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(2)山僧児を具して竹生島へ参り老僧の水練を見る事 巻第十六(興言利口第廿五)

語釈

                                                                             1         

(1 )いづれのころのことに、@山僧あまたともひて、児など具して、A竹生島へ参りたりけり。巡礼果

 

てて、は帰りなんとしける時、児ども言ふやう、「この島の僧たちは、B水練を業としてCおもしろきことに

 

侍るなる、Dいかがして見るべき。」と言ひければE、住僧の中へ使ひをやり、2「F小人たちの所望3

 

かく 候ふ。いかが候ふべき。」と言ひやりたりければ、住僧の返事に、「いとやすきことにて候ふを、4さや

 

うのことつかうまつる若者、ただ今、皆Gたがひ候ひて、一人も候はず。返す返す口惜しきことなり。」と言

 

たりければ、力およばで、おのおの5帰りけり。

 

(2) 舟に6乗りH二、三町ばかり漕ぎ出でたりけるほどに、張衣の鮮やかなるに、長絹のI五条の袈裟の

 

ひた新しき懸けたる7老僧、七十あまりもあるらんとゆる一人、脛をかきあげて、海の面をさし歩みて来

 

たるあり。舟をとどめて、不思議のことかなと、J目をすまして見たる所に、近く9歩み寄りふやう、「

 

たじけなく小人たちの御使ひを給ひて候ふ。折ふし若者ども皆たがひ候ひて、御所望むなしくて御帰り候ひぬる、

 

生涯の遺恨候ふよし、老僧の中より申せと候ふなり。」と言ひて帰りにけり。

 

(3) 10これに過ぎたる水練の見物やあるべき。目を驚かしたりけり。〔『古今著聞集』)

 

 (注)@ 山僧 比叡山延暦寺の僧。A竹生島 琵琶湖北部の島。島内に寺社があり、人々の信仰を集めていた。B水練 水泳のこと。Cおもしろきことにはべるなる すばらしい見物であるそうですが。Eいかがして見るべき どのようにして見たらいいのだろう。E住僧 ここでは、竹生島の寺に居住する僧。F小人 幼少の人。少年Gたがひ候ひて 行き違いまして。留守にしておりまして。H二、三町 一町は約109メートル。I五条の袈裟  五枚の布を縫い合わせて作った袈裟。J目をすまして 目を懲らして。

 

一、次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

    1 児      2 具して  3 竹生島  4 巡礼  5 水練を業として   6 侍る  

 

 7 住僧  8 小人   9 所望   10 候ふ 11 漕ぎ出で    12 張衣 

 

13 長絹  14 袈裟 15 脛  

 

二、次の語の意味を辞書で調べよ。()内の数字は行数を表す。

 

    1 あまた(1)

 

    2 具す(1)

 

    3 所望(4)

 

    4 口惜し(7)

 

    5 海(10)

 

    6 かたじけなし(12)

 

    7 折りふし(12)

 

三、登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜10の問いに答えよ。

 

  登場人物

 

      主語を記せ。

    「  」誰の言葉か。

 

      指示内容を記せ。

 

      指示内容を記せ。

 

    5、6   主語を記せ。

 

      老僧が一行を追ってきた理由をたてまえと本音の両面から答えよ。

 

    たてまえ

 

    本音

 

      主語を記せ。

 

      主語を記せ。

 

    10  (1)「これ」の指示内容を記せ。

 

          (2)誰の感想か。

 

四、二重線部1〜5の文法問題に答えよ。

 

  1 品詞分解 口語訳

 

  2 文法的に説明せよ。

 

  3 品詞名      基本形      活用形

 

  4 品詞名      基本形      活用形

 

  5 品詞名    基本形   意味   活用形

 

五 口語訳

(1)1 いつ頃のことであったか、山僧が大勢連れだって、稚児なども伴って、竹生島へ参詣した。巡礼が終わって、今はもう帰ろうとしたとき、稚児達が言うには「この島の僧達は水泳が得意で素晴らしいい見物であるそうですが、どのようにして見たらいいだろう。」と言ったので、(山僧が)住僧のところへ使いをやって「少年達の望はこうです。どうしたらいいだろう。」と言ってやったところ、住僧の返事に「(見せるのは)大変たやすいことですが、(あいにく)そういうことを致す若者が、ちょうど今皆留守にしておりまして、一人もおりません。まことに残念なことだ。」と言ったので、どうしようもなくて各自帰った。

 

(2) 舟に乗って、二三百メートルほどこぎ出したところ、鮮やかな張衣の上に長絹の五条の袈裟の新しいのを(肩に)かけた老僧で、七十歳余りにもなるだろうと見える一人が(裾を)脛の高さにかき上げて、水面を歩いてきた。(山僧の一行は)舟を止めて、不思議なことだなあと目をこらして見ている所に近づき歩き寄って言うには、「恐れ多くも少年達の使いを頂いております。ちょうど今若者達は皆留守にしており、お望みむなしくお帰りになります(ことは)一生の恨みになりますことを老僧の方から申せと言う事です。」と言って帰った。

 

(3) これ以上の水泳の見物はあるだろうか(いやない)。(山僧の一行は)見て驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

構成

 

 

(1)

 

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

 

(3)

 

 

琵琶湖 竹生島

 

 

 

 

二三百メートル

 

 

 

時 場所

 

巡礼 帰り

児「水泳を見たい。」

使い「みせて。」    →

帰る

 

船を漕ぐ 

船を止めて見る     →

 

 

 

 

驚嘆した        →

山僧 児

 

 

 

 

←住僧「得意な若者がいなくて残念。」

 

 七十歳老僧=高齢 

鮮やかな衣服=舞台衣装

←水の上を歩く=見事な技 

←「みせられないお詫びを言えと言われてきたのだ。」

 

 

 

住僧 老僧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 竹生島の老僧の卓越した水泳の術

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)山僧児を具して竹生島へ参り老僧の水練を見る事 巻第十六(興言利口第廿五) 解答

 

一 1 ちご 2 ぐ 3 ちくぶじま 4 じゅんれい 5 すいれんをわざとして 6 は  

7 じゅうそう 8 しょうじん 9しょもう 10 そうろ 11 こ 12 はりぎぬ

13 ちょうけん 14 けさ 15 はぎ

 

二 1 おおぜい  2 伴う  3 望み 4 残念だ  

5 海洋、湖、池など広く水をたたえた所 6 もったいない  7 季節 時

 

三 登場人物 山僧 児 児ども 僧たち 住僧 若者 老僧 しょうじんたち

 

  1 山僧  2 山僧 3 竹生島の僧達のすばらしい水練を見たいと言うこと  

  4 水練  5 山僧の一行  6 山僧の一行  

7 たてまえ 求めに応じられず残念だと伝えるため

  四ね   すばらしい水練を披露するため

8 楼僧  9 老僧  

10 (1)老僧の最高の技術を要する泳法

   (2)山僧の一行 作者