車風に吹かれて


アプローチから急角度の斜面を進む。
全く道はなく、コンパスとGPSに従って進む。
正面の盛土は植生が無くズリ山のようだ。 アプローチ


斜面には掘割の様な谷がある。
左手には石垣が残り、
どうやら埋没した坑口後のようだ。 坑口


埋没したであろう坑口には坑木の様な木材が残る。
落ち葉が堆積し、
微塵の隙間もない。 埋没


更に登ると配管やレールのような部材が散らばる谷がある。
これは紛れもなく鉱山施設の跡だ。
門のように組まれた鋼製部材が残る。 坑口


配管は80A程度の口径で、
レールは高さ50o、6kgf級のものだ。
恐らく坑内湧水の排出か配線のモールパイプかもしれない。 鋼材


その先には下るように坑道が伸びる。
レールも確認できる上に、
岩盤も強固そうだ。 坑道


入坑して50mで坑道は三叉路となる。
決め事の右手に沿って進む。
軌道も右手に進んでいる。 三叉路



中央の坑道は鋼製の箱となり、
壁にはスレートが張ってある。
車庫か部品庫のような様相だ。 車庫


右坑を少し進むと坑木の枠組みがあり、扉のようなものがある。
これは軌道用の扉ではなく、風を遮るためのものだ。
良好な通気環境を得るために、坑道に扉を設ける場合がある。 扉


劣化が激しいが可動式の扉で間違いない。
漏風や車風(くるまかぜ)と呼ばれる、
排気の一部が入気に混入して再循環する現象を防ぐものだ。 通気


100mほど進むと再び同様の扉が現れる。
つまりレールが敷設されているものの、
本坑は通気を兼ねた坑道なのだ。 車風


更に進むと複線のように幅のある坑道となる。
左手にはブロック塀が現れ、
火薬庫か危険庫でも存在したのかもしれない。 壁


ブロック塀を超えると再び三叉路だ。
水平方向には二股だが、
実は頭上に向かって坑道が伸びる。 三叉路


鉱脈に従って上部へ延びる垂直坑道だ。
炭鉱では通常、坑内で湧出する可燃性ガスを薄めることを目的として、
送風量が決定される。 立坑


二股部分にやかんが残る。
鉱山保安規則では坑内の可燃性ガス含有量は1.5%以下と規定されている。
採炭によって流出するガス量は炭田や炭層によって異なる。 やかん


昭和39年度の深度300〜600mの炭層調査では、
北海道が39.4m3/t、九州が10.4m3/tであり、
600m以下では40.4m3/t、13.3m3/tと深度と共に増加している。 坑内分岐


入坑から380m、レールに沿って進む。
金属鉱山では発破によって発生した粉塵やガスの除去、
呼吸に必要な酸素量から所要風量が決定される。 坑道


支保工も荒れ始める。
坑内のディーゼル機関の稼働によっても、
その排気ガス中の有毒成分除去のため十分な通気が必要となり、

規定では1kw当り4m3/minの通気が必要とされる。 支保工


酸素濃度は20.4%、問題はない。
坑内温度や湿度の適正化のためにも、
通気は重要な意味を持つ。 酸素濃度


いよいよここからは水没だ。
足元に十分注意して進む。
幸い枕木に沿って進むと深みにはまることは少ない。 水没


レールが堆積した汚泥に包まれている。
鉱山換気用送風機は大きく分けて2種存在する。
プロペラを使う軸流式、シロッコやターボ型の遠心式だ。 レール


プロペラ型は排気坑口断面に設置、つまり排気専用風洞となり人員などの入坑はできなくなる。
ターボ型/シロッコ型はレンジフード同様にダクトを使用するため、
機器の設置の自由度があり、坑口を占有することもない。 ファン


各々の分岐はこのように閉塞してい場合が多い。
プロペラ型の軸流式は高効率で据え付け面積が少なくて済む。
結果的に設備費が抑えられるが風圧は高められない。 閉塞


もう何度目の坑内分岐だろう。
入坑500mを超える。
変わって遠心式(シロッコ)は回転軸に対し直角に風が流れる。 分岐


風量は少ないが風圧は高めることができ、
ダクトを用いて設置場所の自由が利く。
プロペラ式は壁面に垂直にしか取り付けができない。 水没


やがて水没部分の分岐個所に様々な部材が残存している。
金属鉱山の通気で検討することは、
炭鉱の様な可燃性ガスの排除ではないので
通気量は多くなくて済む。 分岐


コンプレッサーか水分除去用のドライヤーの様な機器がある。
金属鉱山では風洞となる坑道が網の目状に連絡しており、
自然通気の効果が大きく、隅々までの通気は困難となる。 コンプレッサー


堰き止められ、上部が開いた分岐坑道もある。
金属鉱山の自然通気は重要で、
それを妨げない通気設計が必要となる。 ダム


堰き止められた向こう側は、
まるでダムのように、
並々と鉱水が満たされている。 ダム


鉱物と腐食で一回り太くなったオープンスパナが残る。
施設跡が犇めき、
ただの坑道ではない様相だ。 スパナ


丈夫な支保工と鉱物による鍾乳石が残る。
この先は危険な雰囲気があり、
撤退も視野に入れ慎重に進む。 鉱水


その先では床一面が板張りとなる。
経験上、これは『堀下』(Shinking)だ。
つまり立坑、真下に掘られた垂直坑の存在だ。 立坑


深い堀下。
資料では20〜35mおきに水平坑があり、そこまで下っているようだ。
これ以上は危険、ここで撤退となる。 立坑


戻りつつ別の分岐坑へ入る。
配管が沿っており、
何か施設があるかもしれない。 坑道


極端に荒廃した坑道に達した。
支保工が激しく崩れているが、
奥には鋼材が見える。 荒廃


奥には巨大なプラントがある。
電気設備もあり、
これは大型の遺構だ。 プラント


これはどうやら送風に関する設備のようだ。
鉱山保安法第36条4には金属鉱山の坑内扇風機は
防火構造の建築物の中に設けることとの規定がある。

坑道内に屋根のある施設があるのは法に乗っ取った状態なのだ。 送風施設


右側がゴムのVベルトが掛かるプーリーで、
車軸を挟んで左側がシロッコファンとなる。
とにかく巨大な機器だ。 プーリー


手前が巻線型三相誘導電動機(モーター)だ。
電動機の温度管理、風量異常時の警報など、
制御もここで行われていたのだ。 モーター


これは恐らく油入開閉器(PAS)、供給側と需要側の境目で、
大元のスイッチ、つまり自動や手動で遮断する。
『イリ』『キル』の陶器製の札が残る。 開閉器


電動機、冷却水用ポンプなどのナイフスイッチが並ぶ。
軸受けの給油や、
一部遠隔の操作も行われていたかもしれない。 ナイフスイッチ


巨大な油入電磁開閉器がある。
今なら手のひらサイズのマグネットスイッチも当時はこの大きさだったのだ。
モーターの動作をON/OFFさせるスイッチだ。 油入電磁開閉器


太いVベルトが柱に掛けてある。
プーリーから見ると、電動機(モーター)と繋ぐのには、
12本が必要だったようだ。 Vベルト


軸受部には油圧のホースが接続され、
レベルゲージも付属している。
強制給油装置により常時潤滑が行われていたようだ。 軸受


これは歯車式の油圧ポンプで、
タンクから吸い上げられた油圧作動油を、
フィルタークーラーを経て軸受に供給されたようだ。 油圧ポンプ


これは冷却水のヘッドタンクで、
軸受や電動機を水冷で温度管理していたのだ。
空冷でないのは冬季でも温度変化の少ない坑内ならではのことかもしれない。 冷却水


これは坑道側から見たシロッコファンである。
シロッコファンは逆回転させても風向きは変わらないので、
緊急時のために蓋が設置してある。 シロッコ


未だ色濃く残る坑内扇風機設備。
鉱山保安法には羽根の主軸の腐食対策まで謳ってあり、
こんな山中の深い坑道の中までそれは徹底されていたのである。 電動機







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水没
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