シガーの生産


  どうしてシガーって高いのだろうか どこかの誰かが暴利をむさぼっているのだろうみたいな俗物的な考えを持って
  いるならば以下の生産工程を読んでいかに手間と時間がかかっているのが分かるだろう。これで納得しうる理由に
  なると思いますよ。

  1.葉
    シガーに使われる葉は、2種類に大別される。フィラーとバインダーになる葉とラッパーになる葉がある。
    ここでは、ハバノと言われるシガーの生産を主として記述して行こうと思う。
    ハバノの場合 フィラーとバインダーになる葉はCriolloと言う煙草種が使われる。この種の収穫においては
    4〜5枚の葉が取れる。Crilloの特徴は、キューバーの製の黒煙草を生産できる唯一の種である。
    キューバの強い日差しが 味や香りをつくりだし様々なハバナシガーへと生まれ変わる。
    6〜7組の葉が収穫できフィラーにおいてはligero,seco,volado、バインダー用の4種類に大別される。
    下の方の葉は葉の成熟が古く色合いが薄い。この条件においては、口当たり・香りもよい葉になる。
    上部位の葉は、日光に当たり葉は厚くなっている。
    
    Criolloの煙草

    次にラッパーに使われるのがCorojoと呼ばれる煙草種である。「El Corojo」という農園が品種を作ったとしてこの名前が
    ついている。このCorojoだがラッパーに求められる絹のように滑らかでほぼ同じ大きさに揃える様に育てなければ
    ならない。この為、覆いをして直射日光を避け育てる。この為「日陰栽培煙草」とも呼ばれ生産コストは大変高い物に
    なっている。外観は、茎と葉の色から7段階に分けられ 1株で8〜9枚の葉があり 各々に名前が付けられている。
    収穫は茎の段階毎に1週間間隔をあけて行われる。
    Corojoの煙草

  2.乾燥
    煙草の乾燥は自然乾燥で行う。この自然乾燥は、屋根が高い大王ヤシの木造家屋で行われる。
    最初に葉タバコを2〜3枚に重ねクーヘと呼ばれる台の上に数日晒しておく。乾燥が進んだ段階で葉を屋根の方へ
    上げる。葉の色が黄色っぽい赤に変わるとここでの工程は完了する。この自然乾燥では、温度・湿度の調整等を
    怠らないように監視を頻繁に行う必要がある。ここでは50日程度を要し水分の85%が失われる。

  3.第1次発酵
    次の工程は第1次発酵になる。室温が35℃以下に保たれた発酵用小屋に運ばれる。約50cmほど積み重ね室内の
    十分な湿度により葉タバコは発酵を始める。ここで30日ほど置くと葉中の樹脂が減少し色も段々と同じになっていく。
    常に室温に気を配り35℃を超えたら積み重ねた葉をばらし、風にあててから醗酵室へ戻す。
    ligerosと言う強い葉タバコに分類される物は、長時間発酵させる。中型のタバコのSecosとして
    使われる物は、発酵期間を短くする。マイルドな葉タバコとして使われるVoladosと呼ばれる葉は
    最も短期間発酵させる。このように1次発酵でタバコの違いを出していく。

  4.分類と葉の芯抜き
    水と葉タバコ・茎を混ぜたものでフィラー部とバインダーになる部分を湿らせ 葉タバコを種類と質により分類する。
    次に一番太い葉脈の芯を取り除く。一定の密度になるようにケース内にフィラーを半分入れ残る葉の3/4を
    バインダー用のケースに入れる。この後 色・形・種類・葉の大きさ・傷・ひび割れの状態にて細かく選別する。
    選別された物には各付けを行いその後の出荷に備える。ラッパー用の葉タバコははじめに選別された状態そのままに
    保存する為、真水を噴霧し葉が張らないようにしておく。

  5.第2次発酵
    分類済みの葉タバコは、束にまとめられブロと呼ばれる大きな山に積まれる。湿気が上がり第1次発酵より強い発酵が
    促進する。日にちにして約60日が必要である。タバコの種類により発酵を調整する必要があるので温度管理を細かく
    行う。この工程では、温度の上昇を防ぐ為、山の下部にある葉を上 上の葉を下へ入れ替える作業を頻繁に行う。
    何度も繰り返し行われ著しい温度の変化が無くなった時に発酵が終わる。葉タバコは発酵工程で科学変化を起こし
    アンモニアなどの不純物が取り除かれる。葉タバコにとり第2次発酵はストレスをかなり与える。フィラーとなる葉は数日間
    棚で空気に晒し休息を与える。休息を与え回復が見られるとフィラーとバインダー用の葉はパカと言われる麻袋に
    いれる。ラッパー用の葉は、傷などをつけないようにデリケートに扱う必要があるので大王ヤシの幹の皮 ヤグアで作った
    立方体の箱 テルシオスと呼ばれる物に入れる。このテルシオスは丈夫でラッパーが呼吸が可能でありそれ自体で
    ラッパーを熟成させる機能がある。

  6.熟成
    パカとテルシオスは、1年〜2年の間貯蔵庫に移される。貯蔵庫の中には、ブエルタアバホという熟成用の棚がある。
    タバコはその中で熟成され 喫煙に適した状態にする。貯蔵庫の中では、燻しも行われ、害虫や疫病の繁殖も防ぐ。
    上記のligerosと言う分類の葉は、熟成に2年 中型のタバコのSecosとして使われる葉とマイルドなタバコとして
    使われるVoladosと呼ばれる葉は2年以上熟成される。
    この中で品種・着葉部位・栽培農園別・収穫年・発酵期間と事細かく分類されブレンドを行う際の重要な情報となる。
    熟成を終えた葉タバコは、シガー工場へ送られる。

  シガー工場等があるハバナ市街

  7.ハンドロールシガー工場にて・前処理
    工場に運ばれてきたパカとテルシオスは、品種・着葉部位・栽培農園別・収穫年・発酵期間と直ぐに見分けられる様に
    ラベルなどをつける。貯蔵と発酵で押しつぶされてきた葉を一枚一枚はがしローリングルームや作業場に運ぶ。
    この時一枚一枚にそれぞれ異なった前処理を行う。
    ラッパーの取り扱いには、細心の注意が払われる。これは、ラッパーの質でシガーの第1印象つまり見た目が大きく
    左右されるからだ。ラッパーの加工は、早朝にモハと呼ばれる湿らせる作業から入る。このモハは、一枚一枚に
    分けた葉を再び束ね霧吹きなどで軽く水分を与える作業でその目的は、葉に弾力性を戻す事だ。
    このモハと言う作業は、葉に柔軟性を持たせるだけでなく口当たりをよくする目的もありこの作業にはラッパーの質が
    かかっている。気温・湿度をそれぞれ32℃前後・92%の高温・多湿の換気室に半日吊るしておく。これでラッパーに
    均等に湿気が行き渡る。この工程終了後休息箱と呼ばれるプラスチックやニッケルの線が入った無機質な箱に移し変え
    10時間〜17時間休ませる。これによってローリングと呼ばれる作業に必要な弾力と手触りが葉に与えられる。
    休息が終わった葉は、専門職の女性が葉の主脈を取り除き 1枚の葉を2枚に分割するデスパリーヨと呼ばれる工程へ
    進む。次にエスコヒーダと呼ばれる工程では、女性の選別者が大きさ・色・形をそれぞれ決まった各付け毎に分ける事
    を行う。

  8.燻煙殺菌
    各付け選別が終え新規で運ばれて来た葉タバコも含め工場で45日以上貯蔵してある全葉タバコを対象に、完全無害な
    煙で燻蒸される。これは、葉タバコの風味を変えないで菌や害虫の繁殖を防ぐ為に行われる。

  9.レサガード
    葉の選別と品質確認はこのレサガード(選別室)で行われる。ラッパー用の葉の場合 破損具合・色を確認する。
    破損の大きな葉は小さなシガー用に回すなどを行う。
  
  10.ブレンド
    いよいよブレンド室へと葉タバコ達は運ばれる。ブレンド室には、大変貴重なブレンド方法・技術が保管されており厳重に
    警備がされている。そのブレンド室へ シガーローラーの親方は、それぞれの葉タバコの熟成度合いを確認して、
    適合した葉のみ選び運び込む。
    まず各付けされ種類毎に選別された葉タバコは計量室にて計量される。これは後の正確なブレンド配合比で必要になる
    からだ。ブレンドでは、フィラーに使われる3種類の葉タバコに異なる数種類の葉タバコを配合する。これによりそれぞれの
    シガーに特徴が生まれる。燃焼力を高めるには、volado,香りを出すにはseco、強めのシガーにしたければligeroが
    使われる。ラッパーやバインダーはフィラーほどシガーの味を左右しないのでこのフィラーのブレンドにシガーの味の命が
    かかっている。ブレンドには専門のブレンダーが行い毎年収穫された葉タバコを混ぜ合わせ常に変わらない風味と味を
    を守り続けている。

  11.シガーローラー(シガーを巻く人)
    シガーを形造るローリングルームは、シガー工場の要である。ここではシガーローラー(シガーを巻く人)と呼ばれる。
    シガーローラーは、職人でありハンドメードシガーは、彼ら又は彼女達の手によって作られる。
      
    ローリングルームは工場の中でも最も広くて明るい部屋があてがわれている。部屋の中央には、読み手といわれる
    者が色々な読み物を音読している。この変わった習慣をはじめたのは、シガー工場の一つEL Figaro工場
    あると言われている。当時 この工場には、300人の作業者がおり作業中に彼らの1人が音読をすると言う事に
    意見が一致した事からはじめられた。音読者の給料は、工員一人一人が音読者に給料の一部を払う事であった。
    この習慣は、1865年から始まったといわれる。
    読み手のおじちゃん
    シガーローラーと言われる職人には、技術毎にクラスがあり それぞれの技術に沿う形で銘柄や型を製造している。
    彼らが使う道具は、板とchavetaと呼ぶシガー裁断用ナイフ、切断機、植物性の粉が入った容器、プレス機、木型である。
    一番大事な道具は彼ら自身の手である。シガーローラーは最低でも50本/日作るように言われているが熟練工は、
    120本/日のシガーを生産する事ができる。
    葉タバコを手の平に乗せ 左右を均等にねじれないようにつまり両端のどちらかが巻き過ぎないように、両手に神経を
    集中し慎重に巻いていく。この巻きのバランスが悪いと偏燃えの原因となりシガーとして不良となってしまう。
    巻き終えたフィラーは、次にバインダー用の葉で包み込み木製の鋳型(バンチ・モルド)に積み重ねて入れる。
    鋳型の蓋を閉めてプレス機にかける。これはラッパーを巻く前に葉の押し付けた状態で形を固定する為に行われる。
    この工程はシガーローラーの中で一番難所であると言える。
    ラッパーを巻く作業に入り最後は葉タバコを吸い口の大きさに切り作業は終了する。
    Julietas(churchills),Prominentes(Double Coronas),Gran Coronas(Especiales)などの最高のシガーと呼ばれる物は
    職人中の職人 最高のシガーローラーだけが作る事が出来る逸品になっている。形・長さ・太さをローリング中に整え
    巻いていくには、左右の手の動きを細かく調整しながら慎重に巻いていかなくてはいけない。バインダーは2枚の葉を
    使い葉タバコは均等に巻かれている。つまりムラなく巻かなくてはいけないのだ。これら一流のシガーローラーは、
    フリエテロと呼ばれる。名前の由来は、難易度が超高いJulietas(churchills),Prominentes(Double Coronas),
    Gran Coronas(Especiales)の生産に彼らが携わっているからである。
    最後にシガーの良し悪しはこのシガーローラー達にかかっており厳正な品質検査でパスしなかったシガーを作った
    シガーローラーにはその報酬が払われない。

  12.品質検査
    品質検査は、シガーローラー達が作ったシガーの内からメディアルエダ(50本の束)を抜き出す。
    サイズ、形、外観、太さ、重さ、出来栄えを厳正にチェックする。品質検査には、直径測定用にはインチ単位の
    リングゲージ、リングゲージで??なシガーつまり規格ぎりぎりな物がでた場合には精密な測定が出来るミリ単位の
    ノギスを使う。
    その束から決められた量以上の不合格品が見つかった場合 束全体を処分するが処分と言ってもばらしてもう一度他の
    タバコに再利用する事になっている。
    メディアルエダの中から2本を任意で選び分解し中のねじってあるフィラーの状態とかを確認する。2本の内1本巻きが悪い
    場合は、更にもう一本を選ぶ この3本目が規格を満たしていれば束の中のシガー全体を合格とし不良だった場合は、
    束全体を不良とする。よってシガーローラー達は報酬を受け取れないので持てる技術を全部を巻きに注ぎこむ。
    だいだいだが報酬が欲しいので不合格となるシガーは稀になっている。

  13.再生(エスカパラーテ)
    ローリングルームから品質検査にパスしたシガー達は、エスカパラーテへと移動する。この部屋には杉で出来た棚があり
    そこで最低3週間 シガーを休ませる。室温は16℃〜18℃ 湿度65%〜70%とお馴染み シガーのヒューミドール推奨
    環境になっている。ここでは、シガーがローリング作業で過剰に摂取した水分が吐き出される。又ここでは素性の異なる
    巻かれた葉タバコが、シガーに理想的な環境で寝かされる事により均一な物へと変化させる目的もある。

  14.色わけ(カラーグレーディング)
    以上の工程を得たシガーは最後の工程 カラーグレーディングへと来る。ここでは白色光の真下にシガーを並べる。
    この時大きなテーブルが使われる。シガーの色や色調は67種類の色合いに分けられる。色の識別者は、緑かかった
    茶色、黄色、赤色からマホガニー色までを識別する。箱にもこだわり箱に入ったシガー色が明暗、左右によって
    映えるように、部分的に飾った色合いを箱の中に当てていく。又蓋を開けた時 目に最初に飛び込んでくるシガーの
    色合いにも気を使う。工場の中には一番右上に最も明るい色のシガーを配置する事と決めている工場もある。

  15.バンド巻き
    シガーには、シガーバンド又はリングとも言うのが付いている。このバンドの事始めは、2説ありオランダの商人が
    顧客の為 自社ブランドをシガーを他社のと区別するために付けたという説
    カテリーヌU世が白い手袋をしたまま吸うため その手袋を汚さない為 シルクのバンドを付けたという説がある。
    現在では、ラッパーが剥がれたりするのを防ぐ為でもあるようだ。
    箱の中にシガーを置き 見栄えがするように前もって決めてあるシガー達に女性がバンドを手作業で巻いていく。
    そして決めてある配置に必ずなるように巻いたシガーを入れていく。

  16.完成
    箱に楕円形の蓋を取り付け その上に飾りつけのシールをはり蓋を閉じる。
    最後にここが大事な所だがハバナシガーの場合は本物の証である
    「the Republic of cuba and the Habanos,SA]というシールをはり出荷されていく。
        
     ハバナシガーの中でも有名なCOHIBAの箱と「the Republic of cuba and the Habanos,SA]というシール
     ハバナシガー本物の証