語釈
むかし、男ありけり。宮仕へいそがしく、心もまめならざりけるほどの家刀自、まめに思はむといふ人につきて、@人の国へ1いにけり。1この男、A宇佐の使ひにていきけるに、ある国の2B祇承の官人の妻にてなむあると聞きて、「女あるじにかはらけとらせよ。2さらずは飲まじ。」といひければ、3かはらけとりていだしたりけるに、さかんありける4橘をとりて、
五月待つ花たちばなの香をかげばむかしの人の袖の香ぞする
といひけるに5思ひいでて、6尼になりて山に入りてぞありける。
(注)@人の国 都を離れた地方。A宇佐の使ひ 宇佐八幡宮(大分県)への使者。B祇承の官人 勅使接待など雑事を承る地方官。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 宮仕え 2 家刀自 3 宇佐の使ひ 4 祇承 5 橘
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 宮仕え
2 まめ
3 家刀自
4 かはらけ
5 さかな
三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜6の問いに答えよ。
登場人物
1 誰のことか。
2 誰のことか。
3 主語を記せ。
4 主語を記せ。
5 誰が何を思い出したのか。
6 女の気持を記せ。
四 二重線部1・2の文法問題に答えよ。
1 活用の種類 基本形 活用形
2 品詞分解・口語訳
五 口語訳
むかし、男がいた。宮仕えのつとめが忙しくて誠実に対応することを怠っていたとき、主婦が、誠実
に愛そうという男について地方に立って行った。この男が、宇佐の使いになって行った時、(途中の)ある国
の接待の役人の妻になっていると聞いて、「主婦に酒杯を持たせよ。そうでなくては飲まない。」と言ったので
酒杯をとって差し出したところ、つまみに出ていた橘を取って、
五月を待って咲く橘の花の香をかぐと昔(親しくした人)の人の袖の香りがする
と言ったので、(女は)昔の夫だと思いだして、尼になって山にこもってしまった。
構成
京 地方 役人の家 |
時・場所 |
仕事中心 女にかまわない 宇佐の使いで泊る 「妻に杯を取らせろ。」 → 歌 橘の香=昔の女の香 → |
前の男 |
後の男について行く 後の男=接待役人 ←酌をする 肴=橘 本の男と分かる 尼になる |
女 |
主題 夫婦のいたわしい再会
(7) 花橘 第六十段 解答
登場人物 男 女 まめに思はんといふ男
一 1 みやづか 2 いえとうじ 3 うさのつかい 4 しぞう 5 たちばな
二 1 宮中に仕える 2 誠実だ 3 主婦 4 酒杯 5 つまみ
三 1 前の男 2 後の男 3 女 4 前の男 5 相手が前の夫であること
6 自分の行為を恥じて出家した
四1 動ナ変いぬ用
2 さら 動ラ変さり未 ず助どう消ず用 は係所 飲ま 動ま四飲む未 じ 助動消意じ止
そうでないならば飲むまい