(8)小野の雪  八十三段

 

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語釈

 

(1)昔、@水無瀬に通ひ給ひしA惟喬の親王、1例の狩りしにおはします供に、B右馬頭なる翁つかうまつ

れり。日ごろ経て、宮に帰り給うけり。御送りして、2とくいなむと思ふに、大御酒給ひ、禄給はむとて、3

 

つかはさざりけり。この右馬頭、心もとながりて

ア  D枕とて草ひき結ぶこともせじ4秋の夜とだに頼まれなくに

   三句切れ

 

とよみける。5時は弥生のつごもりなりけり。親王、大殿籠らで明かし給うてけり。

 

(2)かくしつつ、まうでつかうまつりけるを、6思ひのほかに、E御髪下ろし給うてけり。睦月に拝み奉ら

 

むとて、F小野にまうでたるに、比叡の山のふもとなれば、雪いと高し。強ひてG御室にまうでて拝み奉るに、

 

つれづれと、いともの悲しくておはしましければ、やや久しく候ひて、いにしへのことなど思ひ出で聞こえけ

 

り。Hさても候ひてしがなと思へど、おほやけごとどもありければ、1え候はで、夕暮れに帰るとて、

 

イ  I忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや雪踏み分けて7君を見むとは

  二句三句切れ 倒置法

 

とてなむ、泣く泣く来にける。

  

@            水無瀬 今の大阪府三島郡島本本町広瀬。狩り場。ここに離宮があった。A惟喬の親王 844〜897年。文徳天皇の第一皇子。在原業平の妻の父紀有常と親王の母静子は兄妹である。B右馬頭 B右馬頭寮の長官。ここは在原業平。D枕とて草ひき結ぶ 旅寝をする。E御髪下ろし 惟喬の親王の出家は、872年7月11日。F小野 今の京都市左京区八瀬。G御室 親王の住居。「室」は僧坊・庵室などを言う。

  Hさても候ひてしがな そのまま御側にお仕えしていたいものだ。I忘れては (現実を)ふと忘れては。

 

一次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 水無瀬 2 惟喬の親王 3 右馬頭 4 大御酒 5 禄 6 弥生 7 大殿籠る 

 

 8 御髪 9 睦月 10 奉る 11 御室

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 日ごろ

 

 2 とく

 

 3 禄

 

 4 心もとながる

 

 5 弥生

 

 6 つごもり

 

7 睦月

 

8 拝む

 

9 おほやけごと

 

三 登場人物を抜き出せ。また傍線部1〜7の問いに答えよ。

 

 登場人物

 

1 どこにかかるか。

 

2 どこへ「いなむ」と思うのか。 こお気持ちと対照的な表現を記せ。

 

 3 誰をどこへ「つかはさ」なかったというのか。

 

 4 「秋の夜」は何が「頼まれ」るというのか。対照的語句を抜き出せ。

 

 5 (1)この表現は、「枕とて」の歌を理解する上で、そのような関連があるか。

 

   (2)この表現は、後半との内容との関連において、どのような役割をはたしているか。

 

 6 「思ひのほかに」とあるが、右馬頭の翁が予期していたことは、どのようなことと思われるか。

    これとほぼ同じ気持ちを表している語句を抜き出せ。

 

 7 誰をさすか。

 

四 二重傍線部1の文法問題に答えよ。

 

  1 品詞分解 口語訳

 

五 口語訳

 

 (1)昔、水無瀬に(京から)通いなさっていた惟喬の親王が、いつものように狩りをしにおいでになる供に、の長官である翁がお仕え申し上げた。何日かして、(親王は京の)御殿にお帰りになった。(翁は御殿まで)お送りして、早く帰ろうと思っているのに、(親王は)お酒を下さったり、ご褒美を下さろうとしたりして、(翁を)お帰しにならなかった。この右馬寮の長官は、気が気でなくて、

 

ア 枕(にしよう)として草を引き結んで旅寝をすることも、いたしますまい。秋の夜のように(夜長)をあてにできないのに、(今は春の短夜で、ましてあてにできない)。

 

と(歌を)よんだ。時は三月の末であった。親王は、お休みにならないで(翁を傍らにしたまま)夜明かしなさってしまった。

 

(2)こうして参上し、お仕え申していたのに、思いがけなく、(親王は)出家なさってしまった。正月に拝顔申し上げようとして、小野に参上したが、比叡山のふもとであるから、雪がたいそう高く積もっている。無理にご庵室に参上して拝顔申し上げると、所在なげで、たいそうもの悲しいありさまでいらっしゃったので、(翁は予定より)少し長い間おそばに伺候して、昔のことなどを思い出してお話し申し上げた。(翁は)このままおそばにお仕えしていたいと思うけれども、宮中での公の行事などもあったので、お仕えすることができなくて、夕暮れに(京へ)帰るということで、

 

イ 現実をふと忘れては夢ではないかと思う。雪を踏み分けてわが君にお会いしようとはおもわなかった。

 

と歌をよんで、泣く泣く(京に)帰って来た。   

 

 

構成

 

(1)

 

 

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

 

三月末

水無瀬

 

 

 

 

 

 一月

 小野

 大雪

 

 

 

 

時 場所

 

 お供する     →

 

 

 歌ア 暇乞い   →

 

 

 

 訪問 慰める   →

 歌イ こんなところにいるなんて

 

 

 

 

右馬頭

 

 出家前

狩りに行く

 宮殿に帰る

← 帰さない

 

←帰さない 寝ずに明かす

 

 出家後

 所在ない 悲しい

 

 

 

 

 

惟喬の親王

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 仕えていた親王が出家しても、変わらぬ誠意で慰める翁の情

 

(8)小野の雪  八十三段  解答

 

登場人物  惟喬の親王 右馬頭なる翁

一 1 みなせ 2 これたかのみこ 3 かみ 4 おおみき 5 ろく 6 やよい 7 おおとのごも 

  8 みぐし 9むつき 10 たてまつ 11 みむろ

二 1 何日か。 2 早く。 3 当座の褒美。 4 待ち遠しく思う。 5 三月。 6 月末。

  7 一月。 8 拝顔する。 9 宮中で行われる儀式や節会など。公事。

三 1 おはします 2 「うまの頭」の自宅へ。「うまの頭」を自宅へ。 3 うまの頭を自宅へ。 

4 夜の長さ。弥生。

5 (1)今は春なので、秋の夜長とは違うと言うことを示す。

  (2)後半への暗転を効果づける役割。

6 惟喬の親王がやがて天皇になられること。「思ひきや」」

7 親王。

四 1 え 副 候は動候ふハ四未 で接助打 え+打=不可能 お仕えすることができなくて