(3)かぐや姫の嘆き

 

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語釈

 

(1)1八月十五日ばかりの月に@1出でゐて、かぐや姫いといたく泣きたまふ。人目も2はつつみたまは

 

ず泣きたまふ。これを2て、親どもも「何事ぞ。」と問ひさわぐ。

 

(2)かぐや姫泣く泣く言ふ、「先々も申さむと思ひしかども、必ず3心惑はしたまはむものぞと思ひて、今ま

 

で過ごしはべりつるなり。A4のみやはとて、5うち出ではべりぬるぞ。6おのが身はこの国の人にもあら

 

ず。月の都の人なり。それを、B昔の契りありけるによりなむ、この世界にはまうで来たりける。今は帰るべ

 

きになりにければ、この月の十五日に、7かのもとの国より、迎へに人々まうで来むず。Cさらずまかりぬべ

 

ければ、8おぼし嘆かむが悲しきことを、この春より思ひ嘆きはべるなり。」と言ひて、いみじく泣くを、翁、

 

9「こは、Dなでふことのたまふぞ。竹の中より見つけきこえたりしかど、菜種の大きさおはせしを、わが丈

 

立ち並ぶまで養ひたてまつりたるわが子を、何人か迎へきこえむ。Eまさに許さむや。」と言ひて、「F我こそ

 

死なめ。」とて、泣きののしること、いと堪へがたげなり。

 

(3)かぐや姫のいはく、「月の都の人にて、父母あり。10片時の間とて、11かの国よりまうで来しかども、

 

かくこの国にはあまたの年を4ぬるになむありける。かの国の父母のこともおぼえず、12ここには、かく

 

久しく遊びきこえて、ならひたてまつれり。G13いみじからむ心地もせず。悲しくのみある。されど、Hお

 

のが心ならず、まかりなむとする。」と言ひて、もろともにいみじう泣く。

 

(4)使はるる人々も、年ごろならひて、14立ち別れなむことを、心ばへなどあてやかにうつくしかりつる

 

ことを見ならひて、I恋しからむことの堪へがたく、湯水飲まれず、同じ心に嘆かしがりけり。

 

(注)@出でゐて 縁側に出て座って。 Aさのみやは そんない黙ってばかりいられようか。B昔の契り 前世からの宿命。Cさらずまかりぬべければ やむをえずおいとましなければなりません。Dなでふ 「なんでふ」の「ん」が表記されない形。Eまさに許さむや どうしてゆるそうか、いや許しはしない。F我こそ死なめ わたしのほうこそ死んでしまいたい。Gいみじからむ心地もせず (月の都へ帰るのは)うれしい気持ちもしません。Hおのが心ならず 自分の意志からではなく。I恋しからむ (別れてしまったらどんなに)恋しかろう。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

  1 出で 2 惑はし 3 契り 4 翁 5 菜種 6 堪へがたげ 7 片時 8 経ぬる

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

  1 契り

 

  2 なでふ

 

  3 丈

 

  4 ののしる

 

  5 片時

 

  6 ならふ

 

  7 もろともに

 

  8 心ばへ

 

  9 あてやかなり

 

  10 うつくし

 

三 登場人物を抜き出せ。また、かぐや姫が人間界にやってきた理由を述べている箇所を抜き出し、同じ考えで帰る理由を述べている箇所を抜き出せ。傍線部1〜14の問いに答えよ。

 

  1 8月15日の月とどう違うか。

 

  2 それ以前とのどのような違いを強調しているか。

 

  3 主語を記せ。

 

  4 指示内容を記せ。

 

  5 どのようなことを意味しているか。

 

  6 誰のことか。

 

  7 どこか。

 

  8 主語を記せ。

 

  9 「 」の中から、恩に着せてもかぐや姫を引き留めたいという気持ちから誇張して比喩表現を用いて表されている個所を抜き出せ。

 

  10 (1)月の都の「片時の間」はこの国の何に当たるか抜き出せ。

     

(2)この二か所の時間はどういう関係にあるか。

 

  11 同じことを表す語を抜き出せ。

 

  12 指示内容を記せ。

 

  13 翁夫婦に対するかぐや姫のどのような気持ちを表しているか。

 

四 二重傍線部1〜4の文法問題に答えよ。

 

  1 活用の種類 基本形 活用形

 

  2 活用の種類 基本形 活用形

 

  3 活用の種類 基本形 活用形

 

  4 活用の種類 基本形 活用形

 

五 口語訳

 

(1)  八月十五日近くの月の夜に(縁側に)出て座って、かぐや姫はとてもひどくお泣きになる。(前には人に隠れて泣いていたが、)今はもう人目もお構いにならずお泣きになる。これを見て、親(である翁)たちも「どうしたのですか。」と尋ねて騒ぐ。

 

(2)かぐや姫が泣く泣く言うには、「前々から申し上げようと思っておりましたが、(お耳に入れると)きっと心をお乱しなさることであろうよと思って、今まで(言わずに)過ごしていたのです。(しかし)そんなに黙ってばかりいられようかと思って、打ち明けてしまうのですよ。私の身はこの人間世界の人でもありません。月の都の人です。それなのに、前世からの宿命があったことにより、この人間世界へは参上したのでした。今は(月の都へ)帰らねばならないときになってしまったので、今月の十五日に、あの以前いた月の都から、迎えに人々が参上するでしょう。やむを得ずおいとましなければなりませんので、(あなた方が)お嘆きになるということが悲しいことと、この春以来思い嘆いているのです。」と言って、ひどく泣くのを(見て)、翁は、「これは、何ということをおっしゃるのか。竹の中から見つけてさしあげたけれど、けし粒ほどの大きさがおありだったあなたを、私の身の丈と同じ高さになるまでにご養育申し上げた私の子を、だれがお迎え申し上げようか、いや、お迎え申し上げまい。どうして許そうか、いや、許しはしない。」と言って、「(そんなことになったら)私のほうこそ死んでしまいたい。」と嘆いて、泣き騒ぐさまは、全くこらえかねる様子である。

 

 

(3) かぐや姫が言うには、「父母は月の都の人です。わずかの間ということで、あの月の都から(この人間世界へ)やって参りましたが、このようにこの国では多くの年を経てしまったのでしたよ。あの月の世界の父母のことも覚えておらず、この人間世界では、このように長い間楽しく過ごさせていただいて、慣れ親しみ申し上げています。(ですから月の都へ帰るのは)うれしいような気持ちもいたしません。悲しいだけですわ。でも、自分の意志からではなく、おいとましようとしているのですよ。」と言って、翁たちと一緒にひどく泣く。

 

(4)使用人たちも、長年の間慣れ親しんで、(ここで)お別れしてしまうようなことを、(かぐや姫が)気だてなどが上品で愛らしかったことを見慣れているので、(別れてしまったらどんなに)恋しかろう(と思うとその)ことが堪えがたく、湯水も飲めないで、(翁夫婦と)同じ気持ちで嘆き悲しんだ。

 

構成

 

(1)

 

(2)

 

 

 

(3)

 

 

 

(4)

 

8月15日近く

 

8月15日

 

 

 

 

 

 

 

時 場所

 

泣く 嘆きは深くなる   →

 

告白           →

「私は月の都の人。来た理由=宿縁。月の都から迎えに来る。」 

 

月の都に父母がいる。「自分の意志でなく帰る。」 生みの親

わずかの時間

 

気立てが上品

愛らしい

 

かぐや姫

 

←翁おうなも心配して尋ねる

 

 

この国の人

 「育てた娘を手放さない。」

 

 

 育ての親

 多くの年月

 

親しんだ親 帰る理由=心からではない

使用人たち 和Kれを惜しむ

翁 おうな

 

 

主題 かぐや姫の運命に逆らえない別れの悲しみ

 

 

 

 

(3)かぐや姫の嘆き  解答

 

 

一 1 い 2 まど 3 ちぎ 4 おきな 5 なたね 6 た 7 かたとき 8 へ

 

二 1 宿縁 因縁 2 何々という 3 身長 4 大声を上げる 5 わずかの時間

 

 6 慣れ親しむ 7 いっしょに 8 性質 9 気品のあるさま 10 かわいらしい

 

三 登場人物 かぐや姫 親ども 人々 翁 

 

 1 8月15日が近づいたころ 2 前は「人目」を「つつみ」人知れず泣いている 3 翁たち

 

 4 必ず心惑はしたまふものぞと思ひて今まで過ごしはべりつるなり

 

5 泣く理由を告白すること 6 かぐや姫 7 月の都 

 

8 おぼし嘆か 翁夫婦 思ひ嘆き かぐや姫 9 菜種の大きさ 

 

10 (1)あまたの年 (2)月の都の時間はこの国より早く過ぎる

 

11 月の都 もとの国 12この国 13 月に帰るのが辛く悲しい

 

14 同じ心に嘆かしがりけり

 

四 1 動ワ上一ゐる用 2 動上一見る用 3 動ナ変死ぬ未 4 動ハ下二経用