土佐日記

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語釈

帰京    

 

 (1) 京に入り立ちて1うれし。家に至りて、門に入るに月明ければ、いとよくありさま見ゆ。聞きしよりも

 

まして、いふかひなくぞこぼれ破れたる。2家にA預けたりつる人の心も、荒れたるなりけり。「1中垣こそあれ

 

一つ家のやうなれば、B望みて預かれるなり。」、「さるは、たよりごとに、3ものも絶えず4得させたり。」「今宵、

 

かかること。」と、声高に6ものも言はせず。いとはつらく見ゆれど、こころざしはせむとす。

 

(2)さて、7池めいてくぼまり、水つけるところあり。ほとりに松もありき。8五年六年のうちに、千年や過

 

ぎにけむ、かたへはなくなりにけり。今生ひたるぞ混じれる。おほかたの、みな荒れにたれば、「あはれ。」とぞ

 

人々言ふ。思ひい でぬことなく、思ひ恋しきがうちこの家にて生まれし女児のもろともに帰らねば、いかで恋し

 

き。

C船人もみな、子たかりてののしる。かかるうちに、なほ悲しきに堪へずして、ひそかに心知れ2人と言へ3

 

ける歌、

 

生まれしも帰らぬ4ものをわが宿に9小松のあるを見るが悲しさ

 

よぞ言へる。なほ飽かずやあらむ、またかくなむ、

 

D見し人の松の千年に見5ましかば遠く悲しき別れせまし

 

忘れがたく、くちをしきこと多かれど、6え尽くさず。とまれかうまれ、10とく破りてむ

 

(注) @ 京に入りたちて 一月三十日に和泉の国に着き、淀川を上って、二月十六日の夜、京へ入った。 A 預けたりつる人の心も 家に預けておいた人の心も。「家に」の「に」には、これを「を」に通ずる用法と解するなど、諸説がある。B望みて預かれるなり 先方から望んで預かっているのだ。 C 船人 同じ船で一緒に帰京した人 D 見し人ここは、亡き亡児のこと。

 

一 次の1〜11 の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1  月明ければ   2 中垣  3 得させ  4 今宵  5 声高 6 五年六年  7 千年  8 船人

 

9  堪へず   10  飽かず  11  破りてむ

 

二 1〜9 の語の意味を辞書で調べよ。

 

いふかひなし

 

こぼる

 

さるは

 

つらし

 

こころざし

 

かたへ

 

いかが

 

たかる

 

 9ののしる

三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜8の問いに答えよ。

 

登場人物

 

1  誰がこう思っているか。どんな感慨がこめられているか。

 

「人の心も」とあるが、他に何が「荒れたるなりけり」か。

 

  具体的に何か。

 

4 どんな人に「得させたり」というのか。

 

 指示内容を文中から抜き出せ。

 

6  誰が誰にどんなことを言わせないのか。

 

9(1)先に何と書いてあったか。

 

(2)何を暗示しているか、文中から抜き出せ。

 

(3)「小松」は「悲しさ」を呼び起こす契機となっているが、この「悲しさ」を更につのらせる光景を、文中から十五字で抜き出せ。

 

10  作者のどういう気持ちが表れているか。

 

 

1 品詞分解し、口語訳せよ。

 

2・3 基本形・活用形・文法的意味を記せ。

 

4 品詞名・文法的意味を記せ。

 

5 品詞名・文法的意味を記せ。

 

6 品詞分解し、口語訳せよ。

 

五 2・7・8の表現上の特色を説明せよ。

  2

 

  7

 

  8

 

構成

 

(1)

 

 

(2)

 

 

 

1月十六日 京

 

 

 

 

 

時 場所

 

京に着く 喜び 留守宅=荒廃 預かり主=不誠実・無責任 

紀貫之=自制心・配慮 

 

池の端=荒れる

歌二首=小松に託して亡児を思う 悲しみ

 

事件

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 帰京児の感慨と亡児追憶

 

六 口語訳

(1)京に入り込んでいくのでうれしい。家について、門に入ると、月が明るいので、たいそうよく様子が見える。聞いていたよりもいっそう、言っても仕方がないほど壊れいたんでいる。(家だけでなく)預けておいた(留守番の)人の心もすさんでいるのだった。「(隔ての)中垣はあるけれど、一つの家のようだから(先方が)望んで(この家を)預かったのだ。。」「そうはいうものの、便りのあるごとに、贈り物も絶えずあげているのだ。」「今夜(帰ってみると)こんな有様だ。」と、大声で言わせない。たいそう不人情に見えるけれど、贈り物はしようと思う。

(2)さて池みたいにくぼんで水に浸っているところがある。そばに松もあった。五年か六年の間に、千年も過ぎたのだろうか。一部分はなくなっていた、(そこに)今生えたものが混じっている。大体がすっかり荒れているので、「ひどい。」と人々が言う。思い出さないことはなく、恋しくおもわせる中でもこの家で生まれた音何の子が帰らないので、どんなに悲しいことか。同じ船で帰京した人々も皆、子供が群がり集まって大騒ぎしている。こうしているうちにやはり悲しさに堪えられなくて、そっと気持ちの通じている人と詠み会った歌、

  (この家で)生まれた子さえ帰らないというのに私の家の庭に小松が(生えて)いるのを見るのが悲しいことだ。

 と詠んだ。それでもやはり、詠みたりないのかまたこう(詠んだ)

  亡き女児が松のように先年の齢を保っていたら(土佐で)遠く悲しい別れをしただろうか(いやしなかったQ)。

 忘れがたく心残りなことは多いけれど、(書き)尽くすことができない。何はともあれ、早く破ってしまおう。

 

解答

 

一 1 つきあか  2 なかがき   3 え  4 こよい  5 こわだか 6 いつとせむとせ  

  7 ちとせ  8 ふなびと  9 た  10 あ  11 や

 

二 1 言っても仕方が  2 こわれる  3 そうはいうものの  4 不人情だ  5 気持ちをあらわすために贈り物をすること   6 一部分  7 どんなにか   8 群がり集まる  9 大騒ぎする

 

三 登場人物 家に預けたる人 人々 女児 子 心知れる人 見し人

  1 執筆上の架空の女性 無事帰京した安堵と喜び  2 家 3 贈り物 4 家に預けたりつる人 

  5 いふかひなくぞこぼれ破れたる 6 紀貫之が家来に隣家の悪口を 7 (1)今生ひたる (2)この家にて生まれし女児 (3)「船人もみな、子たかりてののしる  10 こういうつまらない文章は破ってしまおう(謙遜の気持ち 擬装)

 

四 1 中垣 名 こそ 係助 あり 動ラ変あり已 こそ+あれ、(中止)=逆説 2 り 助動 完 体

 3 り 助動完用 4 接助 逆接確定 5 反仮

  6 え 副 動サ四尽くす未 ず 助動打 終止形 え+打消=不可能

五 2 滑稽 家と借りた人の心がすさんでいた。借りた人への皮肉 7 滑稽 池みたいにくぼみ水がたまっている。庭の池を謙遜した 8滑稽 松は千年というが五六年で枯れた。借りた人への皮肉