光源氏27歳。光源氏は、政情が変化して不都合なことばかりが起こるので、須磨に退くことを決意する。その須磨で禊(みそぎ)のため海辺に出て祓(はらえ)をするうちに、にわかにかき曇り、防風・雷雨・津波などの危難にあう。風雨は数日続き、ついには館(やかた)に落雷する場面である。これを読んで後の問いに答えよ。
かくしつつ世は尽きぬべき aにやと思さるるに、そのまたの日の暁より風いみじう吹き、潮高う満ちて、浪の音荒きこと、巌も山も残るまじきけしきなり。雷の鳴りひらめくさま @さらに言はむ方なくて、落ちかかりぬとおぼゆるに、あるかぎりさかしき人なし。「我はいかなる罪を犯してかく悲しき目を見るらむ。父母にもあひ見ず、 bかなしき妻子の顔をも見で死ぬべきこと」と嘆く。君は御心を静めて、何ばかりの過ちにてかこの渚に命をばきはめんと強う思しなせど、いともの騒がしければ、いろいろの幣帛捧げさせたまひて、「住吉の神、近き境を鎮め護りたまふ。まことに迹を垂れたまふ神ならば助けたまへ」と、多くの大願を立てたまふ。おのおのみづからの命をば cさるものにて、かかる御身のまたなき例に沈みたまひぬべきことのいみじう悲しきに、心を起こして、すこしものおぼゆるかぎりは、身に代ヘてこの御身ひとつを救いたてまつらむと dとよみて、もろ声に仏神を念じたてまつる。「帝王の深き宮に養はれたまひて、いろいろの楽しみに驕りたまひしかど、深き御うつくしみ e大八洲にあまねく、沈める輩を( f )多く浮かべたまひしか。今何の報いにか、ここら横さまなる浪風にはおぼほれたまはむ。天地 gことわりたまへ。罪なくて罪に当たり、官位をとられ、家を離れ、境を去りて、明け暮れやすき空なく嘆きたまふに、かく悲しき目をさへ見、命尽き Aなんとするは、前の世の報いか、この世の犯しかと、神仏明らかにましまさば、この愁へやすめたまへ」と、御社の方に向きてさまざまの願を立てたまふ。また海の中の竜王、よろづの神たちに願を立てさせたまふに、いよいよ鳴りとどろきて、おはします hにつづきたる廊に落ちかかりぬ。炎燃えあがりて廊は焼けぬ。心魂なくてあるかぎりまどふ。背後の方なる i大炊殿と思しき屋に移したてまつりて、上下となく立ちこみていとらうがはしく、泣きとよむ声雷にもおとらず。空は墨をすりたるやう jにて日も暮れ kにけり。
問1 a・h・j・kのにを文法の観点から簡潔に説明しなさい。★
fの空欄に係助詞を記しなさい。★
問2 bかなしき・cさるもの・dとよみ・e大八洲・gことわりの意味を、活用語は基本形で記しなさい。★
i大炊殿の読みを現代仮名遣いで記しなさい。★
問3 @さらに言はむ方なくて★
問4 Aなんを文法の観点から簡潔に説明しなさい。★
問5 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。★
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