DCHE シミュレーションプログラムの概要

発電用の坑井内同軸熱交換器 (DCHE) のシミュレーションです。 とは言え研究者が使用しているシミュレーションの詳細な内容を知っているわけではないため 簡単な概算検討にしか使えない大雑把なシロモノとなっています。 無論二相流など計算しているはずもなく圧力すら計算していません。 水を流して温度を見ているだけです。 温度計算FEMの検証と水路熱伝達率の計算方法は以下の通りです。
温度計算FEMの検証
水路熱伝達率の計算方法
上記モデルの計算条件は以下の通り。

外管内径(m)0.2
内管内径(m)0.05
内管肉厚(m)0.025
内管熱伝導率(W/mK)0.01
質量流量(kg/s)1.0
注入水温度(℃)20
地表条件
気温(℃)20
熱伝達率(W/m2K)5.0
地下条件(DCHE無しの自然状態)
温度勾配(℃/m)0.2
地表面の熱伝達率は一般的な自然対流条件で想定。
地下の温度勾配は火山近辺のマグマ溜り真上を想定。
地表面は厳密には20℃ではないが、最大で21℃程度なので20℃と近似して温度勾配から地下温度を定める。
モデル最下層はDCHE長さの2倍。(境界の影響を避けるため)
モデル半径は1000m。
↑ここまでは共通条件
↓ここからは個別条件
岩盤熱伝導率(W/mK)DCHE長さ(m)計算領域深さ(m)
3.015003000
岩盤熱伝導率は花崗岩を想定。
このときDCHE最下部の自然状態温度320℃・モデル最下層(深さ3000m)温度620℃
この条件で定常解析を行います。 つまりマグマそのものに影響を与えない程度で充分時間が経った状態をシミュレートします。

計算結果はこのような温度分布となります。
熱伝導率3W/mK
このときのDCHE出口温度は112.2℃です。 このように熱伝達率が普通の岩盤程度では岩盤の温度が低下し充分高温の蒸気が得られなくなります。
一方同じ最下層温度(ほぼ同じデフォルト温度分布)で熱伝達率が5倍になるとこのように分布が変わります。
熱伝導率15W/mK
このときのDCHE出口温度は230.1℃です。 もし岩盤に隙間が多くそこに水が流れていれば対流により発電可能な蒸気温度が得られることになります。

ちなみにDCHE最下部の自然状態温度と岩盤の熱伝導率を変えたときのDCHE出口温度は以下の通り。 これを条件1とします。

最下部温度とDCHE長さ・計算領域深さ(条件1)
DCHE最下部温度(℃)DCHE長さ(m)計算領域深さ(m)(モデル最下部温度℃)
32015003000(620)
42020004000(820)
52025005000(1020)
62030006000(1220)

追記1:マグマに対する熱供給を一定と見做した熱流束固定条件も計算しました。 温度勾配を一定としているため、境界熱流束は熱伝導率によって変わり、 最下部温度・深さには依存しません。
これを条件2とします。

最下部温度とDCHE長さ・
計算領域深さ(条件2)
岩盤熱伝導率(W/mK)熱流束(W/m2)
30.6
61.2
91.8
122.4
153.0

追記2:水路の熱伝達率がちょっと信用できないので1/2にした計算もしました (モデルは温度境界条件=条件1の方)。
これを条件3とします。

DCHE出口温度(条件1)
岩盤熱伝導率
(W/mK)
最下部温度(℃)
320420520620
3112.2151.3186.2215.9
6164.0222.1273.0314.1
9195.4263.0319.5366.7
12212.7284.5344.7399.4
15230.1305.9369.8432.2
DCHE出口温度(条件2)
岩盤熱伝導率
(W/mK)
最下部温度(℃)
320420520620
3100.5129.1152.2170.9
6149.8195.9234.4264.9
9181.5238.2285.0320.7
12202.9266.1317.0357.4
15218.4285.7339.2386.2
DCHE出口温度(条件3)
岩盤熱伝導率
(W/mK)
最下部温度(℃)
320420520620
3108.9147.9183.0212.9
6157.5215.6267.0309.3
9186.8255.0312.8359.8
12206.1279.7340.3395.6
15219.5296.4360.4422.2
(条件1)
DCHE出口温度

最下部での水温は出口温度+0.2〜2.8度程度でほとんど差はありません。 この熱伝導率なら内管と外管の断熱は充分と言えます。
このときのDCHE最下部の岩盤側の温度は以下のようになりました。

DCHE最下部岩盤温度(条件1)
岩盤熱伝導率
(W/mK)
最下部温度(℃)
320420520620
3127.6168.3203.9233.2
6182.5242.2294.3335.1
9214.9284.2342.2391.2
12232.5306.0368.8425.3
15250.1327.8395.3459.3
DCHE最下部岩盤温度(条件2)
岩盤熱伝導率
(W/mK)
最下部温度(℃)
320420520620
3114.6144.0167.2185.1
6166.9213.8252.6282.5
9199.8257.4304.7340.3
12221.7285.9337.7379.3
15237.4305.9361.4409.5
DCHE最下部岩盤温度(条件3)
岩盤熱伝導率
(W/mK)
最下部温度(℃)
320420520620
3137.7179.3215.4244.4
6191.4251.9304.8346.9
9222.3292.5352.5402.7
12241.9317.8382.5441.0
15255.3334.6403.8468.6
(条件1)
DCHE最下部岩盤温度

条件2では計算領域最下層も冷やされ温度が低下するので条件1より出口温度は低くなります。 しかし全体の傾向は大きくは変わりません。
条件3の場合は条件1との出口温度差は3〜10℃程度で傾向どころか絶対値でも大きな差はありません。

この結果から以下の内容が予測されます。

  1. 現状のDCHE温度350℃では充分熱が通る地層でないと蒸気温度が得られないが、 より限界温度を高くできれば普通の岩盤でも発電できる可能性がある。 例えば320℃で岩盤の熱伝達率が3〜4倍のときと 620℃で岩盤の熱伝達率がデフォルト(3W/mK)のときのDCHE温度は同程度となる。
  2. 岩盤の温度低下が70℃〜430℃なのに対し岩盤とDCHE出口温度の差は15℃〜30℃程度しかない。 よってDCHEの熱伝達は充分で岩盤の方の温度変化が寧ろ重要である。
    この傾向はDCHEの熱伝達率を小さくした条件3でもほぼ変わらない。

現在のシミュレーションはまだまだ考慮していない要素も多々ありますが、 大雑把な予測はできていると思います。

参考文献
伝熱計算法 千輝淳二著 工学図書株式会社
Fortran95,C & Javaによる新数値計算法−数値計算とデータ分析− 小国力著 サイエンス社
火山の熱システム 江原幸雄著 櫂歌書房
Internet-College of FEM
有限要素法(FEM)のページ
株式会社九州パワーサービス GEEP産学共同研究参加メンバー(リンク切れ)
地殻の熱的機能利用技術の研究

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