謎の『遠』


坑口から進むと内部はかなり広い。
坑道断面の広さを加背(かせ)と呼ぶが、
たとえば高さ7尺、幅6尺なら「七・六」の加背という。 坑口


鉱車の車輪が朽ちている。
鉱山用語で坑道の天井は「冠(かんむり)」、
床は「踏前(ふまえ)」と呼ぶ。 車輪


しばらく進むと踏前にはレールが現れる。
這う配管は排水用だろうか。
付近ではレールが3本もある。もしや三線軌条かもしれない。 レール


坑木には碍子が残る。
奥に施設に電気を送っていたのだ。
ということは内部に電動機や配電盤など電気機器の存在が期待できる。 碍子


軌間の隙間に穴のある箇所もあり要注意だ。
レールの軌間は480o(475o)程度と
もう一方は場所により610o程度ある。 廃道


三線軌条は同線路に2種の軌間の軌道を通せるようにしたものだ。
つまり狭軌と幅の広い軌間を同路線に敷設したものだ。
ただし奥では2本線となっていたのでこれは単純に脱線止めかもしれない。 碍子


下層に続く穴、堀下もある。
十分に注意して渡る。
恐らく上部にも坑道がありそうだ。 堀下


しばらく進むと坑道の奥に小さな貨車がある。
これはバケットローダのようだ。
鉱車が残ることは多いが、積込機が残存するのは珍しい。 バケットローダ


バケットローダを後方から見る。
これは走行も含めて電気ではなく圧縮空気で稼働する。
実際、電気の方がローコストではある。 バケットローダ


ダブルチェーンでバケットアームを稼動する機構のようだ。
圧縮空気を使用する一番の理由は安全性だ。
過負荷の電気装置は爆発や感電の可能性がある。 マウスon バケットアーム

空圧の配管が施されている。
圧縮空気は柔軟性が高く、
離れた場所でもスピードとトルクを自在に変化できる。 空圧


これは太空機械(株)製のTAIKU500という機種のようだ。
自車の頭上をバケットが曲線的に移動、
後方の放出位置まで転動する。 マウスon 太空機械


こちらは他鉱山で使用された保存車両の太空600。
500と600の違いはその大きさのようだ。
それぞれに軌間(レール幅)に合わせた機種が存在したようだ。 太空600



多数の坑内分岐を超える。
レールの敷設は続き、
様々な資材が朽ちている。 坑内分岐


坑道の先には上部からぶら下がる鋼製の箱状の物がある。
これはもしかするとキブルかもしれない。
キブルは巻上機で上下する資材や鉱石の運搬エレベーター装置だ。 キブル


キブルの上部はワイヤーで吊り下げられている。
フックがあり箱が下部180度に展開し、
下層の坑道で積み込んだ鉱石を排出するようだ。 ズリキブル


大型のキブルはエレベータのように人員も積載可能だが、
これは上層で待つトロッコまで、
鉱石かズリを運搬する目的のようだ。 キブル


キブルから進むと黄色の巻上機のような装置がある。
他の資材も散らばる中、
比較的大きな装置が鎮座する。 巻上機


巻上機はかなり朽ちているものの、
銘板も色濃く残る。
昭和40年製、福岡県の西部電気工業(株)とある。 マウスon 銘板


巻上機のワイヤーはくり貫いた岩盤に消えている。
恐らく上部にシーブ(滑車)があり、
高速でキブルを搬送していたのだろう。 巻上機


上部には支保工があり、堀上がかなり奥まで続く。
キブルの巻上機ワイヤー長からみても、
かなりの深さの立坑が存在することとなる。 支保工


付近の酸素濃度は20.9%。
酸素には問題なく、
計測は継続しながら探索する。 酸素濃度


坑道を更に進む。
レールも配管も変わらず続く。
坑道内では時間や距離の感覚がなぜか麻痺してしまう。 坑道


坑道の奥には赤い扉が見える。
坑道の扉と言えば、漏風や車風(くるまかぜ)と呼ばれる、
排気の一部が入気に混入して再循環する現象を防ぐための機構がある。 扉


しかしこの赤い扉は経験上、
坑内火薬庫の可能性が高い。
先に進んでみよう。 火薬庫



やはり内部は火薬を一時保管する火薬庫のようだ。
工業雷管は火薬に点火するために起爆剤を装填したもので
爆発のきっかけを作るため、わずかな熱や衝撃でも発火する。 火薬庫


禁煙や火気厳禁の銘板がある。
この場所で水平坑は閉ざされ、
ここからは上部に向かう堀上となる。 禁煙


坑道最奥の壁に描かれた『遠』の文字。
達筆な当時のマーキングのようだが、
深い意味があるのかもしれない。 遠


迷路のように続く坑道。
閉山から50年以上が経過、
次回は既に埋没しているかもしれない。 迷路






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