源氏物語「玉鬘」(玉鬘)  問題

 「夕顔巻」で光源氏の愛人夕顔は生霊が現れた直後に息絶えた。夕顔の侍女右近から夕顔に娘がいることを聞いた光源氏は、せめて形見にと、その娘を探したが、居所はわからなかった。
 じつは、夕顔の遺児となるその娘は、乳母に伴われて筑紫(福岡県、当時は都人にとっては僻地になる)の大宰府に下った。それから十七年、夕顔の遺児玉鬘は美しく成長した。乳母は夫が亡くなった後、九州第一の実力者の男(太夫の監=タイフノゲン)からの、姫君玉鬘への脅迫ともいえる求婚におびえ、玉鬘をその父である頭の中将に引き合わせようと、息子(豊後の介)に守られながら上京した。しかし、頭の中将は今は内大臣という高い位にあり、近づく機会も手立てもないままに、今は神仏に頼む以外に方法がないと考え、八月に入って初瀬詣でに旅立った。次に、その後の出来事についての本文がある。これを読んで後の問いに答えよ。



〔一〕
 からうじて椿市といふ所に、四日といふ @巳の刻ばかりに、生ける心地もせで行き着きたまへり。
 A歩むともなく、とかくつくろひたれど、足の裏動か aずわびしければ、せん方なくて休みたまふ。この頼もし人なる介、弓矢持ちたる人二人、 bさては下なる者、童など三四人、女ばらあるかぎり三人、壺装束して、樋洗めく者、ふるき c女二人ばかりとぞある。いとかすかに忍びたり。大御灯明のことなど、ここにてし加へなどするほどに日暮れぬ。家主の法師、「人宿したてまつらむとする所に、なに人のものしたまふぞ。 Bあやしき女どもの心にまかせて」とむつかるを、 dめざましく聞くほどに、げに人々来ぬ。これも e徒歩よりなめり。 fよろしき女二人、下人どもぞ、男女、数多かむめる。馬四つ五つ牽かせて、いみじく忍び gやつしたれど、きよげなる男どもなどあり。法師は、 Cせめてここに宿さまほしくして、頭掻き歩く。 hいとほしけれど、また宿かへむもさまあしく、わづらはしければ、人々は奥に入り、外に隠しなどして、かたへは片つ方に寄りぬ。軟障などひき隔てて Dおはします。 Eこの来る人も恥づかしげもなし。いたうかいひそめて、かたみに心づかひしたり。 iさるは、かの j世とともに恋ひ泣く右近なりけり。

問1 c、e徒歩のよみを現代仮名遣いで記しなさい。★

問2 aについて文法の観点から説明しなさい。★★

問3 bさては、dめざましく、fよろしき、gやつし、hいとほしけれ、iさるは、j世とともにの意味を、活用語は言い切りの形にして記しなさい。★★

問4 @巳の刻とは、24時間法では何時になるのか。★★

問5 Cせめてここに宿さまほしくしてを口語訳しなさい。★★

問6 A歩むともなくとはどういう様子を言うものか。    Bあやしき女どもの心にまかせてどういうことを非難しているのか、分かりやすく説明しなさい。★★★

   Dおはしますの敬語の用法について文意に即して説明しなさい。★★★

   Eこの来る人も恥づかしげもなしとは、何がどうだというものか。★★★

問7 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。★


〔二〕
 年月にそヘて、aはしたなきまじらひの bつきなくなりゆく身を思ひ悩みて、この御寺になむたびたび詣でける。 例ならひにければ、かやすく構へたりけれど、 c徒歩より歩みたへがたくて、寄り臥したるに、この豊後介、隣の軟障のもとに寄り来て、 d参り物なるべし、折敷手づから取りて、「 これは御前に@まゐらせたまへ。御台などうちあはで、いと eかたはらいたしや」と言ふを聞くに、わが列の人にはあらじと思ひて、物のはさまよりのぞけば、この男の顔見し心地す。誰とは Aえおぼえず。いと若かりしほどを見しに、ふとり黒みてやつれたれば、多くの年隔てたる目には、ふとしも見分かぬなりけり。「三条、ここに召す」と、呼び寄する女を見れば、また見し人なり。御方に、下人なれど、久しく仕うまつり馴れて、かの隠れたまへ fし御住み処までありし者なりけりと見なして、いみじく夢のやうなり。主とおぼしき人は、いと gゆかしけれど、見ゆべくも構へず。思ひわびて、「この女に問はむ。兵藤太といひし人も、 Bこれにこそあらめ。姫君のおはするにや」と思ひ寄るに、いと h心もとなくて、この中隔てなる三条を呼ばすれど、食物に心入れて、とみにも来 i、 Cいと憎しとおぼゆるもうちつけなりや。

問1(1)問題本文中から挿入句を抜き出しなさい。

  (2)「あらむ」が省略されているのをどこか、その直前の文節を抜き出して答えなさい。

問2 aはしたなき、bつきなく、d参り物、eかたはらいたし、gゆかしけれ、h心もとなくの意味を、活用語は言い切りの形にして記しなさい。

問3 c徒歩の読みをひらがなで、また、fとiの文法的説明を記しなさい。

問4 @まゐらせたまへの敬語の用法を文意に沿って説明しなさい。また、Aえおぼえずを口語訳しなさい。

問5 Bこれとは、この場面ではどういうことをした人か、分かりやすく説明しなさい。

   Cいと憎しとおぼゆるとはどういうことに対する感情か、分かりやすく説明しなさい。



〔三〕
 からうじて、「 @おぼえずこそはべれ、筑紫国に a二十年ばかり経にける下衆の身を知らせたまふべき京人よ。人 bへにやはべらむ」とて寄り来たり。田舎びたる掻練に絹など着て、いといたうふとりにけり。わが齢もいとどおぼえて恥づかしけれど、「なほさしのぞけ。我をば見知りたりや」とて、顔をさし出でたり。この女の、手を打ちて、「あがおもとにこそおはしましけれ。あなうれしともうれし。いづくより参りたまひたるぞ。 Aはおはしますや」といとおどろおどろしく泣く。若き者にて見馴れし世を思ひ出づるに、隔て来にける年月数へ cられていとあはれなり。「まづおとどはおはすや。若君はいかがなりたまひにし。あてきと聞こえしは」とて、君の御事は言ひ出でず。「みなおはします。姫君も大人になりておはします。まづおとどに、かくなむと聞こえむ」とて入りぬ。


 みなおどろきて、「夢の心地もするかな。 Bいとつらく言はむ方なく思ひきこゆる人に、対面しぬべきことよ」とて、この隔てに寄り来たり。け遠く隔てつる屏風だつもの、なごりなく押し開けて、まづ言ひやるべき方なく泣きかはす。(  C  )人は、ただ、「わが君はいかがなりたまひにし。 dここらの年ごろ、夢にてもおはしまさむ所を見むと大願を立つれど、遥かなる世界 eにて、風の音にても Dえ聞き伝へたてまつらぬを、いみじく悲しと思ふに、老の身の残りとどまりたるもいと心憂けれど、うち棄てたてまつりたまへる若君の fらうたくあはれ gにておはしますを、冥途の絆にもてわづらひきこえてなむ瞬きはべる」と言ひつづくれば、昔、そのをり、言ふかひなかりしことよりも、答へむ方なくわづらはしと思へども、「いでや、聞こえてもかひなし。御方ははや亡せたまひにき」と言ふままに、二三人ながら咽せかへり、いとむつかしくせきかねたり。日暮れぬと急ぎたちて、御灯明のことどもしたためはてて急がせば、なかなかいと心あわたたしくて立ち別る。「もろともにや」と言へど、かたみに供の人のあやしと思ふ hべければ、この介にも事のさま iだに言ひ知らせあへず、我も人もことに恥づかしくもあらでみな下り立ちぬ。
 右近は、人知れず目とどめて見るに、中に Eうつくしげなる後手のいといたうやつれて、四月の単衣めくものに着こめたまへる髪のすきかげ、いとあたらしくめでたく見ゆ。心苦しうかなしと見たてまつる。 Fすこし足馴れたる人は、疾く御堂に着きにけり

問1 a二十年、bの読みをひらがなで記しなさい。

問2 cられ、eにて、gにて、hべけれ、iだにを文法の観点から簡潔に説明しなさい。

問3 dここらの年ごろ、fらうたくの意味を記しなさい。

問4 @おぼえずこそはべれ

問5 Aは他の箇所で何と記されているのか。2つあげなさい。

   Bいとつらく言はむ方なく思ひきこゆる人とは誰のことを言っているのか、文中から5字以内で抜き出して答えなさい。

   空欄のCに、文意が通るように、本来はヤ行上二段活用の動詞の連用形で名詞化した語を記しなさい。

問6 Dえ聞き伝へたてまつらぬをを口語訳しなさい。

問7 Eうつくしげなる後手のいといたうやつれて、四月の単衣めくものに着こめたまへる髪のすきかげ、いとあたらしくめでたく見ゆを、どういう様子がどうだというものか、文意に沿って説明しなさい。

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