貝合わせ

語釈

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 (1)「長月の有明の月に誘われて」家を出た@蔵人少将は、朝霧に紛れて垣間見の散策を続ける

 

うちに、子供たちが忙しそうに出入りする家に興味を引かれて、足を止めた。

 

「何わざするならむ。」とゆかしくて、A人目見はかりて、やをらはひ入りて、いみじくしげき薄

 

の中に立てるに、八、九ばかりなる女子の、1いとをかしげなる、B薄色のC衵、D紅梅などE乱

 

れ着たる、小さき貝を瑠璃の壺に入れて、あなたより走るさまの、あわたたしげなるを、をかしと

 

見1給ふに、2F直衣の袖を見て、「ここに、人こそあれ。」と、3何心もなく言ふに、4わびし

 

くなりて、「あなかまよ。2聞こゆべきことありて、いと忍びて3参り来たる人ぞ。Gと寄り4

 

まへ。」と言へば、「5明日のこと思ひ5侍るに、今よりいとまなくて、6Hそそきはんべるぞ。」

 

とIさへづりかけて、いぬべく見ゆめり。

 

 

(注)@蔵人少将  近衛少将で、五位の蔵人を兼ねた人。A人目見はかりて  人目のないすきをならって。B薄色  薄紅色か、薄紫色。C衵  女性、童女の肌着。D紅梅  濃い桃色。衵の上に着る上着(汗衫)の色をさす。E乱れ着たる  いろいろ取り合せて着ているF直衣  男性貴族の平常衣。ここは、蔵人の少将が着ている直衣をさす。Gと寄り給へちょっとこちらへいらっしゃい。Hそそぎはんべるぞ  落ち着かず忙しくしているのです7Iさへづりかけて  口早にまくしたてて。

 

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      蔵人少将        垣間見                    5瑠璃の壺      直衣         

  侍る

 

  次の語の意味を辞書で調べよ。

 

      貝合

 

      長月   

 

      有明の月

               

      垣間見 

               

      ゆかし 

               

      やをら 

 

      瑠璃

 

  傍線部1〜7の問いに答えよ。

 

      「いとをかしげなる」は、二通りの文脈で解釈することができる。どういう解釈

        か。

 

      「姿」を見られたのではなく「直衣の袖」を見られたと書いたのはなぜか。

 

      「何心もなく言ふ」をこどもの発言心理に即して考えると、どういうことになる

        か。

 

      「わびしくなりて」とは、どういう意味か。

 

 

      「明日のこと」とは、何か。文中から二十五字以内で抜き出せ。

 

      「そそきはんべるぞ」とあるが、そのことが女の子の行動にどのように表れてい

        たか。文中から十五字以内で抜き出せ。  

 

      「さへずりかけて」とあるが、その感じがどの言葉によく表れているか。一語で

        答えよ。

 

 

 

 

四 二重線部1〜5の敬語について次の表を埋めよ。

 

 

 

 

 

 

 

注意

 

番号

侍る

給へ

参り来る

 

聞こゆ

給ふ

 

 

 

 

 

主語

 

 

 

 

 

種類

 

 

 

 

 

地の文

会話文

 

 

 

 

 

敬意

誰が

 

 

 

 

 

 

誰を

     

(2)をかしければ、「何事の、さ忙しくはおぼさるるぞ。まろをだにおぼさむとあらば、1いみ

 

じうをかしきことも人は得てむかし。」と言へば、2名残なく立ち止まりて、「この姫君と今の御

 

方の姫君と、貝合せさせ給はむとて、月ごろいみじく集めさせ給ふに、3あなたの御方は、大輔の

 

君・侍従の君と、貝合せさせ給はむとて、いみじく求めさせ給ふなり。まろが御前は、ただ、若君

 

ひとところにて、いみじくわりなくおぼゆれば、ただ今も姉君の御許に人やらむとて。まかりなむ。」

 

と言へば、「その姫君たちの、うちとけ給ひたらむ、格子のはさまなどにて見せ給へ。」と言へば、

 

「4人に語り給はば。母もこそのたまへ。のぐるほし。まろは、さらにもの言はぬ人ぞよ。ただ、

 

人に勝たせ奉らむ、勝たせ奉らじは、心ぞよ。いかなるに。貝どもの結。」とのたまへば、5よろ

 

づおぼえで、「さらば帰り給ふなよ、かくれ作りてすゑ奉らむ。6人の起きぬさきに、いざ給へ。」

 

とて、西の妻戸に、7屏風押し畳み寄せたる所にすゑ置くを、「8ひがひがしく、やうやうなりゆ

 

くを、をさなき子を頼みて、見もつけられたらば、よしなかるべきわざぞかし。」など思ひ思ひ、

 

はさまよりのぞけば、十四、五ばかりの子ども見えて、いと若くきびはな る限り十二、三ばかり、ありつ

 

る童のやうなる子どもなどと、手ごとに、10小箱に入れ、もののふたに入れなどして、持ちちがひ、さわぐ

 

中に、母屋の簾に添へたる几帳のつまうち上げて、さしいでたる人、わづかに十三ばかりにやと見えて、額髪

 

のかかりたるほどよりはじめて、この世のものとも見えず、うつくしきに、萩襲の織物の袿、紫苑色など、押

 

し重ねたる、頬杖をつきて、いともの嘆かしげなる。

 

 

  そこへ、相手方の姫君が様子を見にやってきて、横柄な口をきく。蔵人少将は、母のな

い姫君に勝たせてやりたいという気になった。

 

 

(注)@まろをだにおぼさむとあらば  私を頼りに思う気持ちにさえおなりになれば。A人は得てむかし  (援助を)その人は受けることができるでしょうよ。Bこの姫君  自分の仕える姫君。C今の御方の姫君  今の北の方の腹の姫君。二人の姫君は異母姉妹であるD貝合  平安時代の遊びの一つ。左右に分かれ、いろいろな貝を出して優劣を競う。E大輔の君・侍従の君  今の御方の姫君方の侍女たちの呼び名。F若君  姫君の弟。G姉君姫君の同腹の姉。H人やらむとて  言いさした表現。「人」は使いの者。Iうちとけ給ひたらむ  おくつろぎなさっているご様子を。J母もこそのたまへ  母も常々私に御注意をなさっている。K心ぞよ  私の心一つで決まるのですよ。「女の子の心」ととる説もあるLいかなるに  どちらに決めますか。下に「定めむ」などの語を補って解する。M貝どもの結  貝合の勝負は。Nありつる童  先刻の「八、九ばかりなる女子」をさす。O萩襲  襲の色目の一つ表が蘇芳(黒みがかった紅色)で裏が青。秋に用いる。P袿  貴婦人の着る上着。Q紫苑色  紫苑色の上着。「紫苑色」は襲の色目の一つ。表が薄紫で裏が青。秋に用いる。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      大輔の君      侍従の君       格子       4  怖づ      屏風

   

  母屋                 8  几帳       9  額髪    10  萩襲

 

    11          12  紫苑色    13  蘇芳     14  頬杖

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

    はさま                        

 

      怖づ

 

  ものぐるほし

 

      きびはなる

 

      母屋

 

      几帳

 

      つま

 

三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜14の問いに答えよ。

 

    「いみじうおかしきこと」とは、どういうことか。十二字以内で説明せよ。

 

      「名残なく立ち止まりて」は、前のどの部分に対応するか。文中から抜き出せ。

   

  「あなたの御方」は、本文中の別の言い方では何と呼ばれているか。

 

      「人に語り給はば」は、誰が何を語ることを気にしているのか。

 

      「よろづおぼえで」は少女のどんな気持ちを表現していると思うか。

 

     6  「人の起きぬさきに」という言葉で、読者は、この場面の時間に気がつく。それ        はいつごろか。

 

      「屏風に押し畳み寄せたる所にすゑ置く」とあるが、少将のどの言葉に動かされ       

たからか。その言葉を抜き出し、初めと終わりの五字を答えよ。

   

  「ひがひがしく」とは、状況をどのように感じているのか。

   

9「はさま」は、前にどこにあると

 

  10 何を。

 

四 二重線部1〜5の敬語について次の表を埋めよ。

 

 

 

 

 

 

 

注意

 

番号

のたまへ

 

奉ら

 

まかり

 

給は

 

 

させ

 

 

 

 

 

主語

 

 

 

 

 

種類

 

 

 

 

 

地の文

会話文

 

 

 

 

 

敬意

誰が

 

 

 

 

 

 

誰を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)  このありつるやうなる童、三、四人ばかり連れて、「わが母の、常に読み1給ひし@観音

 

経。わが御前負けさせ2奉り給ふな。」ただ1Aこのゐたる戸のもとにしも向きて、念じあへる

 

顔、をかしけれど、ありつる童やB言ひいでむと思ひゐたるに、立ち走りて、あなたにいぬ。2

 

と細き声にて

 

   ア Cかひなしと何嘆くらむ白波も3君がかたには心寄せてむ

 

と言ひたるを、さすがに耳とく聞きつけて、「今、D方人に。聞き給ひつや。」「これは、たが言

 

ふべきぞ。」「観音のいで給ひたるなり。」「うれしのわざや。姫君の御前に4聞こえむ。」と言

 

ひて、さ言ひがてら、おそろしくやありけむ、連れて走り入りぬ。「ようなきことは言ひて、この

 

わたりをや見あらはさむ。」と胸つぶれて、さすがに思ひゐたれど、ただ、いとあわたたしく、「E

 

かうかう、4念じつれば、仏5のたまひつる。」と語れば、いとうれしと思ひたる声にて、「Fま

 

ことかはとよ。おそろしきまでこそおぼゆれ。」とてE杖つきやみて、うち赤みたるまみ、いみじ

 

くうつくしげなり。「Gいかにぞ、このH組入の上より、ふと5の落ちたらば、まことの仏の御

 

徳とこそは思はめ。」など言ひあへるは、をかし。

 

 

(注)@観音経  『妙法蓮華経』の普門品の通称。Aこのゐたる  蔵人少将が隠れている

B言ひいでむと  蔵人少将のことを女の子が口にしはすまいかと。Cかひなしと・・・・

「かひなし」は「貝なし」と「甲斐なし」、「かた」は「方」と「潟」を掛ける。「貝」

「潟」「寄せ」は「白波」の縁語。盗み見をしている自分を「白波」になぞらえている。

D方人に  私たちの味方だとおっしゃった。Eかうかう  「仏のたまひつる」にかかり、

「かひなし・・・」の歌をさす。Fまことかはよと  まあ本当かしら。Gいかにぞ  どう

でしょう。H組入  桟を格子形に組んである天井。

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      観音経        方人        組入

 

二 傍線部1・2の語の意味を辞書で調べよ。

 

      あなた              まみ

 

        1〜5の問いに答えよ。

 

      「このゐたる戸のもとにしも向きて」祈るのだから、こどもはどの方向に顔を向

        けていることになるのか。

 

      なぜ「いと細き声」にしたのか。

 

      「君がかたには心寄せてむ」とは、どういうことを言おうとしてるのか。十五字

        以内で簡潔に答えよ。

 

      「念じ」た内容にあたる箇所を抜き出せ。

 

 5 「物」とは何か、漢字一字で答えよ。

 

四 二重線部1〜5について次の表を埋めよ。

 

 

 

 

 

 

 

注意

 

番号

のたまひ

聞こえ

給ふ

 

奉り

 

給ひ

 

 

 

 

 

主語

 

 

 

 

 

種類

 

 

 

 

 

地の文

会話文

 

 

 

 

 

敬意

誰が

 

 

 

 

 

 

誰を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  (4)

 

(4)「夕霧に立ち隠れて」垣間見の場所から自宅に帰った蔵人少将は、様々な貝を入れた豪華な

 

贈り物を準備して、これに歌を結びつける。

 

   イ 1白波に心を寄せて立ち寄らばかひなきならぬ心寄せなむ

 

とて、ひき結びつけて@、例の随身に持たせて、まだ暁に、門のわたりをたたずめば、昨日の子し

 

も走る。 うれしくて、「Aかうぞ、はかり1聞こえぬよ。」とて、懐よりをかしき小箱を取らせて、

 

「Bたがともなくて、さし置かせて来2給へよ。さて、今日のありさまCの見せ3給へよ。さらば

 

またまたも。」と言へば、いみじく喜びて、ただ、「ありし戸口、そこは、まして今日は、人もや

 

あらじ。」とて入りぬ。

 

 

(注)@例の随身  昨日の散策の供に連れていた随身。Aかうぞ、はかり聞こえぬよ 

らこのとおり、あなたをだましたりはしませんよ。「はかる」は欺くの意。Bたがともな

くて  だれからの贈り物とも知らせないで。Cの  ここは、「を」に通じる用法。Dさら

ばまたまたも  では、またね。あいさつの慣用句。

(注)

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

      白波      随身                        戸口

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

      白波

 

      随身

 

      たたずむ

 

     

 

三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1の問いに答えよ。

 

      「白波に」の歌の掛詞は何か。縁語は何か。

 

四 二重線部1〜3の敬語について次の表を埋めよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注意

番号

給へ

給へ

聞こえ

 

 

 

 

主語

 

 

 

種類

 

 

 

地の文

会話文

 

 

 

敬意

誰が

 

 

 

 

誰を

 

 

 

 

(5)  州浜、南の高欄に置かせて、はひ入りぬ。やをら1見通し1給へば、ただ同じほどなる若

 

き人ども、二十人ばかり、装束きて、格子上げそそくめり。この州浜を見つけて、「あやしく。」

 

「たがしたるぞ、たがしたるぞ。」と言へば、「さるべき人こそなけれ。思ひえつ。この、昨日の

 

仏のし2給へるなめり。」「あはれに3おはしけるかな。」と喜びさわぐさまの、いとものぐるほ

 

しければ、いとをかしくて見ゐ4給へりとや。

 

 

(注)@州浜  州と浜との出入りしたさまを模して作った盤で、飾り物に使う。ここでは

蔵人少将が豪華な州浜を作って、その中へ貝の入った小箱をすえ、趣向をこらした品。A

はひ入りぬ  隠れる場所へ忍び入った。B装束きて  着飾って。「装束く」で一語。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      州浜        高欄        装束く        格子

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

      上げそそく

 

      ものぐるほし

 

三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜14の問いに答えよ。

 

      「見通し」とあるが、隠れて少将が姫君の所を見る描写は、前に何と書いてあっ

        たか。

 

四 二重線部1〜4の敬語について次の表を埋めよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

注意

番号

給へ

 

おはし

 

給へ

 

給へ

 

 

 

 

 

主語

 

 

 

 

種類

 

 

 

 

地の文

会話文

 

 

 

 

敬意

誰が

 

 

 

 

 

誰を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              

 

 

五 口語訳

(1)「何をしているるのだろう。」と知りたくて人目のない隙を狙ってそっとはいって、大層茂っている薄のなかに立っていると、8,9才ばかりの女の子が大変かわいらしく薄紅色の肌着、濃い物色など取り合わせて着ている(子が)小さい貝を青色の七宝の壷に入れて向こうから走ってくる。ようすがあわただしいのを、趣深いとみなされていると、直衣の袖を見て、「此処に人がいる。」とどういう考えもなくて言うと思って、「うるさい。申し上げるべきことがあってしのんで参った人だ。ちょっとこちらへ(いらっしゃい。)」と言うので、「明日のことを思っていますと、今より暇もなくておちつかずに忙しくしているのです。としきりにしゃべるのでいこうとしたようだ。

 

(2)興味が惹かれたので、「なにをそう忙しくお思いなんだ。私を頼りに思う気持ちになれば、趣があることも、その人は手に入れることができるのだ。と言うので名残もなく立ち止まって、「子の姫君と今の北の方の姫君と貝合わせなさるというので、数か月たくさん集めなさったのにあなたの方は、今の御方の大輔の君、侍従の君という侍女たちと貝合わせなさると言ってたくさんもとめなさるのだった。私の御前はただ姫君の弟一人で、大変割りなく思われるので、今も姫君の同腹の人に使いをやろうと行きました。」と言うので、「その姫君たちが押し急ぎなさっている、格子の隙間などで見なさい。」と言うと、「人におはなしになったら。母も私に注意なさっている。」と怖がるので、「どうかしている。私は全く話さない人だ。ただ人に勝たせ申そう。勝たせもうさないなら、私の心ひとつだ。どちらに決めるか。貝合わせの勝負は。」とおっしゃるので、自分が仕える姫君を勝たせたい。「それならおかえりになりなさるな、隠れるところを作るので、そこに据え申しましょう。人が起きない先にさいこう。」と言って、西の妻度に屏風を押し込み畳を寄せたところに、おくと、「変な風にだんだんねっていくのに、幼い子を頼りにして、見つけられたら理由が立たない。」などと思い思い、隙間から覗くと、14,5才くらいの子供が見えて大層若く幼くてわかわかしい限りの12,3才くらいの故、先刻の女の子などと手ごとに小箱に入れ物のふたなどに入れたりして持って入り交り騒いでいる中に母屋の簾に添えた几帳の端を上げて出てきた人は、わずかに13才くらいで額髪のかかり方からしてこの世のものとも見えない、可愛らしさに萩襲の織物のうちぎ、紫苑色など押し重ねたる、頬杖をついて大層な外科渋っている。

 

(3)さっき言ったような童3、4人ばかり連れて、「わが母の常に詠みなさった観音経よ、私の御前負けさせもうしなさるな。」ただこの座っていた戸のもとに向いて、お祈りしあう顔オッむき深いが、さっきいた童や蔵人少将のことを女の子が口にしはすまいかと立ちかえり向こうの方に行った。大層細い声で

  

  貝がない甲斐がないと何を嘆いているのだろう。白波も君のためには心寄せるだろう。

 

と言ったのをさすがに耳早く聞きつけて、「今味方だとおっしゃった。」「これは誰が言ったのでしょう。」「観音様がお出でなさったのだ。」「うれしいこと。姫君の御前に申そう。」と言って、そういいながら恐ろしいのかもしれない、連れて走って入った。「用のないことを言ってこのあたりは見あらわされるだろう。」と驚き嘆き胸が痛む。さすがに思い座っていたけれど、ただ大層慌ただしく「こうこうでお祈りしたので仏がおっしゃったのだ。」と言って、頬杖ついて赤みが勝った目元大層美しげである。「どうでしょう。この天井からふと貝が落ちたならば、本当の仏の御恩とおもうだろう。」など言い合っているのは趣深い。

 

(4)歌 白波に心を寄せて立ち寄ったならば、甲斐がないということでなく、心を寄せようと言って結びつけて昨日連れていた隋身に持たせて、まだ暁のうちに門のあたりにたたずんでいると昨日の子供が走ってくる。

 嬉しくて「ほらこうだ。騙し申さないよ。」といって懐から趣深い小箱を出して、取らせて「誰からということもなくて、置かせてきなさいよ。そして、今日の様子を見せなさい。ではまた。」と言うと、大層喜んでただ、「前の戸口、そこは今日は人もあるまい。」といって入った。

 

(5)州浜を身並みの高欄に置かせて、隠れる場所へ入った。そうと身返しなさるとただ同じほどの若い人々が二十人ばかり着飾って格子を上げてあわて騒ぐ。この州浜を見つけて「おかしい。」「誰がしたのだ。誰がしたのだ。」と言うと「そうするはずの人はいない。わかった。昨日の仏が逃がしなさったようだ。」「しみじみ趣深いなあ。」と喜び騒ぐ様子が大層どうかしているので大層おかしくて見て座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

構成

 

 

主題 蔵人の少将、少女たちの純真さに打たれる。

 

 

 

 

 

(1)

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)

 

 

 

 

 

 

 

(4)

 

 

 

 

(5)

九月 月

朝霧 ある家

 

 

 

 

 

 

西の妻度

屏風を寄せたところ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅

暁 門

 

 

 

高欄 州浜

時 場所

立ってのぞく

 

「こちらへ。」      →

 

 

「私を 頼りにしろ。」  →

 

「姫君をのぞかせろ。」  →

「勝たせよう。」     →

「見つけられたら大変。」のぞく          → 

 

 

 

 

 

味方する。      →歌ア 味方

見つかるか?                           

 

 

 

帰る。

歌イ 「援助する。」 →

「騙さない。」    →

小箱 贈り物

 

忍びいる。

見る         →

蔵人の少将

(8、9歳の女の子)会を持って走る。

 ←「人がいる。」

 

←「明日の事で忙しい。」

 

←「こちらの姫君と北の方の姫君が貝合わせする。こちらが不利だ。」

←「勝たせて。隠れ場所を作る。」

 

←隠す。

(14,5才の子供)

(12、3才の子供)

 小箱に入れる。

(13才くらい)額髪 この世のものとも思えないくらいかわいい。

 頬杖を突く。

 

(女の子)私たちの見方

(13才くらい)「ほんとうかしら?」

赤みが勝った目元

(女の子たち)「貝が落ちたら仏の御徳。」

 

 

 

 

 

 

(二十人くらい)

←「誰がした?」

 「仏だ。」喜び騒ぐ。 

その他

 

 

 

 

文学史 物語

   成立 鎌倉時代から南北朝時代

 

   内容 短編10編 

 

 

解答

(1)

一 1 くろうどのしょうじょう 2 かいまみ 3 すすき 4 あこめ 5 るりのつぼ

  6 のうし 7 はべ

二 1 左右ふた組に分かれ双方から貝を出し合ってその珍しさや美しさを競ったもの 2 九月

  3 夜が明けてもまだ空に残っている月 4 こっそりとのぞいてみること

  5 見たい 聞きたい 知りたい 読みたい 6 そっと 7青色の七宝

三 蔵人少将 女の子たち

  1 女子の、いとをかしげなる いとをかしげなるうす色の祖 

2 姿を見ていたのに袖までは隠せなかった 3 事態を考えずに率直に言葉を口にする心理

4 困ってしまって 5 この姫君と今の北の方の貝合わせさせ給はん

6 走る様のあはただしげなる 7 はんべる

 

 

 

 

 

 

注意

 

番号

侍る

給へ

参り来る

 

聞こゆ

給ふ

 

(寄り=女の子)

蔵人少将

蔵人少将

(見=蔵人少将)

主語

丁寧

尊敬

謙譲

謙譲

尊敬

種類

会話文

会話文

会話文

会話文

地の文

 

地の文

会話文

女の子

 

蔵人少将

蔵人少将

蔵人少将

作者

敬意

誰が

蔵人少将

女の子

 

女の子

 

女の子

 

蔵人少将

 

誰を

  

(2)

一 1 たゆうのきみ 2じじゅうのきみ 3 こうし 4 お 5 びょうぶ

  6 もや 7 すだれ 8きちょう 9ひたいがみ 10 はぎがさね

  11 うちき 12しおんいろ 13 すおう 14 つらづえ

二 1 すきま 2 こわがる 3 どうかしている 4 おさなくていたいたしい

  5 寝殿造りで廂の内側の中央の部屋 

  6 平安時代、室内に立てて隔てとした道具 7はし

三 蔵人少将 女の子たち

  1 大層素晴らしい援助 2 さへずりかけて、いぬべく見ゆめり

3 今の御方の姫君 

4 蔵人少将が第三者に、私の手びきで姫君を垣間見たということ

5 貝合わせで自分の仕える姫君を勝たせたい気持ち

  6 西の妻戸に、屏風押し畳み寄せたるところ 7貝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敬語

 

最高

注意

 

番号

のたまへ

 

奉ら

 

まかり

 

給は

 

 

させ

蔵人少将

(勝たせ=蔵人少将

女の子

(せ=この姫君)

(せ=この姫君)

主語

尊敬

謙譲

謙譲

尊敬

尊敬

種類

地の文

 

会話文

会話文

会話文

会話文

地の文

会話文

作者

蔵人少将

女の子

女の子

女の子

敬意

誰が

蔵人少将

この姫君

蔵人少将

この姫君

この姫君

 

誰を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)

一 1 かんのんきょう 2 かたびと 3 くみいれ

二 1 かなた 2 めもと

三 蔵人少将 女の子たち 姫君

  1 西 2 神仏の託宣をよそおうため 3 姫君に味方しようということ

  4 わが母〜給ふな 5 貝

 

 

に対する

二方面

 

注意

 

番号

のたまひ

聞こえ

給ふ

 

奉り

 

給ひ

観音

女の子

(負けさせ=観音

 

(負けさせ=観音

 

主語

 

謙譲

尊敬

謙譲

尊敬

種類

会話

会話

会話

会話

会話

地文

会話文

女の

女の

89才の女

89才の女

89才の女

敬意

誰が

観音

この姫君

観音

この姫君

 

誰を

四 

 

 

(4)

一 1 しらなみ 2 ずいじん 3 あかつき 4 ふところ 5 とぐち

二 1 泡立ち白く見える波 盗賊の異称 2 御供となってしたがっていくこと

  3 その場所にじっとたちつくす 4 着物と胸との間

三 蔵人少将 女の子たち

  1 掛詞 しらなみ 白い波 盗賊 縁語 白波 寄せて 立ち寄らば 寄せなむ  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注意

番号

給へ

給へ

聞こえ

 

(見せ=89才の女の子)

(来=89才の女の子)

(はかり=蔵人少将)

主語

 

尊敬

謙譲

 

種類

会話文

会話文

会話文

地の文

会話文

蔵人少将

蔵人少将

蔵人少将

敬意

誰が

89才の

女の子

89才の

女の子

89才の

女の子

 

誰を

 

(5)

一 1 すはま 2 こうらん 3 そうぞく 4 こうし

二 1 あわて急ぐ 2 どうかしている

三 蔵人少将 89才の女の子

  1 はざまよりのぞけば

 

 

 

 

 

 

 

 

注意

番号

給へ

 

おはし

 

給へ

 

給へ

 

(見ゐ=蔵人少将)

(し=仏)

(見通し=蔵人少将

主語

尊敬

尊敬

尊敬

尊敬

種類

地の文

 

会話文

会話文

地の文

 

地の文

会話文

作者

女の子

女の子

作者

敬意

誰が

蔵人少将

蔵人少将

 

誰を