ローストビーフの焼き加減

熱波の中 今月も自粛生活となる

 8月は何とか事態が好転するのではとの期待は体温を越える熱波であっけなく吹き飛んでしまいました。過去にはあまり話題になっていなかった「チベット高気圧」という凄い奴が日本を蔽っているのがその原因の一端のようです。そんな訳で今月も自粛生活となり、早朝に5キロほど歩いて、あとは檻の中の動物のように家の中をうろうろして時間が過ぎるのを待つというのが日課になってしまいました。とにかく日中の最高気温が30℃ぐらいまで下がってくれないとゴルフにも行けないので、本当に暇を持て余してしまいます。
 さて、前回は懐かしいステーキハウスの話を書きましたが、今回は関連して「ケンさん流ローストビーフの焼き方」を思いつくままに書いてみたいと思います。ローストビーフは「塊の肉を焼く」という極めてシンプルな料理なのですが、キッチンにデーンと塊の肉が置いてあるのを見ると、なんとなく手を出しにくい雰囲気になります。失敗するとこの肉が台無しになってしまうというプレッシャーがかかってくるからでしょうか。昔から我が家の看板メニューだったのですが、最近ようやく出来上がりが安定してきました。結論から言うと「肉の内部の温度管理を適切にする」という、当たり前のことが分かったからでしょう。
 材料は肉屋でロース肉の塊を切ってもらうのですが、500グラムから800グラムぐらいが最良だと思っています。塊が小さいと火の通りが早くなるし、大きいと、思った以上に火が通りにくくなります。小さいと焼きすぎてパサパサになるので神経を使います。肉の形は焼く方の立場からは立方体が理想なのですが、肉屋の都合もあり、普通は厚みのある長方体になります。形は焼き方に密接に関係するので、できるだけ焼きやすい形状の肉を買いたいと気を付けています。ロース肉といっても霜降りだったり赤身だったり様々ですが、あまり脂身が多いと焼くときに難しくなりますし、焼いているときに油が溶け出してパサつきの原因になります。
 買ってきた肉を、焼く前に部屋の温度に戻します。冷蔵庫から出してすぐだと肉は10℃以下になっていて、部屋の温度が30℃だとすると20℃もの温度差になってしまいます。ここでの要点は時間をかけて肉の芯まで均一な温度にするということです。肉はタコ糸で縛って形を整えて塩と黒コショウを全体にまぶします。フライパンに薄くサラダ油を熱して肉を焼いて行きます。ここでは一面を2分ずつ、表面に焼き色を付けながら12分かけて焼き、元の面に戻ったら焼き色を見ながら1、2分ずつ焼いて行きます。材料の肉の形が不ぞろいだった時は、この時の焼き加減で調整します。要は肉の中心に向かって均一に火が通るように意識するということです。最初のうちはこの段階で中まで火を通して焼きあげてしまおうと格闘していたのですが、それが間違いだと気が付いてから焼き加減が安定してきました。
 最近の情報では、この段階で湯煎にするというテクニックがあるようですが、理屈にかなっていることです。その場合は外側を焼いた肉をラップでくるみジップロックに入れ、それを大体60℃前後になるように湯煎するというものです。私の場合は、やっている内容は同じなのですが、オーブン・トースターを使います。外側に焼き色を付けた肉をアルミホイールで包み、約100℃に予熱したオーブン・トースターに入れて30分待ちます。この時間は肉の大きさと形によって変わってきます。この辺りの加減がロースト・ビーフを焼く時の面白さです。時間経過により肉の内部では全体の温度の均一化がなされます。目標温度は60℃前後なのですが、アルミホールにくるんだ分の熱のロスが、我が家のオーブン・トースターでは40℃ぐらいあるようです。
 大体焼きあがったと判断したら肉をそのまま30分放置しておきます。盛り付けは苦手なので、あまりうるさいことは言いません。肉の切り方は500グラムを超える大きさの肉では、厚切りで5ミリから1センチに切って各自のお皿にとりわけて、ナイフとフォークで食べてもらう方法と、肉をひたすら薄切りにして盛り付けて野菜と一緒に食べる方法があります。中途半端に分厚く切ると、口の中が一杯になってしまって食べにくいので気を付けます。昔はソースも作っていたのですが、手間のかかる割には出来栄えがもう一つなので、最近はワサビ醤油になってしまいました。ロースト・ビーフに限らず、料理の基本は温度管理ということでしょうか。工夫して作ってみて予想通りに出来上がるとなんともうれしいものです。