(4)
平泉
語釈
三代の栄耀1A一睡のうちにして、2大門の跡は一里こなたにあり。B秀衡が跡は田野にな
りて、C金鶏山のみ形を残す。まづ、D高館に登れば、北上川E南部より流るる大河1なり。
衣川は、F和泉が城をめぐりて、3高館の下に大河に落ち入る。G泰衡らが旧跡は、衣が関を
隔てて、南部口をさし固め、夷を防ぐと見えたり。さても4H義臣すぐって5この城にこもり、
6I功名一時の草むらとなる。「7国敗れて山河あり、城春にして草青みたり。」と、笠うち
敷きて、時のうつるまで涙を落としはべり2ぬ。
A 夏草や8つはものどもが9夢の跡
B 10卯の花にJ兼房見ゆる白髪かな
かねて耳驚かしたる11K二堂開帳す。経堂は12L三将の像を残し、光堂は13三代の棺を
納め、14三尊の仏を安置す。15七宝散りうせて珠の屏風に破れ、金の柱霜雪に朽ちて、す
でに頽廃空虚の草むらとなるべきを、16M四面新たに囲みて、瓦をおおうて風雨をしのぐ。
17しばらく18千年の記念とはなれり。
C 19さみだれのふりのこしてや光堂
(注)@三代の栄耀 藤原清衡・基衡・秀衡三代の栄華。A一睡 黄梁一炊の夢の故事。はかなく消えはての意。B秀衡が跡 平泉館の中心をなす伽羅御所。C金鶏山 平泉館の西、秀衡が平泉鎮護のため雌雄の黄金の鶏を埋め、富士山に擬して築いた山。D高館 源義経の居館だった所。E南部 南部地方。F和泉が城 和泉三郎忠秀衡の居館だった所。G泰衡 秀衡の次。源頼朝の命により、義経を殺し、自らも殺された。H義臣 弁慶・兼房ら義経に殉じた家臣。I功名一時の草むらとなる 功名を立てたが、一時のものではかなく消えた。J兼房 義経の忠臣、白髪を振り乱して奮戦した。K二堂 経堂と光堂。L三将の像 実際は文殊菩薩等の三像。M四面新たに囲みて 鎌倉時代、光堂をおおう鞘堂が作られ、その後江戸時代にも修復された。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 栄耀 2 一睡 3 秀衡 4 高館 5 泰衡 6 夷 7 功名
8 笠 9 白髪 10 卯の花
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 夷
2 さても
3 しのぐ
三 傍線部1〜19の問いに答えよ。
1 (1)中国の故事をふまえているが、なにか。
(2)どういうことを例えているか。
2 往年の平泉の規模の大きさを思いやったものである。恩字嫗思いをした一文を抜き出せ。
3、7、8 それぞれ対比される形で書かれている語句を抜き出せ。
4 誰か。
5 指示内容を記せ。
6 相対立する語句を抜き出せ。
9 何の夢か、二字の熟語で抜き出せ。
10 修辞法を記せ。
11、12、13、14、15、16、18 数詞を多用しているにはどういう目的によるものか。
17 「しばらく」と断っている気持ちを記せ。
19 修辞法を記せ。
四 二重線部1、2の文法問題に答えよ。
1、2 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
五 口語訳
藤原三代の栄華も一睡の夢と消え去り、大門のあとは一里ほど手前にある。秀衡の館の跡は田や野となって、金鶏山だけ残っている。ます高館に登ると、北上川は南部から流れる大河である。衣川は和泉が城を回って流れ、高館の下で大河に流れ込む。康衡等の旧跡は衣が関を隔てて南部口を警備し、蝦夷を防いだと思われる。それにしても、忠臣たちを選りすぐってこの城にこもり、その功名も一時の夢と消え草原となっている。「国破れて、山河あり、城春にして草青みたり。」と笠を敷いて、時がたつまで涙を落としました。
夏草が生い茂っている。そこでは兵士が功名を夢見て戦った。
卯の花が咲いている。奮戦した兼房の白髪が思われる。
前からすばらしいと聞いていた、二堂が開帳した。経堂は三将の雑が残っており、光堂には」三代の柩を納め、三尊の仏を安置してある。七宝は散り失せて、たまの扉は風にやぶれ、金の柱霜雪に朽ちて、既に退廃空虚の叢となるはずのところ、四面を新たに囲んで、甍を覆って風雨をしのいでいる。しばらく、千年をしのぶ記念となっている。
五月雨も、光堂を残して降っている。
構成
平泉 金鶏山 高館 北上川 衣川
A 夏草
○世の無常
戦場
季語 夏草 季節 夏
B 卯の花
○白髪の兼房の奮戦
兼房
季語 卯の花 季節 夏
C 五月雨
○荘厳な光堂
光堂
季語 五月雨 季節 夏
(4)平泉 解答
一1 えいよう 2 いっすい 3 ひでひら 4 たかだち 5 やすひら 6 えびす
7 こうみょう 8 かさ 9 しらが 10 うのはな
二 1 未開の異民族。 2 それにしても。 3 耐え忍ぶ。
三 1 (1)邯鄲の夢 (2)短くはかないこと。
2 「泰衡らが旧跡は、衣が関を隔てて、南部口をさし固め、夷を防ぐと見えたり。」
3 北上川 7 山河あり 8 夏草 4 弁慶、兼房ら。 5 高館。
6 しばらく千年の記念とはなれり。9 栄枯 功名。 10 倒置法。
11、12、13、14,15、16、18 荘重厳粛な感じを出す。
19 擬人法。
四 1 助動なり止断 2 助動ぬ止完