KOTOBI

事業内容

【実践】
・美術館における常設展・企画展の、少人数制、親子向けミュージアム・ツアーの開催

【研究】
・対話型鑑賞の実践と、その効果についての研究
・海外のミュージアムの調査と日本との比較

【情報発信】
・美術館教育普及事業の情報を取りまとめ、Webサイトより発信


子どもと美術館 -KOTOBI- の目標

・感受性の豊かな低年齢期にこそ、多くの本物の作品に出逢うこと。
・感性を育むだけではなく、対話による鑑賞方法によって、論理的思考能力、コミュニケーション能力を磨くこと。
・最終的に美術館が知的好奇心を満たす場として親子に定着し、自らアクセスするようになること。


KOTOBIとは

KOTOBIとは、子どもと美術館( ども じゅつかん)の愛称です。


設立の趣意


「子どもと美術館―KOTOBI」設立趣意書

美術館でのギャラリー・トークはたくさん行われているのに、 なぜ個人で「親子体験型ミュージアム・ツアー」立ち上げなのか?!

 私は現在2歳と7歳の子どもを育てており、子どもと一緒に美術館で行われるギャラリー・トークに参加し、楽しんでいる最中です。一方で「こんなツアーがあったらいいのに!」と思う機会が多くありました。
 個人的な経験ですが、「子連れ」で美術館に行くのは少し勇気が必要です。うるさくてご迷惑をおかけするのではと、解説を集中して聞くことができず、その空間にいるだけで精一杯なこともあります。本物の作品を見せたくて美術館に連れて行っても、満足に見せることができず帰るのはとても勿体ないことです。
 そういった体験を繰り返す中で、自分や同じ年代の子連れ世代が求めているのは、低年齢の子どもが主体的に参加できる「ミュージアム・ツアー」ではないかと思い始めました。
 皆さんもご覧になったことはないでしょうか?欧米に旅行すると、美術館に子どもがいるのは自然な情景で、彼らは、作品の前で自由なポーズをとりながら真剣に見入っています。幼い子どもであっても、作品に対する自分の考えをしっかりと述べる光景が印象に残ります。私自身も西洋美術史研究の調査でフランスの美術館を訪れる度に、「あんな小さい子が興味を持って見ることができるんだ!」と驚いたものでした。
 日本でも、小学校中学年から高学年になると学校で団体鑑賞ツアーが組まれることがありますが、低年齢の幼児や小学校低学年での鑑賞ツアーは比較的少ないようです(*1)。低年齢向けには製作のワークショップを中心に用意している印象を受けます。
 でも、実は感受性の鋭い幼い頃こそ、作品鑑賞をスタートする意味があるのでは?欧米では可能なのに、日本の子どもはなんでできないのか?と疑問が湧き起こりました。例えば、アメリカのグッゲンハイム美術館では、製作と鑑賞教育を両輪で行っています。
 「世の中に本格的なツアーがないのなら自分でやってみよう!」と思い立ち、低年齢の子ども向けツアーを行ってみたところ、子ども達と対話する中で、感性の豊かさだけではなく、観察力と言語力の豊富さ、個性的な意見にとても驚かされました。また、美術館という非日常的な空間に行くことで、子ども達自身がマナーについて考え実践していく能力があることに気づきました。鑑賞のマナーについてはある程度の訓練も必要ですが、実践するにつれ身についていきます。

そのような経験から、日本の子どもたちも、低年齢期から美術館に行くことを生活の一部に組み込み、鑑賞を通して自分の意見を述べていく場を創り出したいという想いから、「子どもと美術館−KOTOBI−」を任意団体として立ち上げることになりました。

KOTOBIプログラムでは、対話型鑑賞(*2)の手法を参考にし、以下の点を重視したミュージアム・ツアーを行うこととします。
1.少人数制(親子3組程度)
2.低年齢の幼児から小学生中学年までを主な対象
3.保護者との参加(両親だけでなく、祖父母、叔父、叔母との参加も歓迎)
4.作品の専門的知識の共有
※プログラムによって詳細変更あり。

 芸術作品は、感動の原体験を生みだすだけの触媒に留まりません。パワーのある作品ほど、その作品成立の背景には多くの事象が秘められています。作品を考察・分析して他者と共有することは、観察力・読解力・表現力を育むと共に、コミュニケーション能力を向上させる重要な役割を持ちます。そして「視覚」を言語化することで、感性だけではなく、知性・論理性を先鋭化させる術を身につけることが可能となるでしょう。
 また、子どもだけではなく、子の視点を共有する親世代も共に学ぶことで、親子2世代の文化力を育むことを目指します。大人達の探究心も満たされ、更に大人が日常的に子どもの好奇心をサポートすることで、芸術を共に楽しむことのできる土壌が形成されていくことでしょう。
 少子化の深刻度が増す中、これからの子どもたちに財政面・精神面での大きな負担がかかっていくことが予想されますが、そんな息苦しい世の中を変えていけるような、独自性と創造性を育む一つの機会を提供できればと強く思います。

(注)
*1 杉浦幸子氏による幼児向けギャラリー・トークが2014年に東京都現代美術館にて行われた。他に各館独自の取り組みがあるが、抽選による参加募集が多く、開催数が少ない。
*2 フィリップ・ヤノウィン(元ニューヨーク近代美術館教育部部長)によるVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)を中心とした鑑賞方法のこと。日本の組織としてはACOP(京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センター)とARDA(芸術資源開発機構)が研究と実践を進めている。