(3)時平と道真 第二巻左大臣時平

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語釈

 

(1)あさましき@悪事を申し行ひ給へりし罪により、Aこのおとどの御末(すゑ)はおはせぬなり。さるは、

B大和魂(などは、いみじくおはしましたる物を。
 C延喜の、世間の作法したためさせ給ひしかど、D過差をば1えしづめさせ給はざりしに、この殿、E制を破りたる御装束の、ことのほかにめでたきをして、内に参り給ひて、E殿上に候はせ給ふを、帝、G小蔀より御覧じて、1御気色いとあしくならせ給ひて、職事を召して、「世間の過差の制きびしき頃、左のおとどのI一の人といひながら、美麗ことのほかにて参れる、便なきことなり。はやくまかり出づべきよし仰せよ」と仰せられければ、承るH職事は、「2いかなることにか」と怖れ思ひけれど、参りて、3わななくわななく、「4しかじか」と申しければ、いみじくおどろき、かしこまり承りて、御随身のJ御先参)るも制し給ひて、急ぎまかり出で給)へば、K御前どもあやしと思ひけり。さてL本院の御門一月ばかり鎖させて、御簾の外にも出で給はず、人などの参るにも、「勘当の重ければ」とて、会はせ給はざりしにこそ、世の過差はたひらぎたりしか。

内々によく承りしかば、6てばかりぞ7しづまらむとて、帝と御心あはせさせ給へりけるとぞ。
 

(注)@悪事 右大臣菅原道真(845〜903年)。Aこのおとど 藤原時平(871〜909年)B大和魂実際的な才能。ここでは、政治的手腕のこと。C延喜 醍醐天皇(885〜930年。在位897〜930年)D過差 度を超した華美。E制 禁制。(E殿上 清涼での殿上の間。G小蔀 蔀のある小窓。H職事 蔵人頭と五位・六位の蔵人の総称。 I一の人 摂政関白のこと。時平は左大臣であるが、起案泊に準じた地位にいたのでこう言った。J御先(みさき)参る 行列などのお先払いをする。K御前ども お先払いの家来達。L本院 時平の邸。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 過差 2 装束 3 殿上 4 小蔀 5 職事 6 随身 7 御簾 8 勘当

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

1 さるは

 

2 大和魂

 

3 したたむ

 

4 便なし

 

5 さて

 

6 勘当

 

7 平らぐ

 

三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜7の問いに答えよ。

 

 1 どういう意味ks。

 

 2 次に将ら訳されている語を、四字のい文語で答えよ。

 

 3 こういったのは、職事のどのような心理からか。

 

 4 内容は何か。

 5 誰が「承」ったのか。

 

 6 指示内容を記せ。

 

 7 何がおさまったのか。

 

四 二重傍線部1を品詞分解し、口語訳せよ。

 

 

(2)1もののをかしさをぞえ念ぜさせ給なざりける。2@笑ひたたせ給ひぬれば、A頗ることも乱れけるとか。と世をまつりごたせ給ふ間、C非道なることを仰せられければ、さすがにやむごとなくて、せちにし給ふことを3いかがはと思して、「このおとどのし給ふことなれば、不便なりと見れど、いかがすべからむ」と嘆き給ひけるを、Dなにがしの史が、「ことにも侍らず。4おのれ、かまへてかの御ことをとどめ侍らむ」と申しければ、「いとあるまじきこと。6いかにして」など宣はせけるを、「ただ御覧ぜよ」とて、E座につきて、こときびしく定めののしり給ふに、この史、F文刺に文挟みて、Gいらなくふるまひて、このおとどに奉るとて、いと高やかにH鳴らして侍りけるに、おとど2文もえとらず、7手わななきて、やがて笑ひて、「今日は術なし。右のおとどにまかせ申す」とだに言ひやり給はざりければ、それにこそ菅原のおとど、御心のままにまつりごち給ひけれ。


 (3)また北野の、I神にならせ給ひて、いとおそろしく神鳴(かみな)りひらめき、清涼殿に落ちかかりぬと見えけるが、8A本院の大臣、太刀をJ抜きさけて、「生きても9わが次にこそ物し給ひしか。今日、神となり給へりとも、この世には、我に所置き給ふべし。いかでか10らではあるべきぞ」とにらみやりて宣ひける。一度はしづまらせ給へりけりとぞ、世の人、申し侍りし。されど、それは、11かの大臣のいみじう御座するにはあらず、K王威のかぎりなく御座しますによりて、12L理非を示させ給へるなり

 

(注)@笑ひたたせ給ひぬればA頗るB北野C非道なることDなにがしの史E座F文刺Gいらなく

H鳴らして(注)I神J抜きさけてK王威L理非

 

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 頗る 2 非道 3 侍らず 4 宣はせ 45文刺 6 文挟みて 7 奉る 8 術 9 菅原

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 をかしさ

 

 2 まつりごつ

 

 3 さすがなり

 

 4 やむごとなし

 

 5 やがて

 

 6 術なし

 

 7 ところ置く

三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜12の問いに答えよ。

 

 1 こういう人を何というか。

 

 2 具体的叙述を六十字程度で抜き出せ。

 

 3 下にどんな言葉を補えばよいか。

 

 4 「おのれ」が「かまへて」行動した叙述が二カ所ある。それおぞれ十字以内出抜き出せ。

 

 5 どのようなことか、六字以内で抜き出せ。

 

 6 下にどんな言葉を補えばよいか。

 

 7 なぜそうなるのか。

 

 8 指示内容を記せ。

 

 9 どういう地位を指すか。

 

 10 指示内容を記せ。

 

 11 指示内容を記せ。

 

 12 具体的に説明せよ。

 

四 二重傍線部1・2を品詞分解し、口語訳せよ。

 

1 え念ぜさせ給はざりける

2 文もえ取らず

 

六 口語訳

 

(1)あきれるばかりの悪事を天皇に奏上し、これを実行なさった罪の報いで、この大臣(時平}の御子孫は羽根井なさらないのです。そうではあるが、政治的手腕などは、大変優れていらっしゃいましたねえ。

 延喜の帝が、世の中の風儀を執り行いなさいましたが、分を超す贅沢は抑制なさる事が出来ないでいらっしゃったとき、この殿が禁制に反した服装でとりわけ立派なのを身につけて内裏に参上なさって、清涼殿の殿上の間に伺候していらっしゃったのを、帝は小蔀からのぞいてごらん否ってご機嫌がきわめて悪くおなりになって蔵人をおよびになって、「世間の贅沢の禁制が厳しい昨今、左大臣が、臣下の最高の身分とはいうものの特別美麗な服装で参内するとは、不都合なことだ。早々に退出せよという旨を申し伝えよ。とお命じになりましたので、勅令をお伺いした蔵人は、「いったいどなことになるだろう。」と恐ろしく思ったが、参ってふるえながら、かくかくしかじかと申したところとてもびっくりして恐縮して、承って御随身がご先払いをし申すのもご制止になって、急いでご退出になったので、」お先払いの家来達は不審に思ったのだった。

 そうして、本院の邸のご門を一ヶ月ほど閉じさせて御簾の外へもお出ましにならず、人などがご訪問申し上げても「帝のおとがめがおもいので。」 と仰せになってお会いになりませんでした。こういうわけで、世の贅沢の風潮は根絶しました。内々に真相を承りましたところ、そういうふうにしてこそ贅沢もおさまるだろうというので、帝とお心を合わせてなさったということで

(2)(時平は)ないかでおかしがると、それをどうしても我慢がおできになりませんでした。いったんお笑いだしになると、」小将物事も乱れてしまったことだと言うことで明日。北野(菅原道真)と一緒に政治をおとりになられたころ、道理に合わないことを仰せになりましたので、そうはいっても(相手が)尊い身分なので、「強引になされることをどうして(お止めできようか。」とお思いになって「この大臣のなさることだから、不都合なことだと思うが、どうしたらよかろうか。」と嘆いていらっしゃったところが、なんとかいう名の太政官の初期が、「なんでもないことですよ。私がうまく工夫してことをとめましょう。」ともうシットなお出、「全くありえないことだ。どうやって。」などとおっしゃったが、「まあだまってごらんになってください。」と言って、政務をとる陣の座について厳しく議案を大声で決済しておられるときに、この書記官は、文挟に書類を挟んでわざとおおげさな身振りをして、この大臣に差し上げようとして、大変高々とおならをいたしましたところ、大臣はその文書を手に取ることも出来ず、手をふるわせて、そのまま笑い出して、「今日は手の打ちようがない。右大臣に万事お任せもうす。」とその言葉さえも満足に言い終えなさらないありさまでしたから、そのおかげで菅原の大臣が、お思い通りに政務をご決裁になりました。

 

(3)また、北野が雷神におなりになって、とても恐ろしく雷鳴して光りきらめいて、清涼殿へおちかかってしまうと見えましたが時平が太刀を抜き放って「存命中も貴殿は私の次位におけれた。今日、たとえ雷神におなりになたからといっても、この世に置いては私にご遠慮があるのが当然だ。どうしてそうなられずにすまされようか。」とおにらみになって仰せになりました。一度はひるんでお静まりになったそうだと、世の人々が申しました。しかし、ひるんだと思えたのはあの大臣がえらいからではありませんで、天皇のご」威光が限りなくあらせられるのによって、、道理と道理に反することの分別をお示しになったのだ。 

 

構成

 

(1)

 

 

(2)

 

 

 

 

 

(3)

醍醐天皇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時 場所

悪事=罪に陥れる。    →

政治的手腕華美を好む風潮を鎮める。

 

笑い上戸

非道

笑いが止まらない

「任せる。」       →

 

「遠慮しろ。」      →

時平

 

 

 

 

 

「不都合だがどうしよう。」

←(なにがしの史)おなら

 

 

雷神

一度は静まる。

天皇の威光で分別した。

道真

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 政治力を持つ時平

 

 

(3)時平と道真 第二巻左大臣時平 解答

(1)一 1 かさ2 しょうぞく 3 てんじょう 4 こじとみ 5 しきじ 6 ずいじん

     7 みす 8 かんどう

二 1 そうではsるが 2 日常的な処世の知恵・才能。3 とり行う。 4 都合が悪い。

  5 そうして。 6 おとがめをうけること。 7 おさまる。

三 時平 道真

  1 ご機嫌がきわめて悪くおなりになって。 2 なるらむ 

3 帝の言葉を伝えた結果どんな事態がひきおこされるかと不安だった。

  4 世間の・・・任せよ。 5 大宅世継 6 左大臣が勅勘を受け、恭順の意を表したこと。

  7 世の中の華美の風

 

 

四 1 え副 しづめ動マ下二しづむ用 させ助動さす用尊 給は補動給ふハ四尊未 ざり助動打ず用

    し助動き体過 出来ないでいらっした

 

(2)一 1 おお 2 ふびん 3 ふみさし 4 たてまつ 5 ずち

   6 せいりょうでん  7 たち   8 おうい

 二 1 おもしろみやおもむきのあること。 2 政治を執り行う。 3 そうはいってもやはり。 

4 家柄や身分が高いこと。 5 そのまま。 6 手の打ちようがない。 7 遠慮する。

三 時平 道真 書記官

  1 笑い上戸 2 大臣、文も・・・給はざりければ 3 せむ 

4 いらなくふるまひて いと高やかに鳴らして

5 非道なること 6 とどめむとする 7 笑いをこらえようとして

8 時平 9 右大臣 10 我にところ置き給ふべし 11 時平

12 天皇の威光で理非を示した

 四 1 え副 念ぜ動念ず用 させ助動さす用尊 給は補動給ふハ四尊未 ざり助動打ず用 ける助動けり体 我慢がおできになりませんでした

   2 え副 取ら動取る未 ず助動ず用  文書を手に取ることも出来ず