大鏡「関白の宣旨/女院と道長」(道長伝) 問題

 女院は、入道殿をとりわきたてまつらせ給て、いみじう思ひ申させ給へりしかば、帥殿はうとうとしくもてなさせ給へりけり。みかど、皇后宮をねんごろに Aときめかさせたまふゆかりに、帥殿はあけくれ御前に候はせ給ひて、入道殿をばさらにも申さず、女院をもよからず、ことにふれて申させ給ふを、をのづから心得やせさせ給ひけん、いと本意なきことにおぼしめしける、ことわりなりな。
入道殿の B世をしら世をしらせ給はんことを、帝いみじうしぶらせ給ひけり。皇后宮、父大臣おはしまさで、世の中をひきかはらせ給はんことを、いと心苦しうおぼしめして、粟田殿にもとみにやは宣旨くださせ給ひし。されど、女院の、道理のままの御ことをおぼしめし、又、帥殿をばよからず思ひきこえさせ給うければ、入道殿の御ことをいみじうしぶらせ給ひけれど、「いかでかくはおぼしめしおほせらるるぞ。大臣越えられたることだに、いと、いとほしくはベりしに、父大臣のあながちにしはベりしことなれば、いなびさせ給はずなりにしにこそ侍れ。粟田の大臣にはせさせ給ひて、これにしもはベらざらんは、いとほしさよりも、御ためなんいと便なく世の人もいひなしはベらん」など、いみじう奏せさせ給ひければ、Cむづかしうやおぼしめしけむ、のちにはわたらせたまはざりけり。
 されば、上の御局にのぼらせ給ひて、「こなたへ」とはD申させ給はで、われ、夜の御殿(おとゞ)にいらせたまひて、泣く泣く申させ給ふ。その日は、入道殿は上の御局に候はせ給ふ。いと久しくいでさせ給はねば、E御胸つぶれさせ給けるほどに、とばかりありて、とを押しあけて、いでさせ給ひける御顔はあかみぬれつやめかせ給ひながら、御口は快くゑませ給ひて、「あはや、宣旨くだりぬ」とこそ申させ給ひけれ。いささかのことだにこの世ならず侍ることば、いはむや、Fかばかりの御ありさまは、人のともかくもおぼし置かんに依らせ給ふベきにもあらねども、いかでかは院ををろかに思ひ申させ給はまし。そのなかにも、道理すぎてこそは、報じたてまつりつかうまつらせ給ひしか。御骨をさヘこそはかけさせ給へりしか。 御骨をさヘこそはかけさせ給へりしか。  (第五 道長)

問1 Aときめかさ、B世をしらの意味を記しなさい。ただし、言い切りの形で答えること。★

問2 Cむづかしうやおぼしめしけむを現代語訳しなさい。★★

問3 D申させ給はの敬語の用法を文意に即して説明しなさい。★★

問4 E御胸つぶれさせ給けるとは、誰がどういうわけでどうだというのか、それが分かるように説明しなさい。★★★

問5 Fかばかりの御ありさまとは具体的には何か、10〜20字で記しなさい。★★

問6 (1) 「大鏡」と対比される同時代の歴史物語は何か。  (2) 「大鏡」に続く鏡物を時代順に三つ記しなさい。★

advanced Q. アンダーライン部御骨をさヘこそはかけさせ給へりしかはどういう意味を持つ行為と解釈されているのか、文意に即して説明しなさい。

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大鏡「関白の宣旨/女院と道長」(道長伝) exercise

 次の本文は道長へ関白の宣旨が下された事情を、夏山繁樹という人物が語っているという仕立てで書かれている。後の問に答えなさい。[70点満点]

 女院(詮子、一条帝の母)は、入道殿(藤原道長)を aとりわきたてまつらせ給て、いみじう思ひ申させ給へりしかば、帥殿(藤原伊周)はうとうとしくもてなさせ給へりけり。帝(一条帝)、皇后宮(定子)をねんごろに bときめかさせたまふゆかりに、帥殿はあけくれ御前に候はせ給ひて、入道殿をばさらにも申さず、女院をもよからず、ことにふれて申させ給ふを、をのづから心得やせさせ給ひけん、 @いと本意なきことにおぼしめしける、ことわりなりな。
 入道殿の c世をしらせ給はんことを、帝いみじうしぶらせ給ひけり。皇后宮、父 d大臣(藤原道隆)おはしまさで、 A世の中をひきかはらせ給はんことを、いと心苦しうおぼしめして、粟田殿(藤原道兼)にもとみにやは e宣旨くださせ給ひし。されど、女院の、道理のままの御ことをおぼしめし、又、帥殿をばよからず思ひきこえさせ給うければ、 B入道殿の御ことをいみじうしぶらせ給ひけれど、「いかでCかくはおぼしめしおほせらるるぞ。大臣越えられたることだに、いと、 fいとほしくはベりしに、父大臣の gあながちにしはベりしことなれば、いなびさせ給はずなりにしにこそ侍れ。粟田の大臣にはせさせ給ひて、 Cこれにしもはベらざらんは、いとほしさよりも、御ためなんいと便なく世の人もいひなしはベらん」など、いみじう奏せさせ給ひければ、むづかしうやおぼしめしけむ、 Dのちにはわたらせたまはざりけり
 されば、上の御局にのぼらせ給ひて、「こなたへ」とは E申させ給はで、われ、夜の御殿(おとゞ)にいらせたまひて、泣く泣く申させ給ふ。その日は、入道殿は上の御局に候はせ給ふ。いと久しくいでさせ給はねば、 F御胸つぶれさせ給ひけるほどに、とばかりありて、とを押しあけて、いでさせ給ひける御顔はあかみぬれつやめかせ給ひながら、御口は快くて、「あはや、宣旨くだりぬ」とこそ申させ給ひけれ。いささかのこと hだにこの世ならず侍ることば、いはむや、 Gかばかりの御ありさまは、人のともかくもおぼし置かんに依らせ給ふベきにもあらねども、いかでかは院ををろかに思ひ申させ給はまし。そのなかにも、道理すぎてこそは、報じたてまつりつかうまつらせ給ひしか。 H御骨をさヘかけさせ給へりしか。(第五 道長)

問1 a「とりわき」、b「ときめかさ」、c「世をしら」、f「いとほしく」、g「あながちに」の文中での意味をそれぞれ言い切りの形で、かつ、三字以上六字以内で記しなさい。

問2 d「大臣」、e「宣旨」の読みを現代仮名遣いのひらがなで記しなさい。

   h「だに」の品詞名と用法名をそれぞれ2字で記しなさい。

問3 @「いと本意なきことにおぼしめしける」とは、誰がどういうわけでどうであるというものか、それが分かるように説明しなさい。人名が必要な時は、「帝」以外は実名(姓は不要)を使うこと。以下の問も同じ扱いとします。

問4 A「世の中をひきかはらせ給はんこと」に最も近いものを次から選び、記号で答えなさい。

     イ 世評が不利におなりになる。
     ロ 政策をお変えなさる。
     ハ 夫婦仲がお悪くなる
     ニ 経済的にお行き詰まりになる。

   B「入道殿の御ことをいみじうしぶらせ給ひけれ」とは、誰がどうしたことを言うのか、簡潔に説明しなさい。

   C「これにしもはベらざらん」とほぼ同内容となる本文中の一文を抜き出し、初めの3文字を記しなさい。

   D「のちにはわたらせたまはざりけり」とは、誰がどうしたというのか、それが分かるように現代語訳しなさい。

   Eの敬語法を文脈に即して説明しなさい。

   Fは誰がどういう訳でどうしたというのか、それが分かるように現代語訳しなさい。

   Gとは具体的には何を言うものか、分かりやすく説明しなさい。

   Hはどういう意味を持つ行為か、文意に即して説明しなさい。

問5(1)「大鏡」の成立した時代はいつか。また、「大鏡」と対比される同時代の歴史物語は何か。順に記しなさい。時代は、前・中・後期も答えること。

  (2)「大鏡」に続く「鏡物」を時代順に三つ記しなさい。

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