巻揚げ機の行方
まずは腐食した配管に沿って急角度の斜面を登る。
破砕→水洗→重液選別→中砕→磨鉱→浮遊選鉱→磁選→廃滓処理→鉱水処理と
一連の流れに沿って遺構を見てみよう。
斜面上部には石垣、そしてレイルの残骸がある。
まずは採掘した鉱石を山上に運搬し、
「クラッシャー」第一段階60o、第二段階38oと順に鉱石を破砕
そして
「スクリーン」格子状の網の目に粉砕後の鉱石を通してふるいに掛ける
にかける必要がある。
奥には急角度の斜面に沿った石垣がある。
軌道にしても索道にしても斜度が不思議だ。
これはインクラインではないだろうか。
インクラインは標高差の大きい二地点間の輸送を円滑にするための軌道だ。
ワイヤロープを用いて交互に台車を昇降させる。
行き交うために、中間地点のみ複線となっているはずだ。
9kg級のレイルの間にワイヤーロープが敷設されている。
軌条の間には大木が育ち、
廃止後40年近い歴史を感じさせる。
インクラインから更に登り稜線を目指すと、
インクラインとは違う方角に伸びるレイルがある。
これを追って標高を保ち移動する。
その先には小さな巻揚げ機が存在する。
採掘後の鉱石は銀・錫・亜鉛・マンガン等鋼種別に選鉱受入粗鋼舎に運ばれたため、
複数の巻揚げ機が存在したのかもしれない。
斜面を登るとRC製の遺構が点在する。
選別の前には有用鉱物と不要鉱物を分離した状態にする必要があり、
そのためには原鉱を破砕・粉砕する必要がある。
ほほ頂上、標高200m地点に大きな遺構がある。
プーリーらしき車軸にコンクリート製の架台、
そしてその上には腐食した巨大な機構がある。
これは巨大な巻揚げ機の廃祉だ。
左から巻胴、ブレーキブロック、電動機の構成だ。
先ほどのインクラインとは位置が異なり、別のラインのようだ。
三相誘導電動機は日立製。
製造年月日はもはや読み取れない。
これは鉱車をコース(綱首)によって巻き綱に直結するコース巻きのようだ。
マウスon 銘板
ブレーキブロックは挟み込む形の摺動式である。
応力のかかるリンクはピンで接続してあり、
恐らく高炭素鋼などの素材に焼入れ処理が施されているのだろう。
ブレーキブロックの背後には円盤と針が見える。
これはメカニカル式の距離計ではないだろうか。
プーリーの回転に準じて、降下距離をしめすアナログメーターのようだ。
巻揚げ機から稜線を30m程度移動すると、
これら巻上装置とは異なる遺構がある。
これは集塵装置かもしれない。
集塵施設から下るとそこにはコンクリート製の大きな構造物がある。
これは破砕を行う施設のようだ。
まずは38o以下の鉱石に砕くのが最初の工程だ。
ベルトコンベヤーの
「アイドラー」キャリアーと呼ばれるベルトを支える回転式の架台
が残る廃墟だ。
箱等ではなく、まばらな鉱石を運搬するが故、
アイドラーの構成はベルト中央部がへこむような溝形となっている。
内部にはドライビングプーリーとテンションプーリーが残存する。
プーリーの直径は大きいほどベルトに誘発する応力を少なくし、ベルト寿命は長く保てる。
テンションプーリーはベルトの張力を調整する緊張錘だ。
奥の壁には制御盤も残る。
ブレーキクラッシャー,ロッドミル等で粉砕された鉱石は、
「ローヘッドスクリーン」ふるい
を通され、
水洗後38〜12o、12o〜1o、1o以下に分粒される。
直径7m程度の円形の遺構がある。これはシックナー装置だ。
大量の液体中に浮遊している固体粒子を重力の作用により沈殿分離させる装置だ。
上澄液を上部から排出、
「スラッジ」濃縮脱水泥
は中央下部から排出する。
シックナー中央部の排泥口である。ここから排出した1o以下の鉱石粉の塊は、
「デスライム」微粒子除去
を行った後、
磨鉱として浮選に回される。
浮選(浮遊選鉱)とは種々の薬剤(浮選剤)を用いて鉱物の表面性質を調整、
その鉱物間の水や空気との
「親和性」(しんわせい)なじみやすさ
の差を利用して、
より分ける方法だ。
指さす先にも遺構は広がる。1o〜12oに分粒された鉱石はサイクロン重選に。
重選(重液選別)とは比重大小の混じる粒子を、この中間比重の重液に埋没させて浮沈選別させる方法である。
重液には鉄とケイ素の合金フェロシリコン(比重6.5〜7.0)などが用いられる。
これがサイクロン装置で上部(太い方)から含塵流体を搬入、下部から粉塵を排出する。
サイクロンは流体の旋回流による遠心力を利用した、
粉塵の分離装置である。
マウスon
斜面には大きな車軸が朽ちている。
これはスクリーンやクラッシャーを繰り返し、15o以下に粉砕する中砕の工程の装置のようだ。
この後、再び浮選、そして磁選が行われる。
磁選(磁力選鉱)とは鉱物が磁力に引き付けられるかどうかの磁性の違いを利用した選別方法。
塊・粒は空気中(=乾式磁選機)、粉末は水中(=湿式磁選機)を利用した。
磁石は交流・直流電磁石・永久磁石などが用いられる。
建物内には電気設備が残存する。
高品位の鉱床は比較的荒く砕いても、
単一鉱物からなる粒子が多く、その大きさのままの選別方法が十分通用する。
マウスon
山中に廃祉は続く。
採掘が進み、やがて低品位となった鉱山では、有用/不要鉱物の単体分離を十分するために、
細かく微粉砕しなければならなくなる。
粉砕された鉱石は条件槽で捕収剤が添加される。
捕収剤は目的の鉱物と反応してその表面を
「疎水性」(そすいせい)水に濡れにくい性質
に変化させる。
これが浮選の前段階だ。
トロッコの車軸も残存する。
分離された各精鉱(フロス)はシックナー(直径10m〜3.5m)で濃縮、
オリバーフィルター(ろ過器)で脱水後製品となる。
微粉砕後の原鉱は浮選機に掛けられる。
疎水性の鉱物は気泡に付着、浮上する。
これを
「溢硫」(いつりゅう)あふれださせる
させて精鉱となる。
マウスon
ベルトコンベヤーの土台、アイドラーが朽ちている。
浮選機内で水没した鉱物は、気泡の中で撹拌される。
疎水性の高まった鉱粒だけが浮上するのである。
ポンプ室の廃墟である。
精鉱をとった残りの
「尾鉱」(びこう)廃石
も濃縮の上、
「廃滓」(はいさい)ズリや屑石
となり、
ポンプを介して堆積場へ放泥される。
マウスon 制御盤
近年ではダム用地、堆積場の確保は困難となり、
廃滓の処分方法として、
採掘跡への充填、また有効利用が研究されている。
マウスon
選鉱技術は鉱物の選別に対して発展してきたものだが、
現在ではこの技術が、固形廃棄物の選別処理、各種廃水処理に用いられつつあり、
資源リサイクル、環境保全の分野で役立っている。
戻る