BATTERY DRIVE

MOS-FET POWER AMP
(GOA&不完全対称)
Studyする





・時来たれり。

・故に、10年前に作った右のオールFET GOAパワーアンプ
が改変の仕儀となった。

こんな感じだったものを、
・こんな感じに。

・殆ど変わっていない。(爆)

・が、電源電圧を±15Vに変更し、それに合わせて定電流回路等のツェナーダイオードに流す電流を規定する抵抗の抵抗値を調整し、2段目差動アンプのカスコード回路の固定電圧を必要最低限とし、4電源仕様から2電源仕様に変更し、あわせてこの際クローズドゲイン設定を最近製作した我が元祖電池式完全対称型やバッテリードライブ不完全対称型パワーアンプと同じ22倍に上げた。

・要すればリチウムイオンバッテリー電源仕様にして、リチウムイオンで聴こう。という趣旨。

・まぁ、どちらにしても回路的にはMJ1992年12月号のNo−137、オールFET 3cHパワーアンプにごく近いGOAパワーアンプである。

・で、この状態における利得&位相−周波数特性をLTSpiceで観ておく。

・負荷のR18=4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、50kΩ(負荷オープン相当)の場合のパラメトリック解析。
・GOAであるから、オープンゲイン(赤)は負荷にかかわらず低域で10kHz付近までほぼ一定で、53dB±2dB程度である。

・クローズドゲイン(緑)は帰還回路で設定した通りで26.7dB(=約22倍)。したがってループゲイン(青)は負荷にかかわらず低域で10kHz付近までほぼ一定で、27dB±2dB程度

・と、他には特に言うべきことはないが、利得交点周波数が400kHz〜500kHz程度と、存外に低いのが意外なところではある。
  
・2段目G-D間の位相補正Cは、方形波応答等から従前の10pFを20pFに変えた。

・その観察が下の写真等だが、順に上から、位相補正Cが10pF、20pF、そして39pFの場合で、左が10kHz方形波応答で右が100kHz方形波応答。

・写真は2現象で下が入力波形で上が出力応答波形。この場合、全て無負荷である。

・写真下にあるのは、LTSpiceの占う同条件での方形波応答波形。

・これらを観ると、LTSpiceの占うところでは位相補正には39pFが必要という結果なのだが、実機の方形波応答では20pFが最適との結果であり、音を聴いても20pFで音が最も自然な感じがする(^^;ので20pFに決定したもの。

10kHz 位相補正10pF
20uS/div 下0.2V/div 上5V/div
100kHz 位相補正10pF
2uS/div 下0.2V/div 上5V/div
・10kHz方形波応答写真では見にくいが、LTSpiceの占うとおり方形波の立ち上がり、立ち下がりにオーバーシュートと僅かなリンギングが出ている。それは100kHz方形波応答で明確になっている。
    
10kHz 位相補正20pF
20uS/div 下0.2V/div 上5V/div
100kHz 位相補正20pF
2uS/div 下0.2V/div 上5V/div
・LTSpiceの占い波形ではこの場合もまだオーバーシュートが出るが、実機の方の方形波応答は最適だ。モデルパラメータ等が妖しいものだからこの辺はやむを得ない。(爆)(^^;
    
10kHz 位相補正39pF
20uS/div 下0.2V/div 上5V/div
100kHz 位相補正39pF
2uS/div 下0.2V/div 上5V/div
・LTSpiceの占いではこれでようやくオーバーシュートが消滅する。
  
・と、動作には何も問題がない。

・ので、早速この状態でリチウムイオンバッテリーを電源として音を聴いてみる。

・TAD2WAYマルチシステムで、それをドライブする我が元祖電池式完全対称型&No−209もどき完全対称型とこのMOS−FET GOAパワーアンプを入れ替えてヒヤリングする。

・う〜ん、良い音だわぃ。(^^)

・が、あまり良く違いが分からない。(爆)

・まぁ、駄耳のせいなのだろうけれど。。。(^^;

・ただ、MOS−FETパワーアンプは1台だけなので、2WAYマルチでは低域側か高域側にMOS−FETパワーアンプを起用してのヒヤリングになる訳だが、そのMOS−FETパワーアンプが担っていた帯域を元のトランジスタパワーアンプに戻すと、存外に“ありゃ鳴りっぷり?音色感?が揃った感じ。”という印象を受けるので、多少の違いはあるようだ。それはMOS−FETの方が色で言えばコントラストがやや上がったような印象なのかもしれない。逆に言うと、用いているトランジスタが古いせいもあるだろうか、我が元祖電池式完全対称型とNo−209もどき完全対称型の音がやや薄味?無個性?なのかも知れない。また、極低域について、TR式もこのMOS式も共に体の芯を揺すぶり家をも振るわすような極低音まで出してくるのだが、TAD TL−1601Aをドライブする限りではMOS−FETGOAの方がより低域まで音程を保ってしっかり伸びている感じがする。

が、この程度の違いなら、わたくし的にはどちらでも良い。
・なので、このGOAのままで行くこととにした。

・と言うことで、最後にほぼ最大出力における方形波応答を観ておく。

・10kHzと100kHzの方形波応答だが、入力が1Vp−pなので出力は20Vp−pを超えており、電源電圧的にこれで殆ど最大出力である。限界最大出力は同じリチウムイオンバッテリ±15Vを使用したTRパワーアンプたちに比べると僅かに小さいがほぼ同程度だ。したがって、私の環境では全く不足はない。
10kHz 無負荷 
20uS/div 下0.5V/div 上10V/div
100kHz 無負荷 
2uS/div 下0.5V/div 上10V/div
10kHz 負荷10Ω
20uS/div 下0.5V/div 上10V/div
100kHz 負荷10Ω
2uS/div 下0.5V/div 上10V/div
・観測環境の悪さもあってか10Ω負荷時に入出力とも波形が乱れる。のは、我がTR式不完全対称型やNo−209もどき完全対称型に同じだが、それらとの比較では、100kHz方形波応答は無負荷時、10Ω負荷時ともこのMOS−FETパワーアンプが最も綺麗である。
  
・という結果を見て今ひとつLTSpiceで同条件における無負荷時の100KHz方形波を占ってみたくなった。

・観たいのは出力応答波形ではなく、その際の終段MOSFETに流れるドレイン電流の変化である。

・それが右下Id(M1)とId(M2)であるが、驚いたことに異常電流が非常に少ない。無いと言っても良いぐらいだ。比較のためにTR不完全対称型パワーアンプの場合も並べてあるが、両者の比較からそのことが明確だ。

・シミュレーション占いの結果のみでものを言うのは軽率というものだが、もしこれが本当なら、TRに対するMOSの優位性の一つがこの辺に出ているのかも知れない。
   
・と、言うわけでしばらくMOS−FETGOAパワーアンプとして聴いていた。

・のだが、ついつい「不完全対称型」にしたらどうだろうか、と思ってしまう。(^^;

・ので、やってみる。

そうするには、次のようにGOA抵抗のつなぎ先をアースから完全対称型同様に出力点に変えるだけ。

・そうするとどうなるかはTR式の不完全対称型パワーアンプで分かっているが、一応、負荷のR18=4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、50kΩ(負荷オープン相当)の場合のパラメトリック解析で、
この状態における利得&位相−周波数特性をLTSpiceで観ておく。
・その特性は、完全対称型同様にオープンゲイン(赤)が負荷に比例して増減する特性になる。

・クローズドゲイン(緑)は当然一定なので、結果ループゲイン(青)(≒NFB量)も負荷に比例して増減する。要するにK式で言うところの速度型モーショナルフィードバック(MFB)が掛かる所以の特性である。

・この場合オープンゲインはR17で調整可能であるが、今回これを2.2kΩにしたのは、オープンゲインを最近作った私のTR式不完全対称型パワーアンプや元祖電池式完全対称型パワーアンプに合わせるため。

・結果、負荷8Ωの場合のオープンゲインは低域で60dB程度と、GOA形式の場合より7dB程度大きくなる。

・この変更を加えても、高域の利得&位相−周波数特性は初段FETのgmと2段目差動アンプG−D間の位相補正コンデンサーの2者のみによって規定されるため、この場合でも30kHz程度以上の領域の特性には何の変化も生じない。ので、位相補正をいじる必要はない。
・という「不完全対称型」なのだが、その実態はそう大層なものではない。

・アースに繋がっていたGOA抵抗がブートストラップ抵抗になっただけである。

・ブートストラップと言えば、K式No−1が登場する頃の1970年代初頭の国産パワーアンプに良く使われていたらしい。それは、アンプ出力点から2段目電圧増幅段の抵抗負荷の中点に大容量のブートストラップコンデンサをつなぐものだが、この抵抗もそれと本質的に同じものである。

・しかし、この場合終段はMOSで入力インピーダンスはそもそもごく高いし、2段目も抵抗負荷ではなく出力インピーダンスの高いカレントミラー負荷なので、1970年初頭の国産パワーアンプで使用されていたらしいブートストラップと同様のものをこの回路で用いる意義は全くない。のだが、このようにK式で言うところの速度型モーショナルフィードバックが掛かるオープンゲイン特性が得られるという点で起用する。

・その意味では同じものでも目的、用法が違うということである。

・ちなみに完全対称型の終段上側の動作もこれと同様のブートストラップ型なので、これらが同じような特性を示すのは当然である。要すれば、これらのブートストラップ回路を電流ドライブするのが「完全対称型」であり、「不完全対称型」である。ということになる。

・と、いうところをLTSpiceで占ってみる。
A 型
・このA型は、完全対称型終段の上側である。前段から5mAの動作点電流が流れるとともに、正弦波信号が10mAp−pで加えられるという設定。

・その結果は右の通り、利得≒17dB、fc≒1.3MHzといった特性になっている。
B 型
・次にB型。こちらは完全対称型終段の下側である。設定はA型と全く同じで、ただ2SK134の負荷となるR2の位置がソース側からドレイン側に移っている。

・で、その利得とその周波数は右の通りであるが、これも利得≒17dB、fc≒1.3MHzと、A型と同じである。

・のは、A型とB型ではインピーダンスが0Ωである電源V1の位置が負荷抵抗R2の上か下かの違いで、そのV1を短絡して見れば明らかなように、そもそも全く同じものであるから、当たり前である

・が、このB型はA型と違ってブートストラップではない。教科書的にいうところのソース接地型(ソース共通型)だ。と言うわけで、結局ソース接地型と電流ドライブのブートストラップ型は同じものである。
・ホントかいな?少なくともゲート−ドレイン間の寄生容量によるミラー効果は違うのでは?

・なので、G−D間にわざと0.1pF(なしに相当)、10pF、100pF、1000pFをつなぐパラメトリック解析で観る。
・結果は位相が反転しているだけで、全く同じ。ソース接地型と電流ドライブのブートストラップ型は同じものなので当たり前。
・Pチャンネルの2SJ49で同様に観たのがC型とD型。
C型
D型
・当然だが、どちらも利得≒18.2dB、fc≒1.5MHzと、こちらも2SK134の場合と同じ結果。

・が、2SK134のA型、B型と2SJ49のC型、D型の結果を比べれば利得もfcも多少異なる。のは、コンプリ素子とは言え、別の素子であるから当然である。

・この場合に2SJ49の方が利得が大きいのは、前段から5mAの動作点電流でR1=150Ωに発生するバイアス電圧で流れるアイドリング電流が、このSpiceモデルでは2SK134が67mAなのに対し、2SJ49の方は113mAと多く、その分2SJ49のgmが大きくなるためである。

・試しにその動作点電流を調整して2SJ49のアイドリング電流が67mAになるように調整すると、その場合の利得は16.2dB程度となった。動作点を揃えても2SK134とは一致しない。 もともと違う素子なのだから、これも当たり前。
・以上から、2SK134のA型とB型、あるいは、2SJ49のC型とD型を組み合わせてプッシュ・プル動作をさせると大変良い理想的な結果が得られることが予想されるが、それをするのが「完全対称型」ということになる。

・同一素子を同一動作で組み合わせるのだがらプッシュプルとしてこれ以上対称な動作はない。従ってその組み合わせを「完全対称型」と名乗るのは適切である。
・が、一方、2SK134のA型、B型の結果と2SJ49のC型、D型の結果はそんなに違わないではないか。とも思える。(^^;

・ので、この際2SK134のA型と2SJ49のC型を組み合わせて
プッシュ・プル動作をさせようというのが「不完全対称型」。

・そこで、2SK134と2SJ49のアイドリング電流を揃えて、それぞれの負荷抵抗を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ωと変化させた場合の利得&その位相の周波数特性をパラメトリックに占ってみると、こうなる。
・どちらも下から負荷=R2が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ωの場合だが、利得はどちらも負荷の6dBステップの増加に比例して6dBステップで増加する。これは「完全対称型」と同じところだ。

・が、両者間では利得に1dB程度の乖離がある。これは素子が違うのだからいかんともしがたいところ。
・が、この程度の違いをうんぬんしてもしょうがないのでは?という現実的な考えで、2SK134のA型と2SJ49のC型を組み合わせてプッシュ・プル動作をさせるとこうなる。なお、信号電流を5mAp−pとしてあるのは、この場合プラスマイナスからプッシュプルで終段をドライブするからである。結果、上のシングル動作の場合に比していずれの負荷の場合も利得が6dB増加している。理屈通りだ。
・と、動作の対称性という意味では勿論完全ではないので「完全対称型」は名乗れないが、動作内容は「完全対称型」と同じであるし、これでも悪くはないのでは、というのが「不完全対称型」。

・なのだが、この「不完全対称型」にもメリットがある。

・それは、終段のバイアス回路をブートストラップ抵抗から分離でき、終段上下をプッシュプルでドライブでき、特に終段をトランジスタで構成した場合には分離できたバイアス回路で終段の温度補償を簡便かつ完璧に実施できる点である。この点は「完全対称型」より明らかに有利である。
・が、音が悪ければしょうもない。ので、早速聴いてみる。

・う〜ん、良い音だわぃ。(^^)

同じく2WAYマルチで、低域側か高域側にMOS−FETパワーアンプを起用してのヒヤリングになる訳だが、やはりMOS−FETパワーアンプの方が全域で色に例えればそのコントラストが強く色彩感が豊かで、低域では1オクターブ下まで音域が広がったようにエネルギー感の強い極低音を出してくる。結局GOAのときと印象的には同じなのだが、その傾向がより明確になったように感じる。で、端的に言えば、比較的にTRが淡でMOSが濃。どちらが良いか?となるとどうも今回のMOS−FET不完全対称型パワーアンプの勝ちだなぁ。。。

が、駄耳のせいもあり、MOS−FET不完全対称型でなければ聴けなくなった、と言うようなことはない。TR完全対称型の方も十分に良い音だ。

・で、結論としてはGOA型ではなく不完全対称型で行く。

・と言うわけで回路はこう。

・この際パイロットランプのLEDはアラート色の赤は止めて橙色にした。
・ところで、GOA型と不完全対称型の多少の音の違いの要因がK式のいわゆるMFB以外にもあるのか否かをを考えるために、両タイプの場合の出力インピーダンスを測定してみる。

・実機は、負荷R1とR2を用意して、R1負荷時の出力電圧とR2負荷時の出力電圧から求める方法を採用した。

・R1負荷時の出力電圧をVo1、R2負荷時の出力電圧をVo2、出力インピーダンスをZoとすれば、アンプ本来の起電力(Vとする)がZoとR1又はR2で分圧されてVo1又はVo2の出力電圧となる筈なので、
 Vo1=R1/(Zo+R1)*V
 Vo2=R2/(Zo+R2)*V 
 だから
 (R1+Zo)*Vo1/R1=(R2+Zo)*Vo2/R2
 これをZoについて解くと、
 Zo=R1*R2*(Vo2−Vo1)/(R2*Vo1−R1*Vo2)
 で出力インピーダンスが求められる。
 だから、R2=2R1を満たしている時(8Ωと16Ωとか4Ωに8Ωとか)には
 Zo=2*R1*(Vo2−Vo1)/(2*Vo1−Vo2)

・結果、このMOS−FETパワーアンプは、GOA形式では400Hz正弦波入力で8Ω負荷時に4.064Vの出力となる設定で4Ωを負荷にすると3.976Vの出力となった。ので、その出力インピーダンスは0.181Ω。

・不完全対称形式では、同じく400Hz正弦波入力で8Ω負荷時に4.076Vの出力となる設定で4Ωを負荷にすると3.936Vの出力となった。ので、その出力インピーダンスは0.295Ω。

・案外両者間にあまり違いのない結果だ。

・この辺LTSpiceの占いではどうか。

・シミュレーションでは壊れるという心配がいらないので出力への電流注入法でやってみる。しかも注入電流は1A。そうすると結果がΩで表示されから造作がなくて便利。

・先ずはGOA型。GOA抵抗=5.6kΩ、56kΩ、560kΩとするパラメトリック解析。

・結果は右で、緑が5.6kΩの場合、赤が56kΩの場合、青が560kΩの場合。やはり出力インピーダンスはGOA抵抗の設定によるオープンゲインの増加=NFB量の増加に比例するようだ。で、実機と同じGOA抵抗が5.6kΩの場合の出力インピーダンスは低域で0.06Ω程度という占い結果である。
・次に不完全対称型。ブートストラップ抵抗は実機に同じく2.2kΩ。今度は負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、50kΩ(無負荷相当)とするパラメトリック解析。

・結果は負荷とは無関係に低域で0.16Ω程度という占い結果。

・う〜む。。。不完全対称型は負荷によってオープンゲインが変わり、したがってNFB量も異なるので、負荷によって出力インピーダンスも異なるものと思っていたのだが、負荷の値には無関係のようだ。ちょっと不思議。(^^;
・と言うわけで実測の方が多少高く出ているが、シミュレーションでも実機と同様に不完全対称型の出力インピーダンスがGOA型より0.1Ω程度高いという結果であるから、実測値はあまり間違いのない結果と考えて良いだろう。

・となると、0.1Ω程度の出力インピーダンスの違いでは、これがGOA型と不完全対称型の音の差の要因になっているとは考えにくい。という結果だ。
・それは置いておくとして、世界最初のMOS−FET。

・“悪夢のパワー素子”だったのだが、なんでこんなに良い音なのか。。。(爆)






2011年2月26日





BATTERY DRIVE

MOS-FET POWER AMP
(GOA&不完全対称)

改め

AC電源

MOS-FET 2SJ49-2SK134 パワーアンプ兼パワーIVC

不完全対称型





リメイク




・20年前に作ったオールFET G.O.A パワーアンプが、10年前にBATTERY DRIVE MOS-FET POWER AMP(GOA&不完全対称)となった。

・要すればまた10年。

・この際、リメイク。


・その前に使用する2SJ49、2SK134、2SJ77、2SK214のSpiceモデルの静特性を観る。



・まず、2SJ49と2SK134。

・そのSPICEモデルがCordell Audioで提供されている。ので、それを使用。


http://www.cordellaudio.com/book/
spice_models.shtml


・先ずは、Vds=10VでのVgs−Id特性。

・緑が2SJ49で、赤が2SK134

・データシートの特性図と比べると、なかなか良く出来ている感じ。


・次に、Vgsを0Vから10Vまで1Vステップで変化させて、Vds−Id特性を観る。

・同じく緑が2SJ49、赤が2SK134。

・こちらもデータシートの特性図と比べると、良く出来ている。

・コンプリメンタリペアと言うにはアンマッチである。

・が、大概こんなもの。

・次に、2SJ77と2SK214。

・そのSPICEモデルは従来のものだが、今回、一部手を入れた。その意味でモデル名にAを入れた。

・先ずは、Vds=20VでのVgs−Id特性。

・緑が2SJ77で、赤が2SK214

・図の右側がVgsが0Vから5VまでのId特性で、左側はVgs=2Vまでを拡大したもの。

・データシートの特性図と比べると、まぁ、こんなところ。



・次に、Vgsを0Vから4.5Vまで0.5Vステップで変化させてのVds−Id特性。

・同じく緑が2SJ77、赤が2SK214。

・データシートの特性図と比べると、こんなところ。

・コンプリメンタリペアとしては、2SJ49、2SK134ペア以上にアンマッチ。

・これらを使うのはもっと低電流領域なので、その領域を観る。

・20V以下の電流の立ち上がりがもっと滑らかであるべきところは再現できていないが、その点を除けば良く出来ている。

・が、コンプリメンタリペアとしては、随分とアンマッチ。


・PチャンネルとNチャンネルの素子でプッシュプルアンプが出来る訳だが、「特性の等しい素子どうしならばプッシュプル動作もうまくいく。特性の異なる素子を組み合わせてもプッシュプル動作はうまくいくはずがない。回路上は対称でも動作は非対称の対称もどき。」(94.6)と、ストレートなお言葉でそれを止めて終段SEPPを同一素子で構成したのが完全対称型。

コンプリメンタリープッシュプル出力段。

・これでドライブ段の2SK214と2SJ77のアイドリング電流は15mA弱、2SK134と2SJ49のアイドリング電流は各素子200mA程度となっている。

・そのゲイン―周波数特性が右。ゲインは低域で△0.56dB、1MHzで△0.72dB。

・発振防止用の680Ωを除くともう少し帯域は伸びる。

完全対称型出力段。

・これでドライブ段の2SK214のアイドリング電流は15mA強、2SK134のアイドリング電流は各素子200mA程度。

・そのゲイン−周波数特性が右。ゲインは低域で20.12dB、100kHzで19.83dB、1MHzで11.08dB。

コンプリメンタリプッシュプル出力段より高域の減衰が大きいが、こちらは電圧ゲインを20dB(10倍)有しているので当たり前。
コンプリメンタリプッシュプル出力段と完全対称型出力段の歪率を、負荷8Ωで、1kHz正弦波、10kHz正弦波で観る。


・グラフが2本に見えるが、それぞれ1kHzと10kHzのデータがほぼ等しいのでグラフが重なっているため。

・上の黄色が完全対称型
出力段で、下の赤がコンプリメンタリプッシュプル出力段。

・完全対称型出力段の歪率が、コンプリメンタリプッシュプル出力段の歪率より10倍程度悪い。

完全対称型の測定回路が間違っているのか?なのだが、実は94年11月号の「完全対称アンプの理論と実験」で先生がアイドリング電流1.2Aで実測された2SK134による完全対称型出力段の歪率もこれよりちょっと良い程度なのだ。こちらはアイドリング電流0.4Aであるし、こんなものだろう。

・そうなのか。アンマッチなコンプリメンタリ―素子で構成したプッシュプル出力段の方が10倍程度も低歪率なのだ。

・それは、この場合のコンプリメンタリプッシュプル出力段は電圧ドライブのソースフォロア動作で、100%のNFB=完全対称型との電圧ゲインの差である20dB程度のNFB、が掛っているためだろう。

・が、少しく残念。

コンプリメンタリプッシュプル出力段の出力インピーダンスを電流注入法で観る。

・低域で0.493Ω、100kHzで0.505Ω。
・完全対称型出力段の出力インピーダンス。

・低域で223Ω、100kHz75Ω。

・電流出力なので流石に出力インピーダンスは高い。

・と、完全対称型出力段は、オーバーオール負帰還を掛けて出力段の歪を減らすととともに、出力インピーダンスを低くする必要がある。

・電圧ドライブのコンプリメンタリプッシュプルソースフォロア出力段は、そのために必要な負帰還をソースフォロア動作による100%ローカル負帰還で出力段自体で行っているので、オーバーオール負帰還を掛けなくてもそこそこの歪率と出力インピーダンスになる。

・一方、完全対称型出力段は、スピーカーのインピーダンス特性に比例したNFB量を掛けるアンプとなり、一種のMFBとしてスピーカーの制動に望ましい効果がある。その効果を最良のものとするため、MFBコントロール回路を付加して出力インピーダンスを可変式にすることも出来る。

・と言っても、MFBコントロール回路は要するに出力インピーダンス可変回路なので、コンプリメンタリプッシュプルソースフォロア出力段でも使える。し、MFBコントロール回路の調整で、出力インピーダンスが変化したことにより音が変わるのか、出力インピーダンスが変化したことによりMFB量が変わり、そのMFB量が変化したことにより音が変わるのか、のどちらなのかは分かりようがない。

・ので、消えたのかな。

  
・と、色々考え、電流ドライブのコンプリメンタリプッシュプルソースフォロアの不完全対称型。

・合わせて、バッテリー電源を止め、AC電源に戻す。SIT(V−FET) 2SJ20A−2SK70A パワーアンプ兼パワーIVC用にAC電源部を新調したので、その電源部を共用し、パワーアップも図る。

・歳とともにバッテリー維持・管理のストレスが増加。

・ところで、「悪夢のパワー素子」であるMOS−FETを起用するアンプは、全てFETで構成しなければいけない。のだが、何気に2段目差動アンプのカスコードアンプとカレントミラーにはトランジスタを起用。

・他は極力キャリーオーバー。

・終段MOS−FETはパワーアップのためにパラとし、1個当たり200mA、パラで400mA程度のアイドリング電流を流す。

・右のシミュレーション回路でも400mA程度のアイドリング電流となっている。

・よって、8Ω負荷で2.5W、4Ω負荷では1.25WまではA級、それ以上でB級のAB級動作になる。
・そのゲイン-周波数特性。

・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)としたパラメトリック解析だが、赤のオープンゲインと青のループゲインは、下から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。緑はクローズドゲイン。

・赤のオープンゲインは、4Ω負荷時67dB、8Ω負荷時72.6dB、16Ω負荷時77.8dB、32Ω負荷時82.4dB、64Ω負荷時86.2dB、100kΩ負荷時92.9dB。

・青のループゲインは、4Ω負荷時40.1dB、8Ω負荷時45.7dB、16Ω負荷時51dB、32Ω負荷時55.6dB、64Ω負荷時59.3dB、100kΩ負荷時66.1dB。

・緑のクローズドゲインは26.8dB。

・パワーIVC動作時のゲイン-周波数特性は、これまでの経験からこれと同じと考えられるので、ミドルブルック法による測定は省略。
1.3Vp−p10kHz正弦波を入力し、各部の動作を観る。
・一番下が出力電位と終段2SJ49と2SK134のそれぞれのパラのドレイン電流値。


・2SJ49と2SK134の飽和電圧が大きいので、この辺が出力限界。


・その際の2段目差動アンプの電流値が中央、終段プッシュプルドライバーの電流値が上。


・2段目差動アンプはA級範囲で問題ない。終段ドライバーの2SJ77、2SK214には電流入力が必要ないので、2段目差動アンプの動作電流はもっと減らしても可だが、まぁ、この位で。


・終段プッシュプルドライバーには十分な電流を流して余裕でA級動作範囲だが、何故か波形が正弦波からは大分遠く乱れた感じだ。NFBが、出力を入力相似にするため、信号伝達途中をこのように拵えているのだろうが、多分終段2SJ49と2SK134の入力容量等の充放電に対応しているのだろう。
入力±1.3Vp−pの10kHz方形波応答を観る。
・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)とした場合のパラメトリック解析。

・一番下が出力波形だが、当然どの負荷でも同じ応答。

・下から2番目はその場合の2SK134パラの合計ドレイン電流波形(緑)と2SJ49パラの合計ドレイン電流波形(灰色)。どちらも電流値が大きい方から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω,100kΩの場合。

・いずれもオーバーシュートもアンダーシュートもなく、綺麗な応答波形。


・上から2番目が、終段プッシュプルソースフォロアドライバーのM1、M4のドレイン電流の推移。

方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプル上側、下側ともにパルス電流が流れている。

・一番上が、その際のR21とR22に流れる電流の合計値と、R23とR24に流れる電流の合計値。通常は0mAだが、方形波の立ち上がりと立下りの瞬間に、2SK134と2SJ49のゲートに向けてパルス電流が流れている。

これは、2SK134と2SJ49の入力容量等を充放電する電流に相違ない。そして、これが方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプルドライバー上側、下側のMOS−FETに流れるパルス電流の正体だろう。

・マイナス側のピーク電流値がプラス側より大きいのは、2SJ49の方が入力容量等が大きいからかな。
パワーIVC動作での方形波応答を観る。



・入力±3mAp−pの
10kHz方形波応答。
・同じく、負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)とした場合のパラメトリック解析。

・一番下が出力波形、下から2番目がその場合の2SK134パラの合計ドレイン電流波形(緑)と2SJ49パラの合計ドレイン電流波形(灰色)。どちらも電流値が大きい方から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。

・いずれも立ち上がり、立下りに僅かにオーバーシュートとアンダーシュートがあるが、これは初段J1のゲート抵抗820kΩのためで、これを排してJ1ゲートをアースすると上のパワーアンプ動作時と同じになる。

・上から2番目が、終段プッシュプルソースフォロアドライバーのM1、M4のドレイン電流の推移で、パワーアンプ動作時と同様に方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプル上側、下側ともにパルス電流が流れている。

・一番上が、その際のR21とR22に流れる電流の合計値(青)と、R23とR24に流れる電流の合計値(ピンク)。パワーアンプ動作時と同様に、通常は0mAだが、方形波の立ち上がりと立下りの瞬間にパルス電流が流れている。

これは、2SK134と2SJ49の入力容量等を充放電する電流で、これが方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプルドライバー上側、下側のMOS−FETに流れるパルス電流の正体というのもパワーアンプ動作時に同じ。
・電流注入法で出力インピーダンスを観る。
・低域で37mΩ、100kHzでは162mΩ。

・上でプッシュプルソースフォロア出力段自体の出力インピーダンスは、低域で493mΩ、100kHzで505mΩだったから、オーバーオール負帰還が掛って、それが低域で1/13、100kHzで1/3.16になった。

・こんなものか?

・それは、不完全対称型は、見た目出力段はコンプリメンタリーソースフォロアだが、上のコンプリメンタリーソースフォロア出力段のシミュレーションの如くに出力段は電圧ドライブされているのではなく、電流ドライブされているので。
・では、電流ドライブのプッシュプルソースフォロアはどうなるのか?

・先ずは、ゲイン―周波数特性。


・完全対称型と同様に電圧ゲインを有し、その大きさも負荷にほぼ比例と完全対称型に同じ。
・そして、電流ドライブのプッシュプルソースフォロアの出力インピーダンスは、右の通り。

・低域で101Ω、100kHzで9Ω。だから、オーバーオール負帰還で低域で1/2730、100kHzで1/55になったことになる。
・歪率を観る。
・これからすると歪率0.1%以下で8Ω負荷では60W、4Ω負荷では100W(10kHの8W出力で僅かに0.1%を超えているが。)の出力が得られるようだ。



・100kHzについては流石にそうはいかず、概ねその10倍程度の歪率になっている。100kHzのループゲイン≒NFB量は10kHz以下の周波数より概ね20dB小さい、即ち概ね1/10なので、歪率が概ね10倍になるのは理屈どおり。



・が、4Ω負荷の場合に顕著だが、1kHzと10kHzの場合8W以上の出力で歪率が低下するところ、100kHzではそれがなく、結果10倍以上の歪率になってしまっている。ちょっと残念。



・何故か? 知らない。



・2SJ49と2SK134は飽和電圧が大きく、トランジスタに比すと、飽和電圧分として±5Vは電源電圧を高くしないと同様の出力は得られない。



・が、我が家の環境では十二分の最大出力。



・なお、パワーIVC動作時の歪率は、パワーアンプ動作時と同じだろう。
・電流ドライブのプッシュプルソースフォロア出力段の歪率を観ていなかったので、観る。

・結果が右。上で観た電圧ドライブのプッシュプルソースフォロア出力段と完全対称型出力段の結果も表示。

・一番上の緑色が電流ドライブのプッシュプルソースフォロア出力段の歪率。真ん中の黄色が完全対称型出力段、そして下の赤が電圧ドライブのプッシュプルソースフォロア出力段の歪率。

・やはり電流ドライブのプッシュプルソースフォロア出力段の歪率が一番悪い。が、完全対称型出力段とそんなに変わらない。

・そして、その出力毎の推移を観ると、電圧ドライブのプッシュプルソースフォロア出力段の歪率がほぼ平行移動して10倍程度の歪率になっている。

・分かりやすい。
実際の因果としては、電流ドライブのプッシュプルソースフォロア出力段が8Ω負荷で20dB=10倍程度の電圧ゲインを有しているところ、電圧ドライブにするとその電圧ゲイン20dB程度が負帰還に回り、電圧ゲインが0dB、歪率が1/10程度になるということ。

・アンプ部基板。



*SEコンの取り付けが間違っています。後で直しました。
・保護回路部基板。



・回路はK式より借用。

 

・基板は出来たようだが、本体が出来上がるまではまだ時間が要る。

・ので、ここで唐突に、日立(Lo−D)HMA−9500 MK2、の、もどき。

・何となく似ているし。

・素子は適当だが、初段と終段はまぁそれらしい。保護回路は省略。で、こんな感じ。

・回路としては、2段目カレントミラー負荷の2段差動アンプ+プッシュプルソースフォロア出力段と、K式GOA的。
無論K式GOAの方が後。


・終段ドライバーのバイアス回路が特殊だが、これがノンカットオフバイアス回路というもののよう。

・この状態で、シミュレーション回路の終段2SK134Cと2SJ49Cには各素子150mA程度のアイドリング電流が流れている。本物がどうだったのかは知らない。

・そのゲイン-周波数特性。

・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)としたパラメトリック解析だが、赤のオープンゲインと青のループゲインは、負荷により多少のゲイン差が生じている。が、まぁ一定。

・オープンゲインは低域でほぼ97dB。ループゲインは低域でほぼ67dB。

・緑のクローズドゲインは30dB。

・メーカー製として、このオープンゲインとループゲインは大きい方なのか小さい方なのかは知らない。が、K式GOAに比すと、GOA抵抗がない分オープンゲインが大きい、といった感じ。

・GOA抵抗や不完全対称用抵抗を付けてわざわざオープンゲインを小さくするバカな真似はメーカーはしない。

1.5Vp−p10kHz正弦波を入力し、各部の動作を観る。

・一番下が出力電位と終段2SJ49と2SK134のそれぞれのパラのドレイン電流値。



・その際の2段目差動アンプの電流値が中央、終段プッシュプルドライバーの電流値が上。



・2段目差動アンプはA級範囲で何も問題ない。ついでにカレントミラーのQ4の電流推移を±を反転して載せてみた。



・この回路には、ノンカットオフバイアス回路というものが搭載されているのだが、その割には、終段もドライバー段もB級でカットオフしているように見える。
・ので、上の図ドライバー段の電流推移と下の図出力段の電流推移の0A付近を拡大し表示するとこう。






・なるほど。ドライバー段はカットオフせず最低0.5mA程度の電流が流れている。






・が、終段はプラス側はカットオフを逃れているものの、マイナス側はカットオフしている。
・R31とR34は実際は100Ωの半固定抵抗である。

・もしかしてこれを調整すると上手く行くかもしれなと、R34を1Ωまで下げてみたのだが、まだ上手く行かないので、R34とシリーズのR35も弄ってみたところ、これも1Ωで右のようになった。

・上の図のドライバーもカットオフしないし、下の図の終段もプラスマイナスとも最低でも8mA程度流れてカットオフしていない。

・と、これがノンカットオフバイアス回路の姿で成果なのかな?

・知らない。

・用いたSPICE MODELの特性の関係でこうなったが、終段素子をランクなどで選別して用いれば、回路図通りで上手く行くのだろう。

・ホント?

・知らない。

・なお、こうすると終段のアイドリング電流は各素子250mA程度になる。


入力±1.5Vp−pの10kHz方形波応答を観る。

・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)とした場合のパラメトリック解析。

・一番下が出力波形だが、当然どの負荷でも同じ応答。

・下から2番目はその場合の2SK134パラの合計ドレイン電流波形(ピンク)と2SJ49パラの合計ドレイン電流波形(赤)。どちらも電流値が大きい方から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。

・いずれもオーバーシュートもアンダーシュートもなく、綺麗な応答波形。流石。

・上から2番目が、終段エミッタフォロアドライバーのQ3、Q5のコレクタ電流の推移。

方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプル上側、下側ともにパルス電流が流れている。

・一番上が、その際のR41とR42に流れる電流値。通常は0mAだが、方形波の立ち上がりと立下りの瞬間に、2SK134と2SJ49のゲートに向けてパルス電流が流れている。

・これが2SK134と2SJ49の入力容量等を充放電する電流だが、経路に抵抗と100pF,180pFがパラで入っているためか、多少複雑な波形になっている。

・電流注入法で出力インピーダンスを観る。

・低域で0.7mΩ、100kHzでも6mΩ。



・凄いね。



・NFB量の違いだ。

・歪率を観る。

・1kHzと10kHzいついてはかなり低歪率だが、100kHzについてはもう少し低歪率であって欲しかった感じ。


・これを見ると、10kHzでは1kHzの10倍以下程度、100kHzでは100倍程度になっている。



ループゲイン≒NFB量は10kHzが1kHz以下の周波数に対して△20dB、さらに100kHzでは10kHzに対して△20dBとなっているので、歪率は1kHzに対して10kHzでは10倍、100kHzでは100倍になるのが理屈なので、ほぼ理屈どおり。


・が、100kHzの100W以上で歪率の悪化度合いが大きい。


・HMA-9500mkUの仕様では、0.01%(5Hz〜100kHz、100W時、8Ω)、0.005%(5Hz〜20kHz、120W時、8Ω)だったようだが、この結果では0.005%(5Hz〜20kHz、120W時、8Ω)は満たすが、0.01%(5Hz〜100kHz、100W時、8Ω)は残念ながら満たせていない。

・もどきだからしょうがないか。

・と、ここまでやったところで、なんと、初段差動アンプにNECのμPA63Hが使われていたのは初代HMA−9500であって、HMA−9500MK2の方の初段差動アンプは同じNECでも2SK131であったらしい。で、μPA63Hのgmが2SK30並みなのに対して2SK131のgmは2SK369(≒2SK147)並みのハイgmのようではないか。

・となると、以上のHMA−9500MK2のシミュレーションは、もどきのもどきでしかない。(爆)

・了

 
・ジャンクボックスに眠っていたフレックスの放熱器TF1310A2と新調したタカチのケースOS115−32−33BXでアンプ部の筐体を組む。



・ケースのサイドに収まるように、2台のTF1310A2を中央でフィンを重ねて使う。



連結した放熱器をケース側板とし、フィンの長い方に終段素子を取り付けて外側とする。
・中央のフィンを重ねた状態の2台のTF1310A2の上下に、OS115-32-33BXの全面及び背面パネルのフランジと連結することを兼ねた1.5mm厚15mm×15mmのアルミL字アングルを取り付けて2台の放熱器を連結し、さらに、OS115−32−33BXの支柱の上下のL型金具の短い方をTF1310A2の外側とする長い方のフィンのあたりで前後連結バーで繋ぐと、うまい具合に放熱器サイドユニットが出来上がる。



・上側のL字アングルにはスペーサーを取り付け(写真ではそれ用の丸穴が開いている。)、アンプ等基板類の吊り下げ構造を作る。



・下側のL字アングルにはラグ板を取り付けゲート抵抗スケルトン680Ωを中継。スケルトン抵抗の一方はゲート端子直結。
・放熱器サイドユニットと前後パネルを結合して、アンプ等の基板を吊り下げると、ケースは出来上がり。
・裏返して、所要の調整をしながら配線作業をする。



・と、出来上がり。

・出来上がりを上から。
     
・回路はこう。

シミュレーションの通り。

・ただし、出力段バイアス回路は現物に合わせて調整後の定数。これで終段のMOS−FETはそれぞれ200mA程度、パラで400mA程度のアイドリング電流に調整。

・終段素子の温度補償措置は何もしていないが、アイドリング電流は極安定。この辺はトランジスタに比すと大変楽。

・AC電源部は、SIT(V−FET) 2SJ20A−2SK70A パワーアンプ兼パワーIVC用の電源部をそのまま利用。

    

・早速音出し。



・ブルーのパイロットLEDランプが光っているのが今回製作したMOS−FET 2SJ49−2SK134 パワーアンプ兼パワーIVC。



・下は先に製作したSIT(V−FET)2SJ20A−2SK70A パワーアンプ兼パワーIVC。



・その向こうが電源部。


・一聴、実に良いわぁ。









・これはハイレゾではなくCD品質。



・が、演奏、録音とも素晴らしい。



・おじいさんたち、凄すぎる。
・ついで、BILL EVANSの代表作。



・こちらは96kHz/24bit。



・随分古い録音だが、古さを感じない。



・最新録音のように鮮明。



・演奏は言うまでもなく素晴らしい。の一言。
・リリカルなピアノソロ。



・これも96kHz/24bit。



・この人も心のこもった良い演奏をする。



・これまた素晴らしい。
・Music Server からも聴いてみる。



・これは192kHz/24bit.



・そこに顔がある生々しさ。



・演奏も歌も文句なし。



・素晴らしい。
・これは96kHz/24bit。



・この方も素晴らしい。
・実はダウンロード購入もした“SADAO 2019・ライブ・アット・ブルーノート・トーキョー”。



・再度。



・こちらは96kHz/24bit。



・変幻自在で素晴らしい演奏。



・感動する。
・サブスクリプション・ストリーミングに戻って、



・ハイ・ファイ・セット。



・40年前にかみさんとそのコンサートに行ったことを思い出す。



・涙
 

・「今まで聞きなれた生の音楽や再生音とはまったく異質な音である。音に独特の個性があり、堅い冷たい響きが、全ての音に影のようにつきまとう。・・・いつも同じような調子で音が出ているだけで、音に表情がない。・・・全般的に演奏がつまらなく聞こえ、退屈になり、それでいて耳ざわりな個性音が後をひく。」と、40年前(No.26)に酷評された「悪夢のパワー素子」MOS−FET。

・この MOS−FET 2SJ49−2SK134 パワーアンプ兼パワーIVCの音には、そんな感じは微塵もなし。




2020年2月27日







メンテナンス




・2段目差動アンプの動作電流は実測でトータル8mA程度。設計通り。

・そのカスコードアンプのTR1、2SA606の損失は、コレクタ側のツェナーダイオードZD4、1/2W33Vの1N5257Bで分散することにより、十分に許容範囲である。

・が、この際、D4を1N5257Bから1W56VのRD56F−Bに変更。

・ツェナーダイオードに損失を更に食わせ、TR1の損失をTR2程度に減らし、一層の長期安定動作を図る。


・サブスクリプションの時代にはNASは不要になりそうだが、あるものはあるので、音の良いソフトで聴く。




2020年8月1日











メンテナンスその2




・特段のメンテ項目はないが、この際、オシロで位相補正が適正かどうかを観る。

   15pF 10kHz 20uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・現行の位相補正は15pF。



・先ずは、10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・輝線に何かまとわりついているが、観測環境のせいなのでそれは無視。



・出力波形には、オーバーシュートもアンダーシュートもない。
15pF 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形はオーバーシュートもアンダーシュートもないが、僅かにリンギングがある。



・リンギングを除けば、これで優れた方形波応答であり、適切な位相補正設定だ。
・LTspiceの占いも観てみる。



・位相補正は、現行通り15pF。
・実機での方形波応答にそっくりである。
・が、もう少し位相補正容量を減らせる感もある。



・ので、LTspiceの占いで位相補正5pF、8pF、10pF、15pFの場合の100kHz方形波応答をパラメトリック解析で観る。
・結果。



・5pFでは、オーバーシュート、アンダーシュートともちょっと大きく、3波程度のリンギングもある。



・ちょっと見にくいが、8pFでは、僅かなオーバーシュート、アンダーシュートがある。



・先生の教義では、スピーカー・コードの減衰特性を見越して、アンプ出力端子ではこの程度のオーバーシュート、アンダーシュートが出るように調整するのが良いとされていた。ので、これで良いかも知れない。



・10pFでは、オーバーシュートもアンダーシュートもない、良好な方形波応答となっている。当然だが、立上りスピードも15pFの場合より早い。
・位相補正を15pFから10pFに変更してみよう。
10pF 10kHz 20uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・位相補正10pF。



・10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形には、僅かにオーバーシュートとアンダーシュートがある。
   10pF 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・100kHz方形波応答。


・下が入力波形で上が出力波形。


・出力波形に僅かにオーバーシュートとアンダーシュートがあり、シミュレーションでの位相補正8pFでの応答に近い。


・また、やはり僅かに細かいリンギングが10波程度ある。


・リンギングを置いておけば、このように小さなオーバーシュート、アンダーシュートが出るようにするのが、先生のおっしゃる適切な方形波応答の調整である。


・ので、位相補正は10pFにしよう。


・問題は、細かいリンギングだが、これは位相補正15pFでも生じていたものであり、位相補正容量の問題ではなく、他の要素によるものではないか、という感じがする。


・いずれ、永遠に継続する訳ではなく、途中で消滅するので大丈夫だろう。
10pF 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・同じく位相補正10pFの場合の100kHz方形波応答だが、これは3m程度のスピーカーコードの先で見たもの。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形のオーバーシュートとアンダーシュートの大きさは余り変わっていないようだが、その後のリンギングが小さくなっている。
10pF 10kHz 20uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv 負荷8Ω
・参考までに、8Ω抵抗を負荷にした場合の方形波応答。



・10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形には、オーバーシュート、アンダーシュートと言うか、何とも良く分からないリンギングが出ている。
10pF 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv 負荷8Ω
・同じく、100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形には、オーバーシュートとアンダーシュートがあるほか、幅広なリンギングと、やはり細かいリンギングがある。



・何故こうなるのかは知らないが、問題はないだろう。
   10pF 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv 負荷8Ω
・同じく、さらに負荷8Ω抵抗をつないだ場合の100kHz方形波応答だが、こちらは3m程度のスピーカーコードの先に8Ωをつないで、そこで観測したもの。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形には、オーバーシュートとアンダーシュートはなくなっているが、細かいリンギングはやはりある。



・要すれば、立上り、立下りが大分丸まっている。



・先生おっしゃったとおり、スピーカーケーブルの容量等のせいで、アンプ出力信号は、スピーカーにはそれなりに丸まって伝わる訳だ。



・スピーカーコードによって音が変わるという耳の鋭敏な人もいるが、こういうこともその要因なのかも知れない。
      

・ということで、位相補正は10pFにする。

・全回路図はこう。

・位相補正が10pFになっただけ。

     
・位相補正を15pFから10pFにして音は変わるか?
・分からない。






・私には鋭敏な耳はない。(爆)






・分かるのは、変わらず良い音であること。
  



2023年11月17日







メンテナンスその2のその後



   10pF 680 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・実は、気になっていたのである。



・前回見た右の100kHz方形波応答。



・立上りのオーバーシュート、立下りのアンダーシュートの後に僅かだがリンギングがある。



・UHC-MOS 2SJ217-2SK1297 パワーアンプ兼パワーIVCのメンテナンスで観た寄生発振だが、このリンギングも2SJ49−2SK134の寄生発振ではなかろうか?



・それを防ぐために680Ωのゲート抵抗を入れていた訳だが、それで十分ではなかったのか。
・680Ωでも安全を見込んだつもりだったのだが、それでは足りないと言うなら、ほぼ倍の1.2kΩに交換。
10pF 1.2k 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・どうか。



・100kHz方形波応答。



・下が入力波形、上が出力波形。



・期待したのだが、ゲート抵抗680Ωの時と同様にオーバーシュートとアンダーシュートの後に細かいリンギングがある。



・ゲート抵抗680Ωの時と比較すると、リンギングの周期が倍ぐらいに伸びた感じだ。抵抗が倍程度になって周期が倍ぐらいになったということか。



・そういうものなのか。
10pF 1.2k 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv 8Ω
・参考までに、8Ω抵抗を負荷にした場合の方形波応答。



・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形には、目立たなくなったが、やはり多少の細かいリンギングがある。



・幅広なうねりというかリンギングがあるのは、これまでの例と同じ。
    15pF 1.2k 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・この細かいリンギング、位相補正を15pFに増やしたら消えないだろうか。



・と言うことで、位相補正を10pFから15pFにして、100kHz方形波応答。



・下が入力波形、上が出力波形。



・立上り、立下りのスピードが落ちて角が丸くなっただけで、残念ながらリンギングは消えない。
   15pF 1.2k 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv 8Ω
・参考までに、これで、8Ω抵抗を負荷にした場合の方形波応答。



・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形の多少の細かいリンギングは目立たなくなったが、幅広なうねりというかリンギングはある。

・と、ゲート抵抗を1.2kΩにしても、細かいリンギングはその周期が倍程度になるだけで、消滅しない。

・と言って、ゲート抵抗をこれ以上大きなものにはしたくない。


・こうなれば、ゲート抵抗を逆に小さくしてみよう。

・位相補正は10pFに戻して、

・上で見た日立(Lo−D)HMA−9500 MK2(の、もどき)では、ゲート抵抗に220Ωと100Ωが使用されていたようである。

・それでは発振してしまうのではないかとは思いつつも、ゲート抵抗220Ωを試してみた。

・結果、見事に発振して、どうにもならない。

・次に、ゲート抵抗360Ω。
・続いて、ゲート抵抗470Ω。
・結果はやはり発振してどうにもならない。



・抵抗値が小さいほどに、発振のどうしようもなさは増大するよう。



・ゲート抵抗470Ωで、何とか発振状態を捉えたようなオシロ表示になった。



・早く電源を切らねば、と、慌てているので、まともに写真が取れていないが、こんな感じ。
・となれば、次はゲート抵抗680Ω。



・元に戻った。
10pF 680 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・100kHz方形波応答。



・下が入力波形、上が出力波形。



・なんと、細かいリンギングがなくなっている。



・オーバーシュート1波、アンダーシュート1波でリンギングのない、良好な方形波応答になった。



・何故か?



・知らない。



・が、これなら最良。
   10pF 680 100kHz 1uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・オシロの横軸を拡大して、本当にリンギングが消滅したかを確かめると、



・これなら良い。
   10pF 680 100kHz 2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv 8Ω
・参考までに、8Ω抵抗を負荷にした場合の方形波応答。



・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・やはり細かいリンギングはない。幅広なうねりというかリンギングはあるが。
   10pF 680 10kHz 20uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv
・10kHz方形波応答。



・下が入力波形、上が出力波形。



・立上りの小さなオーバーシュートと立下りの小さなアンダーシュートはあるが、その後のリンギングはない。
   10pF 680 10kHz 20uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 上1Vdiv 8Ω
・参考までに、8Ω抵抗を負荷にした場合の方形波応答。



・10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形には、何とも良く分からないリンギングが出ている。



・この辺はこれまで見たものと同じ。こうなる理由は不明。

・結局、巡り巡ってゲート抵抗は元の680Ωに戻った。

・なので、全回路図は前と同じ。


・何も変わらないので、音も変わらない。

・素晴らしい音と音楽を奏でる。

・MOS-FETのゲート抵抗。何気に最初に使っていたものが最良の定数だった。

・こんなこともあるのだね。


・MOS-FET。

・難しい。
   



2023年12月2日