あの街、あの散歩道(第7回)


多摩都市モノレールと西武ライオンズ
大都市周辺、特に東京近郊においては、人の流れや物流は主として、商業、ビジネスの中心で、人口が密集する東京都心部を中心として放射状に発展してきており、そのため鉄道、道路などそれを支えるインフラも、これに相応して放射状に発展してきているのが一般的な姿かと思います。
多摩都市モノレールは、こうした一般的な姿とは性格を異にし、多摩地区を縦断的につないで相互の交流をはかるという謳い文句で、東京都が80%近くを出資した第三セクター方式で2000年に開業したもので、路線のほぼ中間に位置し、JR各線が集まる交通の要所であり、複数の大型商業施設を持つ立川を中心として、以前はバスや、あるいは迂回しながら電車を乗り継いでしかアクセスできなかった縦方向の特定のポイント間の交通の便宜に寄与していると思います。ただ、基本的にはサービスの方向が東京都心部を向いていない、主に東京郊外の住宅地間を結ぶ交通手段であり、またモノレールという物理的構造から大量の乗客の運搬手段とはなり得ないために、安定的な収益構造をつくり上げ、それにより周辺住民のより一層の便宜をはかるためには、現在の南側の終点が、京王、小田急両線と連絡できる交通の要所であり、またその名が示すように、多摩ニュータウンの中心である多摩センターであるのは良しとしても、北側の終点が周辺に人が集まってくるような場所ではない、見るからに通過点で暫定的な終点駅としか見ることができない上北台(東大和市)で止まったままになっているのは、いかにも中途半端な状態であるため、この状態のままで放置しておくべきではないと思います(右の写真は、上北台駅と線路の終点部分)。
多摩都市モノレールの営業収益そのものは、2005年から黒字に転換し、現在も営業(運行)面では黒字の幅が徐々に大きくなるなど、順調に運営が行われているようですが、初期の頃は当初に要した膨大な土地取得費や工事建設費のための借入金の返済が経営を圧迫し、そのために東京都を初めとする株主などからの経営支援を余儀なくされ、その資金で何とか債務超過や累積債務が解消したという経緯がありました。現在の計画では、現時点での北の終点である上北台から箱根ヶ崎(瑞穂町)への延伸が、「2015年までに整備着手することが適当」とする運輸政策審議会の答申に基づき検討されているようですが、途中に人が集まるような交通面での中継点がなく、また周辺のインフラから多くの集客を期待することが難しいと思われる箱根ヶ崎までの沿線の状況を考えた場合、これまで以上の大幅な土地取得費や工事建設費とその返済という難題も生じ、経営面への圧迫という問題の再燃にもつながりかねないと思います。箱根ヶ崎への延伸という当初の計画そのものは依然として存在しているものの、延伸のメリットに疑問符が付くであろうことが今では周知であるために、誰も敢えてそのリスクにチャレンジしてまで次のステップに踏み出せず、何もしないでそのままの状態に放置しているというのが現状かと思います(左の写真は、多摩センター駅と線路の終点部分)。
私は、この状況の打開策と今後の進むべき道としては、多摩都市モノレールを上北台からそのまま一直線上に北上させ、多摩湖を縦断して西武球場を経由した、埼玉県中南部の交通の要所である所沢への延伸が、集客など営業面や周辺地域の活性化を考えた場合、より現実的な選択肢であると思いますが、杓子定規的に考えると、東京都が80%近くを出資している路線を埼玉県にある所沢に延伸することの実現性については、今後の種々の調整、とりわけそれによって競合が避けられなくなる西武鉄道との調整が課題となるのではないでしょうか(注:電鉄会社としては、西武鉄道、京王電鉄、小田急電鉄の3社が多摩都市モノレールに出資しているが、このうち西武鉄道の出資比率が最大で、全体の5%弱)。でも、より現実的に考えると、この路線が実現すると、東京の多摩地区から西武球場へのアクセスが格段に良くなり、また西武ライオンズのファン拡大に大きく貢献できるんじゃないかと思います。私の知る限りでは、現在西武ライオンズの試合があるときは、モノレールを利用して球場に向かうファンのために、モノレールの終点の上北台から西武球場までバスの便がありますが、これだと試合前の球場に向かう往きはともかく、特にナイターの場合、試合終了後の帰りは夜遅く球場の前でバスに並んで、また上北台でモノレールを待つことになるなど、この心細さと不便さに嫌になってしまうでしょう。西武球場へのアクセスは、西武池袋線、西武新宿線を使えば圧倒的に便利で、東京都の多摩地区北部に住んでいる人であれば、どちらかの線の最寄りの駅を使えば良いでしょうが、JR中央線以南の人たちにとってのアクセス方法の一つには、国分寺駅からの西武多摩湖線、西武国分寺線や、府中本町駅、西国分寺駅からのJR武蔵野線がありますが、西武球場にたどり着くまでにはいずれも複数回の乗換えを余儀なくされ、またそのいずれも運転間隔が比較的長いことから、物理的にも時間的にも極めて不便です。ナイター終了後の家路を考えると、これでは、この地域の人たちにとっては、よほどのファンではない限り気が滅入ってしまい、西武球場への足が遠のいても致し方ないと考えてしまいます。でも、気付かなければならない一番重要なことは、交通網が放射線状に発展した東京近郊の人たちにとっての盲点かも知れませんが、多摩地区のJR中央線以南の地域の人たちにとっては、純粋に距離的な意味でのプロ野球の球場と言ったら、西武球場が神宮球場よりも、東京ドームよりも、また横浜球場よりも近いんですよ。
西武ライオンズは、2009年より球団名を頭に「埼玉」と付けた「埼玉西武ライオンズ」という名前に改称しましたが、これは私が思うに、「千葉ロッテマリーンズ」、「北海道日本ハムファイターズ」や「東北楽天ゴールデンイーグルス」の地域密着の成功例を見て、その地域を代表する球団というイメージを強く出したいがために、同じように頭に地域名である「埼玉」という名前を付けた結果だと思います。ただ、ライオンズ以外のこれらのチームの場合には、元々別の地域をフランチャイズとしていたチームが、千葉や札幌や仙台にフランチャイズを移転して、新たにその地で新規開拓したファンとともに地域に根付いた球団として再出発したものであり、西武ライオンズのようにフランチャイズは移転せずに、その名前の頭にただ「埼玉」を付けたケースとは全く異質のものであると思います。西武ライオンズが1979年にその前身の西鉄ライオンズ、太平洋クラブ、クラウンライターを引継いで所沢に本拠地を移してきた際、当時西武池袋線沿線に住んでいた私は、新生ライオンズの熱い息吹やファン獲得のための熱心な営業活動に共鳴して、当時まだやっと歩き出したばかりの息子と一緒にファンクラブに入り、胸にライオンのキャラクターが縫付けられたぶかぶかのブルーのジャンバーを息子に着せたり、色々なキャラクターグッズをもらったりして、新生ライオンズを応援したものでした。これが、ここ数年間の前者3球団に当てはまる状況かと思います。
ライオンズの本拠地である所沢市は、埼玉県の最大の人口密集地である現「さいたま市」(大宮、浦和などからなる)とは、地理的には同じ埼玉県にありますが、お互いの交通上のアクセスは極めて悪く、行き来する場合には、一旦東京に出て、別の路線に乗換えて行くのが普通(JR武蔵野線経由というルートはあるが)という、東京を中心として放射状に広がった場所にお互いが位置しています。そのために、今までに西武球場の観客となったのは主に、埼玉県では所沢市周辺の人たちや、大多数は西武鉄道沿線の東京都の多摩地区の人たちで、現さいたま市周辺の人たちは、そのアクセスの不便さから、東京都の多摩地区の人たちと比べて西武球場に行く頻度はそれほど多くはなかったのではないでしょうか(そのためか、ライオンズは時々大宮球場で試合を主催している)。ライオンズがその頭に「埼玉」という冠を付けたことは、東京都の多摩地区を中心とした人たちにとっては、ライオンズを自分の生活空間から西武線に乗って球場に行ける身近な存在と考えていたところが、頭に「埼玉」と付けたことで、広く現在の東京都と埼玉県すべて、また神奈川県の一部をカバーする「武蔵」の西部全体を代表する球団から、自分たちの許を去って埼玉県の球団であることを宣言したと捉えかねないでしょうし、今まで気にしていなかった東京都の西部を走る西武線に、所沢の手前に県境があることをことさらに思い起こさせたのではないでしょうか。
東京都の多摩地区、とりわけJR中央線以北に住む住民にとっては、西武とは、新宿や池袋にターミナルを持つ、自分たちの街を走っている西武線のイメージ、また一時期は文化や流行のトレンドの先端を行った池袋、渋谷、銀座の西武デパートやパルコという斬新なイメージから、自分もその仲間の一人でありたいと考えていたものが、ライオンズが頭に「埼玉」という冠を付けたために、極端な言い方かも知れませんが、急に眼の前に立入り禁止の垣根を設けられたように思ったかも知れません。少なくとも私は、大きな異和感を覚えました。
現在、環状のJR武蔵野線を除いて、東京都の多摩地区を縦貫している鉄道路線はないことから、交通の要所である立川を中心とした多摩都市モノレールの西武球場経由所沢への延伸、また将来的には南側も現在の多摩センターから町田市あるいは相模原市にあるJR横浜線の主要駅までの延伸が実現し、東京西部の武蔵野台地を縦貫する路線ができれば、神奈川県西部方面から西武球場へのアクセスのみならず、武蔵野台地部での埼玉県、東京都、神奈川県のそれぞれの交通の要所を結んだ縦方向の移動がとても便利になり、それに伴う新たな活性化が生み出されることになるのではないか考えるところです(右の写真は、多摩川を渡る多摩都市モノレール)。
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