鉱滓
5月早朝の山中、辛うじての鉱山道路を進む。
標高300m付近から、
なだらかな鉱床を目指す。
少し登ると怪しい平場がある。
元山と呼ばれた、
戦前から採掘された鉱床付近だ。
奥には簡素な建物の廃祉がある。
これは管理小屋と言われた鉱山事務所跡だ。
すでに倒壊寸前だ。
鉱山事務所跡は鉱山最盛期の、
昭和43年以降の施設かもしれない。
付近には3か所の坑道が記録されている。
比較的新しい樹脂製のスレートも埋没している。
本坑の金属マンガン品位は昭和21年から昭和29年までは、
40%を維持した高品位であった。
昭和34年以降は品位30%台となり、
昭和43年以降は20%台と品位低下が進む。
一般に採算ベースは35%以上とされている。
更に奥の鉱山時代後期に採掘された鉱床へ向かう。
斜面の奥の穴や足元の落下物、
水の流れや路らしき跡に注意して登る。
付近にもスレートが散乱している。
マンガン鉱石はその用途によって大きく2つに分けられる。
それは二酸化マンガン鉱と金属マンガン鉱だ。
一般に軟質のものを二酸化マンガン鉱、硬いものを金属マンガン鉱と呼び、
二酸化マンガン鉱は電池や鉛筆の原料、
金属マンガン鉱は鉄に添加して硬度や延性を高める用途があった。
更に廃道の鉱山道路を進む。
採掘されるマンガン鉱には6種程度があり、
ブラウン鉱、菱マンガン鉱、軟マンガン鉱=二酸化マンガンなどがある。
足元には黒い破片の石が大量に散乱している。
これはどうやらズリ山のようだ。
但しどの鉱石も形や大きさが揃っている。
これは鉱石の不要部分、脈石(みゃくせき)ではなく、
精錬の際のカス、鉱滓(こうさい)が固まったもののようだ。
破片部分が砕いた脈石とは似て非なる形状だ。
この銀や銅、マンガンなどを精錬した後の鉱滓を、
成形した石は『からみ』と呼ばれ、
地方によっては建材として再利用されることもあった。
人工の木材の遺構がある。
精錬や貯鉱の施設があったのかもしれない。
坑口を探す。
これが恐らく埋没した坑口跡。
崩れた土手から湧水がある。
元山二号坑と呼ばれる付近だ。
坑口付近には鋼製の部材が散発している。
閉山間際には高品位のブラウン鉱、
Mn品位45〜50%が採掘された。
付近は湧き出る沢で湿地帯と化している。
ブラウン鉱は、被覆アーク溶接の被覆部分に使用される。
溶接時に水素や酸素を遮断するためのシールド部分としての用途だ。
溶接時に溶けだしガスを遮断するフラックスとしての用途は高く、
昭和40年代の建築、造船などの繁栄と共に、
該当鉱石は高価に販売されたという。
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