火薬庫の櫺子


青森市は青森湾に臨む自然の良港を基盤に、
北海道との連絡地、かつての青函航路の発着地だ。
伝統的な製材、食品工業と共に周辺農村部では米やリンゴを産出している。 青森市


市街の西部、左手方向が東岳となる。
標高652m、八甲田山と岩木山が喧嘩し、
その末に"東岳"は現在の姿になったという伝説がある。 東岳


ここからは東岳自然歩道に沿って登る。
起点は標高150m、目指す鉱山跡まで約1.5q。
ハイキングコースに沿って歩く。 東岳自然歩道


小坂鉱山の石灰石使用量は10,000t/月であったため、
同和鉱業 野内採石場からの鉱送だけでは間に合わず、八戸石灰鉱山からの鉱石を国鉄八戸線 湊駅から
270t/日指定輸送していた。 東岳


しばらく登ると当時の物らしい石垣が残る。
大正5年からガス動力による索道の運用が開始され、
旧東北本線野内駅から小坂鉱山まで鉱石は運ばれたそうだ。 石垣


登山道を登る。
そこそこの急坂もあり、
索道の存在も納得できる。 登山道


更に登ると水槽のような遺構がある。
当時は男性2人と女性1人が組となり、
発破によって砕かれた鉱石を女性が斜面から落とし、
男性2名がそれをトロッコに積んで索道基点まで運んだそうだ。 水槽


配管が残存する。
1日に1チームが運ぶ鉱石の量が決まっており、
それが終わればその日の仕事は完了となった。 配管


更に奥の平場にはコンクリート製の土台がある。
高さ60p程度で20m近く続いている。
ここは索道の搬器に石灰石を積み込む起点のようだ。 土台


巨大なギヤと奥に直径2mを超える円盤がある。
これは索道終端の緊張所設備、円盤は滑車(シーブ)で
ウインチドラム(巻上機)にて索道のワイヤーの張りを保つ設備だ。 緊張所設備


深い水槽も残る。
ここから野内駅までの4,784mに及ぶ索道が敷設されていたのだ。
索道とはスキー場のリフトのようなものだ。 水槽



その付近では腐食したタンクと巨大なエンジンらしき遺構がある。
これはディーゼル機関とそれに付随するコンプレッサー、
そしてレシーバタンクのようだ。 エンジン


ディーゼルエンジンは三菱重工業(株)製「KE5」型。
コンプレッサー駆動用の水冷4気筒ディーゼルエンジンで
排気量5,320cc、出力85馬力のもの。 ディーゼルエンジン


三菱重工業(株)京都機器製作所で昭和24年から生産されたモデルで
「KE」はKyoto Engineを意味する。
本来は4tトラック用エンジンで昭和45年まで生産された。 ズリキブル


3気筒のレシプロ(往復式)コンプレッサー。
これはピストンの往復運動によりシリンダ容積を変化させることで、
気体を圧縮する装置だ。 コンプレッサー


気体は押し縮めて体積を圧縮できる。
縮められた気体(圧縮空気)は元に戻ろうとする力(空気圧エネルギー)を持つ。
そのエネルギーを使って工具や機関車などの動力源とする。 レシプロ


設定圧になるとモーターを電気的に停止する圧力開閉式に対して、
圧力調整弁からバルブを介して、設定圧以上に昇圧しないように、
吸気側バルブを強制的に開きモーターは停止させないのがこのアンローダ式だ。 巻上機


コンプレッサーから吐出された空気は脈打つような流れが発生する。
このレシーバータンクを介すと、内部のエアーがクッションとなり脈動(=空気の揺れ)を防ぎ、
安定した圧力を維持し、下流の機器に脈動を伝達しない。 レシーバータンク


またタンクが無いとインチングと呼ばれる発停が頻繁になる現象が発生する。
〈ロード(負荷運転・圧縮空気を作る)・アンロード(無負荷運転・カラ運転)が繰り返す〉
インチングはコンプレッサーに負荷がかかり損傷の原因となる。 レシーバータンク


搬器はバケット型で容量は約100L程度。
3.2o厚の鉄製バケットの重量は約50sと言われる。
ここに積込む石灰石の密度を2.7g/p3とすると満タンで270sとなる。
すると搬器1台で約300s程度と考えられる。 マウスon 搬器


玉村式抱索子は鋏刃(はさみ)で索條(ロープ)を挟み固定する。
停留所(緊張所)では小車輪が懸吊軌條にあり、
車輪で運搬器を支えるため、鋏刃が下がって開口することで索條を挟まない。 マウスon 小車輪


しかし運搬器が停留所を出るときには鋏刃内に索條が入り、小車輪が懸吊軌條を離れ
鋏刃で運搬器を支えることとなり、鋏刃が上昇して閉じることで索條を挟む。
これは急勾配でも強い力で鋏刃が索條を挟み滑らないタイプの改良型だ。 アーム



握索装置がワイヤーを掴むメカニズムは上動画となる。
搬器の重量で降りようとする力を掴む力に変換していることがわかる。
GDR_索道様 提供


これは鉱車のバケットのようだ。
バケット部分だけが転回して、
積載した鉱石を排出できる機構のようだ。 マウスon トロッコ


等間隔で穴の開いた木材が残っている。
これも索道に関する部材のようだ。
更に上部にも人工的な痕跡がある。 木材


多数のレールの折り重なる一画がある。
休山という形のため山から降ろさず、
一時的な保管状態が続いているのかもしれない。 レール


朽ちたレールの続く斜面を登ると石垣がある。
その奥には窪地がある。
窪地の上にも砂防ダムのような石垣が残る。 石垣



石垣上にはレールを用いた柱があり、
どうやらダム状の石垣付近で貯鉱、上部から鉱石を落とし、
下部で積み込む施設のようだ。 積込設備


その下部では坑口の発見である。
高さ、幅とも2m程度の開口部を持つ坑口だ。
坑内は土嚢で封鎖されているため内部はわからない。 坑口


坑口周辺は石垣で囲まれている。
これは採掘用の坑道ではなく、
貯鉱した鉱石を坑道内に落下させて運搬する用途だったようだ。。 坑口


坑口から登ると、
石灰石の白い露頭がある。
この周辺でも採掘がされていたようだ。 石灰


周辺にも続くレールと配管。
レールの軌間は570o程度、
一般的な手押しトロッコの軌間は主に610oと508oだ。 レール


鉱山跡地から更に上方の標高420o付近には
煉瓦製の建物がある。
土盛りで囲まれてはいないが、どうやら火薬庫のようである。 火薬庫


建屋はイギリス積みのレンガによる構造、
入口の土台はRC製、内部は木製で屋根は抜けている。
入口両側には金属製のフックのついた木材が張り付けてある。 レンガ


トタン製の屋根は大きく崩れている。
火薬庫はもしもの爆発の際に爆風が上部へ抜けるように、
あらかじめ屋根が薄く造ってある。 火薬庫


火薬庫内部は荒れている。
周囲に土盛りがないのは、
恐らく戦前に建造されたからだ。 火薬庫


色濃く残る敷設されたままのレール。
山中深くのかつての産業の痕跡は、
今なお静かに朽ちていく。 レール






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