3。淡路島かよふ千鳥の恋の辻占

落語にゆかりの地を訪ねる 狐狸窟彦兵衛の新 上方逍遥記。
今回は大阪と奈良の府県境にあります「暗峠」を訪ねました。 

喜六、清八のお伊勢参り道中を描いた「東の旅」。玉造稲荷を出発いたしまして、二軒茶屋から深江、名産の深江笠を買って、東へ。生駒山を越えて参ります。現存する落語では、奈良までの道中はそれほど詳しくはありません。しかし、大阪と奈良を分ける「暗峠(くらがりとうげ)」、これを越えていく「暗越奈良街道」は、その経路となっております。

「暗峠」なんて、なんか、名前を聞いただけでも、行ってみたいですねぇ。
秋の日和に誘われて、ふらふらと足を踏み入れてしまったのございます。
 東大阪市のホームページには、いろいろと生駒山をめぐるハイキングコースが紹介されています。暗峠へは近鉄枚岡駅から国道308号線を登るのですが、一つ手前の「瓢箪石」で、近鉄電車(準急)を降りました。

「辻占総本社」という、「瓢箪山稲荷神社」にお参りしようという算段です。

天正11年(1584年)に豊臣秀吉が大坂城築城に当たり、巽(南東)の方向3里の地に「ふくべ稲荷」を勧請し、金瓢を埋めて鎮護神とした、と社伝にあるそうです。

瓢箪山といのは、このお稲荷さんが鎮座ましますお山の形状でありまして、瓢箪の形をしている。自然の山ではなくて、六世紀のころ作 られた「山畑古墳群」という群集墳の中の最大の古墳で、円墳が二つ並んだ形の双円墳に築かれております。
 
 辻占といのは、道行く人の言葉を聞いて、それで吉凶を占うという古くからある卜占の手法でございます。

 大伴家持さんは万葉集で

  月夜には門に出で立ち 夕占問ひ 足占をそせし 行かまくを欲り

という相聞の歌を残しておられます。夕暮れに門口に立って往来の人の声を聞いて、いとしい人の処へ行くのが吉か凶か占ったというお歌やそうです。 落語では、好きな女の本心を探るためと知恵をつけられて心中を申し入れに行ったお茶屋で、待っている間に座敷に落ちていた辻占を読 んで、決行の如何を占うという場面があります。万葉歌人も鍛冶屋の源さんも、よう似たことやってますんやな。

また、お芝居やなんかで、夕暮れの描写をするのに、辻占売りの女の子が、かいらしい声で

「淡路島 通う千鳥の 恋の辻占ぁ~」と歌うように売り歩く声が遠くに聞こえる、という演出があります。

神社の由緒書によると、この文句は

「淡路島かよふ千鳥の河内ひょうたん山恋の辻占」

として、「有名」なんやそうですが、「河内ひょうたん山」と入っているとは知らなんだ。それでは、夕暮れの風情が薄れるような気が… てなことを言うと罰があたりますかな。

本殿の前にある、おみくじを引いて、そこに出た一番から三番までの数字を確かめ、裏へ回って「占場(うらば)」に立ち、一番なら最初、二番なら 二人目、三番なら三人目の人の風体をよう覚えて、宮司さんに報告すると、宮司さんが、吉凶を見てくれはるそうです。見料三千円也。

(暇も金もなく…辻占は次の機会に)

「占場」は、別に裏にあるからではなく、江戸時代には、西側の「東高野海道」に出る参道で行きかう人の声を聞いたそうですが、現在は 東側に移されている由。
 この占場を出ますと、道が東へと坂になっております、これをずーーと、道なりに歩いて行くと、道筋は生駒山の山裾を迂回するように 北へとカーブを描きます。この辺り、六世紀の古墳群があると申しましたが、古くは物部氏の勢力範囲やったそうです。
  近鉄電車で一駅隣が「枚岡」。河内一宮「枚岡神社」があります。

 御祭神は天児屋根大神(あめのこやねのおおかみ)、比売大神(ひめ おおかみ)、武甕槌大神(たけみかづちおおかみ)、斎主大神(いわいぬしのおおかみ)の四柱です。このうち、天児屋根大神、比売大神 が、もともとこのお社に祀ってあった中臣氏の氏神で、春日大社に勧請され、逆に、武甕槌大神、斎主大神は春日大社創建後にこちらに招 かれた神様だそうです。そこで、枚岡神社を「元春日」と呼びならわします。中臣氏は、もともと物部氏と共に、神様をお祭りする豪族で、仏教を導入した蘇我氏とは対立しておりました。河内一帯は、この物部と中臣の勢力範囲だったのですね。

↑ 子連れのメン
あっちは角のあるオン→
「春日」さんを意識してか、狛犬、唐獅子の代わりに、一対の鹿が居てます。角のある雄と子連れの雌です。
 インターネットであちこちHPを訪ねておりますと、「鹿」の肩甲骨は古くから「占い」に用いられたそうで、神事を司り、占いを得意 とする「中臣氏」が神聖視したのはそのためではないかという推理が目に留まりました。…なるほど、これは興味深い着眼点ですな。ま、しかとは分からんのですけれどもね
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浪花・上本町 御可笑拵処「東雲堂」 狐狸窟彦兵衛 謹製
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