漆黒の闇
その坑口は狭く、
岩場の裂け目にしか見えない。
角度や時期によっては恐らく発見困難だ。
入坑するや否やそこは水平に深く続いていることがわかる。
しかもレイル等は無く、荒廃が激しい。
しかも中央には配管が這っている。
配管は間もなく水没するが水深は200mm程度、
そのまま突入する。
パイプ径は80A(=φ89.1mm/3インチ)程度のようだ。
自然発火防止のためフライアッシュ(石炭灰)を集塵流送するための配管だとすると、
少し細いように思われる。
恐らく坑内のメタンガスを集積輸送するパイプであろう。
配管は所々で溶接フランジにより接合されている。
しかしここはチーズが溶接され、上向きにブラインドしてある。
この向きに取り出せるようにした意が計り知れない。
入坑50mで水蒸気が飽和し、白い霧が発生する。
空気も滞留していることから、
内部は閉塞しているようだ。
更に進むと著しく荒廃してきた。
排気立坑の存在は確認が取れているので、
こちらは新鮮な空気を坑道に行きわたらせる入気坑道かもしれない。
坑道内には小さな動物の骨が落ちている。
通常通気設計は、坑内での通気経路が短絡(ショート)しないように、
風量計算に基づいた計画が立てられる。
碍子が落下しているところを見ると、電気が来ていたようだ。
年間出炭量が100万tを超えるような炭鉱では、
その坑道の長さは200qにも及ぶ。
支保工らしき木材も残る。
坑道は伸び、追加が著しく通気効率が妨げられないように
その変化に伴ってゲート(=風門)が作られた。
入坑100m附近で再び水没である。
通気の際、坑内を回る空気は相当量となり、通常人員は入気側坑道から地中に入るので、
特に冬の寒さは激しく、坑内湧水が坑道内に氷柱として付着したようだ。
どうしてか坑道内に一升瓶が落ちている。
鉱山や炭鉱ではよくある風景だが、
坑道内は珍しい。
これは地面の糞か死骸に繁殖した菌糸だ。
カビの華だが奇麗なものではない。
湿度や温度が妥当なのだろう。
坑道内にはコウモリがいる。
騒ぐことなく大人しい。
空気が飽和し、閉塞が近いかもしれない。
ここで振り返ると、坑口の明かりは小さく、
200m以上は来たようだ。
いつのまにか配管は見られない。
そこから約30mで大量の土砂により埋没している。
隙間なく、空気の流れもない。
ここが終点だ。
炭鉱は石炭を単純に掘りだすだけでは成立せず、
掘進、通気、運搬他と異なる作業・立場の人々の総合力の賜物であったようだ。
その構成要素は多様で、一般社会の縮図だと言える。
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