氷筍
坑道に入るや否や、
夥しい量の氷筍が並ぶ。
背丈より大きいものもある。
坑内に向かいたいが、
大きな氷筍を折らないように、
ルートを検討し隙間を抜ける。
よくこれだけ成長したものだ。
不思議な異空間をゆっくり歩く。
足元には朽ちた剣先スコップが落ちている。
劣化の具合から当時のものであろう。
すこし坑道を奥に進むと、
気温が上がり、同時に氷筍の出来始めが点在する。
黒い点は氷筍になりつつも、なり得なかった氷筍の子供達だ。
本坑には大きく分けて2本の坑道がある。
まずは右坑に入坑してみる。
少し進むと氷筍は減り、歩き易くなる。
足元には巨大穴があり、
非常に危険だ。
しかし下部にも坑道が広がっているようだ。
下部の先を目指す。
まだ少しは氷筍が点在する。
坑内面に掘削跡が残る。
驚くべきことに下部坑には巨大地底湖が存在する。
ブルーの澄んだ水面を蓄える、
数mの深さのある巨大プールだ。
巨大地底湖から分岐した奥ルートを歩く。
すでに真の闇となり光は全く届いていない。
高輝度ライトが天井の掘削波を顕著にさせる。
入坑500mあたりから急激に坑道は広くなり、
スキッドステアのキャリアダンプが通過したような跡が残る。
歩くたびに砂塵が舞う。
高い天井の坑道を進む。
多数の方向に掘削した跡がある。
崩れた岩石の間に、
腐食したドラム缶が積み上げられている。
この空間は資材置き場のようだ。
ここにはやかんが残存している。
坑内の休憩所でもあったのだろうか。
坑道はより巨大空間となり、
さながら神殿のような様相だ。
内部は更に大きく続き、
入坑1kmを超える。
空気は少し淀み、土埃の臭いが舞う。
内部は幾何学的に坑道が這い、
平衡感覚と方向、時間の感覚が麻痺する。
ここが最奥らしく水が少し溜まっている。
およそ入坑1,300mだ。
再び神殿を抜け、
氷筍の森へ戻る。
ルートは枝分かれし、しかし結局は本ルートに結論する。
再び氷筍のある坑口付近に戻り、
左坑を目指す。
ここからはハードルートで穴、氷斜面等を抜けることとなる。
巨大氷柱を縫って穴を通過する。
崩れた岩石で、
足元は安定しない。
氷柱と氷筍が接続し、
一本の巨大な氷塊ができている。
ここからはアイゼンを使用し、
アイスクライミングとなる。
左坑は右の隙間の奥に繋がっており、
氷斜面の狭い隙間を
抜けていくこととなる。
岩盤と氷面の間を抜ける。
氷柱はそこそこ頑丈で、
多少、アンカー代わりにしても折れることは無い。
狭い隙間を抜けた左坑口付近には、
再び巨大氷筍の森が広がっていた。
密集量が凄い。
坑道は奥に続いているようだ。
氷筍はだんだん低くなる。
更に奥を目指そう。
すぐに現れたのは2番目の地底湖。
蒼い澄んだブルーの湖面を湛え、
ここも2m程度の深さがある。
右抗より天井は低いが、
奥に続いている。
かなり落盤した痕跡がある。
真四角の脇抗があった。
奥を確認してみよう。
奥は90度に折れ曲がりその先には、
コウモリがいる。
天井は低く這って進む。
コウモリは微動だにせず、
触っても逃げない。
小さな足でぶら下がり、羽で顔を覆ている。
相変わらず坑道は奥に続き、
多数枝分かれし迷いそうになるが、
結局は一本に接続する。
残された柱。
天井の強度を稼ぐため、
意図的に配置されたようだ。
続く坑道。
行けども行けども終わらない。
既に800m程度か。
その先には神殿の神棚のような。
不思議な石段が残存する。
地下水の滴る溝が掘ってあり、それは最下部の穴に導かれる。
坑内は適温で湿気も少ない。
臭いもなく環境は良いが、
歩くと砂塵が舞い、無風でそれがなかなか収まらない。
三か所目の地底湖。
ここも深い。
この4番目の地底湖が最も深そうだ。
1km程度の穴の奥に、
静かに存在する。
橋のように木材が渡してある。
3〜4m程度の深さの湖底には、
資材や木片が沈んでいる。
地底湖no.5。
ここは最も小さく、
しかし色合いは変わらない。
地底湖no.6。
ここは正方形で四方から崩れている。
いずれ埋没するかもしれない。
壁面に蝙蝠が群生する。
ここからコウモリが増えてきた。
大量のこうもりがぶら下がっている。
どうやら二種類いるようだ。
相変わらず続く坑道を進む。
少し足元が湿ってきた。
ついに出現した巨大地底湖。
7か所目はプールのような大きさで、
深さも5m程度はありそうだ。
毎年人知れず巨大化し、
そして消えていく氷筍達。
厳冬期の鉱山跡。
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