ヘッドフォン(専用)アンプの実験
(2000年8月)
SONY MDR−CD2000。何の予備知識もなくカタログデータのインピーダンス32Ω、許容入力1500mWを見て、これをフルにドライブするには、√(2*32*1.5)=9.8V、9.8/32=0.3Aだからパワーアンプ(と言うか、それなりの電流供給能力)が必要、と、「ヘッドフォン(も鳴る)アンプ」を急遽誂えたのだが、現実に使ってみるとそんな最大許容入力までドライブする電流供給能力など全く不要だということが良く分かった。
カタログデータのとおり能率は106db/mW。これに1.5Wを入力して耳元で鳴らしたら鼓膜が幾つあっても足らない。現実には1mWも与えれば十分以上の音量で、常用使用域はそれ以下。40mWを供給すれば120dbを超えてしまうのだ。ということで、インピーダンス32ΩのMDR−CD2000をガンガン鳴らして聴くとしてもドライブアンプは数十mA程度の電流供給能力があれば御の字で、SEPPなら25mAのアイドリング電流を流しておけば120dbの音量までA級ドライブだ。な〜んだ(^^;)。
最近の(ことかどうか知るところではないが)ヘッドフォンが低インピーダンスに作られているのは、スピーカーの傾向と同じでその方が低い電源電圧でも出力が稼げるためだろうか。ハイインピーダンスの場合所要電流はさらに少くなり結構なのだが、電圧はインピーダンスの増加比に√2を掛けた分必要だ。1.5Vや3Vで動いているウォークマンなどのポータブル機器でも十二分に利用できるよう、数十Ωの低インピーダンスにし、数十mA程度の電流供給で十分な音量が得られるようにデザインされているのだろう。世の中はそれなりに調和している訳だ。
そう考えると、そんな風に作られたヘッドフォンを鳴らすのにGOAパワーアンプを持ち出すなど大袈裟すぎたようだ(^^;)。これらのヘッドフォンには適当に電流供給能力のあるオペアンプでも使って鳴らすのがよっぽどスマートだ。今やものによってはICオペアンプの方がディスクリートで組むよりよっぽど高性能かつ高音質らしいし。現実に我が家の3V電池電源の“Discman”など侮りがたい音でMDR−CD2000を鳴らしてくれる。
が、過剰性能のGOAパワーアンプでヘッドフォンを鳴らすなんてこともアマチュアならでは(^^;;、だし、ディスクリートでヘッドフォンアンプを作るなんてことは、今やアマチュアしかやらないことだろう、などと考えつつ、よりスマートなヘッドフォンアンプとして完全対称型のヘッドフォン(専用)アンプが頭に浮かんだのだった。
そこで、ちょっと予備実験をしてみた。
次の回路の電流ゲインなどを実測してみたのだ。
2SA606 Hfe=150 15mA |
|
|
|
|
Ic (mA) |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
Ii (mA) |
0.5 |
0.52 |
0.535 |
0.55 |
0.56 |
2SC960 Hfe=150 15mA |
|
|
|
|
Ic (mA) |
5 |
10 |
15 |
20 |
25 |
Ii (mA) |
2.95 |
3 |
3.05 |
3.1 |
3.15 |
2SA606 |
|
|
|
2SC960 |
|
|
Vc(V) |
2.5 |
13 |
23.5 |
Vc(V) |
5 |
13 |
21 |
Ic(mA) |
2.8 |
3 |
3.2 |
Ic(mA) |
13.5 |
15 |
16.5 |
電流ゲインはIc/Ii。で計算すると、2SA606の方は(5−1)/(0.56−0.5)=66.67、2SC960の方は(25−5)/(3.15−2.95)=100となる。アナログテスターを2台使って目視で目盛を読んでいるものなので正確とは言えないが、C960の方は全くリニアなデータだ。A607の方はhfe上昇部分の電流域なのだろうか、Icの増加と共に電流ゲインも増加している。
この回路を下の回路図のように組み合わせてヘッドフォンアンプにするのである。何のことはない。No−128?(完全対称型プリアンプ)のフラットアンプだ。そう、そうではあるが、あの基本回路をそれなりにブラッシュアップして、「電池式完全対称型ヘッドフォンアンプ」として製作してみようという訳だ。
この回路は分かりやすい。初段で信号電圧がVI変換され、2段目、終段で電流増幅されながら電流伝送されて、最後に負荷抵抗に当該電流が流れることによりIV変換されて出力信号電圧となる。だから、回路のオープンゲインは、「初段gm×2段目電流ゲイン×終段電流ゲイン×負荷抵抗」となって、回路のオープンゲインは負荷抵抗値に比例する。実に簡単だ。
早速計算してみると、初段はK30GRでそのgmは過去のMJスーパーサーキット講座から200Ω半固定抵抗を勘案して1.84、2段目の電流ゲインが上の実測値を使って67、終段の電流ゲインが同じく100。
として、この回路のオープンゲインは、1.84×67×100×負荷抵抗値(KΩ)となるので、
負荷30Ωの場合は
369.8=51.36db
負荷300Ωの場合は
3698.4=71.36db
と、計算上は30Ω程度のローインピーダンスヘッドフォンから300Ω程度のハイインピーダンスヘッドフォンまで、必要十分程度のオープンゲインが確保できるようだ。
が、この計算は2段目、終段とも理想的に電流出力アンプとして動作した場合で、現実はそうではないから、実際のオープンゲインはもっと下がるはず。だが、要は出力側と入力側の相対的問題、ということで上の予備実験では動作電流付近でコレクタ−エミッタ間電圧を変化させてコレクタ電流の変化も測り出力インピーダンスを実測してみた訳だ。これも正確性に保証はない。特にC960はこんなに電流を流すと自己発熱のためIcは安定せず正確な測定は無理だ。が、これによれば2SA606は(23.5−2.5)/0.4=52.5KΩ、2SC960は(21−5)/3=5.3KΩとなった。C960の方は測定手法が稚拙なためで本当はもっと高いはずだ。
これなら2SA606(607も同じ)はカスコードを付加する必要もなく裸の出力インピーダンスで十分だ。2SC960はプッシュプルだとさらに半分なのでちょっと低いかなとも思うが、実際はこの実測値より高いだろうし、300Ω以下の負荷を前提とすれば十分ではないだろうか。まあ計算どおりのオープンゲインは得られなくともそれなりのゲインになるだろう。
ということで、動作設定。
電源電圧は±15V。ディスクリートではこれ以上低い電圧では不利だ。20本入りの電池を10本ずつ使って得られるこの電圧設定でいこう。レギュレーターは使わない。これで終段の実効電圧は±10V位になるから、実際上不必要とは言え32Ωで1.5W、300Ωで200mW程度の最大出力が得られる計算にはなる。
アンプ単体としてのクローズドゲインはNFB安定度等も勘案し11倍とした。
終段のアイドリング電流は18mAでどうか。これで32ΩのMDR−CD2000でも20mWまでA級動作でドライブできてしまう。300Ωのヘッドフォンなら200mWまでA級ドライブだ。C960は電流を流すほど出力インピーダンスは下がる。プリアンプのフラットアンプならもっと高くあってほしいところで、動作電流を減じるかエミッタ抵抗を入れたいところだと思うが、今回のヘッドフォン専用アンプとしては基本的に百Ω前後の負荷が前提だから問題はないだろう。高すぎると仕上がりの出力インピーダンスが十分下がらなくなるおそれがある。これでC960は動作時270mWを消費する。手を触れればちょっと熱い!という程度に発熱するがちょうど良い損失だと思う。
2段目はその負荷の220Ωに0.6Vのバイアスを発生させる電流となるので、3mA程度が必然となる。2SA606にはやや少な目かとも思うが、得られる高い出力インピーダンスとその負荷が220Ωと低いところがミソなので良いところだ。
初段は2mAにしよう。Idss4.2mA程度のK30GRを起用するのでちょうど良い。入手した05Z6.8がZランクでツェナー電圧が7V。故にC1775のエミッタ抵抗は1.6KΩとなった。
さて、終段はTRだし、270mWも消費させエミッタ抵抗も使わないので温度補償をしなければ熱暴走してしまう。このため、初段のドレイン抵抗−電源間にサーミスタ200D5を挿入し、マイナス側のC960の腹に抱かせるようにアラルダイトで熱結合することとした。No−128?完全対称型プリアンプを製作した時に、C960のベース−エミッタ間抵抗にサーミスタをシリーズ接続する最近の完全対称型パワーアンプで使用されている手法での温度補償も実験して良い結果だったが、今回はベース−エミッタ間抵抗がそもそも低いので採用できない。また、サーミスタを2つも用いるのはこんなシンプルなアンプにはやはり似合わない。と言うわけでこうしてみた。
そうしたら、この回路と動作電流設定ではサーミスタに820Ωをパラ接続するとちょうど良いようで、電源ON時に5mAほど多めに電流が流れるが、発熱と共に電流は減少し、設定電流値で安定となって以後びくとも動かない状態になる。大成功。
なお、終段のアイドリング電流は2段目の共通エミッタ抵抗を調整して設定値にする。ツェナーダイオードのばらつき等をここで吸収するわけだが、私の場合は360Ω+20Ωと360Ω+10Ωとなった。10Ωの違いでアイドリング電流が5mA程度変動するので厳密に合わせようとすれば抵抗のシリーズ接続が必至だ。が、その程度のアイドリング電流の違いが問題を生じる訳ではないので神経質になる必要もないし、何なら最初から半固定抵抗にしてしまえば楽だ。
さて、問題はNFBによる発振などのトラブルだ。必要とあれば位相補正措置を講じなければならない。普通はゲインやポールを計算し、あるいは測定して所要の位相補正措置を想定して詰めていくのだろうけれど、私にはその能力も環境もないので(いばって言うことではないが(^^;))、まず作ってみてその後泥縄式に対処することとする。
取りあえず基盤への部品配置や裏側の配線等を検討して組み上げて見ると、特に位相補正措置を講じなくともまったく安定だ。TRのCobが勝手に効いているか、想定ほど出力インピーダンスが高くなくてオープンゲインもそんなに大きくなっていないのかもしれないが、この構成ならオープンゲインの高域カットオフ周波数がそんなに低いとも思えないので、これで良しとする。出力のドリフトをみると±5mV以内。ということは適度にオープンゲインが確保されていることの証でもあると思うので、いいんじゃないだろうか(^^;;。
ちなみに400Hz、ON−OFF法で出力インピーダンスを測ってみた。
|
|
|
開放時(V) |
負荷時(V) |
負荷(Ω) |
出力インピーダンス |
Headphone-2 |
|
|
2.5 |
2.48 |
330 |
2.661290323 |
|
|
|
2.5 |
2.44 |
110 |
2.704918033 |
|
|
|
2.5 |
2.3 |
33 |
2.869565217 |
負荷によって余り変動することなく3Ω弱だ。ヘッドフォン(も鳴る)アンプの0.04Ωに比べると高いが、30Ω〜300Ω位のヘッドフォンに対しては良い数字ではないだろうか。
なんと一発で完成だ。本当は周波数特性や歪み率ぐらいは測らなくちゃいけないのだが、測定器類がないから知らぬが仏なのだ(^^;;。が、発振器とオッシロぐらいは欲しいなぁ〜。
図らずもヘッドフォンアンプが2台になってしまった(^^)。となれば当然聴き比べということになる。
私の耳だから、そんなに差を聞き分ける能力は備わっていない。ほとんど同じように聞こえるというのが本当のところだ。
が、あえて言えばGOAはやはりサラサラと天にも抜けるような爽やかさを感じる。音も比較すると全体によりタイトに聞こえる。完全対称型の方はGOAに比較するとねばりを感じると言うか、別に明瞭さに劣っているわけではなく、やや弾力感のある鳴り方がそう感じさせる。また、比較すると音がより立体的で彫りの深さやエネルギー感に優る感じがする。
さらに、演奏の感情がどう伝わってくるかといった聴き方で、どちらによりデリカシーがあるか?と言えば完全対称型の方のようだ。完全対称型と比較するとGOAは音の出方がやや機械的かつ平板の方向に振られる。この爽やかな明瞭さも捨てがたいものではあるが、演奏のニュアンスや感情表現では完全対称型に軍配があがるようだ。
などと偉そうに試聴記などを記してもしょうがないので、この辺にする。なお、これはあくまで私の作った以上の2台のアンプに関する話しですので悪しからず。
さて、
もうこの地は秋の気配が漂っている。日中はまだまだ蝉がうるさいものの、朝夕は涼しいぐらいだ。空も高くなりつつある。
秋の夜長は音楽を聴くのがふさわしい。ヘッドフォンももう少し勉強するかもしれない。
(2000年8月19日記)
その後
上の出力インピーダンスの測定手法が間違いだと気づいたので測定し直した。
結果は表のとおりである。
測定数値が正確かどうかは別にして、完全対称型の理論にマッチした結果となっているところがそれらしくて喜ばしい(^^)。
喜びついでにグラフにもしてみた。なお、270Ωの場合の出力インピーダンスは実測ではなく測定結果からの推計値である(^^;)。
測定負荷(Ω) |
測定負荷時(V) |
+負荷時(V) |
+負荷(Ω) |
測定値(Ω) |
10 |
2.5 |
2.45 |
110 |
2.245 |
30 |
2.5 |
2.49 |
330 |
1.325 |
91 |
6 |
5.995 |
910 |
0.759 |
(2000年8月28日)
その後 2
「ヘッドフォン(専用)アンプ」は、実はあるヘッドフォンをターゲットに製作したものだ。
SENNHEISERのHD600。いずれ使ってみることを想定していたのだが、つい入手してしまった。
インピーダンスは300Ωと国産にはみられない高さだ。許容入力は200mW、感度は97db at 1KHzとある。
「ヘッドフォン(専用)アンプ」で鳴らすHD600からは、完全対称型パワーアンプでスピーカーを鳴らしたときに得られる音の感覚に似た感覚が得られると言ったら大袈裟だが、そんな感じが得られる。脳内定位以外はヘッドフォンで聴いているという違和感をあまり感じないですむ。低域から高域まで帯域バランスがごく自然で、非常にタイトかつ透明できめ細やかでありながら、骨格がしっかりしつつ弾力感もある、いわば芯のある音の鳴り方で、質感、実在感が得られる音だ。ヘッドフォンにはサ行が強調されるものが多いが、これはサシスセソもごく自然で、余韻も美しく漂い、音量を上げてもこれが崩れないのでうるさくなることもない。
「FUNKALLERO」(fairy tale/Yoshiko
Kishino)で聴ける木住野のピアノの力強さや美しい張り、GOMEZのベースの重い芯と弾力感がちゃんと表現される。聴くほどに手にした偶然に感謝したくなる。法外に高価な部類のヘッドフォンだが、許すことにした。
MDR−CD2000。別に悪くはない。やや高域が華やかで低域がふくよかな感じもするが、これだけを聴く分にはこれで十分なような気がする。が、直後にHD600を聴くと、私の耳が駄耳であることを思い知らされる。音場のクリアさ、音の細やかさ、正確さ、どれをとってもHD600が上手だ。HD600と比較してしまうとCD2000の音には何か余計な付帯音が付きまとっていることが分かる。端的に言うとHD600で聴くSteinwayの質がそこらのピアノに落ちてしまう感じなのだ。とまで言ったら言い過ぎだが、微妙な差が結果を分けるのは致し方ない。が、逆に致命的な差かと言われたらそうではないと答える。やはり微妙な差だ。
とHD600は良いことづくめのようだが、別にヘッドフォン聴取がスピーカーによる再生に優るとは思っていないので念のため。
金田式DCアンプで鳴らすスピーカーの解像度、透明度はもとより高く、HD600の解像度、透明度がこれに優るという感じはない。また、HD600で得られる音楽表現はスピーカーでは当然の如くそれ以上に得られるものだし、体で感じる本当の音のエネルギーはスピーカーでなければ出ないし、大体、自然な音場感はヘッドフォンには望むべくもないのだ。
が、夜中に一人音楽を聴きたくなる時もある訳で、「ヘッドフォン(専用)アンプ」とMade in IrelandのHD600がその良き伴侶になってくれることは確かだ。
(2000年9月3日)
(補足)
大変嬉しいことに本ヘッドフォン(専用)アンプを製作して好結果だったというメールを頂いた。(^^)
が、当初、熱結合したA607が微妙にショートしてしまい出力が−15Vに張り付いて終段を飛ばしてしまったとのこと。
あえて書いておけば良かったのに、との反省を込めての補足。
A607の熱結合について、金田さんは99年9月号のNo−156でも「アラルダイトが絶縁体の働きをするのでマイカ板は必要ない」とおっしゃておられるのだが、私の経験ではこれは止めておいた方が良い。No−139で「本来なら絶縁シートを介して接着すべきだが、アラルダイトに十分に絶縁性があるので、接着面にまんべんなく塗ってから接着すると良い。また接着の後、コレクター間が絶縁されていることをテスターでチェックする」と書かれているように、アラルダイトの塗り方によってはショートしたり、絶縁が不完全になったりしやすい。
私は一度試してみてどうしても絶縁を完全にすることが出来なかったのでこのやり方は採用していない。
それにしては上の写真では直接接着しているように見えるがどうしているのか?
実はマイカ板をA607の直径程度以下の小さな円形に切ってA607の間に挟んで接着しているのである。これでショートや絶縁不足によるトラブルは全く心配無用となる。
(2001年2月5日)
その後 3
我が家にはヘッドフォンを鳴らすべく製作したアンプが2台ある。1台は勿論このヘッドフォン(専用)アンプであるが、もう一つは“ヘッドフォンも鳴る電池式完全対称型パワーアンプ”だ。
実は、“ヘッドフォンも鳴る電池式完全対称型パワーアンプ”の実体はパワーアンプであって、その出力にヘッドフォン端子を付けてあるに過ぎない。要するにヘッドフォンはおまけなのだ(^^;
これに対して、この“ヘッドフォン(専用)アンプ”は正にヘッドフォンを鳴らすことをターゲットにしたアンプだ。
これまで、この2台のヘッドフォンアンプで聴くヘッドフォンの音に有意な差を感じることはなかった。
“ヘッドフォン(専用)アンプ”の方がヘッドフォンをターゲットにしたものだから、心情的にはこちらの方が良い音がして欲しい、と思っていたのだが、甲乙付けがたい状況だったのである。
ある種、両雄並び立っていたわけである。
が、状況が変わってしまった。
“ヘッドフォンも鳴る電池式完全対称型パワーアンプ”をちょっと改良した結果、なんと少しく差を感じるのだ。
あちらの方がいいのだ。
これは困った。これでは折角のヘッドフォン(専用)アンプが・・・
と、いうことであれば、対抗すべくこの“ヘッドフォン(専用)アンプ”も改良しなければならない。
その結果、このようになったのであった。
何故こうなったのか?
それは話せば長いので、興味のある方はどうぞこちらへ。
入力アッテネータの33KΩは、折角だからスケルトンに、と思ったところ33KΩがあった、というだけのこと。
が、初段定電流回路には懐かしの日立製TR、2SC984Cランクをわざわざ起用してみたものである。
のは、“ちょっとDCなオーディオのページ”から影響を受けて、“天上の音”を聴いてみたい・・・と、ちょっとした遊び心だ。
結果は、回路も改良してしまったのでどうも良く分からない(^^;
のだが、全体的に一層細やかな表情が分かりやすくなり、鋭い分解能と柔和な優しさ・暖かみといった感じが両立したとても良い感じになったように思う。
さて、問題は“ヘッドフォンも鳴る電池式完全対称型パワーアンプ”と比べてどうか。である。
ちなみに電源は同じ±12Vの鉛シールバッテリーだ。
どちらも甲乙付けがたい。
が、終段の構成の違いが音の違いとなっているようだ。
と、言うのは、特に低域ということになるのだが、音のゆとりといった点で“ヘッドフォンも鳴る電池式完全対称型パワーアンプ”の方が勝っている感じなのだ。低域まで深々としていて聴いていて気持ちが良い。
対して、こちらは、比較すると音全体が高域よりという感じになってしまう。情報量自体は変わらないように思うのだが、こちらの方がスリムで明解に聞こえるのだ。
モニター的にはこちらが良いということになる。が、音楽を心地よく聴くには向こうの方が良いようにも感じられる。といったところだ。
では、この違いは何故なのだろうか?
それほど電流が必要なわけでもないのに、やはりダーリントンの電流供給能力がものをいっているのだろうか。
推測としては、ダーリントン前側の存在である。これがエミッタフォロア動作で、終段が負荷に電流を供給する上でのダンパーというか貯水槽の役割を果たしている。これが音のゆとりを醸し出す上でかなり利いているような気がする。
では、これにもダーリントンドライバーを付けてみたらどうだろう。
ま、それはまた次回にでも、ということで・・・(^^;
(2003年2月17日)
その後 4
我がヘッドフォン(専用)アンプもまた1年が過ぎて右のようになっている。
何も変わっていない。ように見えるが、目を凝らすと基盤左下に何やら回路が付加されている。のは、「但聞ドライブ」だ。
「但聞ドライブ」を導入したからと言うわけではないのだが、近頃はこいつとヘッドフォンで聴く晴れ渡った宇宙の音も良いのではないか、と思っているのである。
バイノーラル録音とか言って頭の外に音像が定位すると言い張るものを含めて、ヘッドフォンで聴いて音像が頭の外に出来るものなど聴いたことがないのだが、このコンビで聴くと勿論音像は脳内に定位するのものの、その音像空間がスッキリと晴れ渡って、我が脳幹上方部を中心として音空間が天空にまで広がるのである。目を閉じると、音楽と共に体が宇宙を浮遊している感覚だ。
ヘッドフォンが生み出す非現実的な音空間感覚。これもまたおつなものである。と、思えるようになってきたのだ。(^^;
回路は2SK30による「但聞ドライブ」が追加されただけである。
これ以上特に書くべきこともないので、「但聞ドライブ」関連で少しだけシミュレーションをやってみる。
まず、これが「但聞ドライブ」付加前の我がヘッドフォン(専用)アンプの回路だ。
入力に1Vacを加えて終段2SC960のコレクタに電流マグニチュードプローブを取り付けて終段上下TRまでの回路gmを測定し、その対称性を観てみようという訳だ。
その前に、回路動作点を明らかにするため各部の電圧、電流の状況を表示する。
回路はNFBを掛けないオープンゲインの状態である。終段TRのアイドリング電流はコレクタ電流で上側が13.46mA、下側が16.54mAであり、実機の設定にごく近い。これを設定するのはR3であり調整後400Ωとなっている。出力オフセットは−498.7uVとごく小さい。これを設定するのはR12とR13であり、R12がそのために100.212Ωとなっている。
問題は終段2SC960の上下でアイドリング電流に約3mAの差があることである。これは要するに2段目差動アンプ右側の動作電流分の差なのである。それを終段下側が吸い込んでいるためのものなのだ。そうしなければ2段目右側の動作電流の流路がなくなるので出力にはオフセットが生じてしまう。
そこで初段のトリマー(ここではR12とR13)を調整して終段下側に上側より大きなバイアスが掛かるようにしてオフセットを解消するのである。
結果、表示桁の関係でここでは初段差動アンプの動作電流には差が出ていないが(実際は僅かに差を生じる)、2段目差動アンプについては左右で動作電流が僅かではあるが異なっていることが分かる。終段上下TRの動作電流の違いを含めこれらがすなわち終段下側が2段目差動アンプ右側の動作電流を吸い込まなければならないために完全対称型に必然となる僅かな動作非対称の意味なのである。
この結果、終段上下TRまでの回路gmはどうなるだろうか。が問題なのだが・・・
負荷が300Ωと大きくゲインが大きいというせいもあるのだが、このように終段上下まででややgmが異なってしまう。
ここでは縦軸がA(アンペア)だが、入力に1Vacを加えているのでこの数値がそのまま回路のgmであり、300Ω負荷で低域で終段上側がgm=3.38S、下側が3.55Sであることが分かる。
こちらは「但聞ドライブ」を付加した回路である。
同様に各部の電圧、電流の状況を表示したものだが、「但聞ドライブ」で出力中点から3.1mAの電流(≒2段目差動アンプ右側の動作電流)を抜いてやることにより、終段上下TRのアイドリング電流もほぼ15mAと一致している。それだけでなく、終段上下TRのバイアス調整の要がなくなったため、初段トリマーも対称(R12=R13=100Ω)となり、2段目差動アンプの動作電流も3.126mAと全く一致している。
これがすなわち「但聞ドライブ」の効果なのだが、その結果はどうだろう。
それがこれだ。
比べれば一目瞭然。終段上下TRまでの回路gmがこのようにぴったりと一致するのである。
すなわち「但聞ドライブ」により特にプリアンプで顕在化する完全対称型の動作対称性の乖離が解消されるのである。
この結果は入力に正弦波を加えた場合の応答結果である出力波形にも観ることができる。
まずは「但聞ドライブ」がない場合。
波形のピークを見ると、その絶対値がプラス側は9Vを超えているのに対してマイナス側は9Vに達していない。
「但聞ドライブ」を付加したこちらはどうか。
波形のピークの絶対値はピッタリ9Vに一致している。
このほんの僅かな差を「但聞ドライブ」がもたらしてくれる訳だ。
ではその僅かな差にどれだけの意味があるのか? は、実は難しい。
上で現れた僅かな差もオープンゲイン状態でのものであって、NFBを掛けてしまえば実際のところ意味のない程度の差異であると言っても間違いではないのだ。
例えばNFB後での100kHz方形波応答。
まずは「但聞ドライブ」がない場合。
現実の実機もこんな立派なものであるかどうか知らないが、実に素晴らしい100kHz方形波応答波形だ。
「但聞ドライブ」を付加した場合。
こちらも素晴らしい100kHz方形波応答波形である。
が、ここに上の「但聞ドライブ」がない場合との差異を見ることは困難だろう。