2度目のブラジル 写真集その4

       ― パンタナール湿原に群舞する鳥 ―

 パンタナールの牧場に滞在して3日目は、「川へ行って鳥を見る」ことになっていました。詳しい内容をあまりよく理解していなかったので、「まあ、車に乗って川まで行ってバードウォッチングするのだろう」と高をくくっていました。朝集合してみると馬が7頭用意されていました。一人に一頭、つまりこれに乗って川まで行くということのようでした。同行してくれるマダムの説明によると、ここから川までは途中に湿地が続くので、馬に乗っていくのが最適ということでした。


 大人しい馬を用意してくれているとはおもいましたが、半年前にパンタナールの牧場で乗って以来の乗馬体験は緊張しました。気持ちが怖がっているので背筋が伸びず、重心が前に行って、へっぴり腰を絵にかいたような乗馬姿でした。


 牧場をでてすぐに荒野となり、時には水草のホテイアオイがびっしりと覆った湿原の中を、馬の腹近くまで達する水をかき分けて進んでいきました。馬はとっくに乗り手の力量を見切っているので、途中で立ち止まっておしっこをしたり、脇に生えている草を噛んだりしてのんびりと進んでいきました。出発して1時間半ほどでやっと舟を置いてある広場に到着しました。牧童のペドロ君が10人乗りの船外機付きのボートを用意する間に周囲を観察してみました。川というか、雨季で増水した湿原というのか、川との境目がわからないような水たまりが延々と続いていました。目を凝らしてみると、はるかかなたまで鳥の群れが飛び交っていました。


 舟に乗り込んで出発して、最初に目に入ったのは川岸にいるパラグアイカイマンでした。丸々と太っている鰐は日光浴しているのかじっとしています。夜になると活動を開始するのでしょう。船はほんの数メートルの距離まで近づきますが鰐はほとんど動きません。体長は3メートル以下なのですが迫力があります。


 次に見えたのはズグロハゲコウという名前の大きな鳥です。名前の通りの、頭が黒くて禿げているコウノトリの一種で、パンタナールではよく見かけます。外見はちょっと間が抜けているような雰囲気がありますが、かなり大きな魚を豪快に丸呑みにしてしまいます。空を飛ぶ姿は飛行機でいえば爆撃機のような重量感があります。



 舟がカモの大群に近づいたとき、群れが一斉に飛び立ちました。数百羽が羽音を鳴らしながら飛んでいく迫力に圧倒されました。この群れに別の群れも呼応して飛び立ち、よく見ると遥かなたまで、ゴマ粒のように見えるカモで覆いつくされていました。数千、数万という鳥たちが水草や魚と自然豊かで食物の豊富なパンタナール湿原に生息しているのです。


 舟から周囲をよく観察してみると、実にたくさんの種類の鳥たちがとんでいました。優雅に飛ぶ鶴やピンクの羽とくちばしを見せるベニヘラサギ、名前のわからないシギなどです。


 水辺にカピバラが一頭で泳いでいました。ふつうは群れで行動しているのですが、この時は単独行動でした。日本の動物園にいるカピバラはきれいに洗われているので茶色い毛でおおわれていますが、野生のカピバラは垢と油でどす黒くなっています。またも脇から飛び出してきたのはノブタで、いつもの通り一目散に走って逃げていきました。
 予想外に面白いバードウォッチングになりました。帰りも1時間半馬に揺られて、落馬もせずに無事に牧場まで帰ってきました。


 私たちは雨季の終わったばかりのパンタナールの大自然を堪能しました。そして滞在最後の日も、牧場には美しい夕景が広がっていました。明日はアマゾンへと移動して旅は続きます。