母更衣の死(源氏物語)   問題

 その年の夏、御息所、はかなき心地にわづらひて、まかでなむとしたまふを、暇いとまさらに許させたまはず。年ごろ、常の篤さになりたまへれば、御目馴れて、「なほしばしこころみよ」とのみのたまはするに、日々に重りたまひて、ただ五六日のほどにいと弱うなれば、母君泣く泣く奏して、 Aまかでさせたてまつりたまふ。かかる折にも、 Bあるまじき恥もこそと心づかひして、御子をば留めたてまつりて、忍びてぞ出でたまふ。

 限りあれば、さのみもえ留めさせたまはず、御覧じだに送らぬおぼつかなさを、言ふ方なく思ほさる。いとにほひやかにうつくしげなる人の、いたう面痩せて、いとあはれとものを思ひしみながら、言に出でても聞こえやらず、あるかなきかに消え入りつつものしたまふを御覧ずるに、来し方行く末思し召されず、よろづのことを泣く泣く契りのたまはすれど、御いらへもえ聞こえたまはず、まみなどもいとたゆげにて、いとどなよなよと、 我かの気色にて臥したれば、いかさまにと思し召しまどはる。輦車の宣旨などのたまはせても、また入らせたまひて、さらにえ許させたまはず。

 「限りあらむ道にも、後れ先立たじと、契らせたまひけるを。さりとも、うち捨てては、え行きやらじ。」 とのたまはするを、女もいといみじと、見たてまつりて、
「 C限りとて別るる道の悲しきに
      いかまほしきは命なりけり
いとかく思ひたまへましかば」
と、息も絶えつつ、聞こえまほしげなることはありげなれど、いと苦しげにたゆげなれば、かくながら、 ともかくもならむを御覧じはてむと思し召すに、「今日始むべき祈りども、さるべき人びとうけたまはれる、今宵より」と、聞こえ急がせば、わりなく思ほしながらまかでさせたまふ。

 御胸つとふたがりて、つゆまどろまれず、明かしかねさせたまふ。御使の行き交ふほどもなきに、なほいぶせさを限りなくのたまはせつるを、「夜半うち過ぐるほどになむ、絶えはてたまひぬる」とて泣き騒げば、御使もいとあへなくて帰り参りぬ。聞こし召す御心まどひ、何ごとも思し召しわかれず、籠もりおはします。

問1 次の意味の語を文中から抜き出しなさい。ただし、活用語は基本形にして記すこと。★
    イ 照り映えるように美しいさまという意味の形容動詞。
    ロ 病弱なことという意味の名詞。
    ハ 返事という意味の名詞。
    ニ かりそめ、ちょっとしたさまという意味の形容詞。
    ホ 修飾する文節の打ち消しに呼応して「ぜんぜん・いっこうに」という意味になる陳述の副詞。★★

問2 Aで使われているすべての敬語について、《例》にならって、敬語の種類と誰に敬意を表すものか順に記しなさい。ただし、人物は、「御息所」・「帝」・「母君」・「御子」・「作者」で答えること。★★

   《例》 〇〇 … 尊敬・御息所

問3 Bあるまじき恥もこそを20〜25字で口語訳しなさい。★★

問4 Cの歌について
    @ 使われている修辞を具体的な表現をあげて説明しなさい。
    A この歌は端的に言うと何を言いたいのか、十字以内で答えなさい。★★

問5 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮の名とその父親の名を順に記しなさい。時代は前期・中期・後期まで答えること。★

advanced Q. ともかくもならむとは、(1)誰がどうするというのか。また、(2)そういう言い方をしているのはなぜか。簡潔に説明しなさい。

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母更衣の死(源氏物語)   exercise

 その年の夏、御息所、はかなき心地に患ひて、まかでなむとし給ふを、暇さらに許させ給はず。年ごろ、常のあつしさになり給へれば、御目馴れて、なほしばし試みよと宣はするに、日々に重り給ひて、ただ五、六日の程に、いと弱うなれば、母君、泣く泣く(    )て、 bまかでさせ奉り給ふ。かかる折にも、 cあるまじき恥もこそと心づかひして、御子をばとどめ奉りて、忍びてぞ出で給ふ。
 限りあれば、さのみも(    )とどめさせ給はず、御覧じだに送らぬ覚束なさを、言ふ方なく思さる。いと匂ひやかに、うつくしげなる人の、いたう面痩せて、いとあはれとものを思ひしみながら、言に出でても聞こえやらず、あるかなきかに消え入りつつ、ものし給ふを御覧ずるに、来し方行く末思し召されず、よろづの事を泣く泣く契り宣はすれど、御いらへもえ聞こえ給はず。まみなどもいとたゆげにて、いとどなよなよと、我かの気色にて臥したれば、いかさまにかと思し召し惑はる。輦車の宣旨など宣はせても、また入らせ給ひては、(    )え許させ給はず。「限りあらむ道にも、後れ先立たじと契らせ給ひけるを、さりとも、うち捨ててはえ行きやらじ」と宣はするを、女も、いといみじと見奉りて、
 「 f限りとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり
いとかく思う g給へましかば」と息も絶えつつ、聞こえまほしげなる事はありげなれど、いと苦しげにたゆげなれば、かくながらともかくもならむを、御覧じ果てむと思し召すに、「今日始むべき祈りども、さるべき人々承れる、今宵より」と聞こえ急がせば、わりなく思ほしながらまかでさせ給ふ。
 御胸のみつと塞がりて、つゆまどろまれず、明かしかねさせ給ふ。御使ひの行きかふ程もなきに、なほいぶせさを限りなく宣はせつるを、夜中うち過ぐる程になむ、絶え果て給ひぬるとて泣き騒げば、御使ひもいとあへなくて帰り参りぬ。聞こし召す御心惑ひ、何事も思し召しわかれず、籠りおはします。

問1 (1) 文中からマ行上一段の動詞を抜き出し、基本形にして記せ。
   (2) 文中からタ行下二段の動詞を抜き出し、基本形にして記せ。

問2  文中から挿入句になっている箇所を抜き出しなさい。

問3 次に該当する語句を文中から抜き出しなさい。ただし、活用語は基本形にして記すこと。
     イ 照り映えるように美しいさまという意味の形容動詞。
     ロ 「死ぬ」という意味の熟語。
     ハ 返事という意味の名詞の語。
     ニ かりそめという意味の形容詞の語。
     ホ 相当な、立派なという意味の熟語の語。
     ヘ 気がかりさという意味の名詞の語。

問4 の空欄に「帝に言う」というサ変の謙譲語を適当に活用させて書き入れよ。

問5 bまかでさせ奉り給ふで使われているすべての敬語について、《例》にならって、敬語の種類と誰に敬意を表すものか順に記しなさい。ただし、人物は、「御息所」・「帝」・「母君」・「御子」・「作者」で答えること。
  《例》  〇〇 … 尊敬・御息所

問6 cあるまじき恥もこそを口語訳しなさい。

問7 の空欄に、文意が通るよう呼応(陳述)の副詞を文中から抜き出して書き入れなさい。

問8 f限りとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけりの歌について、
(1)使われている修辞について説明しなさい。
(2)この歌は端的に言うと何を言いたいのか、十字以内で答えなさい。

問9 g給へと同用法のものを次から選びなさい。一つとは限りません。
   イ 「御前にも、『…』とはご覧じおはしましけんとなむ思ひ給へし」と聞こえさせたれば、
   ロ 「今はこの世のことを思ひ給へねば…」
   ハ (しだの某(なにがし)が人あまた誘ひて、「いざ給へ、出雲拝みに。…」とて、
   ニ 御使ひには、かの大蔵の大夫をぞ給ひける。
   ホ 帝ほほ笑ませ給ひて、事なくてやみにけり。
   ヘ (天人が)「(かぐや姫は)そこらの金(くがね)給ひて、…

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