(5)立石寺
語釈
山形領に@立石といふ山寺あり。A慈覚太子の開基にして、ことに清閑の地なり。一見すべきよ
し、人々の1勧むるによりて、B尾花沢よりとって返し、1その間七里ばかりなり。日いまだ暮れ
ず。ふもとのC坊に宿借りおきて、山上の堂に登る。岩に巌を重ねて山とし、D松柏年り、
なめらかに、岩上の院々とびらを閉じて者の音聞こえず。2E岸をめぐり岩をはひて
仏閣を拝し、佳景F寂寞として心澄みゆくのみ2おぼゆ。
閑かさや岩にしみ入る蝉の声
(注)@立石寺 山形市山寺にある天台宗宝珠山立石寺。今は「りっしゃくじ」という。俗称「山寺」。A慈覚大師 (794〜864)法名、円仁。最澄の弟子。第三代天台 座主。遣唐使に従って中国に渡った。B尾花沢 現在の山形県尾花沢市。C坊 宿坊。参詣人を宿泊させるための施設。D松柏 松やひのきの類。E岸 がけ。F寂寞 しんと静まりかえっている様子。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 立石寺 2 慈覚大師 3 開基 4 清閑 5 尾花沢
6 松柏 7 苔 8 仏閣 9 寂寞
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 清閑
三 傍線部1・2の問いに答えよ。
1 どことどこの間か。
2 主語を記せ。
四 二重線部1、2の文法問題に答えよ。
1、2 品詞名 基本形 活用形 活用の種類
五 口語訳 山形領に立石寺という山寺がある。慈覚大師の開基で、とりわけ静かな地である。一見するのがよいと人々が勧めるので、尾花沢から引き返し、その間は七里ばかりだ。日はまだ暮れない。ふもとの坊に宿を借りておいて、山上の堂に登る。岩に大きな岩を重ねて山にしたようで、松や檜の類は年を経て、土石は古くなって苔が滑らかで、岩上の建物は扉を閉じて者の音も聞こえない。がけをめぐり岩をはって仏閣を拝み、素晴らしい景色は静まりかえって心は澄んでいくように思われる。
あたりは静かで蝉の声も岩にしみいるようだ。
構成
立石寺 慈覚大師の開基 人の勧めで行く。岩をはって登る。
閑かさや岩にしみ入る蝉の声
閑かさや
○あたりの静かさ
蝉の声
季語 蝉 季節 夏 修辞法=や 切れ字
(推敲) 閑かさや岩にしみつく蝉の声
↓
閑かさや岩にしみこむ蝉の声
↓
閑かさや岩にしみ入る蝉の声
(5)立石寺 解答
一 1 りゅうしゃくじ 2 じかくたいし 3 かいき 4 せいかん 5 おばなざわ
6 しょうはく 7 こけ 8 ぶっかく 9じゃくまく
二 1 世の中のごたごたを離れて静かなこと。
三 1 尾花沢と立石寺の間。2 芭蕉と曾良
四 1 動勧む体マ下二 2 動おぼゆ止ワ下二