下れない堀下、登れない堀上
坑道は水路のように水が流れ、
夥しい量の氷柱が垂れ下がっている。
温度差からか冷え切った風が流れている。
天井からの滴る水滴が凍ってできる氷筍(ひょうじゅん)である。
坑枠にできた氷筍は、
ずんぐりとした不思議な形状だ。
レールの軌間は508oの狭軌だ。
1フィート8インチ幅、
イギリス式に準じているようだ。
坑内分岐で道は二手に分かれる。
決め事で右坑から進むが、
左坑もやがて右坑と繋がる。
坑道を更に400m進むと、
作業詰所のような一画に遭遇する。
様々な資材が整然と残っている。
坑内作業場にはビクトリックジョイントなどの配管部品や、
プーリーやベルト、電材も残る。
コンプレッサーとレシーバタンクも残存している。
高さ約50o、6kgf級のレールが積まれている。
坑道は一部で曲がり、直線部分だけではない。
おそらく油圧のレールベンダーを使用してレールを曲げているようだ。
酸素濃度は20.6〜20.9%程度を維持している。
かすかに風が流れているのは、
この本坑の上下坑と接続しているからだろう。
再びの坑内分岐である。
資料としての鉱床図は横断面と上部からの俯瞰図で構成されており、
三次元でのルート選択となる。
水没は免れ、路盤は乾いている。
鉱床図のレベル(高さ)で見ると、
上下に6本以上の坑道が走っている。
坑道はかなりの幅となり、
驚くべきことにレールは複線区間となる。
上りと下りの鉱車が行きかう場所なのだろう。
その後も坑内分岐は複数個所で現れる。
すぐに行き止まりの退避坑や、
資材が保管されている坑道もある。
再び短区間の複線箇所がある。
複線区間は5m程度。
鉱車2台分程度の退避箇所のようだ。
坑道は急角度の曲線を描き、
軌道もそれに沿っている。
付近では急に風が強くなる。
付近の冠(天井)にはコウモリが静かに眠っている。
コウモリは交尾後もすぐには受精しない。
繁殖期と冬眠期が重複するため、エサの豊富な春に出産できるよう、
着床遅延と言われる受精時期調整が行われる。
坑道を進むといきなり足元に空洞が伸びる。
下部の階層に向けて掘られた立坑、
堀下の存在だ。
進んできた水平坑道から垂直に下る立坑。
レールはその堀下上を渡り奥へ続く。
十分に構造を確認したうえで横断する。
鉱石摺は30m程度下部の階層まで続くはずだ。
下部は水没、木製の梯子は既に腐っている。
これは危険と判断、下らず先に進む。
堀下の先で坑道は埋没しているように見えた。
しかし埋没ではなくそこから90°上部に向けて坑道が進んでいる。
堀上と呼ばれる立坑だ。
上部に向かう堀上は坑木で組まれた井桁に沿って登っている。
かなり上部には木製の梯子も望めるが、
とてもそこまでは到達できず撤退とした。
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