ヘッドフォン(も鳴る)アンプを誂える
(2000年5月完成)

ヘッドフォンはあまり好きではない。音が頭の中で鳴るのは奇妙だ。音は体の外からやって来て欲しい。だから、これまでヘッドフォンをまともに使うことを考えたことはなかった。
が、専用のリスニングルームなど夢のまた夢だから、近所迷惑を恐れながら、家人のいない頃合いを見計らって聴いている。TL−1601aで体の表面から骨を振るわせ延髄に抜けていく振動の快感に浸って音楽を聴ける機会などなかなかない。
最近は油断をしていると子供たちに怒られる事態におちいり、ついに観念した。
 
ヘッドフォンも使ってみるか。
さて、ヘッドフォンを鳴らすにもアンプが必要だ、と思って電器屋でヘッドフォンを見て回るとなんとインピーダンスは30Ωとか40Ωとかのものばっかりだ。こんなに低いの? これではパワーアンプが必要じゃないか。と言っても出力は1Wもあったら十二分だろうが。などと考えつつSONYのMDR−CD2000というのを買ってしまったのだった。

わが機器構成からすると、ヘッドフォンアンプの入力はプリのフラットアンプからになるからパワーアンプと条件は同じだ。しかし、こうするとトータルゲインが高すぎて耳が壊れてしまうのでアンプ入力にはボリュームを入れる必要がある。0dbパワーアンプなんて作る気にならないし。こうすればCDも直結できる。
ええい、この際普通のパワーアンプにしてしまえ。ボリュームを絞って聴けばいいんだ。という訳でこんなアンプになったのであった。

回路図

ヘッドフォン(も鳴る)アンプ 
ご覧のとおり、何ということはなく電池式GOAパワーアンプに入力ボリュームと出力ヘッドフォン端子を付けただけである。しかしながらこの大きさで±30Vの電池を用いれば30W程度、±15Vでは10W程度のパワーアンプであり、しかもヘッドフォンも鳴るというアンプである。どこかで聞いたようなフレーズだ。
(^^;


欠点はヘッドフォンをつないだまま不用意にボリュームを上げてしまうとヘッドフォンや鼓膜が壊れる場合があるという点だが、他人に使わせるものではないから構いはしない。ヘッドフォンだってDCアンプ直結で聴きたい。


結果、ガツン!と頭を殴られるようなアタック感と鮮烈さ。
さすがに耳元で超至近距離で聴く音は強烈で容赦がない。電池電源でもあるのでハムその他ノイズは皆無。ヘッドフォンで聴く金田式DCアンプは、まさに静寂の中に音が切り立ち直接脳ミソに響いてくる。
そんなわけで環境順応性がいいと言うか、ヘッドフォンもまあまあかなあなんて思ったりしている。頭の中の宇宙感。なんと寝る前に一人これで音楽を聴くのが最近楽しみになってしまったのだった。

おそまつ。
(2000年6月記)

その後
ヘッドフォン(も鳴る)アンプ基盤部 旧型K30が見える(^^;
ヘッドフォン用に誂えたアンプなのだが、その後パワーアンプとして使うことが増えている。入り口にボリュームが付いているので音量を0まで連続的に絞れる。これが実に便利なのだ。何をそんな当たり前なことを、と思われるだろうけれど、金田さんの考えに忠実であると今の金田式のシステムではこれが出来ない。

ヘッドフォン用と言うことで必要に迫られてボリュームを付けた訳だが、元々ただの電池式GOAパワーアンプだからスピーカーも当然鳴らせる。ボリュームがあるせいで音量が自由に設定できることがこのアンプの出番を大いに増やしている訳だ。夜中に小音量でしか聴けない場合など、このアンプの独壇場だ。

金田式DCアンプから通常の音量調整ボリュームが追放されたのは大分前のことなのだが、復活してみようかな、という気にもなってしまう。

また、小さく軽い機動性、下手なトランジスターラジオ以上に電池が持つ効率性も良いところだ。
電池式GOAはエコロジー的にも大変な省エネアンプで時代の要請にもかなっている訳だ。


基盤部と出力段TR
さて、AC電源の完全対称型パワーアンプ達の中にあって、乾電池電源のこのアンプが奏でる音はどうか。

完全対称型パワーアンプのスピーカー制動力は素晴らしく、バスレフ箱に入った40cmウーハーを意のままに動かす感覚は、比較すると電池式GOAではイマイチで、音がやや箱に止まってしまう感がある。また、エネルギー感と言うか力感と言うか、音の変調度が深いと言うか、音の浸透力のようなものでは完全対称型にはかなわないように思う。

が、比較しなければこれらの点は電池式GOAでも十分と思えてくるし、トランジスタの音でもあるのか、鋭いほどにクリアで、ソースの持つ感情をストレートに伝えてくる音は素晴らしく、完全対称型に比較してあっさりと鳴らす感じも悪くないものだ。

電池式GOAも金田式DCアンプの名作だ。とわたしは思っている。が、今となっては所用のパーツが入手困難だからせんなきことか。(^^;;


(2000年8月記)
 

その後の2
こちらへ

その後の3

ヘッドフォンも鳴る電池式完全対称型パワーアンプ 製作記


せっかく誂えた“ヘッドフォン(も鳴る)アンプ”、なのに解体してしまった。

別に音が気に入らなくて壊してしまったわけではない。No−139(もどき)のほんの少しの改造の余波だ。
これの音を聴くほどに乾電池で動作させる 電池式完全対称型パワーアンプを試してみたくなったのだ。酔狂だな〜。(^^;

そのためにの素材として選ばれたのがヘッドフォン(も鳴る)アンプ。
結果“ヘッドフォン(も鳴る)アンプ”は“ヘッドフォンも鳴る電池式完全対称型パワーアンプ”として蘇った。

バッテリー電源の完全対称パワーアンプは金田さんも一例だけ発表されている。MJ95年4月号No−127の出力インピーダンス可変式パワーアンプだ。MFBコントローラーは記事では2例目だが本来このNo−127が初搭載だそうだ。





金田さんはこの記事の中でそれまで発表されたAC電源の完全対称パワーアンプと比較して「やはりバッテリードライブの純粋で透明度が高く、クリアーでパワフルな音は印象的」とも「特性上は最も歪率の多い本機が、音は最も良い」ともおっしゃっている。なのに、これ以降バッテリー電源の完全対称パワーアンプは何故か沙汰止みになった。


それはともかく(^^;、No−127はニッカド電池を電源とした前段±42V、出力段±28Vの4電源だ。
完全対称型は出力段に大きな電圧ゲインがあるのでその分前段の出力振幅は小さくて良く、前段の電源電圧が出力段より10V以上も高い必要はないように思えるが、完全対称型は電圧的には+側出力段の入力電圧が出力電圧にフォローする構造なので、出力段の電源電圧を最大限出力に利用しようとすれば前段の電源電圧を出力段の電源電圧より高くしなければならない。この点はソース(エミッタ)フォロアー出力段を持つ普通のパワーアンプと同様だ。したがって4電源という訳だ。
ただし−側は本来その必要はないのでその後のNo−144等のように2段目定電流回路を省略する工夫をすれば−側を共通として3電源にすることも可能かもしれない。
が、出力段のアイドリング電流はMOS−FETが故か200mAとバッテリ電源としてはかなり多い。これを動かすためにはやはりニッカドか鉛シールドバッテリーを多数新たに準備しなくてはなるまい。

となると最早その気力が湧いてこない(^^;。案外これがこれ以降バッテリーが沙汰止みになった理由かも知れないなあ。(^^;;


そこでトランジスターによる電池式完全対称型パワーアンプだ。

電源は前段・出力段共通の2電源方式でいきたいし、出力段のアイドリング電流も電池が長持ちするように最低限の15mA程度としたいし、出力に使えない無効電圧も最小限にしたいし、電源電圧は電池の数や所要出力に合わせて±10V〜±30V程度まで広範に対応するものとしたい。といった高度な(ずぼらな(^^;)要請をかなえるとなると効率でトランジスターにかなうものはない。

TRによる電池式GOAはまさしくその好例だ。したがって“ヘッドフォンも鳴る電池式完全対称型パワーアンプ”はこれをベースとして当然の如くこうなった。





前口上が長い割には何の変哲もない。(^^;

が、これでも定数設定は部品の有効なキャリーオーバー、電源電圧の効率利用、適切な温度補償効果の確保、±電源の片減りの防止等を一応考慮して決めたつもり。オフセットとアイドリング調整は調整後に固定抵抗に置き換えることはしないで最初からTM−7Pを用いることにした。(今回はそう簡単に調整はすまないと見込まれるし、彼の方も使っているし。)また、MFBコントローラーはヘッドフォンもつなぐこともあって省略した。

ところで、完全対称型は100%帰還の掛かるエミッタフォロアーとは違うので、出力段素子のペア組にはやや気を使うべき。素子類は基本的に“ヘッドフォン(も鳴る)アンプ”からのキャリーオーバーだし、手持ちもほぼ尽きて新規入手困難の素子ばかりなのでうまく行くかどうか懸念がある。が、ないものはしょうがない。あるものを計ってみるしかない。ので、ついでに差動用等も含めてIdss、hFEを測定してみた。


Idss(mA) hFE (Ic=) 2mA 4mA 6mA hFE (Ic=) 5mA hFE (Ic=) 4mA
2SK30GR-1 3.75 2SA607-1 125 125 128 2SA607 L55F-1 167 2SC960 L5XB-1 92
2SK30GR-2 3.75 2SA607-2 125 121 125 2SA607 L55F-2 167 2SC960 L5XB-2 93
2SK30GR-3 5.5 2SA607-3 125 121 126 2SA607 M55F-1 118 2SC959 K5XB-1 106
2SK30GR-4 5.45 2SA607-4 121 121 125 2SA607 M55F-2 118 2SC959 K5XB-2 106




やや問題が有りそうなのが出力段用の2SD188だが、M15を落として残りのMランク、Lランク同士をペアにする。Lランクは誤差20%程度となるが他にないのだからやむを得ない。

ここで余計な話だが、手持ちの中古2SD188は元を辿れば初代A級30Wあたりからのキャリーオーバーだ。選択に漏れたD188のケースには足のベース、エミッタを示すB、Eの文字が彫られていて足を間違う心配がない。最も古い世代のものだろうか、他のD188には彫られていない。そう言えば古いアルミケースの2N3055にも同様の刻印がある。昔は親切、丁寧だったようだ。そういう意味で今回これが選択から漏れてしまったのはやや残念だ。
ついでに、当時A級50Wの電源トランスが特注のカニトランスでなければ今頃2SD218が残っていたかも知れない。彼の方が群を抜くとおっしゃる名器2SA649−2SD218は手にする機会がないままとうの昔に絶滅を迎えてしまった。これも残念。

さて、他はペア性も良さそうだ。と言うことで基盤の部品配置図と裏面配線図をこしらえて一気に組み上げた。

電池式完全対称型アンプ 基盤部組み立て自体は電池式GOA並みの手間で出来上がる、のは電池式だからあたりまえ。また、AC電源のアンプと違って電池式は電源オン時の緊張感が大幅に緩和される。組立はそれぞれの工程で確認しつつやっているし間違いはないわな。との自信もあるので全部配線してしまって電池電源との間に電流計をつないで早速調整する。プリアンプとヘッドフォン(専用)アンプ用の実測±27Vと±13Vになった電池がある。サーミスタにパラの抵抗はカットアンドトライ調整であるのでこの時点では付いていない。勿論2段目半固定抵抗は最大位置で、スピーカーはつながない。終段が動作しない間の2段目差動アンプ上側電流の流路確保の意味で出力にダミー抵抗をつなぐとなおベターだが、ダーリントンドライバー付き出力段の場合NFBでとりあえず下側ドライバーがその電流を吸い込むように自動調整されるので付けなくともなんとかなる。

±27Vの電池をつないだだけで15mA程度の電流が流れる。が、初段、2段のカスコードアンプ動作用電流を計算するとこれで正常だ。±13Vの電池では7mA程度だ。で、電源スイッチ(というかミューティングスイッチというべきか)をオンするとそのままだ。おかしくはなくてこれも正常だ。2段目共通エミッタのTM−7Pをドライバーでゆっくり右に回す。N13Tと違って3回転型だから随分回したような気がするあたりで電流が増えだして、回し過ぎると過大な電流値になる。ので一発で成功したことを確信する。ついで初段のTM−7Pで出力オフセットを0に調整する。これもスムーズだ。かつ変動も少ない。出力DCドリフトは多めに見ても±20mV程度で±13Vでも±27Vでもその範囲におさまる。発振等のトラブルの兆候は全くない。イイんじゃないか。(^^;

が、想定どおりアイドリングの温度補償はGOAのように完璧には出来ない。
今回の設定はC960を温度補償ループから野放しにしてその分D188を200D5で過剰に補償した設定にしてある(つもり)。実動作時は熱容量の小さいC960は多少暖まるがD188は殆ど暖まらないはず。このため終段アイドリング電流はC960が暖まると共に増加し、結果D188が多少暖まって増加が止まり安定するとの目論見だったが、200D5に430Ωをパラにしてほぼ想定どおりのアイドリング電流推移となった。

しかしながら、この結果出力段のアイドリング電流を15mA程度の最低限に押さえ込むことは出来なかった。
±13V電源で出力段のアイドリングを15mA程度とした場合両チャンネルの消費電流は当初50mAとしなければならないが、こうするとそれが徐々に100mA程度まで増加した後反転し60〜80mA程度で安定する推移になる。大きな出力を出してD188が暖まった方が安定時の電流値は下がる。また、この設定で±27V電源にした場合はアイドリング電流の推移は同様だが各電流値はこの倍程度になってしまう。

当初電流を絞ることも考えられるのだが、消費電流が両チャンネルで40mA以下になると終段のアイドリング電流不足かチリチリという感じの分かりやすい歪み(これがクロスオーバー歪みというやつか?)が出てくるので、この辺で妥協するしかないようだ。電池式GOAのように温度特性が同じTRやダイオードで直接バイアス電圧を補償する方式と違い、サーミスタで遠隔操作するが如きのこの温度補償方式ではこの辺が限界なのかもしれない。
が、補償は最終的には過補償で安定するし、アンプが冷えた後の電源オン直後のアイドリングが過大だったり過小だったりしていないので、まあとりあえずこれでOKとすべきだろう。

ということで、特に問題もなく完成だ。

さて音だ。私しか聴いていないのだから書いてもしょうがないのだが(^^;、まあ戯言ということで。

とりあえず同じ電池式のGOAパワーアンプその3と比較してみる。使用素子はほぼ同じものだ。

電池式完全対称型パワーアンプ 基盤&放熱器市販のブックシェルフ2WAYで聴くとそんなに違う感じはしない。どちらも電池式らしく繊細でクリアだ。何の濁りも感じない音像のクリアさと空間の透明さはやはり電池電源にも存在意味があるんじゃないだろうかと感じる。この点では完全対称型の方が気分クリアという感じだが、低域のエネルギー感ではNo−139(もどき)ほどの違いは感じない。
となると完全対称型にそんなにメリットはないのだろうか。

そこで家人を追い出してリビングのTADユニット2WAYマルチで聴いてみる。先ず完全対称型をウーハーにGOAをホーンにつないで聴く。これで聴くとやはり電池電源でも完全対称型の方がバスレフ箱の15インチウーハーのドライブ能力がアップすることが分かる。AC電源の完全対称型アンプ群のように軽々という感じのレベルには達しないが、GOAに比較するとより立体的な低音になる。(ただし、電池式GOAの低域ドライブ能力がそもそも悪いというものではありません。比較の話し。)まあ、大容量のRコアトランスはダテではない訳だ。

続いてウーハー用とホーン用のアンプを交換して完全対称型をホーン側に用いてみてちょっと驚いた。ホーンだしそんなに違うはずがないと思っていたのに大分違う感じなのだ。個々の音が実に滑らかで空間はあくまで透明で深い。全体に非常に正確な音に音場という感じを受けてしまう。これに比べるとGOAの音には多少のうるささというか人工的な華やかさのようなものを感じてしまうではないか。大人しいだけじゃないの?などとも思ったが完全対称型の方がどう聴いても本物のように思える。我ながら眉唾じゃないか?
が、ウーハーにNo−139(もどき)を用い、ホーンにこの電池式完全対称型パワーアンプを用いて聴く音は質感もピッタリで実にヨイなあ。(^^)
だが音は言葉では表せないもの。あまり書くと嘘っぽくなるだけなのでこの辺で止めよう。

さて、これはヘッドフォンも鳴るアンプなので最後に一言。これにセンハウザーHD600をつないで無信号時に最大ボリュームにしても全く無音。音は・・・(^^)


(2000年12月30日)

その後の4


21世紀最初の夏が来た。暑い!!

この地は梅雨明け宣言もまだなのに、昼間入道雲が遠くで天空まで登っていると思えば、毎夜激しい稲妻と雨に見舞われる・・・。
もはやオーディオどころではない。広くもない暑い部屋では音自体が暑苦しい・・・という精神的事情もあるが、アンプが発する熱を赤外線として感じてしまうという物理的事情もうっとうしい。夏は熱を発しない“冷たいアンプ”が欲しいなぁ(^^;

冷たいアンプとは即ち非常に効率の高いアンプということだが、我が家にC級orD級?アンプなんてないし・・・
ということで電池式GOAアンプのお出ましを願おうか・・・と思ったのだが・・・そうだ、“ヘッドフォンも鳴る電池式完全対称型パワーアンプ”があったじゃないか!!(^^)

が、冬に作った時点では妥協したが、温度補償が完璧ではない点とアイドリング電流が電源電圧に比例して増加してしまう点はやはり気になる。夏はそれがより顕著に現れるのだ。

特にアイドリング電流だが、±15Vで両チャンネルで50mAに調整した状態で±30Vにすると同じく150〜250mA近くにもなってしまう。
こんなに流れたのでは小さな放熱器に取り付けられたパワーTRが発熱して“冷たいアンプ”にならない(冬は気にならないことが暑い夏だと大いに気になる。人間とは勝手なもの(^^;)し、電池の寿命も縮めてしまう・・・
かといってその都度アイドリング電流を再調整するのでは、狙いとした“ずぼらな要請をかなえるアンプ”とは言えないし・・・
やはり、まだ電池式GOAパワーアンプの完成度まで至っていないなぁ(^^;


じゃあ改良しましょう。ということである朝の涼しい内に改良してしまったのであった・・・(^^;
果たして上手くことは運んだのか・・・


まずは温度補償だが、バイポーラトランジスターを用いた完全対称型パワーアンプの温度補償はなかなかに難しいもの、と思う(^^;

UHC−MOSは本来の大電流領域のgmは非常に大きいが、B級アンプのアイドリング電流程度の低電流領域ではバイポーラトランジスターのgmの方がよっぽど大きいようで、その分TR型の方が温度補償もより正確なものが要求されるようだ。その意味でサーミスタのように温度対抵抗特性が直線でないものはそもそもTRのように温度に敏感な素子の温度補償には不向きで、出来ればサーミスタに変わる温度補償法が欲しいというのが実感(^^;(が、ないものねだりをしてもしょうがない。)

だから温度に敏感なTRをダーリントン接続して使うB級動作の出力段のアイドリングを安定したものにするためには、少なくともドライバーTRと出力TRを別個に補償するのは必然のようだ(GOAだってそうだし)。特に電池式でアイドリング電流を最小限レベルで安定させたいという場合はなおさらだ。

と言うわけで、原因は既に分かっている。サーミスタを1個ケチったが故だ。このアンプもサーミスタ2個で1個はC960を、1個はD188をそれぞれ別個に温度補償すべきなのだ。

が、故なくケチった訳ではない。
電池式で最大限の効率を追求するGOAを母胎としているため、初段のドレイン負荷抵抗の1.2KΩ+サーミスタに生じることが許されるロス電圧はたったの1.0V+αであって余計な抵抗がシリーズに入ってくることはとても許されない状況なのだ。だからサーミスタは1個で妥協したのだが、やはり終段D188を過補償にしたとはいえ、C960が野放しなのは問題で、この様に暑くなるとアイドリング電流が大きめになってしまう。これではいちいち季節に合わせてアイドリング電流を再調整しなくてはならず、“ずぼらな要請をかなえるアンプ”にならない。

再計算してみよう。初段の動作電流はツェナーダイオード05Z5.6の発生するツェナー電圧で決まってしまうが、これは5.6V、故にC1775のエミッタ抵抗3.6Kの両端電圧は5Vなので初段の電流は1.389mA。よってドレイン抵抗1.2KΩによる電圧降下は0.83V(5/3.6/2*1.2)、サーミスタはパラの抵抗を考慮すると20℃で150Ω程度とすれば0.2V(5/3.6*0.15)となるから合わせて1.03Vになる計算だ。やっぱり許容された電圧は全部消費してしまいこれ以上サーミスタを追加する余地はない。

あと0.2Vの余裕があればサーミスタをもう1個追加できるのだが・・・
最大限の効率を捨てて1S1588*3の代わりにHZ3C2でも用いるか・・・初段の動作電流を少し減らすか・・・1.2KΩを1KΩに代えるか・・・とも考えた・・・

が、よくよく計算してみるとこのアンプの各定数設定で適切な温度対抵抗特性を得るためにサーミスタにパラ接続すべき抵抗値は150Ωあたりで良さそうで、ということは抵抗+サーミスタパラの抵抗値は20℃で90Ω位だ。ということはこれによる電圧降下は0.125V。な〜んだ、これなら抵抗をパラ接続したサーミスタをもう1個追加できるじゃないか(ギリギリのところだが)(^^)



もう一つの課題は、電源電圧対アイドリング電流の比例的関係だ。

あれやこれやその原因を考えてみたのだが、はっきり言ってオームの法則は根元的法則だから、電圧が高くなれば流れる電流が増加するのはごく自然であって、自然に反することをしようとするのが間違っている(^^;。例えば、TRは出力インピーダンスが高いと言っても無限ではないからCE間電圧が高くなれば同じバイアスでもIcは増えるのが掟というもの。

と、考えると原因は回路中のどこにもあることになるのだが、最も自然に反することをやろうとしているところが一番怪しい訳で、それは初段の定電流回路だ。

そこで、その定電流特性を生み出しているツェナーダイオードの定電圧特性に目星をつけてその電流対電圧特性を実測したのだが・・・
案の定右のグラフのように2mA以下ではもはや定電圧とは言い難いし、2mA以上でも10オーム程度の内部抵抗で電流増加とともに電圧が増加する特性じゃないか・・・

まあ、これでも定電流回路全体としては十分な出力インピーダンスになる訳だが、完全対称型はGOAより終段がその変化に敏感な構造であって、より性能の高い初段定電流特性を要請している・・・というになろうか。
それが今回“ずぼらな要請をかなえる”完全対称型パワーアンプにしようとして、図らずも明らかになった訳だ。

じゃあ、どうするか。この定電流回路型式でより高い性能を得ようとすれば、ツェナー電圧が変動しないようにするしかないが、そのためにはツェナーダイオードに流れる電流を電源電圧によらず一定になるようにしなければばらない。ので、定電流特性に優れるJ103を定電流ダイオードとしてツェナーダイオードへの電流供給抵抗の代わりに起用してみることにした。ちょうどIdss=3mA程度の2SJ103が手元にあった。



という訳でこうなった(^^;





片方のサーミスタのパラ抵抗が220オームになっているが、こちらはC960に熱結合するサーミスタでトレミングの結果。何事も計算通りにならないのは世の常(^^; 今後また微調整するかもしれない・・・

さて、結果だが、

定電流回路改良の効果は抜群でなんと電源電圧±15Vでも±30Vでも設定アイドリング電流が変化することはなくなった。

が、定電流を得るための定電圧を得るために定電流回路を使うというのもスマートさに欠ける感じで、こうするなら定電流回路自体をJ103 1個のシンプルな定電流回路にすれば、という意見も当然ありましょう・・・が、改良の流れというものもあり、これはこれで非常に高性能な定電流回路になったことは確かだし、J103 1個の定電流回路ではここで動作オンオフができなくなるので、まあ、いいかな(^^;

また、サーミスタを1個追加してドライバーのC960も温度補償したことにより、アイドリング電流も非常に安定になった。
±15V電源では両チャンネルで50〜60mAにおさまったまま安定して動作する。
±30V電源ではさすがにこれが50〜100mAの範囲になるが、改良前に比べれば雲泥の差で、電池式GOAパワーアンプのレベルには達しないものの、これなら電池式らしい“冷たいアンプ”と言っても良さそうだし、“ずぼらな要請をかなえるアンプ”にもなったようだ(^^)



さて、効率ばかり追求しても音が悪ければなんにもならない訳だが・・・

色濃くて分厚くてクリア・・・と、実に完全対称型らしい音(^^)

音が悪くなったと言われる水銀0のナショナルNEOで鳴らすこの電池式完全対称型パワーアンプも、こんな感じで、AC電源の“139(もどき)その2 With 2SD217”に実によく似た音を出す・・・ように聞こえる。駄耳のせいか(^^;

重くて場所をとって暑苦しいAC電源を止めて、また軽くて小さくて作りやすくて涼しげな電池式に戻るのも良いかもしれないなぁ〜(^^;
鉛シールバッテリーも取りあえず2個買ってみたし・・・
(2001年7月20日)
なんと、まさに今日当地も梅雨明け宣言がなされた。今年の夏は長く暑いものになりそうな予感・・・

(その後の4の補足)


駄耳のせいだった(^^;;

定電流回路の高性能化に舞い上がって音まで良くなったように感じたのだが・・・
程なくして自己催眠効果も醒めると・・・、あれ・・・軽いや・・・(--;;
電池電源だからこんなものかなぁ・・・、D188の音かなぁ・・・などとちょっと途方に暮れる。
まずいな〜〜上のように書いちゃったし(^^;;

完全対称型らしいどころか、締まりすぎた感じでズーンとくる低音の迫力も音が炸裂する感じも薄まっている。変な表現だが音の変調度が浅くなった感じで音量を上げてもエネルギーが付いてこない空振り感が強い方向になってしまっている。おかしい・・・

が、なんとか気を取り直して、原因はツェナーダイオードへの供給電流を安定化しようとして入れたJ103だろうと目星をつけこれを3.9KΩのススムに戻した。
なんと、音も戻った。浸透力のある鳴り振りの良い音で音量が小さくてもエネルギーが伝わってくる聴いていて楽しい音だ。

ふ〜む・・・あそこは直流が流れるだけだし、なんで定電流特性に優れるJ103でかえって駄目になるんだ?

などと考えても分かる筈もない。結局のところ効率ばかり追求しても音が悪ければなんにもならない訳で・・・(^^;;

よって、電源電圧対アイドリング電流の比例的関係という課題は解決しないことになった。
まあ、電源電圧は±30V用として、アイドリングは片チャンネル50mAで使うことにしよう。もう一つの改善効果でアイドリング電流は実に安定となったし(^^)



というだけで終わりの筈だったのだが、実はここに凄いパーツがやって来た。

これを導入してみたら、今度はまさしく
AC電源の“139(もどき)その2 With 2SD217”に実によく似た音になった・・・。本当だろうか駄耳の>(^^;;

そのパーツとは?

2SC1478

MFBコントローラーも付いていないので、139(もどき)その2に比較すると電池式はより締まった感じであることに違いはないのだが、定電流回路のC1775をこれに交換することにより、音が炸裂して伸びやかに散っていく感じや低音の怒濤の迫力で心臓が圧迫される感じなど、一層完全対称型らしいダイナミックな音になった。しかも切れ味鋭く鮮やかでナチュラルだ。(当社比だが(^^;)

松下製でEP型、Vcbo=35V、Vceo=35V、Ic=50mA、Pc=150mW、Tj=175℃、Cob=2.2pF、ft=150MHz というメタルキャンパッケージの多分に古そうなトランジスターだが、M−NAOさんによれば「C1400が裸足で逃げ出すかも」とのこと。
なるほど、少なくともC1775は退散を余儀なくされた。

いやいや・・・

音のことを言葉で表現すると大した違いがあるわけでもないものがとんでもなく違うもののように伝わってしまうもの。我が耳は駄耳だしここは話し半分以下・・・ということで(^^;
特にC1478については耐圧も低くて使えるところは限られるし、入手難・・・(^^;;;


(2001年8月1日)



   



その後の5



完全対称型パワーアンプをプラスマイナス2電源の電池式で鳴らしている。

これでアイドリング電流は片チャンネル50mAで良いし、そのアイドリング電流の安定も非常に良いし、作りやすいし、持ち運びに便利だし、音は重量級のRコアトランスを電源にしたものに勝るとも劣らないし、保護回路の心配もいらないし、と、かつての電池式GOAパワーアンプのうたい文句が全て当てはまるのが、この電池式完全対称型パワーアンプである。

と思っているのは自分だけか(^^;<手前味噌

また、その構成のシンプルさ故に改良が容易なのも電池式GOAと同じだ。
といっても殆ど改良作業などしていないのだが・・・(^^;

が、前回から1年半が過ぎて、また改良(というか実験)の素材に選ばれたのはやはりこれだ。

結果、基盤は右の写真のとおりとなった。上の写真と比べると分かるように、空きスペースが埋まっている。なんとも上手くスペースが用意されていたものだ。こうなることがハナから予定されていたかのようである。

外見的変化はこれだけのことだが、今回の改良は実は大改良である。

K先生が半導体完全対称型パワーアンプのゲイン配分を見直し、初段と終段にゲインを集中し2段目は単にその橋渡しの役割を果たすだけという新方式に移行して既に数年。その本質が、オープンゲインでのハイゲイン&広帯域=GB積の拡大により、終段が電流・電圧ゲインを有することによって得られている完全対称型パワーアンプの優れた表現能力を充実強化し、一層の音楽表現力を獲得することにある、ということがようやく明らかになりつつあるが、そのコンセプトをこのいにしえのトランジスタを使った電池式完全対称型パワーアンプに導入しよう! というものなのである。



なんて大口を叩いた割には回路的に大した変更にはなっていない・・・(^^;

果たして、この微細な回路変更にどの様な意味があるのか?

興味のある方はこちらへどうぞ。






問題は改良後の音だが・・・

大変きめ細やかで低音の質感がとても良くなった。ように思える。し、全体にスケール感もアップしより自然でありのまま、という感じなのだ。が、果たしてどうだろう・・・(^^;

電源は通常は鉛シールバッテリーを2個で±12.5Vで使う。

この場合は電源容量もあり、インピーダンスもごく低いので、AC電源の場合と同様の注意を払う必要がある。
音は力感に富み、バランス的にも悪いことはない。

現行ナショナルNEO乾電池でも悪くはない。

右はそのNEO乾電池である。
が、外皮を剥いでヌードにし、マイナス側は直接亜鉛電極に電線を半田付けしている。また、接続用電線は銀線だ。ヌードにした電池には絶縁を確保するために和紙を着せている。
な〜んて、実は借り物である。ありがとうございます。m(__)m

これを電源にすると鉛シールバッテリーのある種冷たさと固さが分かる。
ヌード電池では一層奥行きと深みが増し、包み込まれるような暖かい幸福感が感じられる。

が、やや膨らんだ感じ、と感じられるかもしれない。
そういう場合は、少しクールな鉛シールバッテリーで聴こう。が、それは鉛の固有音だ。総合的にはこのヌード電池の勝ちだ。


さて、
ようやく完全対称型の姿が見えてきたような気がする。のも、雑誌の付録に付いてきたPSpice(評価版)のお陰だ。

SPiceエンジンに凝縮している無数の先人の智慧と努力には心から敬意を表したい。




(2003年2月9日)