□ 薬師如来立像
金堂に安置される本尊は薬師三尊である。 鎌倉時代の末に編纂された『神護寺略記』に引用されている『弘仁資財帳』に「薬師仏像一躯 脇士菩薩像二躯」とあるのがこの三尊に当たると思われる。 資財帳とは、定額寺で作ることを義務付けられていたもので、弘仁年間の資財帳とは当時定額寺であった神願寺のものであり、この像が神願寺から高雄山寺に移されたと考えられてきた。 近年、この本尊を高雄山寺に由来するとする説が出され、その結論はまだ定まっていない。 新説では、弘仁年間は資財帳の提出の義務付けが停止された時期であること、資財帳の作成は定額寺のみに限られたものでないこと、神願寺が寺域としてふさわしくない場所にあったとされる像を、あえて清らかな場所、高雄山寺の本尊に移すといった考え方は、当時の穢れに対する対処法として疑問があることが提起された。 見据えるような鋭いまなざし、太い鼻筋と肉付きよい小鼻、思い切って突き出しへの字に引き締めた唇。拝するものに畏怖の念を起こさせるこのような異相は禁欲的な山岳修行者の存在が生み出したものかもしれない。 唐招提寺薬師如来像とくらべて胸と腹が小さく、腰以下が強調されて圧倒的な重量感を印象付ける。 木という硬くまた粘りのある材質を鋭利な刃物で彫ることによる木彫ならではの鋭い表現が生まれてきている。