辛うじての遺構


平岸駅は根室本線、滝川から20qの地点にある。
札幌の地下鉄南北線にも同名の駅があるが、
炭鉱によって栄えた面影は既にない。 平岸駅



駅の南側からアプローチする。
明治期には石炭・薪のシェアが高く、大正期は石炭が7割、水力が2割を占めていた。
ところが昭和30年代になると水力発電から火力発電への『火主水従』、
昭和30年代後半には石炭から石油への『油主炭従』が加速する。 赤平


ほぼ使用されていなさそうな林道を遡る。
明治期には外国汽船への焚料炭として、官営の炭鉱が採掘を開始する。
当時はおおむね赤字であったが、軍事・殖産の側面から民間に払い下げられ、
石炭業界に一手販売権を持つ財閥が進出することとなる。 林道


残雪の中、つぼ足で入山する。
小規模炭鉱を大会社が買収する形で機械化が進み、それは大手財閥の資本蓄積源となる。
大正初めにようやく国内の全国市場が成立し、その後の第一次大戦では未曽有の石炭特需となる。
ところが終戦後、閉鎖縮小が相次ぎ不況対策としての出炭制限が自主的に行われる。 入山


沢沿いはスノーブリッジ(下が空洞)に注意だ。
再び昭和6年(1932)の満州事変勃発により、急激な増産体制により石炭価格は高騰、
適正価格の維持のため、石炭政策によるインフレの抑制が執り行わられる。 沢沿い


雪解けの沢を進む。
低炭価・増産という政策は政府による一手買取により維持され、
製造元の損失分は買取普及金として保障される。 雪解け


輸車路のような緩やかな道が続く。
合理化はさておき、増産に次ぐ増産の石炭業界は『人海戦術』によって支えられてきた。
ところが終戦末期には送炭量の激減により、貯炭量は大幅に増加、石炭は余剰することとなる。 輸車路


軌道が付近まであったのかもしれない。
敗戦後、石炭業は復興の要として増産対策が国により施行される。
買取価格と販売価格の損失分は政府補給が充てられ、
再び生産コストを引き下げる方向には働かないこととなる。 軌道敷


尾根を過ぎる。
経済再建が危ぶまれる中、石炭物価の上昇は留まらず、
昭和24年には米国GHQによる配炭と経済安定の統制が引かれる。
これがドッジラインだ。 尾根


廃道を進む。
冷戦後、アメリカの対日占領政策が復興・自立化へと変換され
合理化による能率向上を強いられることを意味する。 廃道


谷沿いからアプローチする。
政府補助金により優遇されてきた石炭会社は、一転、石炭価格引き下げと共に増産を強いられる。
これは石炭業界の悪性インフレ撲滅のための合理化である。 谷間


付近には人工的な雰囲気がある。
ところが昭和25年(1950)の朝鮮戦争により、石炭需給は再び活気を帯び、
炭価高騰により合理化は先送りされることとなる。 沢登り


道はないが人の手が入った雰囲気はある。
石炭価格高騰の主原因は労働生産性【(売上ー原価)=附加価値÷従業員数】が低いことであり、
これは過剰な労働者数により生産性が低く、一人当たりの稼ぐ力が少ないことを意味する。
理由には機械化が進めにくいこと、深部切羽による実労働時間の減少などが背景となる。 斜面


長さ1m程度の土管の遺構である。
当時の炭鉱経営は借入金依存体制のもとの不健全な経営体制が根底にあり、
昭和30年代以降の合理化は、日本の著しい高度経済成長と相反して、
急激な崩壊への加速となってしまった。 土管


付近は平場となっており、何か建屋があったようだ。
重油の消費を抑えつつ、石炭業界の機械化、非能率炭鉱の買上げを推し進める中、
訪れたのは昭和30年からの神武景気である。
再び石炭需要が増加し、合理化から急遽、増産体制に転換を強いられることとなる。 平場


風洞か積込みの設備があったのかもしれない。
昭和32年からの『なべ底不況』では、石炭需要の本格的な回復が制限されることとなり、
世界的な技術改革による流体エネルギーの優位性が高まるのもこの時期だ。 風洞


平場が他にも点在する。
その後の石炭政策では、非能率炭鉱の整備(廃止)と高能率炭鉱の開発が強化、
離職者に対しての臨時措置法もあり、大手は単価引き下げのための人員整理を公表する。 平場


明確な遺構はこれら土管程度であった。
石油の貿易自由化による重油価格の下落は、
石炭調査団内においても、石炭が重油に対抗できない決定的な理由となり、
ひいては炭鉱労働者の減少、閉山の加速をもたらす。 配管


コンクリート製の基台も辛うじて残る。
石炭産業再建臨時措置法も閉山速度をなだらかにするに留まり、
炭鉱数は610から70に、事実上のなだれ閉山となる。 基台


1960年代の石炭政策の命題は、
経済成長をとるかそれとも石炭産業の存置を狙うのか
その岐路に迫られた節目だったのかもしれない。 基台







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