浮遊選鉱の航跡
錦秋湖は湯田ダムによってできた人口の湖だ。
湯田ダムは11年の歳月をかけて昭和41年に完成、
紅葉が美しいことから錦秋湖と名付けられた。
平安時代後期からの平泉文化の代表と言えば、
中尊寺金色堂であるが、この金工芸を支えたのが、
既に当時から開発されていた鷲ノ巣鉱山である。
露頭から標高を上げて進む。
斜面には人がやっと通れるほどの坑道「たぬき堀」跡が、
蜂の巣状に残っている。
選鉱場建設において重点とされたことは以下となる。
・系統を単純化して将来の自動化に備えること。
・豪雪地帯であることを考慮した工場配置。
・一部門面積は縮小して、建屋は鉄骨製、難燃化する。
・破砕工程は2段で完了させる。
・トリコンミル(円錐状のボールミル)の採用。
・浮選機は区数を減らした上で処理量増加を図る。
尾根を越えた平場には腐食したドラム缶が残る。
浮遊選鉱機は空気の導入分散方法により分類される。
それは空気撹拌型と機械式撹拌型だ。
古いコンクリート製の建物の土台がある。
浮遊選鉱は水槽の中で鉱石と泡を混ぜる訳だが、
その泡と混合するのに、空気を封入するタイプと、
撹拌羽を回転させて混濁するタイプがある。
朽ちた木製の電柱が残存する。
全泥浮選法は粉状に砕いた鉱石を水と混ぜて泥状の『パルプ』というものにする。
これを水槽タンクに投入する。
付近には鋼製の遺構も散らばる。
機械式撹拌型浮選機は水槽タンク中央に攪拌用の羽根(インペラ)があり、
これが回転することで気泡と撹拌され必要な鉱物が泡と結びついて浮き上がる。
この時、回転するインペラが放射状のものがデンバー(FW)型、
他にはらせん状のものやロッド上のものがある。
木製の電柱が苔むして倒壊している。
一方、空気撹拌型浮選機は加圧空気を水槽に注入する勢いを利用して、
回転軸無しに気泡を発生させるタイプの浮遊選鉱槽である。
森を進むと大きな平場がある。
選鉱場まではまだあるが、
ここも鉱山跡の範囲内だ。
かなりの深さの水槽がある。
巨大なものではなく、
選鉱に関する設備ではなさそうだ。
更に進むと巨大な石垣がある。
鷲ノ巣鉱 選鉱所に到達だ。
藪で全貌は見えないがかなりの体躯だ。
選鉱の流れとしては、まずは粉砕と粒度調整だ。
受入場に集約された原鉱石は90oの網目の振動機でふるい分けを行う。
網目を通らなかった大きな鉱石はクラッシャーで一次破砕を行う。
マウスon クラッシャ
幅は100mを超える巨大選鉱所だ。
破砕後の鉱石は振動と傾斜を用いて選別するグリズリ―で
再び粒度分けを行う。
マウスon グリズリ
粒度分けによって塊/粒/粉に分離された鉱石は、
床面に排出口を持つ粗鉱舎に貯鉱、
鉱床ごとの出鉱をブレンドして排出させる。
排出した鉱石はメリックスケールで秤量後、二次破砕工場に向かう。
クラッシャーやトロンメルを用いて効率良く破砕後、
ベルトコンベヤーにて摩鉱工程に投入される。
マウスon トロンメル
選鉱所内部にはホッパー装置が残る。
メリックスケールはベルトコンベヤのたわみから、
運搬中に重量を自動計測する装置だ。
マウスon メリックスケール
摩鉱工程ではミルによって浮選に必要な粒度まで細かくされる。
浮遊選鉱機は16基とか6基などが組み合わされて
複数回選鉱される。
調理器具の『ミル』と同様、衝撃や磨り潰しの効果で鉱石を粉砕する装置である。
回転する太鼓のような筒の中でボール(鋼球)と鉱石が転回し、
鉱石と鋼球がぶつかり、細かく砕かれてゆく。
マウスon ボールミル
浮遊選鉱に使用する選鉱用水は川の水を選鉱場最上部の用水槽に揚水して
使用、用水は繰り返し使用しなかったようだ。
揚水ポンプは水槽内の水位と連動した自動制御のものだ。
浮選機の気泡力と温度、粒度などは複雑な関係性にあり、
都度成果を確認しながら、加温したり粒度を変化させたりすることで
最も効率の良い浮選成績を模索するのである。
直径10m近いアジテータだ。
アジテータは泥状の鉱石を撹拌したり加温して、
浮遊選鉱に適した状態にする槽だ。
巨大なシックナーが残る。
完成した銅精鉱は濃縮のためにシックナーで撹拌後、フィルターで脱水処理を行う。
完成した濃縮銅は水分を10〜13%含んだケーキと呼ばれる塊となる。
シックナーから排出される廃滓は索道を介して堆積場に運ばれる。
廃滓の形状が塊のケーキの場合は堆積に手数がかかるため、
流動的なパルプ状にしてサンドポンプでのパイプ流送が行われた。
日本の鉱床総覧(上巻)1965年10月によると、
ここは大正10年に田中鉱業(株)に買収後、昭和14年に建設された選鉱場だ。
昭和51年に選鉱場は休止し閉山することとなる。
運用は37年間、廃止されてから48年もの時間が過ぎている。
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