一 リズムで覚える古典文法

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檄 

日本にはもともと文字がなかった。そこに漢字が入ってきた。それを日本人は、中国の人が読むように読み、書くように書いた。真似をすることで文字を身につけた。ここには学ぶことの原点がある。やがて500年ごろ漢籍が大量に入ってきた。そして漢籍を日本語で読む方法を工夫した。さらに漢字一字を仮名一字で書き表すようにした。漢詩の五言と七言のリズムに倣って書くことで五七のリズムを身につけ、和歌を作った。文字を習得すると同時に独自のジャンルも開拓したのだ。

 800年ごろ、仮名を発明し独自の文字で思いを表現した。1000年ころには仮名で『源氏物語』が書かれる。次に仮名に漢字を交え漢字仮名交じり文で表現した。こうして微妙な感情も抽象的な思想も思い通りに表現することができた。1100年には、『今昔物語集』が書かれる。この後、日本語は漢字仮名交じり文で書かれることになる。近代になり森鴎外・夏目漱石が傑作を書く。そして、川端康成・大江健三郎がノーベル文学賞を受賞する。

 枕が長くなったが、500年ごろに開発された五七のリズムを以後1500年にわたって我々は使ってきたということだ。小林秀雄流にいえば、日本人には五七のリズムが体に染みこんでいるのだ。だから標語・川柳・俳句・短歌等を幼児のころからいとも簡単に作り鑑賞することができるのだ。このリズムを使い、リズミカルに古典文法を暗記しようというわけだ。

暗記の方法

 

通例の古典文法のテキストの配列に倣って配置した。記号は次の通りである。

◆ 覚え方 できる限りルビを振った。下にその音数を算用数字で記した。このリズムで覚える。

   解説   覚え方等を説明する。

= 公式  公式は等号を用い、完結させた。

 

動詞

(1)活用形と活用の種類の識別の仕方

 ◆ けいは、けい 

 形は、形  5

 * 活用形を問われた場合、「形」と来たから未然形というように、「ー形」と答える。

   もう一つの活用の種類は、四段活用というように組み合わせる。

(2)活用形

   みぜん  れんよう  しゅうし れんたい  いぜん めいれい 

◆ 未然   連用 、  終始   連体 、  已然  命令    7 7 7

 の順に入れる。以下、活用形は全てこう扱う。

(3)活用表の作成

 ◆ ずーたり、まる時ども 4 6

   下に続く語として、上からこの順に入れる。音数を整えるため「ず」を伸ばす。命令形はないので覚え方には入れず、空欄にする(以下同じ)。

(4)活用の種類

 正格活用(五種類) 以下例語はカ行にする。

   よだん  かみいち かみに  しもいち しもに

 ◆ 四段、  上一   上二、  下一   下二   3 7 7

 * 「ず」につけて見分ける。

   あだん=よだん イ段=かみいちかみに えだん=しもいちしもに 

 ◆ ア段=四段、  イ段=上一 上二、  エ段=下一 下二     5 6 6 6

   るれよはふろく

 ◆ 「る」「れ」「よ」は付録  7

 * 四段・ナ変・ラ変以外の活用の、連体形・已然形・命令形の活用形語尾にそれぞれ付く「る・れ・よ」は付録と考える。

 

 

@四段活用 「書く」

◆ かき、くく、けけ  2 2 2

A上一段活用 「着る」

◆ きき、きるきる、きれきよ  2 4 4

  きにいる ひるみる

◆ 気に入る、昼見る  4 4

* 気に入る(子は)、昼(明るい光の中で素顔を)見る。「夜目遠目笠の内」と対義的な言い回し。「子」は男女にかかわらない。「き、に、い」をそれぞれ「る」にかけると「きる、にる、いる」になる。次は、「ひる、みる」になる。この仮名に漢字をあてて増やす。すると次の上一段活用十六語になる。

 きる にる  にる いる いる     いる     いる    ひきいる    もちい

「着る」「似る・煮る」、「射る・鋳る」(ヤ行)、「居(ゐ)る・率(ゐ)る・率(ひき)ゐる・用(も

 る        ひる  みる  こころ かえり かんが  うしろみ おもんみる

ち)ゐる」(ワ行)、「干る」、「見る・試みる・顧みる・ 鑑みる・後見る・ 惟みる」

 

他に次のような覚え方もある。

  ひいきにみいる

◆贔屓にみいる

B上二段活用 「起く」

◆ ききく、くるくれきよ  3 6

   おゆ くゆ  むくゆはやぎょうのかみに  

◆ 「老ゆ」「悔ゆ」「報ゆ」は、ヤ行の上二  8 7

  うらむはかみに

◆ 「恨む」は上二  7

* 上二段活用で注意する語はこの四語。

C下一段活用 「蹴る」

◆ けけ、けるける、けれけょ  2 4 4

* 下一段活用は「蹴る」一語。

D下二段活用 「受く」

◆ けけく、くるくるけよ  3 6

  うこころうはあぎょうのしもに

◆ 「得」・「心得」・はア行の下二  6 7

  ううすうううはわぎょうのしもに

◆ 「植う」・「据う」・「飢う」はワ行の下二 7 7

 

   う ふ  ぬ

◆ 「得」「経」「寝」 3   

*「うふふ」と上品に笑う。

* 下二段活用で注意する語はア行の二語、ワ行の三語、一音節の三語である。

変格活用(四種類)

  かさならへんかく

◆ カサナラ変格  8

* 「カ」・「サ」・「ナ」・「ラ」をそれぞれ「変格」にかけて、「カ行変格活用」、「サ行変格活用」、「ナ行変格活用」、「ラ行変格活用」にする。

@カ行変格活用 「来」

◆ こきく、くるくれ、こ(よ) 3 6

  かへんは、くいちご

* カ変は、来一語。  4 4

Aサ行変格活用 「す」

◆ せしす、するすれせよ  3 6

* サ変は、「す」「おはす」の二語。  4 7

 

Bナ行変格活用 「死ぬ」

◆ なにぬ、ぬるぬれね  3 5

   しぬいぬなへん

◆ 「死ぬ」・「往ぬ」ナ変  7

* ナ変は、「死ぬ」「往ぬ」の二語。

Cラ行変格活用 「あり」

◆ らり、りる、れれ   2 2 2 

◆ 「あり」・「をり」・「侍り」、「いまそかり」  7 5

* ラ変は、「あり」・「をり」・「侍り」・「いまそかり」の四語。

*BCはそれぞれ類義の語である。

 

形容詞

(1)活用の種類(二種類)

  くかつ しくかつ

◆ ク活・シク活   7

 

 

(2)活用

◆ くくしきけれ          7

  からかり、まるかる、まるかれ  4 4 4

* かり活用のところで改行する。シク活用は、これに終止形を除いてそれぞれ「し」をつける。

 

形容動詞

(1)活用の種類(二種類)

  なりかつよう たりかつよう

◆ ナリ活用・タリ活用  4 4

* 順序が逆になっているのは、ナリ活用がほとんどだからである。

(2)活用

  らへんぷらすにと

◆ ラ変+「に」「と」  3  5

*ラ変の活用語尾「ら・り・り・る・れ・れ」の連用形に、「に」か「と」をそれぞれ付け加える。どどちらにするかは行で区別する。

 

 

助動詞(一部、意味とその識別も含む)

@「る」・「らる」(自発・可能・受身・尊敬)、「す」・「さす」、「しむ」(使役・尊敬)、「つ」(完了)

  るーらるすーさすしむつはしもに

◆ るーらる、すーさす、しむつは下二  4 4 7

*音数を整えるため、「る」・「す」を伸ばす(以下同じ。助動詞28語のうち6語(21%)がこれで決まる。

A「ず」(打消)

◆ ずずずぬね  5

  ざらざり、まるざる、ざれざれ  4 4 4

* 形容詞のように、ラ変型の活用は改行する。 

B「き」

◆ せーまる、きししか  4 4

C「けり」

◆けらまる、りるれ  4 3  

*「けら・○」の次に「り・る・れ」と入れておいて、「け」をそれぞれ付け加える。

 

 

D「ぬ」

  ぬはなへん

◆ 「ぬ」はナ変  5

*ナ変動詞の活用語尾を入れる。

◆ 「てむ」・「なむ」、「つべし」・「ぬべし」  4 6

*下に推量の「む」・「べし」が付く場合、「つ」・「ぬ」は強意になる。次に、「つ」・「ぬ」がそれぞれ二度繰り返される場合、並列になる。これ以外「つ」・「ぬ」は完了になる。

◆ 「てけり」・「にけり」 3 3

*下に「けり」が来る場合、「て」・「に」は完了の「つ」・「ぬ」である。

E「む」・「むず」

◆ まーまるむむめ  4 3

◆ まるまる、むずむずるむずれ  4 8

  いちにんしょういし、ににんしょうてきとうかんゆう、さんにんしょうすいりょう

◆ 一人称=意思、二人称=適当・勧誘、三人称=推量  8 13 10 

* 人称を自分から遠ざけて意味を変える。

  たいげん、に・は・こそ

◆ 体言、「に」・「は」・「こそ」 4 4 4

*「む」・「むず」の下に、「体言」・「に」・「は」・「こそ」が来る場合、「む」・「むず」は仮定・婉曲になる。

F「けむ」(過去推量)・「らむ」(現在推量)

◆ 「けむ」・「らむ」は、まるまるむむめ  5 7

*「○・○・む・む・め」と入れておいて、「け」か「ら」をそれぞれ加える。

*「けむ」は過去の「けり」と「け」が通じるので過去推量、「らむ」は推定「らし」と「ら」が通じるので現在推量、残った「む」は未来推量になる。

G「まし」(推量 反実仮想に注意)

◆ ませましか、まるまし、ましましか  5 4 5

*この語だけ未然形が二つある。

H「めり」(推量)

◆ まるめり、りるれ  4 3

*「○・めり」の次に「り・る・れ」と入れておいて、「め」をそれぞれ加える。

I「なり」(伝聞・推定)

◆ まるなり、りるれ  4 3

*「○・なり」の次に「り・る・れ」と入れておいて、「な」をそれぞれ加える。

*「めり」は「め」が付くので視覚(目)に基づく推量、「なり」はもう一つの聴覚(耳)に基づく推量と識別する。

J「じ」(打消推量)・「らし」(推定)

◆ 「じ」・「らし」は、まるまるじじじ  4 7

*「じ」はこのまま。「らし」は、「○・○・し・し・し」と入れておいて、「ら」をそれぞれ加える。

K「なり」・「たり」(断定)、「たり」・「り」(完了)

   なりたり、けいどう・断定

◆ 「なり」・「たり」形動、断定  8 4 

   たりりは、らへん 完了

  「たり」・「り」はラ変、完了  7 4

  ばしょ・ほうこうプラスなりイコールそんざい  11 8

◆ 場所・方向+「なり」=存在

*場所・方向を表す体言につくと「なり」は存在(ニアル・ニイル)になる。

◆「にあり」・「にはべり」 6

*下に「あり」・「侍り」がつく場合、「に」は断定「なり」の連用形である。

L「べし」・「まし」(推量)、「たし」・「まほし」(願望)

◆ 「べし」・「たし」ク活  7

  「まじ」・「まほし」シク活 9

*「ま」で改行する。この四語は形容詞型の活用をする(ただし、命令形はない)。

M「ごとし」(比況)

◆ くくしきごとし  7

*「く・く・し・き」と入れておいて、「ごと」をそれぞれ加える。

 

助詞

助詞は、訳語で判断すると分かりやすい。そこで訳語(カタカナ書き)と文法的意味を組み合わせて扱う。

@「が」・「の」(格助詞)

◆ ガノデ、ヨウニ、ノモノ  3 3 3

*五種の訳語を順に当ててみて、文意に合ったら、ガ(主格)、ノ(連体修飾格)、デ(同格)、ヨウニ(比喩)、ノモノ(体言の代用)と決める。

A「ば」(接続助詞)

  みぜんけいぷらすば、いこーるかてい

◆ 未然形+「ば」=仮定  7 7

  いぜんけいぷらすば、いこーるかくてい

已然系+「ば」=確定  7 8

               げんいんりゆう

ノデ  原因理由  2 7

    こうじじょうけん

イツモ 恒時条件  3 7

    ぐうぜんじょうけん

ト   偶然条件  1 8

*意味が明確な「ノデ」・「イツモ」・「ト」の順に訳語を当てて決める。

B「ぞ」・「なむ」・「や」・「か」・「こそ」(係助詞)

   ぞなむやか、かかりてむすぶ、れんたいけい    

◆ 「ぞ」・「なむ」・「や」・「か」係りて結ぶ連体体  5 7 6

   こそとかかりていぜんむすばん

  「こそ」と係りて已然結ばん          7 7

*上の句(本)と下の句(末)に分けて、結びの活用形を区別する。

◆ 「もぞ」・「もこそ」は「スルトコマル」  6 6

   *「もぞ」・「もこそ」は「スルトコマル」と訳す。

  

 

こそぷらすいぜんけい、いこーるぎゃくせつ

◆ 「こそ」+已然形=逆接 10 8

*「こそ」を已然形で受けて中止(、)すると逆接(ケレドモ)になる。

 

 

 

 

 

 

公式

  なぷらすそ、いこーるきんし

◆ 「な」+「そ」=禁止   5 7

*「な」(副詞)・・・「そ」(終助詞)で禁止になる。

  えぷらすうちけし、いこーるふかのう

◆ 「え」+打消=不可能  8 8

*「え」(副詞)の下に打消(「ず」・「じ)・「まじ」・「で」・「なし」」が来ると不可能(デキナイ)になる。

  けいかんぷらすみ、いこーるげんいんりゆう

◆ 形幹+み=原因理由  8 11

*形容詞の語幹に接尾語「み」が付くと原因理由(ノデ)を表す。

 

本稿は、「月刊国語教育」(とうほう出版刊)に掲載されたものである。