凍月

 

「おつかれさん!リオウ。王宮に戻る前にちゃんと“楽士サマ”の皮被り直しとけよ」

 ジーンの言葉に「ああ」と生返事を返し、現場を後にする。

 

 今夜の任務はそう難しいものではなかった、定期的に来る“長期潜入中に腕を鈍らせていないか”のチェックみたいなモノだ。

 

 頬の返り血を落とすこともせず、歩きながら考えてしまう。

 

 王宮に潜入して最初に驚いたのは“標的の一人”である王女をみたときだった。

 一族に誘拐されて泣いていた少女、このままではいけないと僕がはじめて人間らしい心を持って逃がした子、その子にあまりにも似ていたからだ。

 

 「顔もあのペンダントも似ているだけだ」と自分に言い聞かせていた悪あがきを打ち砕いたのは、ジーンとの密会後に拾ったペンダントだった。

あの子がしていた物と全く同じ・・・そう、僕があの子と他人を見間違えるなんてある筈が無いんだ・・・。

 

 ペンダントを届け、「神殿脇の林」で拾ったことを伝えたときの表情から、彼女が僕とジーンを見たことは間違いないだろう、気になるのは“彼女がどこまで知って(覚えて)いるのか”だ。

 

 最悪の場合、任務遂行のため、彼女を消さねばならない。せっかく国王夫妻の事故死後、彼女は標的から外れたというのに・・・でも、彼女だけ生き残っても次の国王は彼女をどう扱うのだろう・・・

 

 

 考え事をしながら、アーデンに来たときはいつも寄る丘の上に着いた。

 

   一瞬、月の光が見せた幻かと目を疑った。

 

 そこには僕が今まで心に浮かべていた女性の姿。

 

 なぜ、彼女に姿を見せたのか、

 

「君の知っているリオウではないかもしれませんが」(僕のことを覚えているのですか?)

 

 「それとも思い出したくないのかな・・・。まあいいや」(ここは助けた貴女を見送った場所・・・)

 

 

自分でも理由は判らない。

 

                             2008/03/01

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