気流逆流装置の痕跡
大正9年(1920)開業の根室本線上芦別駅。
島式1面2線で立派な跨線橋もあるが無人駅。
かつてはここから北東に上芦別炭鉱への運炭軌道、北西に芦別炭鉱専用軌道が分岐していた。
上芦別から東頼成に向かって進む。
画面右手には芦別炭鉱専用軌道跡が存在するはずだが、
宅地となりその痕跡も疎らだ。
専用軌道の廃線跡である。(マウスon)
当初は2.3坑に至る4km区間が開業し、
その後、大正12年に5坑まで延長された。
東頼成町から東の山に入る。
標高は140m付近。
既に道は無く廃道を進む。
少し山中に入ると、開けた谷間となる。
施設は見当たらないが、第2坑には選炭場の記録もある。
チップラー後の手選とのことだが、大部分は切込炭として発送したようだ。
その先には道の無い場所にゲートがある。
また、そのゲートはレイルが使用され、酷く腐食している。
レール高さは110mm程度なので30kg級だろうか。
坑内からエンドレスにより出炭し選炭場までは馬鉄が使用されたようだ。
エンドレスとは上下に滑車(シーブ)を配置し輪状のワイヤーを掛け、
複線軌道で空車と貨車を連続的に運転する斜坑巻上げ方である。
周囲の樹木にはサルノコシカケが育っている。
周辺にかつて電力三十馬力、巻胴径1.2mの
エンドレス巻揚げ機が存在したとは想像できない光景だ。
その先では巨大な廃祉が現れた。
これはこれまで見たことのない形状だ。
選炭に関わるものではなさそうだ。
端の建造物は軸を支えるような体躯で上部に穴がある。
あれが軸受だとすると、巨大な何かが回転していたようだ。
劣化も激しくなく、後の吸排気に関する施設かもしれない。
軸孔のスラスト方向にもそれを受ける形状の架台がある。
これは恐らく通気用の扇風機施設だ。
巨大な羽根車のその回転軸を受ける部分と拡散室、電動機の基台廃墟だ。
下部には空洞があり、吸込み口か隔壁の一部のようだ。
火災等の事故の際には気流方向を変える必要があり、
外気の吸入、排出を同回転のファンで制御するには、隔壁による吸入経路の変更が必要であった。
扇風機架台に続く機関部分のようだ。
扇風機の空気吸込み口が片側の場合、吸い込まれる空気の負圧により、
羽根車の移動を抑制するために、丈夫な基台が必要となる。
扇風機施設全景である。
扇風機の両側から吸入する場合は、車軸が長くなるので、
本施設は両吸込みのターボ型扇風機であったようだ。
車軸上の誘導器によって、方向転換をした気流は、
螺旋状の拡散室を経て気圧差が抑えられ、
自然発火しやすい坑内に適した雰囲気となる。
その奥には車輪と車軸が朽ち果てていた。
車輪にはフランジが無く、軌道やトロッコのものとは思えない。
もしかすると手漕ぎの消防ポンプのような物かもしれない。
山中を進むと炭塊が落ちていた。
第2坑にはかつて鉱員社宅26棟、社宅6棟、
そして大弓場、協和会館、配給所、市場、病院などが建設されたようだ。
その奥には施設があったらしき荒れ地が広がるばかりで、
目立った遺構は発見できなかった。
少ない時期でも200名、多い時期には600名以上が従事し、家族を含めるとその4倍の人々の生活があったはずだ。
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