(3)A帚木7藤式部丞の体験ー賢女
語釈
(1) 1をさをさうちとけてもまからず(藤式部丞)、@かの親の心を憚りて、さすがにAかかづらひ1侍り
・格時
しほどに(藤式部丞)、2いとあはれに思ひ後ろ見、B寝ざめの語らひにも、身の才つき、おほやけに2つかう
まつるべきC道々しきことを教えていと清げに、消息文にも仮名といふものを書きまぜず、むべむべしく言ひ
・接順接
まはし3侍るに(博士の娘)、おのづからえ4まかり絶えで3その者を師としてなむ、わづかなる腰折文作るこ
・接原因理由 ・接逆接
となど習ひ5侍りしかば(藤式部丞)、今にその恩は忘れ侍らねど(藤式部丞)、なつかしき妻子とうち頼まむ
には、4無才の人、Dなまわろならむ振る舞ひなど見えむに、恥づかしくなむ見え侍りし(藤式部丞)。5まい
て、E君たちの御ため、Fはかばかしくしたたかなる御後見は、何にかせさせ給はむ(藤式部丞)。
(注)
@かの親 藤式部丞の学問の師である博士。娘と藤式部丞との結婚を喜んでいた。Aかかづらひ侍りしほどに 関係を断たずに通っておりましたうちに。B寝ざめの語らひ 夜、床の中で目覚めた時の夫婦の会話。C道々しきこと 学問的で理屈っぽい知識や教養。Dなまわろならむ 何やらみっともない。E君たち ここは光る源氏や頭中将たちをさす。Fはかばかしくしたたかなる御後見 やり手でしっかりしたお世話役。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 女御 2 更衣 3 桐壷帝 4 頭中将 5 藤式部丞 6 憚りて 7 後見 8 消息文
9 腰折文 10 侍り
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 後見
2 消息文
3 むべむべし
4 腰折文
三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜14の問いに答えよ。
1 「をさをさうちとけてもまからず」とあるが、藤式部丞は博士の娘の所へなぜ気を許して通うことできなかったのか。
2 「いちあはれに思ひ後見」というのは誰が誰に対してそうするのか。
3 「その者」とは誰を指すか。
4 「無学の才」とは誰を指すか。
5 (1)どういう意味か。
(2)光源氏や頭中将のためには、やりてでしっかりした世話役がなぜ「「何にかせさせむ」と言うのか。
四 二重傍線部1〜4について敬語表を埋めよ。
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注意 |
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3 |
2 |
1 |
番号 |
侍り |
まかり絶え |
侍る |
つかうまつる |
侍り |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
・接偶然条件
(2)「さて、いと久しく1まからざりしに、もののたよりに立ち寄りてはべれば(藤式部丞)、常のうちとけ
ゐたる方にははべらで、1心やましき物越しにてなむ逢ひてはべる(博士の娘)。@ふすぶるにやと、をこがま
・接逆接確定
しくも、また、2よきふしなりとも思ひ2たまふるに(藤式部丞)、このさかし人、はた、軽々しきもの怨じす
べきにもあらず、世の道.理を思ひとりて恨みざりけり(博士の娘)。声もAはやりかにて言ふやう、3『月ご
ろ、B風病重きに堪へかねて、C極熱の草薬を服して、いと臭きによりなむ、え対面3賜はらぬ(博士の娘)。
目のあたりならずとも、さるべからむ雑事らは承らむ』と、いとあはれにむべむべしく言ひ4侍り(博士の娘)
・接単純接続
4いらへに何とか は(藤式部丞)。ただ『5承りぬ。』とて、立ち出ではべるに藤式部丞)、さうざうしくやお
・格対象
ぼえけむ、『この香失せなむ時に立ち寄りたまへ』と高やかに言ふを、聞き過ぐさもいとほし、5しばしやすら
ふべきに、はたはべらねば(藤式部丞)、げに6そのにほひさへ、はなやかにたち添へるもすべなくて(におい)、
逃げ目をつかひて(藤式部丞)、
ア 7Dささがにのふるまひしるき夕暮れにひるま過ぐせといふがあやなさ、
掛詞 ひるま 昼間 蒜間
・接逆接
いかなることつけぞや』と、言ひも果てず走り出ではべりぬるに(藤式部丞)、追ひて(博士の娘)、
イ 8逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならばひる間も何かDまばゆからまし
、さすがにF口疾くなどははべりき。」(博士の娘)とGしづしづと申せば(藤式部丞)、君たち、あさましと思
ひて、「9嘘言」とて笑ひたまふ(一同)。
(注)@ふすぶるにや やきもちを焼いてすねているのだろうか。Aはやりかにて せかせかとして。B風病
風邪。現代の風邪より幅広い症状を含めて言う。C極熱の草薬 にんにくのこと。暑気あたりに用いた薬かという。Dささがにの 「ささがに」は蜘蛛の別名。「ひるま」に「昼間」と「蒜」とをかける。「わが背子が来べき背なりささがにの蜘蛛のふるまひかねてしるしも」(『古今集』恋四・墨課消滅歌 衣通姫)を本歌とする。
Dまばゆからまし 「まばゆし」に、「まぶしい」意と「はずかしい」 意とを掛ける。F口疾く 変化をするのがすばやく。Gしづしづと 重々しい口調で。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 風病 2 堪へ 3 雑事 4 承る 5 隔て
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 心やまし
2 をこがまし
3 さかし
4 まのあたり
5 雑事
6 さうざうし
7 やすらふ
8 逃げ目
9 ことつけ
10 あさまし
三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜9と3『 』の問いに答えよ。
1 (1)「心やましき」とあるが、博士の娘が物越しであうことがなぜ気に入らないのか。
(2) 博士の娘が物越しであったのはなぜか。その理由に該当する部分を抜き出せ。
2 「よきふしなり」は何をするのによい機会だというのか。
3 『 』この中から漢語を抜きだせ。
4 (1)下にどういう言葉を補えばよいか。
(3) ここからどういう心情がうかがえるか。
5 どこへかかるか。
6 何の臭いか。
7 (1)「ささがにのの振る舞ひ」とはどういうことを意味しているか。
(2)「ひるますぐせ」とあるが、藤式部丞は、「昼間を過ごして来い。」という表面的な意味を盾にとって、相手をなじりからかっている。博士の娘の立場で言わんとしたことはどういうことか。
8 「あふ事の夜をし隔てぬ仲」とあるが、事実はどうなのか。
9 「そらごとと言って笑ったのはなぜか。
四 二重傍線部1〜4の文法問題に答えよ。
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注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
承り |
侍り |
賜はら |
給ふる |
まから |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
五 構成
(1) (2) |
節 |
宮中 宿直 五月雨の夜 博士の家 久しぶり 博士の家 |
時 場所 |
通う 師として漢文を習う 恩を忘れない 妻子を頼らない 自分は無才 皆様にはこういう人は不要 立ち寄る 賢い人 臭い 歌 ア におわなくなってから来てくれとは分からぬ |
藤式部丞(光源氏 17才) |
情愛深い 寝ざめの語らい 「学才・出仕」 仮名を使わない 障子越しの面会 嫉妬しない 恨みを言わない 「風邪をひいて大蒜服用。会えない。」 「臭気が抜けたら来てくれ。」 歌 イ 夜あったら匂っても恥ずかしくない。」 |
博士の娘 |
主題 賢女との恋
六 口語訳
(1)「少しもうちとけても参らず、親の気持ちに気兼ねして、さすがに関係していました時に、(女は)大層情愛深く思い、世話し、目覚めた時の会話にも学才が身につき、調停にお仕えすべき学問で理屈っぽいことを教えて大層さっぱりと手紙にも仮名を使わず、もっともらしく言いまわしますので自然行き申さないこともなく、その女を師匠としてわずかに下手な漢文を作ることなどを習いましたので、今でもその恩は忘れませんが、いとしい妻として頼りにするには、(自分が)無学なので、なんとなく見苦しいような振る舞いなどを見られたとしたら恥ずかしく思いました。まして、あなたがたのためには、やりてでしっかりしたお世話役などは、何になりましょうか(いやなりません)。
(2)「さて、大層長く参らなかったときに、何かのついでに立ち寄ってみますと、いつものように打ち解けたところにはいないで、不快にも物越しで会いました。嫉妬しているのだろうかとばからしくも、また別れるのによい機会だとも思いますのに子の娘はまた軽々しく嫉妬するというのでもなく、男女の仲を理解して、恨みもしなかった。声もせかせかして言うことに、『数か月風邪が重いのにたえかねて極熱の薬草を飲んで大層臭いので対局でき申さない。目の前でなくてもしかるべき雑事は承りましょう。』と大層しみじみともっともらしく言いました。返事に何とか言った。ただ、『承知した。』と言って出ますのに、何となく物足りないと思ったのか、『この臭いが消えた時に言い寄りなさい。』と高い声で言うのを、聞き流すのも気の毒だ、しばらきためらうこともできないので、本当にそのにおいさえはでにたつのもどうしようもなく、逃げようとする時の目つきをして、
『蜘蛛の活動が活発な夕暮れに、昼間に過ごせというのは訳が分からない
どういう口実か』と言い終わらないうちに
会うことが夜を隔てない仲なら、昼間だって大蒜の匂いがしたってなんで恥ずかしいか
さすがに返歌が素早く。」と申すと一同は、ひどいと思って「うそだ。」と言って笑う。
(3)A帚木7藤式部丞の体験ー賢女 解答
(1)
一 1 にょうご 2 こうい 3 きりつぼ 4 とうのちゅうじょう 5 とうしきぶのじょう
6 はばか 7 うしろみ 8 しょうそこぶみ 9 こしおれふみ 10 はべ
二 1 世話をする 。 2 手紙 3 もっともらしく 4 下手な詩文
三 藤式部丞 博士の娘
1 賢女であり、可愛げがなく気づまりであったから
2 博士の娘が藤式部丞に 3 博士の娘 4 藤式部丞
5 (1)何の御役にたちましょう(いや立ちません)
(2)光源氏たちは学問があり、このような女の知恵を必要としないから
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注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
侍り |
まかり絶え |
侍る |
つかうまつる |
侍り |
語 |
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藤式部丞 |
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藤式部丞 |
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主語 |
丁寧 |
謙譲 |
丁寧 |
謙譲 |
丁寧 |
種類 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
地の文 会話文 |
藤式部丞 |
藤式部丞 |
藤式部丞 |
藤式部丞 |
藤式部丞 |
敬意 誰が |
一同 |
博士 |
一同 |
朝廷 |
一同 |
誰を |
四
(2)
一 1 ふびょう 2 た 3 ぞうじ 4 うけたまわ 5 へだ
二 1 不快だ 2 ばからしい 3 かしこい 4 目の前 5 いろいろな事柄
6 何となく物足りない 7 ためらう 8 逃げようとするときの目つき 9 口実
10 あきれるほどひどい
三 藤式部丞 博士の娘 一同
1 (1)理由もわからず、大変他人行儀のもてなしに思われたから
(2)極熱の草薬を服して、いと臭きにより
2 女と縁を切るのによい機会 3 風病 極熱の草薬を服し 対面 雑事
4 (1)言はむ (2)あきれるほどひどい 5 逃げ目を使ひて
6 極熱の草薬(大蒜)
7 (1)いとしい人が来る(2)大蒜の匂いの消えるまで待て(大蒜の匂いが消えた時お越しください
8 たまにしか会わない夫婦仲 9 体験でなく作り話だと言った
四
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注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
承り |
侍り |
賜はら |
給ふる |
まから |
語 |
藤式部丞 |
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博士の娘 |
(思ひ=藤式部丞) |
藤式部丞 |
主語 |
謙譲 |
丁寧 |
謙譲 |
謙譲 |
謙譲 |
種類 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
地の文 会話文 |
藤式部丞 |
藤式部丞 |
博士の娘 |
藤式部丞 |
藤式部丞 |
敬意 誰が |
博士の娘 |
一同 |
藤式部丞 |
博士の娘 |
博士の娘 |
誰を |
*歌について
ア 蜘蛛の活動が活発=恋人の来訪の前兆・・・夕暮れ
対立
昼間を過ごせ(大蒜の匂いの消えるまで待て)
イ 反実 会うのが毎夜という二人
↓
仮想 昼間あってもまぶしい思いはしない(大蒜の匂いがしても恥ずかしくないから)
事実 たまにしか会わない夫婦
↓
昼間会うのはまぶしい