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(3)絵仏師良秀家の焼けたるを見てよろこぶこと 巻三の六 

語釈                      

(1) これも今は昔、@絵仏師良秀といふありけり。家の隣より火出で来て、風おしおほひてAせめければ、

 

逃げ出でて、大路へ出でにけり。人の書かする仏も1おはしけり。また衣着ぬ妻子なども、さながら内に

 

りけり。1それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。

 

(2) 見れば、すでにわが家に移り、煙・炎ゆりけるまで、おほかた、2向かひのつらに立ち、眺め

 

ければ、「3あさましきこと。」とて、人ども来とぶらひけれど、さわがず。「いかに。」と人言ひければ、向か

 

ひに立ち、家の焼くるを見て、うちうなづきて時々笑ひけり。「Bあはれ、しつるせうとくかな。年

 

ろはわろく書きけるものかな。」と言ふときに、とぶらひに来たる者ども、「こはいかに、6かくては立ち2

 

まへるぞ。7あさましきことかな。もののつき3たまへるか。」と言ひければ、「なんでもののつくべき

 

年ごろ、不動尊の火炎をあし書きけるなり。今見れば、かうこそ燃えけれと、心得つるなり。これこそせう

 

とくよ。8この道を立てて世にあらむには、仏だによく書き4たてまつら、百千の家も出で来なむ。9わた

 

うたちこそ、させる能も5はせねば、ものをも惜しみ6たまへ。」と言ひて、10あざ笑ひてこそ立てりけれ。

 

 11そののちに、良秀がよぢり不動とて、今に人々めで合へり

 

(注)@絵仏師良秀 伝未詳。Aせめければ 火が追ってきたので。Bあはれ、しつるせうとくかな ああたいへんなもうけものでしたなあ。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

  1 絵仏師良秀  2 大路  3 妻子   4 不動尊  5 火炎     

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

  1 衣

  

  2 さながら

 

  3 あさまし

 

  4 とぶらふ

 

  5 わろ

 

  6 あし

 

  7 心得

 

  8 よし

 

  9 めづ

 

三 登場人物を抜き出せ。また、傍線部1〜11の問いに答えよ。

 

  1 どういう性格を語っているか。

 

  2 傍線部1「向かひのつらに立てり」と同じ表現を繰り返している。「立つ」は全何回

    表現されているか。また、その効果を記せ。

  

3 人々は何に対してこう言ったか。

 

  4 「時々」笑ったのはなぜか。

 

5「    」は誰の言葉か。

 

  6 誰のどのような行動を指すか。

 

  7 人々がこういった心理を説明せよ。

  

  8 何の「道」か、漢字三字で抜き出せ。

 

  9 何か、十二字以内で抜き出せ。

 

  10 良秀は人々のどのような態度を「あざ笑」ったのか。

 

  11 にはどのような意味があるか。

 

四 二重線部1〜6の敬語について、その種類、誰を敬うか記せ。

 

  1

  2

  3

  4 

  5 

  6

 

五 口語訳

(1)これも今となっては昔のこと絵仏師良秀というものがいた。隣の家から火災が発生して、風がかぶさるように差し迫ってきたので(良秀は)逃げだして、大通りに出てしまった。(良秀に)書かせている仏も(家の中に)いらっしゃった。また、着物も着ない妻や子供などもそのまま(家の)なかにいた。それも知らずにただ逃げ出したことをよいことにして(大通りの)向かい側にたっていた。

 

(2)見ると(火は)すでに我が家に(燃え)移って煙や炎がくすぶって、大体向かい側に立って眺めていたところ「ひどいことだ。」と言って人々が見舞いにきたが、動揺もしない。「どうしたのですか。」と人が言ったところ(良秀は)向かいにたって家が焼けるの見て、しきりにうなずいて時々笑った。「ああ、たいへんなもうけもの(をしたこと)よ。長年拙く描いてきたものだなあ。と言った時に、見舞いに来ていた者たちが「これはどうしてこうして立っておいでなのか、あきれたことだなあ。怪しげな霊がとりつきなさったか。」と言ったところ「どうして怪しげな霊がとりつくはずがあろうか。長年不動明王の火炎をへたにいてきたことだなあ。今見ると(火というものは)このように燃えるものであったよと悟ったのでこれこそもうけものだ。絵仏師の道を専門として世間を渡るからには仏だけでも上手に描き申し上げたら、百や千の家だってきっとできるだろう。おまえさんたちこそこれといった才能もお持ち合わせにならないのでものを惜しんだりなさるのだ。」と言ってあざ笑ってたっていた。そののちであろうか、良秀のよじり不動とかいって今に至る

まで人々が賞賛し合っている。

 

六 構成

 

*自分の家が焼け、一家で焼け出される。その炎を見て、炎の実態をとらえる。

炎が巻き付くように燃える様をとらえた。この後、炎をねじれるよう書いた。人は異常な体験をすることで真実に遭遇する事ができる。高村光太郎は、空襲に遭い家が焼けるのを見て絵巻物の火炎の描き方が正しいことを理解した

 

*例話 『十訓抄』第六 芥川龍之介『地獄変』

 

絵仏師良秀家の焼けたるを見てよろこぶこと 巻三の六 解答

一 1 えぶっしよしひで 2 おおち 3 めこ 4 ふどうそん 5 かえん

二 1 衣服 2 そのまま 3 3ひどい  7 おどろきあきれる 4 見舞う 5 つたない 6 下手だ 7 理解する 8 上手だ 9ほめる(わろし つたない あし 下手だ よし 上手だ よろし まずまずだ)

三 登場人物 絵仏師良秀 妻子 人ども 人 者ども 

 1 人間関係に無頓着で財物への執着もうすい 2 5回 同じ場所に立ち尽くす

3 良秀の家が焼け出したこと 4 火事を見て火炎を書けるようになったから

5 良秀 6 良秀の、家が焼ける様子を見て笑っている行動 7 良秀焼ける野を見て笑っているから 8 絵仏師 9 とぶらひに来たる者ども 10 芸術家の心を理解できないところ 11 名画は一事に専念する人の技芸による 

四 1 尊敬 仏 2 尊敬 良秀 3 尊敬 良秀 4 謙譲 仏 5 尊敬 見舞いに来た人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1)

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣家の火事

向かい側

 

我が家に延焼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後

 

 

場面

 

逃げる

仏画妻子を置いたまま

立つ

 

←眺める

うなずく 笑う

「もうけた。絵をつたなく書いた。」       →     

          

「霊はつかない。不動尊の火炎を下手に書いた。火は

う燃えるとわかった。仏さえ

上手に書けば百や千の家を

建てることもできる。

人々は才能がないので、物を惜しむのだ。」

 

 

 

 

良秀

 

 

 

 

 

←「大変なことだ。」見舞う

←「どうしたのですか。」

 

 

←「あきれたことだ。霊がついた。」

 

 

 

 

 

 

←「良秀のよじり不動」   

人々