(8)弓争い 第五巻太政大臣道長上

語釈

 

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@

帥殿の、A南の院にて人々集めて弓あそばししに、Bこの殿わたらせたまへれば、1思ひかけずあやしと、C

 

中の関白殿おぼし驚きて、いみじうD饗応し申させたまうて、2E下におはしませど、前に立てたてまつり

 

て、まづ射させたてまつらせたまひけるに、帥殿の矢数、いま二つ劣りたまひぬ。中の関白殿、また御前にさ

 

ぶらふ人々も、3「Fいま二度延べさせたまへ。」と申して、延べ1させ2たまひけるを、4やすからずおぼ

 

しなりて、5「さらば、延べさせたまへ。」と仰せられて、また射させたまふとて、仰せらるるやう、「道長

 

が家より帝・后立ちたまふべきものならば、この矢当たれ。」と仰せらるるに、G同じものを、中心には当た

 

るものかは。次に、帥殿射たまふに、いみじう臆したまひて、御手もわななくHけにや、的のあたりにだに近

 

く寄らず、無辺世界を射たまへるに、関白殿、6色青くなりぬ。また、入道殿射たまふとて、7「摂政・関白

 

すべきものならば、この矢当たれ。」と仰せらるるに、初めの同じやうに、的の破るばかり、同じ所に射させ

 

たまひつ。饗応し、もてはやし3きこえさせたまひつる興もさめて、Iこと苦うなりぬ。父大臣、帥殿に、

 

8「何か射る。な射そ、な射そ。」と制したまひて、ことさめにけり。入道殿矢もどして、やがていでさせた

 

まひぬ。そのをりはJ左京の太夫とぞ申しし。弓をいみじく射させたまひしなり。また、好ませたまひしなり。

 

K今日にみゆべきことならねども、人の御さまの、言ひでたまふことのおもむきより、Lかたへは臆せたまふ

 

なめり。       

 

(注)@帥殿 藤原伊周 (973〜1010年)。関白道驍フ次男。内大臣に登ったが、のちに太宰権そちに左遷されたのでこう呼ぶ。A南の院 道驍フ二条邸の南にあった建物。Bこの殿 藤原道長。道驍フ弟。伊周のライバルで道髢v後、伊周を蹴落として政権を握った。C中の関白殿 藤原道驕i953〜995年)。兼家と道長の間も関白だったのでこう呼ぶ。D応し申させたまうて 機嫌を取ってもてなす。E下臈  官位の低い者。ここは、道長が伊周より下位であることを言う。Fいま二度延べさせたまへ もう二回延長なさいませ。G同じものを、中心には当たるものかは 同じあたるというにしても、こう真ん中に当たるとは。

Hけ 名詞。ため、せいの意。Iこと苦うなりぬ 気まずくなった。J左京 左京職(左京の司法・行政・警察を司る役所)の長官。K今日に美優べき異ならねども、 今日すぐ実現するはずのことではないが。Lかたへは 半ばは。一方では。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 帥殿 2 関白 3 饗応 4 下臈 5 55D   D

 5 摂政 6 臆す 7 無辺世界

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 あやし

 

 2 矢数

 

 3 いま

 

 4 延ぶ

 

 5 臆す

 

 6 ことさむ

 

 7 やがて

 

三 登場人物を抜き出せ。また、1〜8の傍線部の問いに答え、「  」は誰の言葉か記せ。

 

 1 道長のどういう状況がわかるか。

 

 2 道長のどういう状況がわかるか。

 

 3 勝負はついているのになぜ延長したのか。

 

 4 誰がなぜこう思ったのか。

 

 5 「  」 誰の言葉か。

 

 6 なぜか。

 

 7 「  」誰の言葉か。

 

 8 「  」誰の言葉か。

 

四 二重傍線部1〜5の敬語について次の空欄を埋めよ。

 

 

 

 

 

 

 

注意

 

番号

たまへ

させ

きこえ

たまひ

させ

 

 

 

 

 

主語

 

 

 

 

 

種類

 

 

 

 

 

地の文

会話文

 

 

 

 

 

敬意

誰が

 

 

 

 

 

 

誰を

 

五 口語訳 伊周が道驍フ二条邸の南にあった建物に人々を集めて競射なさった時に、道長がお渡りになったので、思いがけないことで疑わしいと道驍ヘ驚きになって、大層起源をとり、もてなしなさって(道長は)官位が低くいらっしゃったけらえど、(競射の順を)先に立て申して、射させ申しなさったところ、伊周のあたり数がさらに二本負けなさった。道驕Aまたおまえに伺候している人々も、『もう二回延長しなさい。』と延長なさったのをおもしろくなくお思いになって『それならば延長なさい。』とおっしゃって、また射させなさるとしておっしゃることには『道長の家から帝・后が建ちなさるはずのものであるならこの矢当たれ。』とおっしゃると、同じ当たるとしても中心に当たるものか。次に伊周が射なさるというとき、ひどくきおくれしなさって御手もわななくさまで、的の当たりにさえ近く寄らず見当違いの方向を射なさるので、道驍ヘ色が青くなった。また道長が射なさると『摂政・関白をするべきならばこの矢当たれ。』とおっしゃると、はじめと同じように的が破れるほどに射なさる。もてなし賞賛申したことも興が冷めてきまずくなった。道驍ヘ伊周に『どうして射るのか。射るな射るな。』と制止名会って興が冷めてしまった。道長は矢を戻してそのままお出になった。その頃は、左京の長官ともうした。弓を大層上手に引かれた。また、大層お好みになられた。今日すぐ実現するはずのことではないが人のご様子、言い出しなさる趣から一方は臆しなされたようだ。

 

 

構成

 

時 994年  場所 道驍フ邸 

 

伊周 負け

道驕@「延長しろ。」

伊周 見当違いの方へ

道驕@青ざめる

 

道驕@伊周を制止する。

道驕@伊周

 

二本勝ち

むっとする。

延長1「帝・后立つなら当たれ。」  的中

 

延長2「摂政・関白なら当たれ。」  的中

 

 

道長

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 道驕¥ャ心者。子を思う親の情。 伊周=坊ちゃん気質。性格的に弱い。 道長=自信。剛胆。

 

 

 

 

 

 

(8)弓争い 第五巻太政大臣道長上 解答

一 1 そちどの 2 きょうおう 3 かんぱく 4 げろう 5 せっしょう おくす 

  7 むへんせかい

二 1 いぶかしい 2 射た矢の数 3 さらに 4 延長する 5 気おくれがする 

  6 興が冷める 7 そのまま

三 道驕@伊周 道長

  1 道長が呼ばれもしないのに出かけてきたこと。 

2 このころ道長は伊周より官位が低かったが道驍轤ゥら侮れないほどの人望があったと言うこと。

3 延長二回で四本射る。その間に伊周に二本の負けを挽回させる。

4 道長が不満に思って。 5 道長 

6 的中だけでなく、予言まで的中するのではないかと思ったので。 

  7 道長 8 道

 

敬語表現

対する

二方面に

敬語

最高

注意

 

番号

たまへ

させ

きこえ

たまひ

させ

(もてはやし=道驕j

(もてはやし=道驕j

(もてはやし=道驕j

(延べ=道驕j

(延べ=道驕j

主語

尊敬

尊敬

謙譲

尊敬

尊敬

種類

地の文

地の文

地の文

地の文

地の文

地の文

会話文

作者

作者

作者

作者

作者

敬意

誰が

道長

 

誰を