(4)三舟の才 第二巻太政大臣頼忠
語釈
ひととせ、@入道殿の、A大井川に逍遥せさせたまひしに、B作文の船、管弦の船、和歌の船と分かたせた
まひて、1その道に堪へたる人々を乗せさせたまひしに、このC大納言殿の参りたまへるを、入道殿、「2か
の大納言、いづれの船にか乗らるべき。」とのたまはすれば、「和歌の船に乗りはべら1む。」とのたまひて、
詠みたまへるぞかし。
Dをぐら山あらしの風のさむければ3もみぢの錦きぬ人ぞなき
申し4うけたまへるかひありてあそばしたりな。御みづからものたまふなるは、「B作文のにぞ乗る2べかり
ける。さて、かばかりの詩を作りたら3ましかば、名のあがらむこともまさりなまし。口惜しかりけるわざか
な。さても、5殿の、『6いづれにかと思ふ。』とのたまはせしになむ、我ながら心おごりせられし。」との
たまふなる。一事のすぐるるだにあるに、かく7いづれの道も抜け出でたまひ4けむは、いにしへもはべら5
ぬことなり。
(注)@入道殿 藤原道長(966〜11027年)。兼家の子。1019年に出家したのでこう呼ぶ。
A大井川 大堰川とも。今の京都市右京区の嵯峨の地を流れる川。平安時代の貴族の船遊びの場所。B作文の船 漢詩文を作る者の乗る舟。C大納言殿 藤原公任(966〜1041年)。『和漢朗詠集』などの編著がある。Dをぐら山 『拾遺集』(秋)に、上二句を「朝まだき嵐の山の」として収める。「小倉山」は、大井川の北岸にある山で、紅葉の名所。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ
1 入道殿 2 逍遥 3 管弦 4 詠み 5 口惜しかり
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 逍遥
2 たふ
3 さて
4 口惜し
5 おごる
三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜7の問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 どういう意味か記せ。
3 実景としてどのような情景か。
4 どういう意味か記せ。
5 誰のことか。
6 それはなぜか説明せよ。
7 何か具体的に記せ。
四 二重傍線部1〜5の語を文法的に説明せよ。
1
2
3
4
5
五 口語訳 ある年、入道殿が、大井川で行楽をなさったときに、漢詩分の船、管弦の船、和歌の船とおわけになってそれぞれの道に優れている人々を乗せなさった際、この大納言が参上なさったが、入道殿が「あの大納言殿はどの船にお乗りになられるつもりか。」とおっしゃったところ、「和歌の船に乗りましょう。」とおっしゃって(その船で)詠みなさった歌ですよ。
小倉山(から吹き下ろす)嵐の風が強いので、紅葉の葉(が散りかかって誰もが一様に)錦の着物を着ているように見える。
自分から願いなさって歌をおつくりになっただけの事はあって素晴らしい歌をお読みになったな。自身もおっしゃったとかいうところでは、「漢詩文の船に乗ればよかった。そうしてこの程度の詩を作っていたらな目が上がったことも勝っただろうに。残念なことをしてしまったなあ。それにしても、殿が『どの船にと思うか。』とおっしゃったのには我ながら思いあがった気持を抑えられなかった。とおっしゃったとかいうことだ。一道に秀でることさえ容易でないのにこのようにどの道にもすぐれていらっしゃったようなのは昔にも例がない。。
構成
主題 三つの才能を備えていた公任を礼賛
京 大井川 |
場所 |
舟遊び 「漢詩・管弦・和歌のいずれの船に乗るか?」 → |
道長 |
←「和歌の船に乗る。 歌 紅葉の錦。」 「漢詩の船に乗ればよかった。道長におだてられ得意になって失敗した。」 (当時、漢詩の方が高く評価されていた。) |
公任 |
(4)三舟の才 第二巻太政大臣頼忠 解答
一 1 にゅうどうどの 2 しょうよう 3 かんげん 4 よ 5 くちおしかり
二 1 行楽 2 すぐれている。 3 そうして 4 残念だ
5 力を誇示し思いあがった態度をする。
三 入道殿 大納言
1 漢詩 管弦 和歌 2 あの大納言はどの船にお乗りに成られるつもりか。
3 紅葉が散って人々のの衣に散りかかり、錦を着たように見える光景。
4 自分から願い出て歌を作っただけあって。
5 入道殿 6 道長が公任の学才を認めて、「どの船に乗るか」と聞いたので。
7 漢詩 管弦 和歌
四 1 助動む止意思 2 助動べし用意思 3 助動まし未止反実仮想 4 助動けむ体過推
5 助動ず打体