喜ぶ。

 西光法師「首を取る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)(一)鹿谷 11171年俊寛ら鹿ケ谷で平家討伐の陰謀  解答

(1)一 1 じょい 2 じもく 3 嫡男 4 じょうろう

二 1 いらっしゃる

三 平清盛 重盛 宗盛

1 右大将

四 1 助動打ず用 2 助動き過已 3 助動けり過体

 

(2)一 1 かそくえいゆう 2 さいがくゆうちょう 3 けちゃく 4 いこん

5 ろうきょ 6 ほんもう 7 ばっし 8 せい 9ちゅうす 10 ひょうぐ 11 ぐんぴょう

二 1 本家の嫡子。2 多く謹慎のために家の中に籠っていること。3 武具。 4 軍勢。  

三 藤原成親 藤原実定

1 身分も高く家柄もあるのに出世できなかったから恨みに思った。

2 平宗盛 3 平家打倒の本望。 4 殺されるはずだったのを、重盛のおかげで助かった。

四 1 動マ上一見る未 2 助動む意思止

 

(3)一 1 じょうかく 2 しゅんかんそうず 3 しんせい 4 じょうけんほういん

5 つあまつる 6 へいし 7 かりぎぬ 8 さるがく 9 くび 

二 1 計略 2 ただただ驚くばかりだ。 3 「聞く」の謙譲語。

三 俊寛僧都 浄憲法印 法皇 平康康頼

1 俊寛僧都の山荘 2 平家打倒 3 法皇 4 浄憲法印 

5 法王は瓶子が倒れたことを露見すると不安になったが、成親の平氏が倒れたという当意即妙な言葉にほっとした。

四 1 イ音便 つづきて 3 促音便 とりて

  2 動ラ変あり止

 

 

 1 はかりこと

 

 2 あさまし

 

 3 うけたまわる