(8)H葵2葵の上と六條御息所との車争い
語釈
・接添加 ・接原因理由
(1)@大殿には、Aかやうの御歩きもをさをさし1給はぬに(葵の上)、御心地さへ悩ましければ(葵の上)、
・格対象
1思しかけざりけるを(葵の上)、若き人びと、「いでや。おのがどちひき忍びて見はべらむこそ、栄なかるべ
けれ(若い女房たち)。2おほよそ人だに、今日の物見には、B大将殿をこそは、あやしき山賤さへ見2奉らむ
・接逆接
とすなれ(人)。遠き国々より、妻子を引き具しつつも参うで来なるを(遠くの人)。3御覧ぜぬは、いとあま
りもはべるかな(葵の上)。」と言ふを(若い女房達)、C大宮3聞こしめして、「御心地もよろしき隙なり(葵
の上)。さぶらふ人びともさうざうしげなめり(若い女房達)。」とて、にはかにめぐらし4仰せ5給ひて、4見
たまふ(大宮)。
(注)@大殿 ここでは、左大臣の姫君「葵上」。Aかやうの御歩き 新斎院の のための行列を見物しにお出かけになるというようなこと。B大将殿 光源氏。このころ右近衛大将であった。C大宮 葵上の母君(桐壺帝の妹宮)。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 大殿 2 思し 3 大将殿 4 見奉ら 5 妻子 6 大宮
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 をさをさ
2 おのがどち
3 山がつ
4 さうざうし
三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜4の問いに答えよ。
1 意味上後のどの言葉に番っているか。
2 どこへかかるか。
3・4 それぞれ主語を記せ。
四 二重傍線部1〜5の敬語評伝について次の表を埋めよ。
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注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
給ひ |
仰せ |
聞こしめし |
奉ら |
給は |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
(2)日たけゆきて(太陽)、@儀式もわざとならぬさまにて出で1たまへり(葵の上)。隙もなう立ちわたり
・格場所
たるに(物見車)、Aよそほしう引き続きて1立ちわづらふ(一行)。Bよき女房車多くて、C雑々の人なき隙を
・接単純 ・格場所
思ひ定めて(一行)、2皆さし退けさするなかに(物見車)、D網代のすこしなれたるが、F下簾のさまなどよし
ばめるに、いたう引き入りて、ほのかなるG袖口、裳の裾、汗衫など、ものの色、いときよらにて、ことさら
にやつれたるけはひしるく見ゆる車、二つあり(車二両)。「3これは、さらに、さやうにさし退けなどすべき
御車にもあらず」と、H口ごはくて、手触れさせず(供人)。いづかたにも、若き者ども酔ひ過ぎ、立ち騒ぎた
るほどのことは、Iえしたためあへず(騒ぐ若者)。おとなおとなしき御前の人びとは、「Jかくな」など言へ
接逆接
ど(年配のお供)、えとどめあへず(年配のお供)。K斎宮の御母御息所、4もの思し乱るる慰めにもやと(御
接逆接
母御息所)、忍びて出でたまへるなりけり(六条御息所)。Lつれなしつくれど(六条御息所)、5おのづから見
知りぬ(人々)。「6さばかりにては、さな言はせそ(六条御息所)」「大将殿をぞ、M豪家には思ひ2きこゆらむ
六条御息所)」など言ふを(人々)、そのN御方の人も混じれば(大将家の人々)、7いとほしと見ながら(大将
家の人々)、O用意せむもわづらはしければ(大将家の人々)、知らず顔をつくる(大将家の人々)。
(注)@儀式 外出の作法。Aよそほしう 車や供人などをいかめしく整えて。Bよき 身分の高い。C雑々の人 車副いなどの雑人の意か。D網代 檜・竹などの薄く細い板で斜めまたは縦横に編んだもので、車箱の屋根、脇を張ってある牛車。F下簾 納言以上またh女房の車の場合、前後の御簾の内側に掛ける薄絹の布。
G袖口、裳の裾、汗衫 女性は車の袖の下から衣装の一部を出して乗る。その袖口裳の裾、汗衫。H口ごはくて 強行にいいはっていて。Iえしたためあへず どうにも処置をつけ用がない。Jかくな こんな乱暴をするな。K斎宮の御母御息所 六條御息所。Lつれなしつくれど 何食わぬ顔を装っているけれども。M豪家 権勢のある家。N御方 大将家O用意せむ (事が荒立たぬように)気を遣ったところで、それも。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 隙 2 雑々 3 網代 4 下簾 5 袖口 6 裳の裾 7 汗衫 8 斎宮 9 御息所
10 豪家
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 日たく
2 よしばむ
3 やつる
4 しるし
三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜7の問いに答えよ。
1 どういうことか。
2 対照的表現を抜きだせ。
3 指示内容を具体的に記せ。
4 なぜか。
5 何だと分かったのか。
6 指示内容を記せ。
7 誰が何をどう思ったのか。
四 二重傍線部1〜2の敬語について次の表を埋めよ。
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注意 |
2 |
1 |
番号 |
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きこゆ |
たまへ |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
・接原因理由 ・接単純接続
(3)つひに、御車ども立て続けつれば(車列)、@ひとだまひの奥におしやられて(六条御息所の車)、1物
も見えず(六条御息所)。心やましきをばさるものにて、かかるやつれを2それと知られぬるが(六条御息所)、
3いみじうねたきこと、限りなし(六条御息所)。A榻などもみな押し折られて、すずろなる車のB筒に4うち
・接原因理由
かけたれば(六条御息所の車)、またなう人悪ろく、くやしう、「何に、来つらむ」と5思ふにかひなし(六条
・接逆接
御息所)。物も見で6帰らむとし1たまへど(六条御息所)、通り出でむ隙もなきに、C「事なりぬ」と言へば(人々)、
さすがに、Dつらき人の御前渡りの待たるるも、心弱しや(六条御息所)。「D笹の隈」にだにあらねばにや、
7つれなく過ぎ2たまふにつけても(光源氏)、なかなか御心づくしなり六条御息所)。
(注)@ひとだまひ お供の女房が乗る車。A榻 牛を外した時、牛車のながえを載せる台。B筒 車軸を受けている車輪の中心部。C事なりぬ 行事が始まった。行列が来たこと。Dつらき人の御前わたり 辛い思いをさせる光源氏のお通り。D笹の隈 「ささの隅檜隅川に駒とめてしばし水かへ影をだに見む」(『古今集』、巻二十、神遊歌)の歌意を受けた表現。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 榻 2 笹の隈
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 すずろなり
2 人わろし
3 なかなか
三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜7の問いに答えよ。
1 具体的に何か。
2 指示内容を記せ。
3 心情を詳しく記せ。
4 何を。
5 主語を記せ。
6 主語を記せ。
7 主語を記せ。
四 二重傍線部1〜2の敬語について次の表を埋めよ。
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注意 |
2 |
1 |
番号 |
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たまふ |
たまへ |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
(4)げに、常よりも好みととのへたる車どもの、我も我もと乗りこぼれたる下簾の隙間どもも(車)、1さら
・接逆説確定 ・接原因理由
ぬ顔なれど、ほほ笑みつつ2後目にとどめたまふもあり(光源氏)。3大殿のは、しるければ(大殿の車)、4
まめだちて渡りたまふ(光源氏)。@御供の人びとうちかしこまり、A心ばへありつつ渡るを(供の人々)、5
おし消たれたるありさま、こよなう1思さる(六条御息所)。 影をのみB御手洗川のつれなきに身の憂きほど
・格対象 ・接逆説確定
ぞいとど知らるる 」と、涙のこぼるるを(六条御息所)、人の見るもはしたなけれど(六条御息所)、目もあ
・格対象 ・接順接仮定
やなる御さま、容貌の、「いとどしうC出でばえを(光源氏)見ざらましかば」と2思さる(六条御息所)。
(注)@御供の人びと 光源氏の従者で行列に加わっている者。A心ばへ 心をくばること。B御手洗川 「みたらし」の「み」に「見る」の意をかけてある。C出でばえ 人中で一段と映えて見えること。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 大殿 2 御手洗川 3 容貌
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 はしたなり
2 あやなり
三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜5の問いに答えよ。
1 誰のどういう顔か。
2 主語を記せ。
3 大殿の何か。
4 主語を記せ。
5 具体的に説明せよ。
四 二重傍線部1〜2の敬語について次の表を埋めよ。
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注意 |
2 |
1 |
番号 |
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思さ |
思さ |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
五 口語訳
(1)大殿には、新斎院の行列を見物しに行くことなどほとんどなさらないのに、若い人たちが、「さあさあ自分たち同士でひっそりと見てもなんのはえるとこともございますまい。一般の人でさえ、京の物見には、光源氏をこそ、いやしい山里にすむ身分低いものさえ見申そうとするようだ。遠い地方から、妻子を引き連れてやってくるというのに、ご覧にならないのは、大層あまりにも(無関心だ)と言うのを葵の上の母は聞き申して、、「気分もいいようです。お仕えしている人々も物さっぱり足りないようだ。」と言って急に企て仰せなさって見なさる。
(2)日が高く昇って行って、外出の作法も格式ばらぬ程度にて出なさる。隙もなく、立ち並んでいるところに、車や人をいかめしく整えて(車を)立てわずらっている。身分の高い女房の車が多くて、車副いなどの雑人がいない隙を見つけてどかそうとする。その中に、網代で少し使いならした車があって、下簾の様子など趣ありそうなようすである(車)で大層車の車の奥の方に引っ込んで、わずかに見える。物の色は大層さっぱりして美しく、わざとは目立たない姿が明瞭に見える車がある。「これはけっしてそんなにどかそうとすべき御車ではない。」と強硬に言い張って手もふれさせない。どちらの例でも、若い者たちが酔いすぎ立ち騒いでいる時の事は、どうにも処置のしようがない。年配の大人は、「そんなに乱暴をするな。」など言うが、とどめることもできない。六条御息所は思い乱れること慰めにもなるかとこっそり御出なさったのだ。自然見知っていた。「それくらいの方には、大将殿を権勢勢いある家には頼み申しているのだろう。」などと言うのを、その御方の人もまじっているのでかわいいと見たがる。
(3)とうとう御車どもを立て並べてしまったので副車の奥に押しやられて、物も見えない。憤懣のやるせないのは当然で、忍んできたことを其れと知れるのがたいそうひどく無念でたまらない。しじなども皆押しおられてつまらない車のこしきにうちかけたところ、またとなく後悔し、何しに来たのかと思うが甲斐がない。ものも見ないで帰ろうとしたけれども通って出ようとする隙もないので、「行列が来る。」と言うと、やはりつらい思いをさせる光源氏のお通りが待たれるのも心弱いことだ。笹の隅でさえもないからだろうか、関係なくすぎなさるにつけても、かえって心も尽き果てる思いである。
(4)なるほど、いつもよりも好み整えた車どもの、自分も自分もとこぼれそうに乗っている。簾の隙間どももさりげない顔つきになるけれど、ほほえみつつ流し目にご覧になる方mおある。葵の上のは際立っているので、まじめな顔つきで行きなさる。光源氏の従者で行列に加わっている者たちはかしこまって心をしぼって通りすぎので全くけおされてしまった。
影を宿しただけで流れ去るみたらし川のような君のつれないのゆえい、運のつたなさがますます身にしみ
てわかる。
と」、涙のこぼれるのを人が見るのも具合が悪いが月もまぶしい程の様子、容貌のいよいよはなはだしく人中で一段とはえて見えるのをみなかったならばとお思いなさる。
構成
主題 六条御息所、車争いで葵の上に屈辱を受ける。
(1) (2) (3) (4) |
節 |
新斎院のみそぎのための行列 日も高く びっしり立つ。 車を立て並べる。 |
時 場所 |
ほとんど出ない (若き人々)「誰も見に行く。」 (葵上の母)「行って来い。」 立ち退かせる。 (若き者ども) 車を立て並べる → (若い者ども)しじを折る。→ (光源氏)流し目に見る。 葵の上を真面目にみる。 (光源氏)容貌が一段と映える。 21才4月〜22才1月 |
葵の(26才)上 |
網代車二台 (若き者ども) 光源氏が来ないので出てきた。 奥に引っ込む 奥に押しやられる。物も見えない。 しじを車輪の中心にかけられる。 悔しい。 隙もなく帰ることもできない。 みじめに思う。 ←歌 君はつれない。わが身はつたない。 涙 ←「見なければよかった。」 |
六条御息所(28才〜29才) |
(8)H葵2葵の上と六條御息所との車争い 解答
(1)
一 1 おおいどの 2 おぼ 3 たいしょうどの 4 みたてまつ 5 めこ 6 おおみや
二 1 ほとんど 2 仲間同士 3 きこり猟師などの山里に住む身分の低い者 4 ものたりない
三 葵の上 大宮
1 見給ふ 2 参うで来なる 3 葵の上 4 大宮
(2)
敬語 |
最高 |
|
|
|
注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
給ひ |
仰せ |
聞こしめし |
奉ら |
給は |
語 |
(仰せ=大宮) |
大宮 |
大宮 |
山賤 |
葵の上 |
主語 |
尊敬 |
尊敬 |
尊敬 |
謙譲 |
尊敬 |
種類 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 会話文 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
敬意 誰が |
大宮 |
大宮 |
大宮 |
御禊 |
葵の上 |
誰を |
一 1 ひま 2 ぞうぞう 3 あじろ 4 したすだれ 5 そでぐち 6 ものすそ 7 かざみ
8 さいぐう 9みやすどころ 10 ごうか
二 1 高くのぼる 2 気取る 3 地味で目立たない状態にする 4 はっきりしている
三 光源氏 六條御息所
1 車のたてようが亡くて困っている 2 さし退けなどすべき御車にもあらず 3 六條御息所の車
4 光源氏があまり訪れてくれないため光源氏の気持ちを測りかねて重い乱れていらっしゃる 5 六條御息所 6 それくらいの方には 7 光源氏の家来どもは六條御息所を
四
|
|
|
注意 |
2 |
1 |
番号 |
|
きこゆ |
たまへ |
語 |
|
(思ひ=人々) |
(出で=葵の上) |
主語 |
|
謙譲 |
尊敬 |
種類 |
|
会話文 |
地の文 地の文 |
地の文 会話文 |
|
人々 |
作者 |
敬意 誰が |
|
六條御息所 |
葵の上 |
誰を |
(3)
一 1 かじ 2 笹のくま
二 1 ひどい 2 みっともない 3 かえって
三 光源氏 六條御息所
1 新齋院御けいの行列 2 六條御息所の車
3 自分がここにいると人目に立つことは自分が年下の光源氏に未練がましい気持ちでいることを見透かされることになる。こうした世評が生じることはたまらに恥だ。4 ながえ
5 六條御息所 6 六條御息所 7 光源氏
四
|
|
|
注意 |
2 |
1 |
番号 |
|
たまふ |
たまへ |
語 |
|
(過ぎ=光源氏) |
(し=六條御息所) |
主語 |
|
尊敬 |
尊敬 |
種類 |
|
地の文 |
地の文 |
地の文 会話文 |
|
作者 |
作者 |
敬意 誰が |
|
光源氏 |
六條御息所 |
誰を |
(4)
一 1 おおとの 2 みたらしがわ 3 かたち
二 1 体裁が悪い 2 まぶしいほど
三 1 光源氏のさりげない顔 2 光源氏 3 牛車 4 光源氏
5 六條御息所が葵の上に全く気圧されてしまった自分の姿を
四
|
|
注意 |
2 |
1 |
番号 |
思さ |
思さ |
語 |
六條御息所 |
六條御息所 |
主語 |
尊敬 |
尊敬 |
種類 |
地の文 |
地の文 |
地の文会話 |
作者 |
作者 |
敬意誰が |
六條御息所 |
六條御息所 |
誰を |