今が初夏のパースへ行ってきました 前編
ここのところ東海自然歩道にかかりきりで、外国へ行く機会がありませんでした。「そろそろどこかへ行こう」と考えていて思いついたのがオーストラリアのパースという町でした。今から30年ほど前、国際線の副操縦士としてオーストラリアのシドニーには随分と通っていました。大体2か月に1度位の頻度で行っていたように記憶しています。当時は1週間に2便という乗務員にとってはこたえられないパターンでした。次に帰りの飛行機が来るまで現地で3泊か4泊になるからです。向こうではシドニー近辺でゴルフに興じていたわけですが、さすがに国内線で4時間もかかるパースまでは行く機会がありませんでした。当時からパースは「オーストラリアの西部にある気になる町」として記憶に残っていました。
パソコンで日本からパースまでの便を調べてみたら、シドニーへ飛んで国内線に乗り換えてパースに行く便と、香港、シンガポール経由で行く便がありました。料金は驚くほどの安さで、ビジネスクラスで往復27万円でした。早速キャセイパシフィックの香港経由を調べたら、関空午前10時出発で、香港で2時間待ってパース行きに乗れることがわかりました。その便に空席もあったので、すっかりその気になって予約してしまいました。飛行時間は関空から香港まで4時間半、香港からパースまで7時間、時差が1時間です。
パースの緯度は南緯32度で、北半球の緯度では九州あたりに相当しますが、気候はもっと温暖なようです。パソコンのにわか勉強で、まず地図を出してみました。なる程オーストラリアの西端に平野が広がっています。オーストラリアの中央部はほとんどが砂漠なので面積が広い割には人が住めるところは少ないのです。東部のブリスベンからシドニー、メルボルンまでの海岸線に沿って広がる平原とパースを中心とする南西部の平原がオーストラリア大陸で人が住みやすい地域となるわけです。グーグルの衛星地図で見るとパースの街はスワン川が湖のように広がった周りにできた街で、インド洋に直接面してはいません。スワン川の河口にはフリーマントルという港町があります。先日のニュースでは日本の南極観測船「白瀬」が、ここで隊員を載せて南極に向かったといっていました。
AIRBUS A350−9 旧パース郵便局
市内の教会 観光バス乗り場
オーストラリアのビザをパソコンで申請したり、ホテルを予約したり地図を見たりしているうちにあっという間に11月になり出発の日が来ました。午前10時関空発香港行きキャセイ航空171便に乗るために7時前に蛍池からバスに乗りました。「何もそんなに早くいかなくても」と思うかもしれませんが、何しろ慣れないビジネスクラスに乗るので、じっくりビジネスラウンジというめったに入らないところを観察、体験したかったのです。オンライン・チェックインを済ませていたので、カウンターで荷物を預けてゲートに向かい、途中でお目当てのラウンジに立ち寄りました。関空のラウンジはシャトルの出発口近くにありました。これはまあ普通の感じで、椅子と軽食、飲み物などが置いてありました。1時間ぐらいビールを飲んでいるうちに出発時間になりました。3番ゲートへ行くとすでに搭乗開始になっていました。飛行機はボーイング777−300でした。定年まで乗っていた飛行機でしたが、すでに機種としては盛りを過ぎた感じでしょうか。就航から20年以上が経過しているのですから、月日が経つのは早いものです。
ほぼ満席のキャセイ503便は定刻に出発しました。この飛行機のビジネスクラスは昔の仕様で、座席が広いことと食事が少しいい位が取り柄で、香港まではゆっくりと食事してワインなどを飲んでいたら到着しました。香港はキャセイ航空の地元なので、ビジネスクラスのラウンジが5つもあります。事前調査によると、軽食で麺類も出るそうなので大いに楽しみです。香港国際空港は、昔貨物航空にいた頃に、この空港がオープンした日に飛んだ懐かしい思い出があります。開港当日に成田から日帰りで香港に飛んだのですが、貨物の搭載に時間がかかり5時間以上遅れました。貨物便には100トンもの積み荷があるので、あらかじめコンテナを整理しておかないと大混乱になるのです。ところが飛行機の前にある貨物ヤードはバラバラにコンテナが散乱していました。「開港準備で忙しくて貨物のほうまでは手が回らなかった」という状況が見え見えで、怒る気力も無くして飛行機の中で寝ていたのを思い出しました。
昔のことを思い出しながら、広いゲート・ラウンジを歩いて行きました。今の大型機は翼幅が大体60メートルありますから、ゲートの間隔は70メートルあり、左右にゲートがあるとしてゲート番号10番進むには350メートル歩かなければなりません。遥か彼方にあるはずのキャセイのラウンジはまだまだ先です。飛行機は座っていればいいのですが、ゲートに出ると歩くしかありません。電気自動車も走っているのですが、それはさすがに恰好が悪いので乗りません。ゲート・ラウンジの突端付近にビジネスラウンジがありました。中に入ってみると、型通りにソファ、ドリンクコーナー、軽食、香港らしくヌードルやシュウマイなどのコーナーなどがあり、結構広い作りになっています。次の便までの待ち時間は2時間でした。もう降機してから30分は経っているので1時間ほどしか時間はありません。椅子に座ってウイスキーを飲むぐらいしかすることがありません。機内で散々食べてきたし、これからの便にも食事が出るので、ここで何か食べる気にもなりません。
ラウンジでウロウロしているうちにパース行きの便の出発30分前になりました。出発ゲートへ行ってみると、丁度搭乗開始時間でした。飛行機はエアバス社のA350−9という最新鋭の飛行機でした。サイズは見たところではボーイング787と同じぐらいでした。この飛行機のビジネス・クラスはフル・フラットになる最新型で、通路に向かって座席が斜めに並んでいます。独立しているので、隣の席の人と話をすることはできません。日本のエアーラインも、ブラジルへ行った時に乗ったカタール航空もこのスタイルでした。「自分の殻に閉じこもって勝手に時間を過ごせ」という現代人が喜ぶ方式なのでしょうが、味気なさはあります。離陸して暫くして食事が始まりました。ガラスのワイングラスでオーアウトラリア産の高級ワインを楽しみながら、ゆっくりと食事を楽しみました。それが終わると後は寝るしかすることがありません。私は原則として機内で映画を見ることはないので、座席をフラットにして寝てしまいました。飛行時間は7時間半なので、2時間ぐらい寝た頃に起きだして飲み物を飲んで、シートテレビの地図を見てみると、飛行機はオーストラリア大陸の西岸を南に飛んでいました。あと1時間程で降下に入るでしょう。到着は深夜0時ということでした。アナウンスによるとパース空港は風が強いとのことで、なる程地面に近づいて行くにつれて飛行機が風にあおられている様子で、「がんばれ、敗けるな」とパイロットを応援したくなりました。無事に着陸してほっとしました。
入国審査はスムースに終わり、荷物を受け取って外に出てタクシー乗り場に向かいました。気温は18度ぐらいでしょうか。タクシーでホテルの名前を告げると深夜の道路を20分ほど走ってホテルに着きました。チェックインして部屋の鍵をもらって部屋に入りました。確かキッチン付きの部屋を予約したつもりでしたが、普通の部屋だったので、明日の朝に話をすることにして、さっさと寝ました。
遊覧バス パース市内を廻る
パース中心部を見る ジャガランダの木
翌朝は朝日で目が覚めました。噂通りこの地方は穏やかな気候のようです。昔からの習慣で、初めての場所はホテル周辺の散歩から始めます。ホテルの正面はスワン川ですが、ホテルとの間に高速道路が走っています。歩道橋を渡って川岸に出ました。この辺りは川というよりは湖で、ヨットハーバーが遠くに見えて、川幅は2キロ以上もありそうです。気温15度ぐらいの中を歩いて行って郊外の住宅地に入りました。小鳥がさえずり、ジャガランダの紫の花が満開になっていました。南半球の初夏、ブラジルでは「ブラジル桜」と勝手に名付けていましたが、ここでは「パース桜」になるのでしょうか。個人の住宅でも積極的に植えてあり、街路樹にもなっていて、住宅街が薄紫に彩られて見えました。住宅街の中にショッピング・モールを発見しました。ホテルから歩いて10分程度、レストランや映画館もあります。
ホテル周辺の様子が分かったところで引き返し、レストランで朝食を食べました。普通のビュッフェスタイルで、味も普通で、値段は3000円もします。食後にフロントに行って、部屋をキッチン付きに変えてもらいました。すこし差額を払いましたが、このほうが割安だし、作る楽しみもあります。新しい部屋は少し広くて、キッチンにはすべて道具が揃っていて、電気炊飯器まであります。部屋に落ち着いて荷物を整理した後、パースの街に様子を見に行くことにしました。散歩のときにショッピング・モールにバス停があったので、そこへ行き、路線バスに乗りました。バスは15分ぐらいでパースの中心部に到着しました。市内をぐるっと回る観光バスがあるのは事前に知っていたので、その2階建てで2階部分がオープンになっている赤いバスを探して観光案内所へ入りました。切符を買ってバス停で待っていると、赤いバスが来ました。市内の古い建物や、カジノ、植物園などを回ってくれるので、街の概要がわかりました。昼にバスを降りてコリアンハウスで焼き肉ランチを食べて帰ってきました。町を歩いているうちに、ハエが顔に付きまとってきました。サングラスの中にまでズーズーしく侵入してきます。そのとき突然昔の記憶がよみがえってきました。仕事でシドニーに通っていた頃、この「付きまといハエ」(私が名付けた)にさんざん苦労したのでした。ゴルフをしていても顔に付きまとって、追い払ってもすぐ近くをしつこく飛び回り、集中力を無くします。どうやらこの付きまといハエはオーストラリア全土にいるようです。大きさは日本にいるハエより少し小さいぐらいですが、特に田舎へ行くとたくさんいるようです。
路線バスでショッピング・モールまで帰って台所に必要なものや食料、ワインを買ってホテルに帰りました。ワインの値段は思っていたほど安くはありませんでしたが、種類はいろいろあってこれからが楽しみです。牛肉の値段は大体日本の五分の一程度でした。部屋に帰って魚と肉を焼いて、ご飯も炊いて夕食を楽しみました。滞在第1日目はほぼ予想通りの展開で終わりました。明日は港町フリーマントルへ行ってみます。 (続く)