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語釈
月日は@百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人1なり。舟の上に生涯を浮かべ、馬の口
とらへて老いを2迎ふる者は、1日々旅にして、旅をすみかとす。A古人2も多く旅に死せる
あり予3も、いづれの年よりか、片雲の風に誘はれて、漂泊の思ひやまず、B海浜にさすら
へ、去年の秋、C江上の破屋に蜘蛛の古巣を払ひて、やや年も暮れ、4春立てる霞の空に
5D白河の関越えんと、Eそぞろ神のものにつきて心を狂はせ、F道祖神の招きにあひて取
るもの手につかず、6ももひきの破れをつづり、笠の緒つけかへて、G三里に灸据うるより、
7H松島の月まづ心にかかりて、8住める方はI人に譲りJ、杉風がK別墅に移るに、
草の戸9も住み替はる代ぞ雛の家
L表八句を庵の柱に掛け置く。
(注)@百代の過客
永遠に歩みをやめない旅人。李白の「春夜宴桃李園序」に「夫天地
者万物之逆旅、光陰者百代之過客。」とある。A古人 芭蕉が敬慕していた、唐の李白・
杜甫、わが国の西行・宗 らをさす。B海浜にさすらへ 芭蕉は一六八七年十月から翌年
四月にかけての『笈の小文』の旅で、鳴海・須磨・明石などの海岸を歩いた。C江上の破
屋 隅田川のほとりのあばら屋。江戸深川(今の東京都江東区深川)の芭蕉庵。前年八月
末に芭蕉は『笈の小文』『更級紀行』の旅を終えて帰着した。D白河の関 今の福島県白
河市旗宿にあった関所の跡で、著名な歌枕。Eそぞろ神 人の心を誘惑して落ち着きをな
くさせる神のことか。F道祖神 道路や旅の安全を守る神。G三里 ひざがしらの下の外
側のくぼみ。ここに灸を据えると健脚になるという。H今の宮城県にある景勝地。I人
この「人」には妻と幼い子供があったという。J杉風 杉山杉風。蕉門十哲の一人。K別
墅 別宅。芭蕉庵の近くにあった採荼庵をさす。L表八句 四枚の懐紙に百韻の連句を書
くとき、第一紙表に書く八句。ここでは、「草の戸」もの句を発句にしてよんだ八句。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 百代の過客 2 海浜
3 去年
4 蜘蛛
5 灸
6 据うる 7 杉風
8 別墅
9 雛 10 庵
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 過客
2 やや
3 つく
三 傍線部1〜8とAの問いに答えよ。
1 具体的にどういう人か。
2、3、9なそれぞれ何に対して「も」か。
4 どこにかかっていくか、二通りの考えを述べよ。
5、7 旅の目的地として掲げているのはどういう理由からか。
6 ここに表現されている事は何か。
8 指示内容を記せ。
A 「草の戸」の句の季語と季節を記せ。
四 二重線部1、2の文法問題に答えよ。
1 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
2 品詞名 基本形 活用形 活用の種類
修辞法の問題
次の修辞法は何か
@ 船―浮かべ
A 誘われて
B 立てり
C 月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり
D 船の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる
E そぞろ神のものにつきて心を狂はせ、道祖神の招きにあひて取るもの手につかず
F 股引の破れをつづり、傘の緒つけかへて
G 月―かかり
五 口語訳
月日は永遠の旅人であって、来ては去り去っては来る年もまた、旅人である。船の上で一生を過ごし、馬の轡を取って老年を迎える者たちは、毎日が旅であって、旅を住居としている。風雅の先人たちも旅の途中で亡くなった人がたくさんいる。自分もいつの年からか、いっぺんのちぎれ雲が風に誘われて漂うように、あてどない旅に出たい気持ちがやまず、海辺をさまよい歩いて、昨年の秋、隅田川のほとりのあばらやに、蜘蛛の古巣を取り払い、次第に年も暮れ、立春になって霞の田ち込める空に、白河の関を越えようと、そぞろ神が取りついて心をくるおしくさせ、道祖神が旅に招いているようで、何も手につかなくなり股引の破れを繕い、道中笠の紐を付け替えて、三里に灸を据えるともう、松島の月がまず第一に気にかかって、住んでいた家は人に譲り、杉風の別荘に移るに際して、
住みなれてきた草庵も主のすみかわる時節がやってきた。節句には華やかに雛を飾ることになることだ。
表ハ地句を庵の柱にかけておく。
構成
旅=人生 旅への憧憬 古人への思慕 前途に対する覚悟 江戸 芭蕉庵
旅に出る覚悟・準備
草の戸も住み替わる代ぞ雛の家
草の戸=世捨て人
○住む人がかわる感がい
雛の家=俗人
気語=雛 季節=春 修辞法=ぞ切れ字
文学史
成立 日記
内容 芭蕉は、1689年三月門人曽良を伴って江戸を出発、奥州・北陸をまわ九月大垣についた。
六カ月にわたり、行程2400キロの旅をした。この記が『奥の細道』である。
芭蕉は、伊賀上野の人で、藤堂家に仕えた下級武士である。北村季吟から貞門俳諧を学び、 江戸に出て俳諧の宗匠として身を立てた。
(1) 序章 解答
一 1 はくたい かかく 2 かいひん 3 こぞ 4 くも 5 きゅう 6 す
7 さんぷう 8 べっしょ 9 ひな 10 いおり
二 1 旅人。 2 だんだん。 3 のりうつる。
三 1 船頭 馬子 馬方 2 船頭、馬方に対して 3 古人に対して。
9 全ての物に対して
4 掛け言葉 立てる 春立てる(春になる)立てる霞(霞が立つ)
5 7 歌枕を訪ね古人に触れる。 6 旅の準備。 8 「江上の破屋」
A 雛 春
四 1 助動なり止断 2 動迎ふ体ハ下二
修辞法 @縁語 AB掛詞 CDEF対句 G縁語