アルギン酸とアルミン酸の誤謬


まずは浄水場の機器構成図を見ていただこう。
逕路としてはブルーの矢印となり、それぞれ薬液や塩素が途中で投入される。

機器構成図

川から取水した原水はまず@着水槽に入る。
次工程、A急速混和槽では凝集(集めて固める)用の薬剤が投入され、
E緩速撹拌槽ではフロックと呼ばれる不純物の塊を作る。
F沈殿池でその成長したフロックを沈めて、上澄み水はGプレティフィルターに流れる。

プレティフィルターは全自動ろ過装置と呼ばれるもので、
昭和41年(1966)に開発された機器だ。
ろ過後の浄水はその後上水槽で塩素による滅菌が施され、
配水池に貯水後、街に配水される。



まずは浄水場に向かって斜面を登る。
現役の頃には、車道が通じていたようだが今は廃道状態だ。
ピーク時の人口は15,000人、現在は世帯数ゼロというから驚きだ。 アプローチ



しばらく登坂すると、
鉄筋コンクリート製の建屋に到達、浄水場跡だ。
比較的新しく劣化は少ない。 浄水場


これが建屋1階の機器配置と浄水の流れだ。
左下の@着水井からEフロック形成地、F沈殿槽からGプレティフィルターに入る。
浄水の流れに従って見ていこう。 1階


この手動制水扉の下が、原水が最初に入る@着水井(ちゃくすいせい)だ。
配置図では1階に図示してあるが、現実には2階までの高さがある水槽となる。
着水井は取り入れた水の水量調整と経路の統合分配が目的だ。 着水井


水量調節用の制水扉はもちろん動かない。
上部に設置したこのハンドルに接続した扉を上下に移動する構造のもので、
コンクリート壁に直接取り付けたガイド(押え案内板)に沿って下の水門が開閉する。 制水扉


次の工程はA急速混和槽だ。
原水に凝集剤を拡散させることを目的とする水槽で、
凝集剤を原水中に素早く均一に拡散させることから『急速』と呼ばれる。 マウスon 機器構成図



急速混和槽上部に設置してあるのがこのフロキュレーターだ。
これは『フロート式横型撹拌機装置』で、
水に混じった土やにごりを凝集剤の作用により小さな固まり(フロック)にするための撹拌を行う。 フロキュレーター


フロキュレーターは上部の駆動装置により中空フロート(板)を回転させる機械式ミキサーだ。
水中軸は浮力の利用により、
水中軸受部への荷重を低減できるため、摩耗量が削減される効果がある。 撹拌機装置


2階の機器配置図を掲示する。
各凝集用薬液の投入はA急速混和槽で行われるわけだが、
それら凝集剤を既定の濃度に溶解し、
適正な凝集効果が出るように投入するのがこの薬液室となる。 2階機器配置図


薬液室には4か所3種の槽があり、
各凝集剤を原水中に均一拡散させ、
粒子径1μm程度の水中不純物を微小フロックに成長させ塊にするのが目的だ。 薬液室


B硫酸バンドは無色透明の液体で、
水の中の汚れの粒子を集合させて、大きな塊にする水処理凝集剤として使用されている。
硫酸バンドを濁った汚れた水に少量加えると、−帯電の濁りの成分を吸着して沈殿させる。 マウスon 機器構成図


凝集補助剤であるCアルギン酸は過去に別の浄水場で、
業者が 「アルミン酸ソーダ」水酸化アルミニウムと苛性ソーダを原料とする土壌硬化剤、 セメント急結剤として利用される と誤納入したものをたまたま試薬したところ
非常に効果が高かったことから採用された、言わばひらめきの薬品だ。
アルギン酸は海藻(褐藻類)の細胞膜を形成する天然高分子多糖類である。 マウスon 機器構成図


Dソーダ注入装置はpH調整することで、
凝集剤がその効果を十分に発揮できるようにするのが目的だ。
無色透明で強アルカリ性のNaOH(水酸化ナトリウム)が用いられる。 マウスon 機器構成図


制御盤に記載あるフラッシュミキサーは凝集剤と原水を短時間で均等に混合させるものだ。
A急速混和槽内にあり、プロペラ形状の水中翼が回転、
原水の中に含まれる様々な不純物(微粒子,微生物など)を取り除くために撹拌を行う。 マウスon 機器構成図


E緩速攪拌槽はフロックを成長させることを目的とする凝集反応用の水槽だ。
滞留時間は 10〜15 分、A急速撹拌設備で形成した微小フロックをさらに成長させ、
沈澱分離しやすくなるようなフロックを形成させる。 マウスon 機器構成図


パイオニアミキサーはE緩速撹拌槽に存在する機械式ミキサー(緩速攪拌装置)だ。
機機械撹拌の回転数は、30〜60 回/分程度、
ゆっくりとした回転羽で注入した薬品と原水を一様に撹拌混合させるための設備である。 マウスon 機器構成図


水槽底に見えるスクリューがパイオニアミキサーだ。
フロック形成に、原水と凝集剤との急激な撹拌が必要で
当時は20分ほどの滞留時間を有する混和水路が用いられていた。 パイオニアミキサー


F沈殿池(ちんでんち)は大きく成長して重くなったフロックを、
底に沈める水槽だ。
傾斜により沈殿速度を早める工夫がなされている。 マウスon 機器構成図


フローメーターは1時間当たりの流量(m3)を表す計測器だ。
これは単位時間当たりの体積変化[m3/h]を表示し、
体積流量Q[m3/h]=断面積[m2]×平均流速[m/h]から求められる。 フローメーター


付近には粉末活性炭が積まれている。
粉末活性炭は原水のかび臭や生ぐさ臭などの臭い(におい)成分を除去するために注入される。
吸着機能をもつ多孔質炭素材で粉末状であり、1 回限りの使い捨てとなる。 活性炭


ここがGプレティフィルターとその洗浄用ポンプのフロアとなる。
昭和40年代に開発された新しい装置だ。
全自動の『ろ過池』とも言える本装置を見ていこう。 マウスon 機器構成図


これがそのメイン機器となる密閉型全自動ろ過装置である。
高さ4.5m、直径は2.5m程度の円筒が2基並列している。
ろ過池では一般に砂や砂利の層に水を通して浄化させる。 全自動ろ過装置



ろ過用の砂はやがて目詰まりを起こし、流れが悪くなり所定の成果を発揮できなくなる。
すると配管にかかる圧力が上昇し、ポンプや継ぎ手には過大な負荷がかかる。
これを防止するためには定期的な ろ過砂の洗浄が必要となる。 プレティフィルター


ろ過砂を洗浄するとき、上流(上)から下流(下)に向かって水圧をかけるのが『表洗』、
逆に下流から上流に吹き上げるのが『逆洗』。
通常の ろ過池ではどちらも ろ過水槽を空にして、配管方向を切り替える中断作業が必要となる。 全自動ろ過装置


これがプレティフィルターの断面構成図である。
沈殿池で不純物がほぼ沈んだ上澄み浄水(茶色矢印)を更に浄化するため、
中段から入り、ろ過砂を通過してタンク上部に昇り浄水は左手上段から排出される。(青矢印)
これが一般の ろ過作業状態となり、特徴的なのはスイッチ一つで洗浄モードに切り替わることだ。 断面図


ろ過砂層を上部から洗浄する『表洗』モードの水流である。
原水(茶色矢印)は空気弁で閉じたバルブによって流れが変わる。
ろ過砂上の表洗浄管に導かれた水流はろ過砂を洗った後、
下部の配管を抜け排水ますに排出される。 表洗浄モード


これは ろ過砂を下流(下部)から吹き上げて洗浄する『逆洗』モードの流れである。
この逆洗浄モードでもコンプレッサーからの圧縮空気(緑矢印)でバルブが切替される。
ろ過砂を下部から原水で躍らせながら洗浄し、
空気式のゲート弁で切り替えた配管を通り、中段から排水する。
このように3つのモードを特別な作業なしで切替可能なのが本装置の利点となる。 逆洗浄モード


これはプレティフィルター制御盤、2基分である。
自動運転のためトラブルがない限りはonのままの
ブレーカーやリレー等が格納されている。 制御盤


これは原水や排水の流れを切り替える『空気圧式四方口切換弁』。
圧縮空気の力でバルブの中の弁の向きを変えて、
配管の開閉を行い、ろ過工程と洗浄工程を切り替える装置だ。 バルブ


上部には位置検出のリミットスイッチ(赤丸)が装着されており、
内部でボール弁(黄色丸)が回転して配管を開放したり遮断したりする。
現代ならソレノイド(電磁弁)を使用するはずだが、
ここに電磁弁が採用されたのは昭和54年(1979)以降の機器であることが確認できた。 マウスon バルブ構成図


これはバルブ切替用のコンプレッサー、空気圧縮機だ。
空気圧力の1行程でバルブ内部の弁を開け閉めできる。
作業スピードは速いものの、計装用空気は湿気などの対策設備が必要となる。 コンプレッサー


これはプレティフィルター下流の浄水滅菌ポンプだ。
pH調整剤、吸着材(粉末活性炭)、消毒剤などの薬品を 注入するためのポンプ。
活性炭はスラリー(泥漿)のため、摩耗したり粒子を潰したりしないポンプが必要となる。 マウスon 機器構成図


中央マンホール部が上水池となる。
使用水量に応じて増減できる小容量の貯水槽で、
ここで塩素を投入して滅菌処理を行う。 上水池



こちらは滅菌用塩素ボンベである。
労働安全衛生法により、圧力容器は耐圧や液体/気体などの相違により区分されている。
第二種圧力容器は圧力0.2MPa以上の気体を内部に保有する容器で、
蒸気が発生する液体が容器の中にあるものが第一種圧力容器となる。 マウスon 銘板



塩素(Cl)はハロゲン元素(周期表の右端)の中で最初に発見されたガスで、
特に水に溶解した際に生じる次亜塩素酸は、強い殺菌作用を持つ。
水道水中の塩素の濃度は水道法にて0.1r/L以上と定められている。 圧力計


塩素供給用の配管である。
水溶液にしたときの塩素化合物が、細菌や微生物の呼吸系酵素を阻害し、
細胞の同化作用を停止させて殺菌するといわれている。 配管


これは塩素ガス漏洩検知器である。
今では『次亜塩素酸ナトリウム』を使用するが、当時は毒性の高い液化塩素であった。
塩素ガスが漏れると14〜28ppmで生命の危険にさらされる。 漏洩検知器


これはクロガベル反応液を利用した塩素ガス漏洩検知器。
1971年(昭和46年)高圧ガス取締法の公布により塩素貯蔵設備には
除害設備として塩素ガス漏洩検知器と塩素ガス中和装置の設置が義務付けられた。 クロガベル


電極部に塩素ボンベ室および塩素注入機室の空気が送風、
仮に室内で塩素の漏洩が発生し塩素ガスが送風されると、
電極面で反応検知して指示警報を発するものであった。 塩素ガス


クロガベル反応液が残る。
検知装置は塩素ガスが電極部に触れると電流が流れ、
その電流値に比例した漏洩塩素ガス濃度を指示するものであった。 クロガベル溶液


L管理室には操作盤が残る。
計器盤、動力監視盤、ポンプ盤が並び、
一括で制御を行っていたようだ。 マウスon 銘板


これは水質発信器盤で水質を管理するための 「計装」工程等を制御するために、 測定装置や制御装置などを装備し測定すること
浄水の水質監視用計器の主なものは残留塩素計とpH計である。
凝集剤最適注入率決定の目安 として測定される。 水質発信器盤


凝集剤の効果は一定範囲のpH(ペーハー)の下で最大限の効果を発揮する。
pHは水素イオン濃度のことで、0〜14で表され、0が酸性14がアルカリ性となる。
その液体に水素イオン「H+」がどれくらい存在しているかを表したものだ。 試薬




管理室には様々な機器が残る中、標準緩衝剤というものがある。
これはpH測定用標準液で、pH計の校正を行うものだ。
フタル酸水素カリウム水溶液などが用いられ、これはpH9に機器を合わせればよい。 標準緩衝剤


建屋外部の小屋の前には空気抜きの配管がある。
ここは配水池で、消毒が全て完了した浄水を配水する前に一時的に蓄えておく浄水場内の設備だ。
上水道の配水量を調整する役割を持ち、水深は3〜6m、停滞流が生じない構造で
(この下には深い地下タンクがあります)
標高の高い場所にあり、自然の落差を利用して家庭に給水される。 配水池


配水池から給水する配管とそのバルブ室がある。
昭和47年の拡張工事と前後して水源上流の森林伐採を原因として、
渇水期に計画水量が下回り、
特に降雨時には流水の色濃度が急上昇するなど浄水処理に苦慮があったという。 配水




浄水場には塩素ガス、酸欠、地下タンクの存在などの危険が潜んでいます。
探索には的確な装備と知識が必要となります。




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