前々回迄テーマ
2013.10.23
 
第81回  新時代を切り拓く農政の動き-農業経営の企業化に向けて-  
      

                         残日談義           前回の談義 

                                                                 





志津:今月はじめ福岡に研修の講師で行かれたようですが、課題は何だったでしょうか。

木村:県園芸振興課主催で県及び農協職員を対象にした「雇用型園芸農業推進研修会」でした。そこでの私に与えられたテーマは「農業での雇用経営を目指して」でした。

志津:福岡県は雇用型農業の振興に取り組んでいるのですね。

木村:そうです。福岡県は、かっては企業化をかかげて園芸振興に取り組んだようですが、企業化というテーマは、何をどうすればよいか、よくその内容が、理解してもらえず、それで4年前から雇用型園芸農業の推進に変えたとのことでした。

志津:具体的には、どんな内容でしょうか。簡単に説明して下さい。
 
木村:園芸振興では「雇用を導入した経営」を促進するとし、内容は①雇用型経営で産地規模を維持・拡大、②常時雇用の経営モデルを地域別・経営品目別に提示、地域で実践、③農協が中心となる雇用斡旋体制の構築を支援する、ということでした。また、施策目標は雇用を導入した1,183経営体(平22年現状)を1,500経営体(平28年目標)に増加させる、としています。

志津:なるほど。どうして、福岡では雇用型経営を推進することになったのでしょうね。

木村:福岡県は、かって「高収益園芸産地」の振興を「県独自品種の開発・普及や機械・施設の整備」によって行い、県農業産出額に占める園芸農業の占める割合も平成23年には57%まで高めてきました(平成12年53%)。しかし、高齢化等の進行で園芸作付けが、平成12年24千haから23年には19千haに減少し、園芸産地の産地規模の縮小が懸念される、ようになり、新たな施策が必要になったのです。

志津:そうした現象は、日本中、どこの園芸産地でもみられることですよね。他の県もそうした雇用型経営の推進を行っているのですか。

木村:それが意外と少ないのですよ。

志津:それは残念ですね。一般にはどんな園芸振興が行われているのですか、例えば千葉県では。

木村:いい質問ですね。千葉県ではこの9月に新しい振興計画の原案ができたところです。園芸については、全国第1位の奪還に向けた「力強い産地づくり」の推進とし、「再生・強化を目指す園芸産地に対し、生産力や収益力を向上させるための生産体制の整備の構築や省力機械・集出荷施設の整備等を集中的に支援するとともに、・・『オール千葉』体制を構築することにより、大口需要や加工業務需要に対応し、国内外産地に打ち勝てる『力強い産地づくり』に取り組みます」としています。

志津:従来型の振興計画ですよね。これまでそうしてきて、園芸産出額全国第1位の座から落ちたのに、その反省はみられませんね。園芸経営については、何か計画されていませんか。生産体制の整備や省力機械・集出荷施設の整備ではもう産地の維持はむりでしょう。後継者が農業している農家が少ないですよね。産地の主体である経営再編に目を向けないといけないではないでしょうか。

木村:取り組み事項、主な事業をみても経営については触れられていません。せいぜい経営規模の拡大といったところでしょうか。

志津:それで大丈夫でしょうかね、千葉の園芸産地は。

木村:大丈夫ではありませんね。現に、園芸産出額は平成23年には10年対比で26%も減少しているんですよ。高齢化、面積縮小によって、世代交代もうまくいっていません。

志津:福岡県のように、企業化あるいは雇用型を前面に打ち出している県は、他にありますか。

木村:全国を調査したことがありませんので、わかりませんが、長野県が平成25年度から新たに「第2期長野県食と農業農村振興計画」を策定して、企業的農業経営体の育成を行っています。

志津:簡単に紹介していただけませんか。

木村:この農業農村振興計画は、大きく2つの柱からなっています。一つは夢に挑戦する農業、今一つは皆が暮らしたい農村、です。前者は「産業としての農業振興」、後者は「暮らしの場としての農村の創造」としています。

志津:柱が二つというのはわかりやすいですね、しかも「産業としての農業」を前面に出しているのは、時代認識としてもいいですね。

木村:そうですよね。しかもそこでは「新たな視点・加速する視点」として『企業的農業経営体の育成』をあげています。

志津:「企業的経営体の育成」の一つですか。その計画は県の計画ですよね、しかも5年間の計画ですよね。一つでよいのでしょうか。

木村:「企業的経営体の育成」にしぼって集中的に行うということです。もちろん、もう一つは「暮らしの場としての農村の創造」です。

志津:「産業としての農業、その担い手としての企業的農業経営の育成」と「農村の創造」という2本柱の下に県農政を行う、ということですね。では、企業的農業経営体は、いくらつくるのですか。

木村:計画に示された達成指標では、経営を法人化した経営体は900法人、企業的農業経営体は9,000経営体、集落営農組織は250組織としています。

志津:企業的経営体が9千経営体とは多いですね、法人経営の900法人も多いと思いますが。

木村:長野県の農業は、そうせねばならない状況にきているということですよ。計画では、企業的経営体が「地域農業の主体となる農業構造への転換をめざします」としています。

志津:一般には、地域農業は「担い手経営体と多様な担い手で担う」としていますよ。昨年の全国農協大会での議決でもそうでしたよね。担い手経営体にしても多様な担い手にしても、性格がよくわかりません。それからすれば、「企業的経営体が地域を担う」というのは明確でいいですよね。しかも新しい時代感覚も理解できますし、もちろん農業法人も9千法人も育成するとのことですから新たな視点がみられますよね。

木村:そういうことになりますよね。

志津:アベノミックスの『農業の成長戦略』では、農業の企業化あるいは雇用経営についてはどう書かれているのでしょうか。

木村:「日本再興戦略」(平成25年6月14日)からみてみましょう。まず、成長戦略に対する基本姿勢ですが、それは、「攻めの経済政策を実行し、困難な課題に挑戦する気持ちを奮い立たせ(チャレンジ)、国の内外を問わず(オープン)、新たな成長分野を切り開く(イノベーション)ことで、澱んでいるヒト・モノ・カネを一気に動かしていく(アクション)。」とし、チャレンジ、オープン、イノベーション、アクションの4つの言葉がキーワードです。すなわち、再興戦略は、チャレンジは「攻め」、オープンは「TPP」、チャレンジは「新分野を切り開く」、アクションは「澱みを動かす」ということになります。

志津:なるほど、成長戦略の基本スタンスですね。農業分野については、どんな考えでしょうか。

木村:そのことについては、「・・農業・・分野は、民間の創意工夫が活かされにくい分野と言われてきた。このことは、成長分野へと転換可能であり、また、良質で低コストのサービスや製品を国民に効率的に提供できる大きな余地が残された分野であることを意味する。これまで民間の力が不十分であった分野や、・・民間が入り込めなかった分野で規制・制度改革と官業の解放を断行し、『規制省国』を実現する。単に、規制分野や官業への民間参入を促すだけにとどまらず、これらの分野に民間の資金、人材、技術、ノウハウを呼び込み、意欲ある人材や新技術が積極的に投入されるようにして、新たな日本経済の成長エンジン、雇用機会を提供する産業に仕立て上げることを目指す。」としています。

志津:規制緩和したり、民間の参入、民間の資金・人材・技術・ノウハウを入れ、意欲ある人材や新技術が投入できるようにし、そして農業を、新たな成長エンジン・雇用機会を提供できる産業にする、ということですね。

木村:そうです。そして、「企業参入の加速化等による企業経営ノウハウの徹底した活用、農商工連携等による6次産業化、輸出拡大を通じた付加価値の向上、若者も参入しやすいよう『土日』『給料』のある農業の実現などを追求し、大胆な構造改革に踏み込んでいく必要がある。」としています。

志津:なるほど、そうなりますと、従来のように家業として農家が営む農業ではなく、ビジネスとして企業が営む農業ということになり、企業化を緊急におこなわねばならない、ということですね。

木村:そういうことになりますね。アベノミックスの農業成長戦略は、「民間の資金・人材・技術・ノウハウ、さらには意欲ある人材・新技術を投入できる企業経営の確立を目指す」ものです。

志津:雇用型経営にしても企業的経営にしても、また、民間の資金・人材・技術・ノウハウの導入にしても、現状の経営感覚・経営者能力が乏しい農業者には無理ですよね。それをどうやれば、現在で可能になるのでしょうね。

木村:そこが、基本的な問題ですよね。

志津:それでは、答えになっていません。福岡県や長野県はどう考えているのでしょうね。

木村:福岡県の雇用型経営推進の施策では、①研修会の開催、先進事例調査、経営データ分析等に係わる経費、②被雇用者の技術向上、パッケージセンターの導入検討等に係わる経費、を推進事業として支援しています。また、長野県は、企業的農業経営の育成について①企業的な経営感覚や管理能力の習得、②農地の利用集積による経営規模の拡大や経営の多角化、などを支援するとしています。

志津:なるほど。研修会の開催にしても経営感覚や管理能力の習得にしても、そこが基本だとは思いますが、それをどう行うか。生産技術の研修あるいは習得については従来からやってきましたので、いろいろノウハウがあります。しかし、経営感覚や経営者能力の向上については、そのやり方については確立したものはありませんよね。

木村:そうですよね。試行錯誤の段階と言ってよいでしょう。

志津:今回は、時間がありませんのでこれまでにして、その課題については次回にお願いしたいとおもいますが。

木村:そうしましょう。次回もよろしくお願いします。

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