決断(ジーク独白)
「どうしたものか・・・」
あの事故から半年、新しいカイン様もようやく“赤子”から“人間”らしくなってきた。
私一人では教えられることに限界がある、そろそろ『記憶を無くしたカイン様の再教育』の話を進めなければ・・・。
諸外国、ましてや臣下にとって操りやすい国王にするつもりは無い。
『学問』だけならば私が教えられる、“出身も判らない典医が王家に近づきすぎる”と批判があることは知っているが、カイン様の秘密を守るためにも退くわけにはいかない。
『帝王学』エドガー様・『武術』ヴィンセント殿、この二人もこれで決定だろう、本音を言えば自分を快く思っていない重臣達の筆頭、しかもこの国を軍事国へと進めかねない者をカイン様に近づけたくは無いのだが、他の者に頼むと“カイン様の周りを自分に都合の良い者で固めている”と自分を排除させる口実を与えてしまう。
『習俗』アストラッド、これも適任だろう、彼は国政に積極的に関わろうとはしない。(女性関係の派手さをそのまま見習われては困るが、お立場上寄って来る女性をそつ無くあしらう術は必要だ)
『品位』周りの者への心配り、もちろんこの国にも王族にそれを教える家系は存在する、が、現在ジペルディー家に擦り寄っている者をこれ以上使いたくは無かった。(とは言え、“面会謝絶の王子”より“実権を持つ者”に近づく者を責めることは出来ない、か)
ふと思いついたのが楽士のリオウ、平民出身でハインツ様にも何度かお声をかけられているが、彼が周りの者と諍いを起こした話を聞いたことが無い。
常に柔らかい物腰で気配りを欠かさない青年、特に政治的な野心があるようには見えない。
彼ならば、オースティン様も教育係として納得するかもしれない。それは名案のように思われた。
それから・・・もし秘密が発覚した場合の対処(お二人を無事に安全な場所まで逃がすこと)も考えておかねば・・・
これが出来れば無駄なもので済むことを祈りつつ、手配を進めた。
2008/03/01