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(その後の5)


我がTR版No−168CDラインアンプ。ちょっと初段の動作点を変更した。

@初段差動アンプのゲインを増やすことによってオフセット&ドリフトをさらに減らしたい。
A起用したFD1841のIdssからするともう少し初段の動作電流は下げたい。

といった思いがある日忽然とわき上がってきてしまったのである。

その結果、初段の定電流回路の電流設定抵抗2.4kΩが4.3kΩに、初段ドレイン負荷抵抗2.2kΩが3.9kΩに変更された。
この変更でも2段目以降のDC動作点には殆ど影響がないので2段目以降には変更がない。

が、ドレイン負荷抵抗の変更、そしてこれに伴うオープンゲインの変動は初段ステップ位相補正の見直しを必要とする。昔であればそうそう簡単に変更できる定数ではない。

のだが今は(評価版だが)PSpiceがある。これがあるのは本当にありがたい。(^^)
結果、初段ステップ位相補正の定数はこのままで可となったのである。

結論としては、完全対称型フラットアンプのオフセット&ドリフトの減少には、やはり初段差動アンプの利きを良くすることが一番である。という我がNo−128(?)の場合と同様の結果であった。まっ、初段差動アンプも言うなればAOCであるから当然の結果だろう。





位相補正の妥当性は見ておかなければならない。

ので、PSpice(評価版)である。

初段定電流回路のツェナーダイオードがモデルの都合でHZ6C1であるが故に電流設定抵抗R5が4.1kΩになっているが、これで実機と同じ動作点だ。






各DC動作点。







結果。
初段は動作電流の減によるgmの減より負荷抵抗の増の効果が勝って、オープンゲインが全体的に3dB弱の増加となった。

問題はステップ位相補正による200〜300kHzにおける位相回転とオープンゲインが0dBに沈む地点における位相回転である。
が、ありがたいことにこの場合も1kΩ+300pFの位相補正で大丈夫だろうという予言だ。(^^)




で、早速実機を改造したのだが、結果は良好で動作は全く安定だ。そして初期の目的も果たされたのである。

肝心の音もグーだ。  と思っているのだが(^^;





と言うわけで早速これでAYADOおばちゃんの新作“TIME”を聴いてみる。

紅白に出るようになってはもうお終いかいな・・・、とも思っていたのだが、う〜ん、今度のはそれなりにJazz回帰でもあるし。良さ気。ではないかしらん。(^^)

ハイブリッドで音にも不満がない。

ジャケットも渋いが中身にもそれなりの渋さが出てきたかな・・・などと思いつつ。





(2004年6月13日)





(その後の6)


我がTR版No−168CDラインアンプ。

ここに記した理由によってこうなった。せっかく導入した「但聞ドライブ」なのだが、それは撤去され、代わりに終段マイナス側のベース抵抗が680Ωから750Ωに変更された。

根本的な改良がなされた。という訳。(^^;







その理由、効果をPSpice(評価版)でシミュレートしてみる。

まずは終段ベース抵抗が上下とも同じで、「但聞ドライブ」なしの場合。






各部動作点。

2段目差動アンプ右側出力電流に起因する出力点オフセット解消のために、初段、2段目、終段の動作点が微妙にずれる必要がある。





が、その程度の直流動作点のずれはAC動作にはそれほど問題はないようだ。

ただし、一番上の終段上下の2SC959のコレクタ電流出力(dB)では微妙に乖離が生じている。




入力に正弦波を加え、出力段上下の出力を別々に観測する。





まずは20Hz正弦波。

この程度であれば問題にする必要もない微妙な違いだとは思うが(^^;、下側(赤)がやや振幅が小さい。




1kHz正弦波。

同じだ。




20kHz正弦波。

これも同じだ。





この微妙な乖離を是正するためには「但聞ドライブ」が有効ではないかと思って導入した訳だが・・・(^^;





動作点。

確かに初段、2段目差動アンプの動作点の乖離は改善される。

初段差動アンプソース側のトリマーの値も初段差動アンプ左右、2段目差動アンプ左右の動作電流値も一致している。





確かに終段TRのコレクタ電流出力(dB)の上下バランスも改善されたように見える。




それを確認するために、入力に正弦波を加え、出力段上下の出力を別々に観測する。




20Hz。

残念ながら「但聞ドライブ」がない上の場合と同じだ。





1kHz。

やはり同じだ。




20kHz。

これも同じだ。

結局、この簡易型「但聞ドライブ」では完全対称型の2段目差動アンプの動作電流経路非対称に起因する上下出力段までの微妙なゲイン差を解消できないのである。






そこで、今回の改良後の回路。終段下側のベース抵抗を680Ωから750Ωに変えただけ。

本当は(1+680/51)*51=731Ωとすべきところなのだが、そういう抵抗値の抵抗はないので近似で現物の存在する750Ωとしたもの。




計算値から多少のずれがあるので初段、2段目の動作点もややずれるのだが、R9が680Ωの場合よりは大分良い状態だ。





電流出力(dB)は終段でかえって乖離するのだが、




これで終段上下それぞれの出力はどうなるか。





まず20Hz。

結果はこのとおり。下側(赤)の方が微妙に振幅が大きいのは731Ωとすべきところを750Ωにしたためだが、上の2つの場合よりは随分良くなったことが一目瞭然。






1kHz。

同様だ。





20kHz。

こちらも同じ。




というわけで、我がTR版No−168CDラインアンプからは簡易型「但聞ドライブ」が撤去され、終段上下非対称なベース抵抗値になったのだった。(^^;





加えて我がNo−168MCプリアンプもこうなってしまった。

MCイコライザーの終段ベース抵抗値設定が変わった訳だが、こちらはエミッタ抵抗に2kΩが使ってあったのでベース抵抗を上下とも変更して5:6と計算値ぴったりになるようにしたのである。

フラットアンプの方は、そもそも終段電流ゲイン設定が大きいのでいじる意味はなく、よってそのまま。




これで我がNo−168MCプリアンプはNo−168(もどき)に堕ちてしまった。(爆)(^^;


なお、毎度の事ながら、以上のシミュレーション結果及びその解釈には一切保証がないので悪しからず。また、シミュレーションに登場した素子モデルについては、何もお答えできないので重ねて悪しからず。


(2005年11月27日)






(その後の7:TR版No−168CDラインアンプを反転動作化(減衰器化)する)



MJ2006年9月号のNo−189は、もしかするとK式の新たな展開への胎動かもしれない。

何故って、普通に考えれば非反転動作を反転動作にしただけのものであって目新しくも何ともないのだが、問題は先生がCD再生のためにこのような力を尽くしたということなのである。ちょっと尋常ではない。な〜んて。(^^;

まぁ、それはともかく、反転アンプ化することによって、長年悩ましかったK式の音量調整の問題が、少なくともラインアンプでは解決されることになった。(^^)

こんな簡単なこと、とうの昔に自分でも気づいてやっておくべきだった。
のだがこんなことに気付かないのはやはり凡人なのだなぁ・・・(^^; ← (−−)お前

で、早速我がTR版No−168CDラインアンプの反転動作化(減衰器化)を実施したのだった。

これが実施後の基板写真。

スケルトン抵抗が2つ不要になって撤去されている。











回路はこう。

勿論、非反転動作回路から反転動作回路に変更しただけ。音量調整用のボリュームは従前の50kΩ(A)をそのまま流用した。このため、ゲインは最大でも0dBとなり、文字どおり減衰器として動作することになるのだが、我が家の環境からしてこれで全く問題はない。

ただし、この場合でも音量は完全に0(無音)にはならない。のは差動アンプの動作が完全に対称ではなく、アンプのオープンゲインも無限大ではないが故に、バーチャルショートという理念が完全には実現できないからだろう。

と言って、やる人もいないとは思うが、反転側入力をアースにショートするミューティングスイッチを入れるのはやめた方が良い。非反転入力側と違ってNFが掛からなくなるので全く上手くない。

なお、反転動作化しても各部の動作点が同じなのでとりあえずは位相補正は動かさないでおく。が、K先生のNo−189では位相補正がやや従来型と異なっており、それには何らかの理由があるのだろう。












その辺を観るため、同一回路で非反転動作と反転動作をシミュレーションでスタディしてみる。

先ずは非反転動作、負荷50kΩでのオープンゲイン周波数特性。
位相補正はR15を極端に大きくして効かないようにしておく。








オープンゲインは低域で71.5dB。高域におけるfcは25kHz程度か。オープンゲインが0dBに沈むポイントが22MHz程度で、そのポイントにおいて位相は−215°回転している。









次に反転動作の負荷50kΩでのオープンゲイン周波数特性。
同じく位相補正はR15を極端に大きくして効かないようにしておく。









こちらの位相は当然低域で180°になるのだが、−180°演算をして比較しやすくしてある。(以下同じ。)

オープンゲインは低域で71.5dB。高域におけるfcは33kHz程度か。オープンゲインが0dBに沈むポイントは31MHz程度で、そのポイントにおいて位相は−215°回転している。

オープンゲインは同じだが、高域におけるfcが非反転型が25kHzだったものがこちらは33kHzであり、オープンゲインが0dBに沈むポイントも反転型が9MHz高い。反転型の方が高域特性はやや良くなるようだ。








位相補正を効かせた場合のオープンゲイン周波数特性はどうか。

先ずは非反転アンプ。








fc周波数は余り変わらないが、位相補正の効果でそれ以上の高域におけるゲイン減衰が早まり、オープンゲインが0dBに沈むポイントが22Mhz程度から10MHz強のポイントに下がった。また、そのポイントにおける位相回転も初段ステップ型位相補正回路の位相戻し効果によって−140°。








次に反転アンプ。








こちらはfc周波数も位相補正の効果で23kHz程度に下がったほか、それ以上の高域におけるゲイン減衰は非反転アンプの場合と同様な早さとなり、オープンゲインが0dBに沈むポイントも33Mhz程度から10MHz強のポイントに下がった。また、そのポイントにおける位相回転も初段ステップ型位相補正回路の位相戻し効果によって−140°

結局、位相補正なしのオープンゲインでは反転アンプの高域特性がやや良かったのに、位相補正によって反転アンプも非反転アンプの場合とほぼ同じ特性になってしまった訳だ。









次は、NFB後の仕上がりゲイン位相特性。
先ずは非反転アンプ。
ボリュームR11は0Ω、1kΩ、10kΩ、50kΩ、100kΩのパラメトリック解析。







ボリューム0Ωで0dB、1kΩで6dB、10kΩで20.5dB、50kΩで34dB、100kΩで40dBと理論どおり。ゲインが大きくなるほど帯域が狭くなるのは電圧帰還アンプだから。なお、高域でゲインに2〜4dBのピークが出ているが、この辺はモデルパラメータの正確性の問題があり、実機でもそうであるかは分かりようもないのでここでは気にしない。







次は反転アンプ。
ボリュームR11は0.1kΩ、1kΩ、10kΩ、50kΩ、100kΩ、1MΩ、10MΩのパラメトリック解析。1MΩ、10MΩは現実には使うことはないが、シミュレーションであるし仕上がり高ゲイン状態も観たいのでこれらもパラメータとして加えてみた。








ボリューム0.1kΩで−54.5dB、1kΩで−34dB、10kΩで−14dB、50kΩで0dB、100kΩで6dB、1MΩで26dB、10MΩで46dBとこちらも理論どおりだ。反転アンプは理論的には広大なゲイン調整が可能ということになる。なお、ゲインが大きくなるほど帯域は狭くなるからこの反転動作アンプも基本的に電圧帰還アンプ動作なのだろう。

さて、モデルパラメータの正確性の問題があるのでなんとも言えないところではあるが、高域におけるゲインのピークが非反転アンプに比べてやや大きいのは注目しなければならないだろう。この辺はモデルパラメータの正確性の問題があるので現実にもこうなっているかはなんとも言えない部分だが、少なくともこのシミュレーションから同じ回路構成でも非反転アンプ動作より反転アンプ動作の方が、同じ位相補正では高域にピークが出やすいとは言えそうだから。そうなると一般論としては同じ素子・回路構成で動作を非反転動作から反転動作に変えた場合、位相補正はやや多くする必要があるのかもしれない。







その辺を100kHz方形波応答で観てみる。
先ずは非反転動作。ゲイン設定は0dB。






結果はこのとおり見事な100kHz応答。





では反転動作の方はどうか。こちらもゲイン設定は0dB。






う〜ん、残念。オーバーシュート、アンダーシュートが出る・・・。







と言うわけで、この辺の理由からK先生のNo−189CDラインアンプの位相補正はやや大きくしてあるのではないかと思うのだが、我がTR式No−168CDラインアンプの場合、シミュレーションでこのオーバーシュート、アンダーシュートをなくす定数を探したところ、300pFのCを510Pや600Pに増やすと確かにオーバーシュート、アンダーシュートは小さくなる。が、残念ながらなくなりはしない。


ので、別の手として帰還抵抗(ボリューム)にパラに相進コンデンサーを入れる手を用いてみると・・・。
例えば2pF。






このようにオーバーシュート、アンダーシュートは消滅してしまう。






非常に良さ気なので、帰還抵抗に2pFをパラったまま、NFB後の仕上がりゲイン位相特性を観てみる。

ボリュームR11は0.1kΩ、1kΩ、10kΩ、50kΩ、100kΩ、1MΩ、10MΩのパラメトリック解析。









上の2pFのない場合と比較すると一目瞭然だが、ボリューム10kΩ以上における仕上がりゲインは非常に綺麗に整った。やはりかなり効果的な手法であることが分かる。

また、これによって問題は10MHz超の領域における何らかの位相回転要素(多分TRのトランジション周波数による高域限界)であり、これが帰還抵抗が小さくなった場合に問題として顕在化するものであることが分かる。






この手はかなり有効だ。

ので、この手を用いようかとも思ったが止めた。

何故なら、オーバーシュート、アンダーシュートを帰還抵抗が小さい時にあってもなくすためには、ゲインを小さくするほどにCの値を大きくする必要があり、それを考えるとCには20pF位を入れておく必要があるのだが、そうするとボリュームが50kΩの時の100kHz方形波は当然なのだがこうなってしまうのだ。








と、いうこともあり、1pFや2pFを入れておいても良いのだが、もともとその程度の数pFの容量なら浮遊容量として存在しているだろうし、従って、モデルパラメータが正しいかどうかも分からないシミュレータの結果で物事を硬直的に考えても仕方がないので、結局反転アンプ化した我がTR式No−168(189)CDラインアンプの位相補正は今のままの定数で行くことにしたのであった。

結論としては、反転アンプには反転アンプなりの弱点、問題点が当然あることを理解の上使わなければならないのである。
当たり前か。(^^;

ま、音はこっちの方が良い感じがするので、良いのではないでしょうか。(^^)







(2006年8月19日)




(その後の8:方形波応答を考える)


と、シミュレーション結果はホントかいな?ということもあるので、この際実際の方形波応答を観る。

で、方形波応答で何を観るのか?

アンプの周波数特性を観るのだろうて。

が、周波数特性が平坦な部分を観てもしょうもなかろう。

ではどこを観るのか?

アンプ内部にある位相回転要素によって周波数特性にピーク、ディップなど暴れが生じている領域の状況を観る。

半導体アンプなどオーバーオールのNFBを前提としているアンプにおいて周波数特性にピーク、ディップの暴れが生じるのは、アンプ内部にある位相回転要素によって利得交点周波数におけるNFB信号の位相が120°以上回転することによるものなので、要はその付近の領域におけるピーク、ディップの状況を観ると、位相補正が適切かどうかが分かる。

ので、周波数特性の暴れ具合でそれを観じるのが目的なのだろう。多分。(^^;

まぁ、あと、これでスルーレートなども分かるのかな・・・(^^;

具体的には、方形波を入力し入力と同等の方形波が出力された場合、当該方形波周波数を中心として上下ともに2桁程度の周波数領域については当該アンプの周波数特性が平坦であると考えて良いようだ。

方形波の山又は谷の中心から右側で波形にピークディップが生じる場合は、当該方形波周波数より低い周波数(1桁又は2桁の範囲)で位相回転により周波数特性にピーク又はディップがあるということであり、中心から左側で波形にピークディップが生じる場合は、当該方形波周波数より高い周波数(1桁又は2桁の範囲)で位相回転がありこれに伴って周波数特性にピーク又はディップがある。

この場合、当該方形波に生じるピークディップの当該方形波の山(谷)中心からの距離によってそれが発生している周波数領域も推定出来る。中心に近いほど当該方形波周波数に近い周波数領域でピークディップがあり、中心から離れるほどにその周波数領域は当該方形波周波数から遠い。

本当は、正弦波応答を観てもそのような暴れを生じている周波数領域の状況は判断できるのだが、方形波を使えばその周波数の上下合わせて4桁近くの範囲における周波数応答が一度に判断できる訳で、その意味で方形波応答テストは便利。

まぁ、現実にはDCアンプであれば低域側には時定数はないので(AOC搭載の場合を除く)、方形波応答で観るべきは中心から左側のみだ。

で、アマチュアとしてはそれらしい原方形波形の得られるのはこの辺が限度である100kHz方形波応答によって1〜10MHz程度の領域まで観てみようというわけ。(^^)


以下の写真は全て下の波形が原波形で上の波形が出力波形。

原方形波の立ち上がり自体余り良くない。(爆) が、それは気にしないことにして・・・(^^;


No−168 CDラインアンプ
最初にNo−168CDラインアンプ。

我がNo−168CDラインアンプは、回路定数がオリジナルと全く同じではない。手持ちの都合で初段ドレイン抵抗値が2kΩ(オリジナルは1.8kΩ)、初段ステップ位相補正も1kΩ+270pF(オリジナルは1.2kΩ+270pF)である。

先ずはこの状態での方形波応答や如何に。(^^;
No−168 CDラインアンプ ステップ位相補正 1kΩ+270pF
V-min V-mid V-max(50kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
う〜む。100kHz方形波応答で明確なとおり、ボリュームセンター位置(V−mid)とボリューム最大位置(V−max)でオーバーシュートとアンダーシュートが生じている。10kHz方形波応答ではそれが上下左肩における髭となって現れている。見え方は違うがその内容は同じものだ。

まぁ、それらは1波で収まっており、いわゆるリンギングもないので、動作的に問題というレベルではない。
位相補正的にも、まずいというレベルではなく十分に適切なものだと思うのだが、必ずしも最適ではない。とは言えるだろう。(^^;

位相補正的に観れば、ボリューム最小位置(V−min)においては位相補正が最適(位相回転90°未満)であるものの、V−mid及びV−max位置においては位相回転が90°を超えているため、利得交点周波数で数dB程度のピークが生じており、そのピークが発生している周波数はV−midの状態で500kHz〜1MHz程度、V−maxの状態では150kHz〜250kHz程度である。と解することができるだろう。また、ピークが3dB程度であることから位相回転は最大でも130°程度ではないかと推測される。

なお、ついでに、V−max位置においてはそもそも高域の周波数レスポンス自体が100kHz程度以上で低下を始めていることも分かる。

この現象をステップ位相補正の効果からさらに考えると、その効果でオープンゲイン時の位相回転が効果域においてS字を左に倒したような形になることを踏まえれば、この状態は、ステップ位相補正による高域側の位相戻りは適切であるものの、低域側の位相回転が進みすぎたものだ。と判断することができる。要するに、ステップ位相補正によるステップがちょっと効きすぎなのだ。

従って、V−mid及びV−max位置においても位相回転をより少なくするためには、ステップ位相補正による位相回転のS字カーブをもっとスリムなものにするか、S字の傾きを少し立ててみることが良い。ということになる。

そのためには、ステップ位相補正の抵抗をより大きいものにするか、コンデンサーをより小さいものにするかすれば良い。、両方一緒でも良いかもしれない。ただし、やりすぎると今度は折角のステップ位相補正の効きが悪くなってV−min位置の方での位相回転が進み、こちらでピークを生じたり、下手をすれば発振しかねないので、双方のバランスをとって上手くやることが肝要だ。

そこでその方向で調整をしてみたところ・・・

な〜んと、3.6kΩ+20pFなどという、オリジナルとはすっかりかけ離れたステップ位相補正定数の組み合わせになってしまった。(^^;
No−168 CDラインアンプ ステップ位相補正 3.6kΩ+20pF
V-min V-mid V-max(50kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
fc>1MHz fc>1MHz fc≒240kHz
この組み合わせであると、ボリュームがどの位置にあってもオーバーシュート、アンダーシュートを全く生じない。ので、良いのではないでしょうか。(^^)

この状態で正弦波応答から高域の周波数特性を測ってみると、V−min及びV−mid位置においては1MHzまでフラットではないが少なくともfc=−3dBポイントは1MHzを超えている。ただしV−max位置ではfcは240kHz程度だ。

と、良さ気なのだが、よく見ればV−min位置において100kHz方形波応答の立ち上がり、立ち下がりに細かいリンギングが載っている。
し、V−mid位置においても肩部分にちょっとその痕跡がある。
これらは1MHz超の領域で、1MHz以下の領域を超えるピークまでには至らずに減衰しつつはあるものの、周波数特性が波打ちながら減衰していることを現わしているのだろう。多分(^^;

まぁ、そうであれば特に問題ではないのだが、ちょっとステップ位相補正高域側で位相回転の戻りが足りなくなったようだ。

であれば、と、ステップ高域側における位相戻しをやや増やすことを狙って、ステップ位相補正を3.6kΩ+100pFの組み合わせにしてみる。
No−168 CDラインアンプ ステップ位相補正 3.6kΩ+100pF
V-min V-mid V-max(50kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
fc>1MHz fc>1MHz fc≒240kHz
V−min位置におけるリンギングは減少して痕跡が残る程度に収まった。

が、今度はV−mid位置において軽くオーバーシュート、アンダーシュートが生じるようになってしまった。この位相補正の組み合わせではボリューム12時から3時の位置で若干のオーバーシュート、アンダーシュートが生じてしまうのだ。

なかなか上手く行かないわい。(^^;

要するに何事もトレードオフなのがこの世の常。(^^;

なので、止揚する手がない以上は更なる良い妥協点を探る。

そこで3.6kΩ+39pFの組み合わせ。
No−168 CDラインアンプ ステップ位相補正 3.6kΩ+39pF
V-min V-mid V-max(50kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
fc>1MHz fc>1MHz fc≒250kHz
V−minでのリンギングはやはり100pFの場合よりも明確になるが、この程度なら妥協すべき範囲だと思える。

V−midにおけるオーバーシュート、アンダーシュートもあることはあるが100pFの場合よりは減少しており、これも妥協すべき範囲だと思える。しかも、ボリュームがどの位置でもこれ以上のオーバーシュート、アンダーシュートにはならない。

ということで、どうもこれが最良の組合せのよう。(^^)

結果、我がNo−168CDラインアンプのステップ位相補正については、3.6Ω+39pFという、オリジナルとは大分かけ離れた予想外の定数の組み合わせになってしまった。(^^;

No−168 MCプリアンプのフラットアンプ部
こうなると、回路構成、使用素子ともほぼ同等なNo−168MCプリアンプのフラットアンプ部も観ねばなるまい。

こちらの回路はほぼオリジナル通りだ。唯一オリジナルと異なるのはボリュームが20kΩ(オリジナルは50kΩ)であることのみで、他は全く同じであり、ステップ位相補正も1.2kΩ+270pFとオリジナルと同じ組み合わせだ。

これの方形波応答はどうだろうか。

No−168 MCプリアンプのフラットアンプ部 ステップ位相補正1.2kΩ+270pF
V-min V-mid V-max(20kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
あちゃ〜(^^; 結果はCDラインアンプと同じではないか。

V−midとV−maxでオーバーシュートとアンダーシュートが生じている。し、それが1波で収まってリンギングはないのも同じだ。


従って、この場合もステップ位相補正によって高域側の位相戻りは適切な状態であるものの、低域側の位相回転がちょっと多めになっている、と解することになる。

だから、これを改善するとなれば、CDラインアンプの場合と同様に、ステップ位相補正による位相回転のS字カーブをスリムなSにするか、S字自体の傾きを少し立てる方向で、ステップ位相補正の定数を調整するということになる。

そこでまず、ステップ位相補正の抵抗の方を大きいものにしてみる。

2.2kΩ+270pF。

No−168 MCプリアンプのフラットアンプ部 ステップ位相補正2.2kΩ+270pF
V-min V-mid V-max(20kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
やはり、V−midにおけるオーバーシュートとアンダーシュートはかなり改善された。

が、V−maxでは明確に発生している。

さらに抵抗を大きくしてみる。

3.3kΩ+270pF。
No−168 MCプリアンプのフラットアンプ部 ステップ位相補正3.3kΩ+270pF
V-min V-mid V-max(20kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
V−midにおけるオーバーシュートとアンダーシュートはほぼ消えた。

だが、これでもV−maxでのオーバーシュートとアンダーシュートは消滅しない。

さらに抵抗値を大きくするとともに、コンデンサーの方も小さくしてみる。

3.6kΩ+100pF。
No−168 MCプリアンプのフラットアンプ部 ステップ位相補正3.6kΩ+100pF
V-min V-mid V-max(20kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
V−maxでのオーバーシュートとアンダーシュートはさらに小さくはなった。がまだ消滅しない。

V−midにおけるオーバーシュートとアンダーシュートは逆に大きくなってしまったようだ。

こうなれば、CDラインアンプで結果の良かった組み合わせにしてみよう。

3.6kΩ+20pF。
No−168 MCプリアンプのフラットアンプ部 ステップ位相補正3.6kΩ+20pF
V-min V-mid V-max(20kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
fc>1MHz fc>1MHz fc≒500kHz
V−midでもオーバーシュート、アンダーシュートの痕跡はあるが、これもこの程度なら問題ではない。

V−maxの応答については全く問題がない。

だが、新たにV−minで立ち上がりにリンギングの痕跡が出てきた。これはCDラインアンプの場合と同様だが、この程度なら問題ではない。

なので、この組み合わせが一番良さそうだ。

ということで、我がNo−168MCプリアンプのステップ位相補正についても、3.6Ω+20pFという、オリジナルとは遠くかけ離れた予想外の定数の組み合わせになってしまった。(^^;


ここで念のため。

No−168CDラインアンプのV−max位置での100kHz方形波応答とNo−168MCプリアンプのフラットアンプ部のそれを比べると、CDラインアンプのV−max位置での100kHz方形波応答の方はかなり鈍い波形だ。fcを比べても後者が500kHz程度なのに前者は250kHz程度と半分程度だ。何故か?

が、これはMCプリアンプのフラットアンプ部のボリュームが20kΩなのに対して、CDラインアンプのボリュームは50kΩなので当然のことだ。

そこで、MJ2006年9月号のNo−189(前編)の図2によって、ボリュームが最大値の4割=50×0.4=20kΩになるのは回転角目盛が7付近のようなので、CDラインアンプのボリューム位置を回転角7の位置にし、
MCプリ・フラットアンプ部のV−max位置の場合と同等の条件におけるCDラインアンプの方形波応答を観る。
No−168 CDラインアンプ ステップ位相補正 3.6kΩ+39pF
V−Level7(約20kΩのはず(^^;)
100kHz 10kHz
fc≒600kHz
ゲインが高くなればGB積から帯域は狭くなり、ゲインが低くなれば帯域は広くなる。という当たり前の結果な訳。

No−168 TR版CDラインアンプ 反転動作化後
続いて、反転動作化した我がNo−168TR版CDラインアンプ。

これは入力抵抗51kΩ、ボリューム50kΩとしてあるので仕上がりゲインは0dB以下になる。従って、それが0dB以上であった非反転動作の従前の場合と最適位相補正値は当然違ってくることが予想される。

のだが、先ずは非反転動作だった従来と同じステップ位相補正、1kΩ+300pF。

果たして結果はどうか。
No−168 TR版CDラインアンプ 反転動作化後 右チャンネル ステップ位相補正 1kΩ+300pF
V-min V-mid V-max(50kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
結果、結論としては、反転動作化後においてはこのステップ位相補正定数の組合せが最も妥当な組合せのよう。(^^;

と言う割りには、V−midにおいてリンギングが生じており、V−maxにおいても僅かにその痕跡がある。(^^;

のだが、どうも1kΩ+300pFの組合せにおいてそのリンギングが最もミニマムなのだ。即ちステップ位相補正の調整ではこのリンギングが消せないのである。

が、そのリンギングも振幅は小さいし3波程度で収まっており、これを許容すれば、V−minからV−maxまで方形波の再現性は良く、位相補正は上手くいっている。と考えられる。

なので、このリンギングさえ解決できればなぁ・・・。う〜ん・・・

位相補正素子の変更ではこれ以上どうにもなりそうにない状況なので、では左チャンネルはどうかなと思って、左チャンネルの方形応答を観てみた・・・
No−168 TR版CDラインアンプ 反転動作化後 左チャンネル ステップ位相補正 1.6kΩ+300pF
V-min V-mid V-max(50kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
あらら・・・

左チャンネルの方形波応答はさらに状況が悪く、右チャンネル以上にV−mid、V−maxにおけるリンギングが盛大だ。しかもこのリンギングはかろうじて収束しているから良いものの、V−midにおけるそれは発振的なリンギングだ。

そこで位相補正素子の組み合わせを変えて、どうにかそれが小さくなるように調整した結果、位相補正の組み合わせは1.6kΩ+300pFとなったのである。

その結果が写真のとおりなのだ。そして、こちらも右チャンネルと同様、ステップ位相補正素子定数の変更によってこれ以上状況を良くすることは困難なようだ。

これだと、V−midにおけるリンギングはちょっと許容範囲外だ・・・。困った。

困ったのだが、人間困った時にはわらをも掴む思いで必死に考えるべく脳みそをやや多めに貰っている。というわけで、必死に考えたのだが、(^^; 今回はこのように左右で方形波応答が違うということが原因を考えるヒントになった。左右チャンネルの何らかの違いにこの現象の原因があるかもしれないではないか。

というわけで、最初に思い浮かんだのは終段の2SC960のロットの違い。実はこれ、右がKA85で左はLA15なのだ。
が、石を交換してまで試した結果それは原因ではなかった。ざんね〜ん。(^^;

ならば。と、次に思いついたのが左右基盤の配置の違いである。配置の違いと言っても具体的に注目したのは、配置の違いによって生じている、左右基盤からVGAコントロールボリュームまでの配線の長さの違いだ。

何故なら、ここはNFB信号が通過する配線だ。K式ではなるべく最短距離で配線するようにされているぐらいで、あまり言及されたことはないが、実はここは微妙な部分に違いないはず。本来NFB配線を遠く引き回すなど・・・(^^;

この長さの違いが左右方形波応答におけるリンギング態様の違いの原因なのではなかろうか。さらに、もしそうであるとすれば、リンギング自体がこの配線の実装を原因としているかもしれない。その配線が長くなっている左チャンネルの方が状況が右チャンネルより悪いのも、この考え方で説明できそうだし。

という訳で、従前無造作に配線していた出力からボリュームに至り反転入力に戻る2本のダイエイ電線を、交流電源配線よろしくツイストしてみたのである・・・
No−168 TR版CDラインアンプ 反転動作化後 左チャンネル ステップ位相補正 1.6kΩ+300pF
V-min V-mid V-max(50kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
fc>1MHz fc>1MHz fc≒500kHz
当たり〜(^^)

V−midではまだ痕跡が残るが、これなら良いのではないでしょうか。(^^) 

こうなると、当然この手法は右チャンネルにおいても効果があるはず。

なのでやってみたら・・・
No−168 TR版CDラインアンプ 反転動作化後 右チャンネル ステップ位相補正 1kΩ+300pF
V-min V-mid V-max(50kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
fc>1MHz fc>1MHz fc≒650kHz
やはりこちらもリンギングは消え痕跡が残る程度に収まった。(^^)

この場合においては、リンギングの原因は間違いなくこの配線実装だったようだ。

ただ、改善後も残っているV−midでの痕跡。多分これがリンギングを引き起こすそもそもの原因なのだろう。これは残念ながら消えない。

のだが、これならまぁまぁ良いのではないでしょうか。(^^)

なお、こうなれば左右の位相補正は同じで良いのではと思ってやってみたのだが、結局右チャンネルは1kΩ+300pF、左チャンネルは1.6kΩ+300pFの組み合わせが最良であることを確認した。このアンプでは、基盤からボリュームまでの距離の違いが最良位相補正値を左右で異なるものにしている。ということなのだろう。

さて、今となっては非反転動作だった時にもこの位相補正の組み合わせが最も妥当な組み合わせだったのかどうかは分からない。のだが、非反転動作のCDラインアンプやMCプリのフラットアンプ部の結果とこちらの結果を照らし合わせて考えるに・・・、多分最適ではなかったかも。(^^;

さて。

方形波応答でステップ位相補正定数をいじった結果、それはオリジナルとはかなり異なるものとなってしまった。のは何故か?それが問題だ。(^^;

そこで、わたくし的には今一つ試してみたい、と言うか試してみるべきことがある。

それが右だ。

何だ? って、言うとちょっと見にくいのだが終段2SC960のロットがK57Bなのである。

実は、我がNo−168CDラインアンプの終段は2SC960のロットKA85、TR版CDラインアンプは同じく2SC960のロットKA85とLA15、そしてMCプリアンプのそれは2SC959のロットLA34なのだ。要するにいわゆる旧ロットなのである。

K先生の製作実例を拝見するとその終段にはいわゆる新ロットが使用されている。

もしや位相補正がこれほどかけ離れてしまった原因はここにあるのかもしれないので、ここに新ロットの2SC960を起用して試してみよう。という訳。 我ながらなかなかに面白い趣向だわい。(^^;

で、早速同様に方形波応答を観てみる。ステップ位相補正は3.9kΩ+39pFだ。
No−168 CDラインアンプ ステップ位相補正 3.6kΩ+39pF
V-min V-mid V-max(50kΩ)
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz
結果、う〜ん、ちょっと残念なような気もするのだが(^^;、安堵した。この結果は、2SC959(960)の旧ロットと新ロットに、素子を違えるべきほどの違いはないと考えるべき結果だから。まぁ、この場合はCを少し増やしてV−minにおけるリンギングをもう少し減らした方が良さそうではあるが。

が、その点では安心したのだが、こうなると何故オリジナルの位相補正があの定数の組合せなのだろうか?ということが大いなる謎になる・・・(^^;

考えられる原因としては、

@私の実装技術が悪いために結果が異なったものである。

Aオリジナルと同じと言っておきながら実は2SC1400や2SA726Gなどオリジナルとは違った素子を使っているために結果が異なったものである。

B方形波応答の機械的正確性だけで位相補正を決めてしまったために、最良の音となるように定数を決めてあるオリジナルとは結果が異なったものである。

など、いくつか考えられるのだが、多分BかあるいはBとその他が複合したものなのだろうて。

まっ、その真相は先生がオリジナルの方形波応答写真を発表されない限り永遠の謎だ・・・(^^;


とりあえず、わたくし的判断では、今回方形波応答の機械的正確性で変更したステップ位相補正定数の組合せの方が音もずっと良いような感じがするので(今のところ)、しばらくこのままにしておくことにしよう。(^^;




(2006年9月17日)




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