(1) 小式部内侍が大江山の歌の事 巻第五(和歌第六)
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語釈
@1和泉式部、A保昌が妻にて丹後に下りけるほどに、京に歌合ありけるに、B小式部内侍、歌よみにとられてよみけるを、定頼の中納言、たはぶれに小式部内侍に、2「3丹後へつかはしける人は参りにたりや。」と言ひ入れて、局の前を過ぎられけるを、小式部内侍、御簾よりなかば4出でて、直衣の袖を5ひかへて、
D大江山いくのの道の遠ければまだふみもみずE天橋立
掛詞 いく 生野 行く ふみ 文 踏み 縁語 ふみ 橋 体言止め 天橋立
とよみかけけり。思はずにあさましくて、6「こはいかに。」とばかり言ひて、7返しにも及ばず、袖をひきはなちて8逃げられにけり。小式部、これより歌よみの世おぼえ出で来にけり。
(注)@和泉式部 生没年未詳。平安時代中期の歌人。一条天皇の中宮彰子に仕え、後、藤原保晶の妻となった。 A保昌 藤原保晶。958年〜1026年。丹後国(現在の京都府北部)など、諸国の長官を歴任した。武将としても有名である。B小式部内侍 生年未詳〜1025年。歌人。和泉式部とその前夫橘道貞との娘。
D大江山 京都市と亀岡市との境の老ノ坂付近の山。E天橋立 京都府の宮津湾にある、海に長く突き出た砂州。日本三景の一つ。
一次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 和泉式部 2 丹後 3 歌合 4 小式部内侍 5 局 6 御簾 7 直衣 8 天橋立
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 歌合
2 遣はす
3 心もとなし
4 おぼす
5 あさまし
三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜12の問いに答えよ。
登場人物 和泉式部 小式部内侍
1 どの部分にどういう関係で続いているか。
2 「 」は誰の言葉か。また、この言葉を聞いたのは誰でどのように感じたか。
3 「丹後へつかはしける人」とはどんな人か。「参り」はどこへ参りなのか。
4、5 主語を記せ。
6 「 」は誰の言葉か。また、どういう気持ちが分かるか。
7 どういうことか。
8 主語を記せ。
四 二重線部1,2の文法問題に答えよ。
1 活用の種類 基本形 活用形
2 結びの語 基本形 活用形
五 口語訳
和泉式部が、保昌の妻として丹後の国に下ったときに、京で歌合があったが、(その娘)小式部内侍が、歌合のよみ手として選ばれてよむことになったが、定頼の中納言が、からかって小式部内侍が局にいたときに、「丹後へおやりになったという使いは戻って参ったか(母上の和泉式部の助けがなくてお困りでしょう)。」と(局の中へ)声をかけて、局の前を通り過ぎなさったところ、(小式部内侍は)御簾から半分ほど出て、(定頼の着ている)直衣の袖を引き止めて、
大江山・・・大江山、生野という所を通って行く、丹後への道が遠いので、まだ天橋立を訪れたことはございません。(そのように、母のいる丹後は遠いので、まだ便りもございません。)
と(定頼に歌を)よみかけた。(定頼は)思いがけないことであきれて、「これはどういうこと。」とだけ言って、(当然の作法である)返歌することもできず、(引き止められた)袖を振りきってお逃げになってしまった。小式部は、このことにより歌人としての世の評判が出て来たそうだ。
構成
丹後 京 局の前 |
時 場所 |
和泉式部(母・有名な歌人)下る 歌詠み 袖をつかむ「大江山」の歌 → |
小式部内侍(娘) |
←「丹後へやった人はかえったか?」 ←「どういうこと?」 返歌できない。袖を振りきり逃げる |
定頼の中納言 |
主題 小式部内侍の歌人としての出発
小式部内侍が大江山の歌 解答
一 1 いずみしきぶ 2 たんご 3 うたあわせ 4 こしきぶのないし 5つぼね
6 みす 7 のうし 8 あまのはしだて
二 1 左右に分かれた両方から出された歌に勝負をつけること。 2 おやりになる 3 気がかりだ
4 おおもいになる 5 以外であきれる気持ちだ
三 登場人物 和泉式部 小式部内侍 定頼の中納言
1 くだりける 主語述語 2 定頼の中納言 誰 小式部内侍 感じ 使いを出していないのに失礼だ 3 小式部内侍が丹後の和泉式部のもとに送った使者 都へ 4、5 小式部内侍
6 定頼の中納言 小式部内侍の返歌のすばらしさに信じられない気持ち
7 返歌もできない 8 定頼の中納言
文学史
成立 1254年 橘成季編
内容 700話